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第180話『家族のカタチ』

もう3月ですね…!

3月にしては寒くないですか?

部屋も寒くてリズムゲームはおろか普通に文字打つのもしんどいです。

新生活を控えた月でもある3月、もし時間が許されるのならやりたい事を手の出しやすいものから始めるのも良いかと思います!自分は時間がなかなか取れず出来ないことが沢山なので!

日々を楽しく過ごせるように、この作品が少しでもその足しになりますように。

前回のあらすじ


頼み事を断れない性格が災いし、レンの買い物に付き合うことに。

早く帰りたいのにミカウさんの別館へ。

帰りたいんですけど!!



ミカウさんは別館の中をスタスタと歩き、僕とレンを置いていく。


「うっひゃー!何ココ!どうなってんの?!」


ご覧の通り、レンははしゃぎまくっている。

僕は数回来たことがあるので驚かない。


「エクス君ってここに来たことあるの?

驚いていないけど!」


「うん…まぁ…。」


「へぇー!いいなぁ!

アレでしょ?旅館?」


「似てるよね。ミカウさんの魔法らしいよ。」


「へー!」


そこは興味ないんかい。


「はい、君達〜!此処に入って〜!」


ミカウさんが襖を開けて部屋に入っていった。

僕はレンに先を譲った。前に入ったらひっくり返ったことがあるから。


「え?何で避けるの?まぁいっか。

お邪魔しまーす。」


さぁ、レンよ転けてくれ。

そんな邪な思いを秘めて僕も足を踏み入れた。


「ふぎゃっ」


何故か気付けば僕はまたひっくり返っていた。


「ごめぇん異空間にちょっと歪みが出来てたみたい。

入口が上下逆になっちゃった。」


小さな部屋の中で起き上がるとレンも頭をさすっていた。

くっ…見れなかった。


「さてレン君、コレだよ。」


手のひらサイズの丸い蓋付きプラスチックケースをレンの手に乗せた。


「おー…有難う御座います。

財布財布はっと…。」


ズボンポケットから財布をもそもそと探すレンから僕へミカウさんの視線が移る。


「そしてエクス君。」


「はい?」


「君はレン=フォーダン君に宣伝してくれたからね。

お駄賃として情報をあげよう。

気になってることはあるかい?」


思わぬ所でミカウさんから情報をもらえるのか。

そうだな…


「スピルカ先生とヨガミ先生が本当に喧嘩したかどうかが知りたいです。怪我した理由も。」


僕が今、特に知りたい事だ。


「おっけー。

多分君が思っている通りだと思うけど…」


「え?何?神クラスの先生喧嘩したの?」


「いや、多分違うと思うんだ。」


「その通り。」


ミカウさんの狐の仮面の奥から金色の瞳が僕を探るように見てきた。

そして頷いてゆっくりと真実を告げる。


「彼らは特に喧嘩していないよ。

怪我した理由は別にある。」


「「!」」


やっぱり…!

あの二人が喧嘩したと思えなかったのは間違いじゃなかったんだ。


「怪我の理由は君達生徒の親御さんに頭を下げに行った時って言ったら察しがつくかな。」


「!」


そういえば先生、面談の時に言ってたな…。


“そして本人の意思を確認した後、

親御さんの元へ謝罪と確認しに行く。”


って。

自分の子供が怪我をした事、ゼウリスに居ていいのかという事を確認しに行ったってことか。

それに怒った誰かの両親が…。

レンは立ったまま黒の靴下を脱ぎながら


「スピルカ先生ってちびっ子体型だけど大丈夫だったの?」


と問う。大丈夫だったらあんな怪我しないでしょう。


「あの子、体術とかめちゃくちゃ強いよ。

ゼウリスの教師やれるんだからね。」


そうなんだ…!

