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第190話『クックロビン』

新年を迎えましたね!

年末年始の特番を見ても全く実感が湧きません。

今年も非常なスローペースですが宜しくお願いいたします!

前回のあらすじ


シャル君の行方を探るべく、アルカディア家へ潜入したら魔女の夜所属ノイズの相棒と呼ばれていたライアーと遭遇。

アイツの隣に何と黒いドレスを纏ったシャル君が。

可愛いとか思う余裕がなく、シャル君は手を伸ばした僕へ矢を放った。



シャル君から放たれた矢は真っ直ぐ僕を穿とうと迫ってくる。

まずい避けられない!!


『マスターッ!!』


ゼウスが僕を素早く抱き込み、橙色の障壁を展開し矢を防ぐ。

魔法が使えている!?


「僕様の花嫁を甘く見すぎだ。

そのような障壁魔法なぞ容易く割れるぞ。」


ライアーはゼウスを指していた。


『クソッ!降ろすぞマスター!!』


「わぁっ!?」


パッとその場で手を離した為、僕は落下した。

あまり高くなかったから覚えたての受け身をとり前転し、立ち上がってゼウスを見上げる。


『くっ…馬鹿な!!』


シャル君の放った光の矢がまだ障壁を穿とうと抗っている。

対するゼウスの障壁は段々と白い罅が入っていく。

障壁が破られる!?


「ゼウ」


名前を言い終える前にガラスが割れるような音が響き、ゼウスの左脇腹近くを矢が通り過ぎた。

遅れてゼウスの脇腹から血が飛ぶ。

あのゼウスの障壁を破って傷を負わせるなんて凄い力だ…。

その後、3本の矢がゼウスを捕え磔のように壁へ打ち込まれた。


『ぐぅッ!』


「ゼウスッ!?」


「理解したか雛鳥よ。

僕様の花嫁を助けに?馬鹿も大概にしておけよ。」


移動の素振りが無かったのにいつの間にか目の前にライアーが居た。

綺麗に整っている顔でも威圧感と怪しく揺らめくピンク色の瞳が人間ではないことを物語っている。

ゼウスの元へ行かなきゃ!

でもシャル君が…!


「花嫁は助けなぞ求めておらぬ。

御前…いや、貴様の思い込みも甚だしいぞ。」


ただの会話なのに!

息が詰まってすぐに言葉が出ない!


「おっ…お前がシャル君を操っている事なんて分かりきっている…!」


「何か勘違いをしているようだ。

誓ってやろう、我が花嫁に心を操る呪いは掛けておらぬ。」


「な、に…?」


そんな馬鹿な!

だとしたらシャル君は



自分の意思で僕を射ろうとした?



…ありえない。

優しい彼が、誰にでも分け隔てなく接してくれる彼が進んで人を傷付けるような事する訳ない。

絶対何かある。

探ってみせる、彼の真意を。

もし本当に操る魔法が使われていないのだとしたら彼は自分で矢を放つ事を選んだことになる。

そうせざるを得ない状況に追い込まれた可能性が高い。


「お前がシャル君に何か言ったんだろ…!

シャル君の優しさを僕はよく知っている!

自分からこんな事をするもんか!!」


「仮に言ったとして何だ。

矢を放ったのは紛れもなく花嫁の意思。

貴様に付け入る隙は無い。」


くそ!あぁ言えばこう言う…!!


「僕はシャル君を信じている!!」


「嗚呼、貴様のその反発せし目が気に食わぬ。」


ライアーはゼウスを見つめ続けるシャル君を手招きした。

彼は手に持っていた金色の弓を消し、

それに答えるようにこちらへ来た。

何でそんな奴の言うこと聞くの?

嫌な汗が鼻筋を通る。

綺麗な紫色の瞳は影を含み、僕を映さない。


「花嫁が望むのなら雛鳥の手を取るが良い。

僕様は離れている。」


「は…?」


「…。」


本当にライアーは少し離れた所へ移動した。

な、何でそんな事…。

罠かもしれないけれど踏み抜いて今を好機とするしかない!!


「じゃあもう帰ろう!シャル君!!

あんな奴の言う事聞く必要ないよ!!」


彼の手に触れようとした途端、


彼の手の甲で僕の手は弾かれた。


「え…?」


思わずシャル君を見てしまう。

保健室へ行った時みたいに手を掴ませてくれるかと思っていたのに。

困惑して何が何だか分からなくなってきた。


「な、何で…?どうして…?

一緒に帰ろうよ…?君が酷い目に遭う前に…」


「必要ありません。」


声が酷く冷たい。

聞いたこともないシャル君の声。


「あ…え?」


「私はこの提案を受け入れました。

これは私の意思です。」


そんな馬鹿な…

一人称がオレではなく私の時点で意思な訳ない。


「い、言わされてるのなんて気にしちゃダメだよ…!

