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第192話『呼ばない』

前の更新から約2ヶ月以上過ぎてしまいました。

最近よく見る“この作品は未完結のまま”云々の文。

時間の流れの早さを感じてしまいます。

小さい頃はもう少し時間の流れがこんなに早くなかったと思うのですが…え、休日って1日24時間ですよね?12時間くらいでは無いですよね?

前回のあらすじ


セヲ君と一緒にホムンクルスに遭遇。

しかしホムンクルスは今までと少し違って思考を持っている可能性が高かった。

けれどセヲ君の魔法で倒しちゃったんだよ。

凄いねぇ。



「セヲ君、止まってよー!

回復しないと!」


暗めの銀髪の隙間を縫って流れる血や左手の負傷を治療しようとするレンを無視して歩いてしまう怪我人セヲ。


「必要ありません。」


そう言って歩き続ける。

レンは隣にいるルシファーへ目配せをして合図を送る。

ルシファーは頷き、セヲの前に立ち塞がり大きな翼12枚と手を広げ行く手を阻んだ。


「…」


足を止めた瞬間、レンは杖を振る。


「“光よ”!」


「!」


詠唱に答えた杖から光の雫が落ち、黄色の菱形に伸びる障壁にセヲを閉じ込めた。

ルシファーは彼の頭部へ手を伸ばす。


『治療開始。』


ルシファーから放たれる緑の淡い光は障壁を越えてセヲに届く。

そのセヲは不服そうに顔を歪めて、ルシファーを睨む。


「…何故そうまでして治療をやりたがるのです。

魔力の無駄でしょう。」


『レンの命令ですので。』


ルシファーがそう答え、レンは彼の隣へ移動して告げる。


「普通怪我してる人を治せるのにほっとかないでしょ。」


「…ノブレス・オブリージュとでも…」


セヲの呟きに耳を傾けるレン。


「え?なんて?」


小声すぎて聞こえなかったようだ。

手を添えた左耳を向けて聞き直している。

それに青筋を立てたセヲは


「恩着せがましいですね。」


と笑顔で言った。


「わー手厳しいねぇ。」


レンはヘラヘラしたまま気にしていない様子。

脳裏に「はぁー!?善意ですけど!?」とキレるエクスがふと過ぎる。

何故エクスが出てくるんだとイマジナリーエクスを手で払うとルシファーの手の光が収まった。


『終了です。』


ルシファーが手を退けた為、すぐ1歩を踏み出すセヲ。


「…どーも。」


と前を向いて小さく呟く。


「えー!セヲ君ってお礼言えるんだ!?」


「(これは聞こえてんのかよ)」


喉まで出かけたツッコミと煽られた怒りを飲み込んで暗い廊下を歩くセヲをレンは駆け足で追いかけた。

微かに響く銃声の元へ。



ヨシュアとカイルは化け物を退けながら廊下を走る。

進んでも視界は化け物を映さない場所がない。

どこからともなく無限湧きしてくる化け物に嫌気が差しつつ止まらないよう気をつける。


「まだまだ出てくるねぇ。どれだけ居るのやら。」


「はぁ…はぁ…」


長い廊下を走り、化け物の猛攻を避けつつ銃で打つという集中力を必要とする動作にヨシュアの体力がジワジワと減っていく。

カイルが心配すると「煩い」と怒られ、どうにか一旦退避出来る部屋をこっそりと探っていた。

目の前の化け物を蹴り倒した直後、扉を発見する。


