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第188話『囚われの花嫁』

前話を出して早3ヶ月以上経ってしまっていたとは…!

お待ちくださった方が見えましたら遅くなり申し訳ございませんでした。

いいねを押しながら見てくださった方、ブックマークを外さないでいてくださった方、これを見てくださった方、皆様に御礼申し上げます。

少しずつ再開していけたらなと思います。

温かい目で見守って頂けますと幸いです。

そして、最近肌寒くなってまいりましたのでお身体には十分お気をつけてくださいね!

前回のあらすじ


デバイスに新たな連絡先としてセヲ君の名前が追加された。

それとは別にアムルさんから連絡が入り、

シャル君の安否が不明となったとのこと。

一緒に居たレンと共にアルカディア家へ急ごう。



一体、どれくらいの時間が経っただろう。

未だに知らぬ場所で両腕を拘束され、壁の鎖に繋がれている。

一縷の望みを期待したことが愚かだった。

もしかしたら、そう思いたくて足を踏み入れたことが間違いだった。



帰省当日_シャーロット=アルカディア


心臓が身体の内側から破り出そうなほど鳴っている。

とうとうこの日が来てしまった。

一昨日、いえ、昨日から一睡もしていない。

お腹は痛いし身体は鼓動で煩くてどうにかなってしまいそう。

この際、どうにかなった方が遥かにマシだ。

時間だけが勝手に進む道具でやり過ごしたい。

帰らずに済む方法があるなら縋りたい。


でも…もし、もしもお母様が悲しんでいたら…。


そう思ってしまって逃げ出したい気持ちが大きく揺らぎ、視界も揺れる。


「シャル!」


「ッ」


凛とした声で反射的に我に返る。

声を掛けてくれたのはローランド君だった。


「ろ、ローランド君…」


「シャル、気を確かに持つんだ。」


いけない。

心配をかけている。それはダメだ。

彼は家の事に関して無関係だろう。

私情で巻き込むな。

声をしっかり出せ。

取り繕う事は家でしてきただろう。


頭では分かっているのに声が全く出ない。

ローランド君は今も心配してくれている瞳でオレを真っ直ぐ見ていた。


「何かあったら僕の元へおいで。

君が安心して休めるよう全力を尽くさせて欲しい。」


「…」


本当は今すぐにでも連れ出して欲しい。


やめろ、迷惑をかけるな。


伸ばしたい手を必死に押さえ込み、笑顔を作る。


「ありがとう、ございます。

嬉しい…です。」


今、相当酷い顔なのだろう。

いつも笑顔でオレと話してくれるローランド君の綺麗な顔に笑みが無く、辛そうな表情を浮かべているままなのだから。


「…シャル、途中まで一緒に行こう。」


「きゃっ」


口の両端にきゅっと力を入れた直後、オレの右手を強い力で握ってくれて少し前を歩き始めた彼。

痛いとは思わず、ただ、ずっと握っていて欲しいと思ってしまうくらいの力。

城下町まで距離があるのに、彼は箒に乗らず平坦な道を一緒に歩いてくれた。

俺が帰りたくない事を分かってくれているからこそだと思う。

彼は直ぐにでもお家に帰りたいだろうに。

どうしてオレに気を遣ってくれるんだ。

甘えっぱなしの己を殺してしまいたい、なんて勇気が無いくせに思うことだけは一丁前で。

彼は無理していつも通りに振る舞い、会話を続けてくれていた。


「シャル、1つ教えておこう。」


ピタリと足を止めたのが気になり、首を傾げる。


「…?」


「大丈夫じゃない時でも大丈夫と言うと少しだけでもそう思える。言ってもらうのもだ。」


彼は静かにそう言ってオレの両手を一回り大きな手で包んでくれる。


「僕が大丈夫じゃない時は無いが…。

小さい時、誰かが言っていたのを聞いたんだ。

今キミへ必要な言葉だ。」


手にぎゅっと力を込めてくれる。

大丈夫じゃない時でも…。


「特に1人の時、大丈夫と声に出してみるといい。」


家に帰った時の事を言ってくれているんだろう。

大丈夫…。


「ただ君は大丈夫か?と他人に聞かれたら大丈夫と咄嗟に言うだろう。」


「…」