やっぱ先生達って凄いんだなぁ。


「勿論今回はやり返したり防いだりしていないからあぁなった訳で。

大丈夫ではないだろうね。」


要はやられっぱなしって事だよね。

先生達が悪いんじゃなくてアビスが悪いだけなのに…。


「子供が大事すぎてヒステリックになっちゃった人がチラホラと居たみたい。」


大事すぎ、か。

先生達、この世界の僕のお母さんには会ったのかな。

もし会ったとしてお母さんは僕の事をどう思ったのだろう。前世では見向きもされないだろうから…この世界のお母さんって…僕の事、大事に思ってくれてるのかな。

エクスにお父さんって居たっけ。


「へしょってなってどうしたのエクス君。

スピちゃん、君の家のアポを電話越しなのに頭下げながら真っ先に取ったんだよ。」


「え?」


聞き返そうとするとミカウさんはニッコリと微笑んだ。


「小生が渡せる情報はこれくらい。

渡しすぎちゃったくらいだね。」


「え、何で僕の…」


僕の問にミカウさんは首を横に振った。


「それは小生が答えることではないね。

スピちゃんに聞きなさいな。」


「…」


「じゃあ聞きに行こうよエクス君。

俺もついてくからさ。」


「うん…。」


別にレンは居なくていいんだけど…。


「嗚呼そうだエクス君、レン君。

今度合宿行くってね。」


リーレイ先生が言っていたな。

しかしレンは首を傾げた。


「そうなんです?」


どうやらレンは知らないようだ。

ミカウさんは「およ?」と言いながら同じように首を傾げた。


「まぁいいや。ミカウお兄さん、またお留守番だから合宿の話を終わったら聞かせてね?」


「一緒に来れないんですか?」


何の変哲もない疑問だったのにミカウさんは言葉を反芻しながら考えているようだ。


「来れない…来れない…行かない…行けない。

うん、そう、購買部は小生の大切な家だから守らないといけないんだ。」


前にも言ってたな。


“うん、購買部が無事だったからお留守番してたんだよ。ほら、危ないヤツとかが侵入しないようにさ。”


って。

余程購買部が大事なんだな…まぁ家ならそっか。

合宿で話せるほどの面白い事とか発生するだろうか。


「面白いお話が出来ると良いですけどね。」


僕が言うとミカウさんはクスクスと笑い


「大丈夫。

君達は大抵ちゃんと面白い事に巻き込まれるから。」


それの何が大丈夫なんだ。


「面白い事かぁ、いいねぇ。楽しそう!」


ワクワクしているレンを横目に僕は頭を下げて退出した。


「あ、ちょっと待ってよ〜!」


「まったねぇ〜!」



スピルカ先生は何故僕の家のアポを最初に取ったんだろう。取りやすそうだったから?

僕が神クラス代表だから?

お母さんは先生に何と言っただろう。

怒ったかな。何も思わなかったかな。

お父さんが居るのなら何か思ってくれたかな。

僕の事、頭の片隅には有るのかな。

もしも怒ってくれなかったら、覚えていてくれなかったなら僕には帰る居場所が無いという事だ。

正直、知るのが怖い。

両親と言っても殆ど喋った事も無い存在に僕自身は何と思えるだろう。

もう家族の事で傷付きたくないよ。


「顔、暗いよエクス君。」


置いてきたはずなのにいつの間にか隣を歩いているレンに言われふと我に返った。


「…ごめん。」


「謝られる理由が分からないけどいいよ。

ご両親の事考えているんじゃないの?」


図星故に心臓がドキリと跳ねて思わず声が裏返った。


「なっ!?…んでそれを…」


「あはは、わかりやす〜い。

普通話の流れで分かると思うけど。」


それは確かにそうだ。

複雑な気持ちのせいであまり声を出したくない。


「ご両親と仲良くないとか?」


ギクリと身体がまた強ばる。

前世のろくでもない両親と今世のろくに話したことの無い両親。

嘘を吐きたくても吐ける嘘が無い。

言葉を探す時間だけが流れる。


「…」


「あれ〜?意外だなぁ。

エクス君なら仲良くしてそうなのに。」


「……」


返す言葉すら見つけられない僕を見てレンはバツが悪そうに視線を逸らした。


「ごめん、今のは失言だった。

家族って形は様々だから偏見を押し付けるのは良くなかったね。」


「別に大丈夫だよ。」


「大丈夫な人はそんな顔しないさ。

俺の方は上辺だけの関係だから理想を君に押し付けたのかもしれない。」


上辺だけ?それこそレンが?

文武両道容姿端麗であるレンが?


「あ、信じられないって顔だ。

本当なんだよねぇ、これが。」


「…話させてごめん。」


僕が謝るとレンはいつものようにヘラッと笑い首を傾げた。


「うーうん?本当の事だし全く気にしてないから。」


「…強いね、レン君は。」


「頑張らないと実の息子だろうが家から追い出されるからね。それで強くなったのかな。」


「家から…!?