「(お?入れそうな部屋だ。だけど…)」


その扉は白く、僅かに空いていた。

化け物達もそこから出てきている訳でも、入ろうとする訳でもなくこちらへ向かってくる。


「(ほぼ100%罠だな。

一か八かの賭けだ。…決めた!)」


カイルは銃を構えているヨシュアの腕を引っ張り白い扉を開けて入った。

すぐ扉を閉めてふぅ、と息をつく。


「ちょっと…急に何?」


訝しげなヨシュアの問に答えようとした時、虚しく響く拍手が聞こえる。

たった1人、黒い手袋を付けた男が笑みを浮かべ2人に拍手をしていた。

カイルは男を睨みつける。


「(やはり誰か居たか。

この部屋…外の気配を感じ取りにくくしてあるな。)」


「いやァ、あれだけの量を捌いてここまで来るとはやりますねェ!」


切りそろえられた至極色の髪、白い陶器のような肌、マゼンタ色の瞳。

顔以外肌を露出していない真っ黒な服装。

ロングコートを靡かせてヨシュアの前に来た男は胸に手を当て頭を下げた。


「ようこソ王様。

このノイズ、お待ちしておりましたヨ。」


「王様…?」


訝しげなカイルの目線を受けながらヨシュアは眉間に皺を寄せ、目の前の男を睨みつけた。


「この人に在らぬ疑いをかけられるから変な言いがかりはやめて。

こちとら首輪付けられた犬なんだから、王様なんて大層な渾名付けられても困るよ。」


「私にも言葉の棘がちょっと刺さってるよ。」


ノイズは少し涙を浮かべているカイルを一瞥し、ヨシュアへ微笑む。


「おヤ、渾名だなんて滅相もなイ。

でも今はそうですネ…ライアーの挙式に参列なさる御友人といったところですものネ。」


ヘラヘラ笑うノイズに躊躇いもなく白銀の銃を向けた。


「シャルは何処?」


ノイズは怯む事なく笑みを浮かべたまま首を傾げた。


「さァ?

貴方達の乱入でまだ式の準備は整ってませんシ…

多分ライアーの部屋に居るんじゃないですかネ。」


聞いてすぐ踵を返すヨシュア。

ノイズは早足で去ろうとする彼の後ろ姿へ声をかける。


「折角お会い出来たのにもう行ってしまわれるのですカ?

もう少し話しましょーヨ。」


聞く耳を持たないヨシュアから視線を移し、カイルを細めた目で見る。


「それに、ねェ?王様に首輪付けた人。

貴方は式に呼ばれていないでしョ?」


カイルは足を止め、振り返る。


「好きでもない奴と結婚させられそうになる花嫁をちょっと待ったーって助け出すシチュエーションってさ、少し憧れるよね。」


「…!」


言動からは想像もつかないほど強い圧を受け、ノイズは思わず顎を引く。


「そう言う人は決まって式には呼ばれていない。

そこが大事なんだよ。」


「夢を見るのは乙女という頭がお花畑の人だけだと思っていましたが貴方も大概ですネ。」


「キミ達も同類だろう?

叶わぬ夢を見てるんだから。」


「…ぁ?」


言い合いの途中でも絶やさなかった先程までの嘘くさい笑みを一瞬で絶やし挑発的なカイルを睨みつけるノイズ。

カイルは口角を上げたまま口を動かす。


「キミ達の集団…えー…あ〜…名前なんだっけ」


声高らかに言うものの、ヨシュアに小声で確認。


魔女の(ヴァルプルギス・)(ナハト)ね。」


「そうそう、魔女の(ヴァルプルギス・)(ナハト)