「大丈夫じゃない時、誰かが手を差し伸べてくれたのなら取るべきだ。」


取れるだろうか。

他人の迷惑になる事が分かっていても。


「他人が手を差し伸べるのは、君を助けたいと願う証拠だ。

迷惑なんかじゃない。」


「!」


「君は1人で頑張りすぎだ。

今まで頑張った、だから救われるべきだ。」


「…」


何と返せば良いか分からない。

でも無意識にその言葉を待っていたのだろう。

涙が勝手に目を覆い、落ちていく。


「しかし助けたいと願うのは一種のエゴだ。

だから勇気が必要になると思うが、可能なら助けてと声を上げてほしい。

僕達にエゴではないと思わせてくれ。」


「…はい。」


小さく頷くと、ローランド君は優しく微笑み、

涙を拭いてくれてまた歩き始めた。

あっという間に城下町が見えてきてしまった。


「ぁ…」


まずい、手足が震えてきた。

鼻筋が冷えて天地が逆になりそうだ。


「シャル。」


途端に薔薇の匂いで全身を包まれる。


「城下町に入ると人気が多いからここでしよう。

ぎゅーっと!」


これはローランド君が抱きしめて下さっている?!


「シャル、大丈夫。大丈夫だぞ。」


少し恥ずかしいけれどとても温かくて安心する。


「君の居場所は1つじゃない。

大丈夫、大丈夫。」


本当だ。少し不安が小さくなった気がする。


「分かっているだろうが、君が大切で心配なのは僕だけじゃない。

だが今は一緒にいる特権として言わせてもらう。

君の味方は沢山居るから安心してほしい。」


「……はいっ!」


ローランド君は一度も直接的に家の事に触れなかった。

お母様は怒っていないのではないか、とか杞憂だ、とか言い切ることもしなかった。


オレが淡い期待を抱かないようにしてくれたのかもしれない。

彼は発言に責任を持てる人だからかもしれない。

だからこそ、そんな彼が言ってくれたのだからオレは大丈夫。


彼と噴水前で別れた後、恐怖で蝕まれないよう大丈夫と呟き、言い聞かせながら家へ向かった。


懐かしいとも思える門扉の前で思わず立ち止まる。


もし、もしもお母様が許してくださったら…


ローランド君のおかげであるはずの無い未来をほんの少しだけ、願う余裕を作ってもらえた。


ただ、それはあるはずが無い未来。


これからあるはずなのは


絶望しかないかもしれない未来。


オレの世界が閉ざされてしまうかもしれない未来。


もう二度と外に出られないかもしれない未来。


そうなったとしても、どうにかしよう。

オレを心配してくれる皆さんの為にも、

もう一度笑って過ごせたあの日々を掴むために。


「アルテミス、出てきて下さい。【summon】」


『はーい!呼ばれて降臨アルテミスでーっす!』


白く輝く彼女の明るさに元気を貰える。


「アルテミス、お願いがあります。」


『なぁに?シャルのお願いなら何でも聞くわ!』


オレのお願いを言ったあと、泣きそうな彼女を魔導書に戻した。我儘でごめんなさい。

もしかするともう会えなくなるかもしれないから。


「大丈夫。」


まずお母様から守ってくれたハウスキーパーの彼女…ミザリーさんに会いたい。


いつも真っ先に出迎えてくれた彼女に。


門扉を潜り、家の扉の前に立つ。


あぁ、鼓動で身体が弾けてしまいそう。


「…大丈夫。」


そう言い聞かせてベルを鳴らした。


家の扉がゆっくりと開く。

その向こうに、彼女の姿は無かった。


そもそも誰も居なかった。お母様の姿さえも。


「…ぇ?」


薄暗く明かりも付いておらず、異様な雰囲気だけが漂っていて自分の家じゃないような錯覚に陥る。

じゃあ扉を開けたのは誰?

振り返ろうとした刹那、腕を捕まれ後ろに回される。


「うぁッ」


体術を学んでいたというのに油断した…!

力が強くて解けない…!


「本当に帰ってきたのね…私の駒鳥!」


お母様の声…!

いつもよりも狂気を感じる。


「うぐっ」


凄い力に抵抗できず後頭部を押されて床に叩きつけられた…!必死に目線を上げると、静かに怒るお母様が黄色のドレス姿で立っていた。


「何しているの!?