ねぇ、言わされてるんでしょ?」


「いいえ。」


短くあっさりと否定され、血の気が引く。


「私から離れて下さい。」


そんな僕をライアーは酷く冷たい目で見下げる。


「雛鳥よ、花嫁を信じているのだろう?

早くも矛盾させるつもりか法螺吹きよ。」


「あ…え…」


ダメだ、思考が纏まらない。

どうする?どうすればいい?

他に何て言えばいい?


『ッマスター!!

その場に佇むな走れぇっ!!』


ゼウスの絞り出したような声にハッとし、衝動的に階段近くへ走った。

途端に先程僕が居た場所へ巨大な鳥籠が3つ降ってきた。

ビックリした…。


「カラス。」


女性の声がする。

声がする方へ視線を向けると、黄色のドレスを着た金髪の女性がゆっくりと歩いてきた。

凄くシャル君に似ている知らない人。


義理母(はは)殿。」


ライアーの義理母…

もしかしてシャル君のお母さんってことか…!!


「断腸の思いで私の大切な娘と婚姻関係を結ばせてやると言ったのです。

実験のためにさっさと私の要望を叶えなさい。」


断腸の思い…?

実験…?さっさと…?


「む、すまぬ。

雛鳥が煩くてな…」


「私の娘はこの家が、私が世界なの。

私が居なきゃダメなの。

その為にすべき事、早くやりなさい。」


「う、むむ…すまぬ…。」


あのライアーがタジタジになっている事なんて今はどうでも良い。

あの人がシャル君の心を縛り付けて苦しめている元凶…!!


「巫山戯るなよッ!!」


自分でも驚くほどの大声がまた出た。

だからか、さっきまで怖かったライアーも、

シャル君のお母さんも怖くない。


「断腸の思い?

シャル君を道具としてしか見てこなかった人が言う言葉じゃない!!」


「何この子?本当に雛鳥のようにうるさい子ね。」


この人があんなに優しいシャル君の母親?

ありえない!


「シャル君は貴女の道具なんかじゃないッ!!

生きているんだ!!母親だろうが貴女がシャル君の幸せを奪っていいはずないんだッ!!」


「カラス。」


「すぐに黙らせよう。」


「シャル君がどんな思いで、1つしかない大切な心を殺してまで貴女の為に頑張っていたか知らないくせにッ!!

知ろうともしないくせにッ!!」


ライアーの黒い手が此方に向いた。

その瞬間、何かされると思い思わず杖を構えた。

それと同時だった。


「むっ!?」


「なっ…シャル君!?」


ライアーの隣にいたシャル君が僕に向けられていたライアーの手をしっかりと握った。


「ライアーさま…」


妖艶なシャル君がライアーの耳元で甘く囁く。

見る見るうちにライアーの頬は紅潮していき、

やがて顔全体が湯気を発するようになった。


「はわわわっ♡」


「シャル君にデレデレするな!!」


攻撃したいけど魔法が使えるか分からない。

でもさっきゼウスが障壁を出せていた。

なら使えるかもしれない。

しかし僕の魔法は範囲が広くてシャル君を巻き込んでしまう。

かといって威力を抑えたら無意味だ。

誰かのなら、と視線を皆に向ける。


視線の先では大量のカラスが4人を攻撃し続けていた。

僕よりもシャル君に近かったはずのセヲ君とカイルさんもヨシュアとレンの近くへと戻っていた。


「小鳥共よ、鳥籠へ戻るが良い。」


ライアーが空いていた左手を4人の方へ向けた。

すると巨大な鳥籠全てがギィと音を立て扉を開いた。

まるでそれに吸い込まれるかのように体が引っ張られたレンとヨシュア、セヲ君が収監されてしまった。

3人は背中を強く打ち付けたようで倒れ込んでしまった。


「皆!?」


慌てて駆け寄ってヨシュアの鳥籠の扉を開けようと引っ張ってもビクともしない。

解錠の魔法とか使えるか?

僕の魔導書(ブックオブゼウス)に確認するしかない!


解錠の魔法のページを開いて!


強く念じるも、そもそも本が顕現しない。

それすらも魔法という概念になっているのか!?


「まぁ、全員汚らわしい男なのね。」


シャル君のお母さんがレンをまじまじと見つめて言い放った。


「げほっ…汚らわしいとか酷いなぁ。」


「…」


レンを無視してヨシュア、セヲ君も見やる。


「ウチの子を更に完璧にする為の良い材料だわ。

連れて行って。」


まずい!嫌な予感しかしない!


「【王の凱旋】!」


杖を向けるも、光が出ず無反応。

やっぱり無理なのか!?