…のメンバーは全員過去に囚われて夢を見ている言わば過去の亡霊だろう?」


腕を組んで首を傾げるカイルにノイズは苛立ちを隠すつもりもなく不愉快極まりないという表情をしている。


「…お前に何が分かるのでしょウ。

人を呪わずにいられないほどの絶望を知らないお前に。」


「お察しの通りなーんにもわからないよ。

分からない方が知った気になってんじゃねぇよって言わずに済むし、キミ達も嬉しいだろう?」


「そうですネ、話が早くて助かりますヨ。

お前みたいな奴が居るからこの世界は腐ったままなのでス。」


「「…」」


お互い、見つめあったまま黙り込んだ。

最初に沈黙を破ったのは笑みを浮かべたカイルだった。


「峰打ちが中々上手く出来なくてよく怒られるんだよね。

ヨシュア君、何かあったら止めてねぇ。」


「「は?」」


刹那、ノイズの顔に風が当たる。

目線を下に動かした直後、見えたのは腕を引いて突き出す直前のカイルの屈んだ姿。

理解した時には壁に背中を強く打ち付けていた。


「あれぇー?反射神経凄いね、キミ。」


自分の正拳突きを直前で腕を交差させガードしたノイズに感心するカイルは数回頷いた。


「でもこれで分かった。

やっぱりキミ、本物じゃないだろう。

そして人間でもないね。」


カイルの問の答えはすぐに出た。

ノイズの身体からジジッと電子音が鳴り、姿が突如揺らめく。


「何あれ…映像?」


目を凝らすヨシュア。

彼の視界には蹲りカイルに殴られた部分を右腕で押さえ睨みつけるノイズが見える。

しかし映像が乱れているように数秒に1回、ノイズの姿が白く顔の無い化け物としても映る。


「ホログラムとかそんな感じだね。

幻影の皮をホムンクルスに被せていたのさ。」


「最初から分かってたの?」


「いや?今殴った感触が人間じゃなかったから。」


その発言を聞き、ヨシュアはススス…とカイルから距離を取った。


「別にセヲ君みたいに人を殴ってたとかそんなんじゃなくて治安維持の為に仕方なくだからね!?」


「どーだか。」


疑いの目を涙を流すカイルから逸らしノイズの姿を保てなくなったホムンクルスへと移した。


「でもそうなると1つ疑問があるのだけど。」


「ホムンクルスが先程の男のような振る舞いが出来ていた事、だろう?」


ヨシュアは頷く。

このホムンクルスは魔法か何らかの理由で見た目のみノイズになっていただけであり、ノイズの分身ではない。

身体と中身がホムンクルスなのにも関わらずノイズの立ち振る舞いを行えたことが2人の気がかりだった。


「あーあーテステス。

音声は無事ですかネ?」


「「!」」


ホムンクルスから聞こえるのはノイズの声だった。

2人は弾かれたように顔を向けた。

するとホムンクルスは人間のように立ち上がって殴られて凹んだ左腕を手で触っていた。

よく見ると頭部と身体の繋ぎ目である首に黒く太いチョーカーのようなものを付けていた。


「よくぞ見抜きましたネ。

化け物級の力でぶん殴られたら隠しようがないのですけド。」


段々と映像の乱れが無くなり、目の前の奴は再びノイズになった。

カイルはチョーカーを睨みつけながら僅かに顎を上げ問いかける。


「…不思議なホムンクルスだね。

まるでキミと動きがリンクしているようだけど?」


「言うわけないでしょバーカ。

アンタみたいなバケモンと戦うなんてまっぴらでース。バーカバーカ。」


常に笑みを浮かべていたカイルは笑みを保ったまま青筋を立てる。


「悪口が子供すぎて笑えてくるよ。」


「(カイルさん、子供みたいな悪口だとイラつくんだ。

ちょっと意外かも。)」


ヨシュアの視線に気付かずそのまま話し続けるカイルは苛立ちを隠す気が無い。


「子供に言われる分ならまだしもねぇ。

要するに私と」


「カイルさんと戦うのは負けが目に見えているから嫌だ、逃げようということだね。」


カイルの言葉の続きをヨシュアが紡いだ。

自分が言おうとした言葉よりも少し嫌味のある言い方にヨシュアの性格を疑ったカイル。

しかしノイズは穏やかに頷く。


「まぁそんなとこでス。

バケモン相手に正々堂々挑む方がバカですかラ。」


「失礼しちゃうなー。

悪魔と契約して人間辞めた奴に言われるのは心外だよ。」


「挑発だろうが何を言われても何とも思いませんとモ、えェ。」


余裕のあるノイズに違和感を覚えつつ引き金を引くヨシュア。

乾いた発砲音が部屋中に響き渡り硝煙の匂いも充満する。


「うわぁビックリした!