娘の顔に傷が付いたらどうしてくれるの!!」


その一言でオレの心がピシッと亀裂が走ったように鳴った。


「アルテミ」


アルテミスを呼ぼうとしたその後は睡眠薬か何かを仕込まれたハンカチで鼻と口を押さえられ、意識を手放してしまった。



気が付いたら服はピンク色のワンピースへ変えられ、髪も結われ、母の理想の娘に戻されていた。


青い床がひんやりと冷たい実験室のような場所。


両手に付いた拘束具は白い壁から鎖を伸ばし、肩よりも高い位置にある。

お母様はオレをどうする気だろう。

やはりもう、皆さんには会えないのかな。


お母様。

オレは…私は…貴女の道具以外にはなれないのでしょうか。

貴女の中では道具でしかないのでしょうか。

貴女の家族ではないのでしょうか。

貴女の娘ではなく、息子と言ってはくれないのでしょうか。


「…だいじょうぶ、だいじょうぶ…。」


予想通りになってしまった。

だからこそ、今動くべきだ。


「アルテミス、出れますか。【summon】」


魔導書の顕現までは可能。

アルテミスは小さく出てきてくれた。

大きな瞳には涙が溜まっている。


『シャル…!やっぱり!』


「アルテミス、家に入る前に話したことを今実行してください。」


『でも今なら私、シャルを解放できるよ!』


それはダメだ。

オレは解放されてはいけない。


「いけません。

お母様は何をするか分かりませんから。

貴女に被害が及んでしまうかもしれない。」


『この期に及んで何を…っ!?』


アルテミスの顔が強ばった。


『ま、魔法が使えない…!?』


やはり手を打たれている。

この枷に繋がれているオレが原因なのか、部屋が原因なのか。

迷っている場合では無い。


「お願いします、アルテミス。

シルヴァレさんが作ったデバイスは渡してはなりません。」


彼女に託し、ずっと抱えて持っていてくれたデバイス。

魔導書の中に入ると知った時はそのままでも良いかと思ったけど、何かしらの方法で取り出されたらまずいから。


「オレは大丈夫。

お願い、アルテミス。言うこと聞いて。」


少し強めに言ってしまった。

ごめんなさい、アルテミス。

今は貴女しか頼れないんだ。


『うぅう〜…っ!

…すぐ、必ずすぐ戻って助けに来るからね!!』


「はい。」


『行ってきます!!』


「…」


アルテミスは転移が出来ない為、扉を開けて去った。鍵は開いていたようだ。

貴女だけでもどうか無事で。

戻ったら酷い目に遭うかもしれないから戻ってこないで。


なんて…いつまで強がっているんだ。


本当は戻ってきて欲しい。

今すぐにでも一緒に逃げ出したかった。


でも、心のどこかでお母様に対して僅かな希望を願ってしまい動けない。


いつか改心してくれるのではと。

いつか心から笑って私を、オレを見てくれるのではと。


あるはずの無い未来だと思いたくないから願ってしまう。


酷い目に遭わされたとしても、貴女はオレのたった一人の母親だから。


家族なんだから、オレがそれから逃げるな。


「…大丈夫…。」


「おやァ!

とても可愛らしい乙女が繋がれてますねェ?」


「ッ!?」


誰も居ないはずの空間から悪寒を感じる声がした。

瞬き1回で、見知らぬ男性が目の前に現れた。

髪や衣服が真っ黒で、肌が真っ白。

細められたピンク色の瞳が酷い顔をしているオレを映した。


「貴方、本当に男の子なんでス?

可愛いお顔してェ。顔ちっサ〜!」


黒い手袋をした両手で顔を上げられる。

…怖い。


「良かったですねライアー。

花嫁を捕らえられテ。」


花嫁…?ライアー…?

何処かで聞いたような…

それにこの男性は…


「ッ祈りの森の…!?」


「わァ!覚えてくれてましたよライアー!

良かったですねェ!」


男性の影からカラスが1羽出てきた。

男性はカラスに耳をわざとらしく寄せる。


「ン〜?なになニ?

早く娶りたいですっテ?

きゃー!ライアーったら大胆ですネ♡」


オレを男だと知っているのに気色の悪い…!

ただこの人達はアビスの仲間で森をあんな風にした張本人…。

絶対に許さない。


「納得いってないようですが貴方のお母様、

ライアーとの結婚をお許しになられましたヨ。」


「…は、い?」


思わぬ言葉に思考が止まる。


「貴方はあの人にとって生きるお人形ですからネ。

誰かと結婚しようが手元にいれば問題無いらしいのデ。」


生きる、お人形…?

手元…?


「貴方も大変ですネ。

お人形だからあの人の理想に着飾らせられテ。

貴方はあの人の未完成な理想なんですっテ。」


理想…?オレが…?

お母様の未完成な理想?


「じゃあライアー、式場の準備でもしますカ?

え?何?花嫁のドレスを黒にしたイ?