「ゼウス!」


『ッ…』


シャル君の矢がまだ抜けておらず、

口から血を出して肩で息をしている。


「ゼウス!?」


余所見をした直後、鳥籠の上部にある鎖が急に巻取られた音を響かせ上へと登ってしまった。


「あッ!?」


動けなかった僕とは違い、ヨシュアの鳥籠に大きな跳躍で飛びついたカイルさん。

全てが上の暗闇へと消えてしまった。


「嗚呼、僕様の花嫁…何と愛らしい…。

これほどまでに美しく愛い存在が居るとは人間も捨てたものでは無いな。」


シャル君の小さな顔に手を添えて息が触れ合うほど自らの顔を寄せるライアー。

攻撃魔法が何一つ出ない僕に出来ることは限られている。

まずはゼウスを助けなきゃ。

魔導書が出ないならゼウスを戻すことすら出来ないのだから。


「シャル君!お願い、ゼウスを離して!」


「…」


氷のような目は僕を見て、無言でゼウスを磔にしていた矢を消した。

そのままゼウスは地に落ちる。

このままじゃ激突しちゃう!!

やった事ないけど間に合えスライディング!!


「わぶっ」


間一髪だった…。

召喚獣でも普通に重い。

そう感じたのは彼がぐったりしているのもあるのかもしれない。


「ゼウス、ゼウスしっかりして!」


『がふっ…ゲホゲホッ』


口からまだ血が…!

祈りの森の時みたいだ…!


『はぁっ…恐らく、堕天(アンヘル)の作用だろう…ッ』


堕天(アンヘル)!?」


『アルテミスのマスターは…ッ

堕天を吸っている…ッ!!』


そんな!!

早くしないとシャル君が危ない!!

でも僕は彼に拒絶されたんだ。

叩かれた手をじっと見つめてしまう。

するとゼウスは僕の耳元で囁いた。


『アルテミスのマスターはエクスと悪魔が対立している隙を見て私に

“大丈夫、早く逃げて”と口を動かし伝えてきた。』


「!」


『意思がある時点で確かに呪いの類では無い。

アレは自らを犠牲に私達を逃がす為の演技だ。』


演技…。

彼が頑なに僕の手を取らないのは僕達を逃がす為だったんだ。

本当は今すぐにでも逃げ出したい気持ちを殺して敵を欺いて僕達を守ろうとしてくれているのだろう。

本当に、本当に優しいな。


そんな彼は報われなければならない。

横暴な人が得をして彼のような優しい人が損をする世界なんて僕が許さない。


「ゼウス、悪いんだけど魔法が使えない理由を探ってくれる?」


『心得た。』


ゼウスをゆっくりと寝かせ、ライアーへ視線を向ける。


「む?(雰囲気が変わったか?嫌な予感がする。)」


僕を見て顎を引いたライアーはシャル君を抱き寄せ、警戒を見せる。


「シャル君。

君が要らないと言っても僕は必ず君を連れ戻すよ。

君と笑い合いたいから。」


「…私はッ!!

必要ないと言っているのですッ!!」


シャル君の荒らげた大声が響き渡る。


「どうして分かってくださらないのですッ!!

早く出てってッ!!帰ってッ!!」


「そんな辛そうな顔を向けられているのに帰る方が嫌だよ。」


シャル君は歯を食いしばりながら弓矢を手にし、引き絞った。

やはりシャル君は魔法を使えている。


「【三日月】ッ!!」


彼の矢は動かなかった僕の左肩を掠めた。

矢が纏っていた煌めく光も当たり判定だったんだな…服が破けてじんわりと熱く、痛くなってきた。

彼は最初から僕が避けると思って傷付けるつもりが無かったのだろう。

大きな目が見開き、血の気が引いた顔をしている。

ただ考え無しに受けた訳じゃない。

シャル君の魔法なら使えるのではと思ったんだ。


「【三日月】」


詠唱して杖の先をライアーに向けるもやはり魔法は出なかった。

足元が覚束無くなったシャル君を支えたライアーは僕の事なぞ見えていないのだろう。


「嗚呼、花嫁。顔色が悪いぞ。

部屋で僕様と休もう。」


転移で消えるつもりか!

逃がしてたまるか!!


「行かせない!【王の凱旋】!」


やっぱりうんともすんとも言わない杖を握りしめ手をシャル君へ伸ばす。


けれど虚しく何も手にとれなかった。


「くそ!!シャル君を見失っちゃった!!」


『落ち着けマスター。

此処は恐らく地下…この上も部屋のはずだ。』


確かに鳥籠が降ってきた後に巻取られて登って行ったもんな…。


『あの悪魔はアルテミスのマスターの母君に逆らえないようだ。

故に此処がアルカディア家ならば此処から出れぬだろう。』


そう言えばシャル君のお母さんは


“私の娘はこの家が、私が世界なの。

私が居なきゃダメなの。”


って言ってたっけ。

この家、私が居なきゃダメ…


「ゼウス、上に行こう。

皆を助けるよ。」


『承知した。最速で行くぞ、マスター!』


ゼウスの差し出された手を強く握りしめ、上へ向かった。

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