私には合図くらい頂戴よ!!」


「コイツ、死んでない。」


確かに、撃たれたノイズは普通に起き上がっている。

額に風穴を開けているが笑みを浮かべたまま平然として立ち上がった。


「我等が王は本当に乱暴ですねェ。

臣下を無下にする暴君極まりないですよ全ク。」


「ならさっさと離れたら?

暴君に仕えると死んじゃうよ。」


再び白銀の銃を構えるヨシュアを見ながらやれやれと首を振る動作を態とらしく大袈裟に見せるノイズは口を尖らせる。


「それが出来たら苦労しませんヨ〜。

臣下として有るまじき理由でしょうガ、自分の為に貴方に仕えているのですかラ。」


会話をしているが、お互い敵同士。

それなのに相手から全く攻撃を受けていない事に疑問を持っていたカイルはハッと息を飲みヨシュアの腕を引く。


「…成程。

部屋のせいで少し平和ボケしていたな、私。」


「あ〜ア、時間切れですカ。

ちぇっ!ちょっと心もとない数なのですガ。」


「ヨシュア君、聞かないようにしてたけどもう無理だ。召喚獣は?」


カイルの問に息を詰まらせる。

口を噤んで視線を逸らした後、


「呼びたく、ない…」


消え入りそうな声で言った。

青い瞳は揺れており、影が落ちる。

一言を聞いたカイルの声が静かに、しかしそこに疑問とほんの少しの怒りが含まれている事に気づいてしまった。


「…何があったかは分からないけど、召喚獣は一緒に戦ってくれる戦闘システムなんだ。

呼ばないと召喚獣は召喚獣としての存在意義が無くなってしまうよ。」


「だとしても…!

俺は彼に酷い事をしたんだ!

もう傷ついて欲しくない!」


今までの返答とは違い、焦燥と恐怖を帯びた目でカイルに訴えかけた。

返ってきたのは氷のような瞳と冷たい声だけ。


「だから呼ばないって?

君が死んだらそれこそ可哀想じゃない。

役割を果たせない挙句に野良召喚獣にでもなれって?」


「そうは言ってないッ!!

でも…ッでも…!!

夢か現実か分からない記憶の彼が…血塗れで弱々しく笑ってるのが嫌なんだッ!!

もうあんな彼は見たくない…ッ」


荒らげた声は部屋中の物を揺らすが、カイルの心は全く揺れなかった。

暫くヨシュアの言葉を待っていた彼はやがて諦めたように息を吐いた。


(参ったな、まさか召喚獣を呼ばないなんて召喚士から言われると思わなかった。

部屋の外にホムンクルスがぎゅうぎゅうに居るってのに。)


「王様って思ったより普通に子供の思想なんですネ。

どーりで暴君な訳ダ、年相応で安心しましたヨ。」


ノイズへ向けたカイルの目は遠くの何処かで見ている彼自身を穿つほど鋭く、すぐそこまで迫っているかのような殺気を放っていた。


「うッ(普通アレで怒るの王様でしょうガ!

何でアンタが怒るんだヨ…怖いなもウ!)」


ノイズからヨシュアに視線を戻し、彼の肩を両手で掴む。


「ヨシュア君、1つ言うけど呼ばない選択が君の独断なら考えを改めた方が良い。」


口をへの字に曲げて皺を寄せる彼を見て父のように優しく言い聞かせる。


「その顔は分かっている顔だね。

君が魔導書の顕現を許さず押さえつけてることこそ可哀想だと私は思うけど。」


ヨシュアは苦虫を噛み潰したような表情のまま何も言わなくなった。

カイルは溜息混じりに伝える。


「まぁいいや、このままだと部屋の外にいる大量のホムンクルスにタコ殴りされちゃうから私が行くね。

君はここに居て。」


「俺だけでも」


ノイズに向けたような視線がヨシュアを穿つ。

恐怖で体が震えるほどの鋭さに息が詰まった。


「分からないかい?足でまといだと言っている。」


口調は変わっていないが怒っている事に変わりは無い。

だからと言ってヨシュアは召喚獣を呼ぶつもりはないようで、静かに俯いた。


「君はコイツを頼むよ。

信じるからさ。」


カイルが指す先にはノイズが腕を組んで佇んでいた。


「分かった、ちゃんと殺しておく。」


「おいおーイ。

部屋の外のホムンクルスの数を分かっているのですよネ?