羽毛も付けテ?好きにすれば良いじゃないでス?」


「お母様…」


「寂しイ?大丈夫、此処には皆が居ますかラ。

ねー?」


扉からまた人が入ってきた。

麻布で身体を巻かれ、腕ごとベルトで固定をされている為かフラフラと歩いて…視線が合わなくて。

まるで人間ではないような…成れの果てのような…。


「ほラ、この顔に見覚えハ?」


見覚えなんてと思っても凝視してしまう。


「あれ…?」


嘘だ、そんなはずない。

オレは彼を知っているかもしれない。

でも、彼はこんなくすんだ肌じゃないし目も虚ろじゃなくてボロボロじゃなかった。

でも、記憶が彼だと言っている。

彼はミザリーさんと使用人さん達と共にオレをお母様から護ってくれた…執事さんだと。


「お母様曰く未完成なお人形さん、貴方を完璧な理想に、ホムンクルスを創作する為の実験は捗っているらしいですヨ。」


男性は執事さんだったであろう人隣へ向かい笑顔で肩を軽く叩いた。


「これも失敗作ですけどネ!」


「しっ…ぱいさく…」


沢山の人の生命が弄ばれている。

お母様の手によって、お母様の理想ではないオレのせいで…!


「いや…いやあぁああ…っ!!」


「あはっ!ひっっっじょ〜に良い顔ですネ!!」


再び両手で顔を上げられ、彼は至近距離で歪んだ笑顔を浮かべた。


「お母様は貴方を完璧なお人形にしたいんですっテ!

貴方が居ない間に作られたのは彼らみたいな失敗作ばかリ!!」


オレが居ない間…!

オレが家出をしたから皆さんがこんな目に…!?

全部、全部オレのせい!!


「母君の理想とは何でしょうネ?」


分からない!ずっと苦しい中耐えてきたのに!

まだダメだと言うの?


「この子達の一部に共通点がありまス。

恐らく彼女が貴方に求めるモノでしょウ。

教えて欲しイ?」


知ったらそれに成らなきゃいけない。

しかし成らなければ沢山の生命が散り続ける。


「多分ですガ、エクス君達が貴方を助けに来るでしょウ。彼女は彼らにもやりますヨ。」


「お願いやめてッ!!!」


「おヤ、今まで声を荒らげず俺を見なかったのニ…

彼ら()()思い入れがお在りなのですネ?」


「っ…」


彼らには、その言葉で気付いた。

使用人さん達とエクス君達を天秤にかけ、

エクス君達に偏った反応を示してしまったと。

違う、そんなつもりはない。だから…


「お願い…します…

これ以上、なにもしないで…」


「じゃあライアーの花嫁になってくれますカ?」


「っ」


「嫌なら今ここにいる全員とエクス君達を」


「分かりましたッ!!

なりますから手を出さないでッ!!」


「言質取ったド〜!!

やりましたねライアー!」


彼の厭らしく吊りあがった口角が不快でならない。

けれど我慢。…大丈夫。


「大丈夫…」


「ァ?何か言いましたカ?

まぁ言いヤ。

ライアーと一緒に結婚式のドレスを考えましょウ。」


男性はそう言ってオレの両手の拘束具に鍵を差し込んで解いた。

解放された両手はだらんと下がり、血が巡やすくなり始めるが立ち上がる気力は無い。


「ア!

そうだ、あの人の理想の話を忘れてましタ!」


あの人…お母様の…

男性は黒い手袋を付けた右手の人差し指を立てた。


「まず1ツ、女性らしく美しくあるこト。

これは他のホムンクルスちゃんは成し遂げていませン。」


女性らしく…

だから貴女はいつもオレを娘と言うんだ。

彼は笑顔で次の中指と薬指も立てた。


「2ツ、言うことを必ず聞くこト。

そして最後ニ、逆らわないこト。

貴方に求めるのはこんな感じの完璧なお人形であるこト。」


オレが未完成なのはそれらを守っていないからなのですね。

逆に守ればお母様は誰も傷付ける必要が無い。


「…」


「オ!目が死にましたネ。

理解が早くて助かりますよ、ホント。」


男性は私の手を引っ張り立ち上がらせた。


「エクス君達が助けに来るってよく信じられましたネ。

嘘だと言うのに。」


「…」


彼は来て下さる。

何故かそう思う。

だからこそ、早くお母様の理想にならなければならない。


「じゃあ結婚式準備、ちゃちゃっとやってコー!

え?ブーケは黒い薔薇が良イ?

自分で用意して下さいよライアー。」


彼に手を引かれ、見知らぬ部屋を出た。

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