生身でやるつもりですかァー?」


挑発するノイズにカイルは普通に「うん」と頷くだけ。


「この部屋には絶対入れないようにする。

だからちょっと頑張ってねヨシュア君。」


「ん。そっちもね、カイルさん。」


視線を合わせて微笑んだ後、カイルは扉を開け、ヨシュアは銃を構え、同時に動き出した。

カイルが起こしているであろう衝撃に閉められた扉や壁がガタガタと悲鳴のように震える。


「「…」」


ノイズはただ微笑むだけで何もして来ず、ヨシュアは銃を下げた。


「おヤ、殺さないのですカ?

このホムンクルスちゃんは外のと違って攻撃力が無い代わりにしぶといですヨ。」


「銃では殺さない。

召喚獣も呼ばない。」


ヨシュアが言っている事に?マークを浮かべて首を傾げるノイズ。


「貴方ゼウリスの召喚士ですよネ?

え、マジで何言ってるんですカ??」


ヨシュアはノイズへ返答せず思いを話し続ける。


「彼、兄さんに似てるんだ。

顔とかじゃなく、雰囲気が。」


「はァ。」


「もう悲しませたくないんだ。

二度とあんな顔、させたくない。」


決意のように口に出すヨシュアの手に煌めく砂鉄のようなものが渦を巻いていく。

彼を見たノイズは目を見開いて固まった。


「それは…!

貴方、アレを取り込んだのですか!?」


普通の話し方に戻ったノイズを一瞥し、手を見つめ歪に微笑む。


「利害一致なだけ。

これだけは感謝するよ、俺が戦えるようにしてくれて。」


「こりゃあちょっと……困りますネ。

(ライアーには悪いが先に撤退を…)」


思考を巡らせる間に視界が黒くなる。

打撃からの破壊音が響き渡りモニタリングしていたノイズは思わず


「バケモンじゃねぇかッ!!!」


声を荒らげ机を叩きながら立ち上がった。


「何だあの速度!見えませんでしたけど!?

力も桁違いだ!!バケモンにバケモン与えてどうすんだよアビス!!」


怒りが収まらず砂嵐しか映さなくなったモニターに見向きもせず暗いその場を忙しなく歩き回る。


「アレだったらエンデュで良かったのでは!?

…いや、生きていないといけないのか。

しかも友人が云々と言っていましたっけ。」


段々と冷静さを取り戻しつつあり、速度を落として足を止めた。


「あ〜…報告も兼ねてやっぱ帰」


『おい。』


「ぅひっ!?」


ザラザラとした雑音の中で確かに呼びかけてくる声に身の毛がよだつ。

モニターが砂嵐に塗れていたはずなのに声が聞こえる事実にノイズは陶器肌から冷や汗を流す。


「……まさか聞こえてましタ?」


『お前、今エンデュって言ったよな。』


「聞こえてましたネーー!!」


ホムンクルスに付けた機械が壊れたと思いベラベラと喋ってしまった事を深く後悔しているノイズ。


「あ〜っとぉ…エ〜…」


『エンデュがそっちに居るのか。

答えろ。返答次第では今からすぐそっちへ行く。』


「場所も分かっているんかーい。

失言でしたネ…。」


どうしたものかと考えていると殺しにかかって来そうなヨシュアの声が徐々に弱々しくなる。


『エンデュ…エンデュ兄さんが、そっちに居るのかって聞いてんだ。

たった一人の大切な家族なんだ、答えてくれよ。』


「……」


口を開きかけたノイズ。

我に返ったようにハッとした後、再び口をキュッと結んだ。

俯き、暫くしてから呼吸を再開しモニター越しでヨシュアに答える。


「…貴方が知っているお兄さんはもう居ないでしょう。」


『…』


息を飲む音が聞こえ、もう1つ答える。


「けれど偶然にも名が同じ、という訳でも有りません。」


『…じゃあ兄さん…なんだ…』


「これは、勝手な独り言ですからね。」


ヨシュアは黙っており、やがて小さく呟いた。


『………お前の言いたい事、ちょっと分かった気がする。

ねぇ、アムル=オスクルムは内通者なの?』


ちゃっかり質問するヨシュアに呆れるノイズ。

答えたことも少し後悔し始めている。


「貴方、遠慮と言う言葉をご存知でス?

まだ聞くのですカ?こんなに聞いたのニ。」


『答えて。』


リスクを考え、大きな溜息を吐いてから面倒くさそうにヨシュアの望みを叶える事にした。


「さァ…こればかりは話せませんヨ。

否定しても肯定しても貴方の答えは変わらないでしょウ。」


その通りと言うような息を吐く音。


『アムル=オスクルムが俺の家をめちゃくちゃにしたんだ。

兄さんを殺してしまったのは俺だけど…』


初耳な事実を記憶しておくノイズ。

好機だと言わんばかりに勧誘を始めた。


「ならアムル=オスクルムを殺す為にこちらに御協力してくれませんカ?」


『嫌。』


「んエッ?」


まさか即答で拒否されると思わず変な声が出てしまい手で口を急いで塞いだ。


「な、何故…?

今の流れはうん一択では??」


『俺が、この手で必ず殺すの。

お前達に手出しは絶対させない。』


「じゃあ手出しは致しませんとモ!

それなら問題無いでしょウ?」


『エクスや皆が悲しむから無理。

あと興味無い。』


「きょ…」


自由人とはまた別のヨシュアという人間に驚きや呆れがこんがらがり頭を抱えるノイズ。

彼の脳内ではエンデュとのやりとりが勝手に再生される。



「エンデュ、貴方コレ必死に探していたでしょウ。

探してたらありましたヨ。」


「何だっけそれ。」


「は?」


「…あぁ、思い出した。もう必要なくなったそれ。」


「は?」


「興味無くなった。

元々どうでもよかったの思い出したの。」


「は?」



思い出して頬に青筋が浮かぶ。


「あの兄にしてこの弟あり、ですネ。

何度あの世に戻してやろうかと思ったことか。」


『なんか言った?』


「いえいえ何モ。」


さっさと撤退しようと部屋から離れようとしたその時だった。


『そう。

じゃあそっち行くから。』


言われた通りにしたのにも関わらずヨシュアの行動に再び足を止める。


「ぇ?俺答えましたよネ?」


『聞く前、今からすぐ行くって言った。

聞くまで待ったから、今から行くの。』


右の口角が痙攣を起こす。

何だコイツと口から出そうになるがグッと堪える。


「……エンデュ…弟を甘やかしすぎなのでは?

それに外でお片付けしてる彼に何とご説明する気でス?」


『…』


黙り込んだヨシュア。

無策な状態だった事に気付き、今頃策を巡らせていると思い別の誘導をしようと試みる。


「そもそも、貴方が感じ取ったソレは本当に俺なのでしょうカ?

その部屋は少々特別製でして流石の貴方でもハッタリだったリ」


『確認してもらうさ。』


「かくにんン〜??」


訝しげなノイズにヨシュアは「ふ…」と笑い


『誰も最初から俺が行く、なんて言ってないでしょ。』


言い終えるとコツ…と足音が背後から響く。

ゆっくりと振り返ると、橙色の髪の男子と神々しい白髪の召喚獣が自分を睨みつけていた。

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