フォーダン家ってそんなに厳しいの!?」


吃驚して思わず声を荒らげてしまった。


「うん、テストは満点で当たり前。

全てにおいて頂点に立つ事が常。

それが家訓ってやつ?だった。」


所謂スパルタ教育なのか…。

ゲームの時ってそんな設定だったっけ?

レン=フォーダンという存在ってこんなに追い詰められていたの…?


「もし、何かで頂点に立てなかったら…?」


「俺は御役御免。

外にほっぽり出されて家は新たな養子を取るだろうね。」


「下手すれば死んじゃうじゃないか!」


「そう、だから御役御免って事。

要らない人間の生死なんて誰も構わないでしょ。」


レンは普通に淡々と喋る。

自分の事を喋っているのに何処か他人事で、恐怖や焦りを微塵も感じさせないいつも通りの薄っぺらな笑みを浮かべるレンだ。

僕はそれに恐怖を感じた。

そうならない自信があるからか、またはどうでも良いと思っているからか。

それとも感じさせないだけで恐怖を押し殺しているのか。


「何か不思議!エクス君には話しちゃう!

キミ、話を聞く天才なんじゃない?」


「…何もしてないけど。」


「う〜ん?キミ自身の雰囲気かな。

つい喋りたくなっちゃう。」


メルトちゃんにも似たような事を言われたっけ。

あれはメルトちゃんの優しさだと思うけど。


「君の心が軽くなるのなら沢山話せば良いよ。

僕、興味無い事すぐに忘れるから。」


あれ、レン相手に何言ってるんだろう。

どうせ「あはは〜ありがとー。」とか愛想笑いで終わるだろうに。

しかし返事が来ず思わずレンを見やる。


「…」


彼は何に驚いたのか目を見開いて固まっていた。


「え、僕、何か変なこと言った…?」


いくらレンでも自分のせいで誰かを傷つけるような事になるのは嫌だ。


「いや…そんな事生まれて初めて言われたから…。

しかもいつも冷たいエクス君に…」


…レンへの態度を改めた方が良いかもしれない。


「どうせまともにこういう事話せる人いなかったでしょ。」


言ったそばから僕はつい憎まれ口を叩く。


「うん。友達って呼べる人ほぼいなかった。」


返答に困る…。

僕と一緒のようで違うから何と言えばいい?

困っている僕を見透かしたレンは足を止めた。


「俺は家族だけじゃなくて友達(仮)まで上辺だけだった。蓋を開けばフォーダン家とお近づきになりたいだけの集まりだったよ。」


「!」


貴族って大変なんだな。

そんな奴らしか周りに居なかったんだろう。

気休めかもしれないけど僕は言いたかった。


「…僕や皆は少なくとも違うよ。」


「えっ?

それって友達になってくれるってこと?」


何故だろう、聞き返されると恥ずかしくなってきた。


「……嫌ならいいけど。」


「ううん!

嫌じゃない!嫌じゃないよ、俺!」


この時、レンの本当の笑顔を初めて見た気がした。

あんな綺麗に笑えるんだ。


「へへ…家に帰りたくないなぁ。」


「てか帰れないでしょ。」


「そうだね!ラッキー♪」


それからずっとレンはニコニコしていた。

幸か不幸か、レンのお陰でスピルカ先生に会おうとしていた事を忘れて一日が終わった。



次の日、朝の授業開始時に教卓の後ろに立ったスピルカ先生は教科書を置いて静かに告げる。


「あい、じゃあお前らに報告です。

今度の休みに3日間実家へ帰省してもらいます。」


「えっ!?」


長い休みに入るならまだしも何も無い日に帰るなんて…!


「実家に帰る際、ワイバーンが必要ならこの紙に書いて提出するようにな。」


スピルカ先生が杖を振り、一人一人にプリントが渡る。


「悲しいが此処に残らない選択をした者はその休みでさよならだからな。」


もう!?何か色々と急すぎない?

皆が戸惑う中、左隣のヨシュアをちらりと見ると無表情だった。一方で右隣のシャル君は目を大きくして一時停止していた。

毛穴のない綺麗な肌から冷や汗が伝っている。


「シャルくん…」


「っあ、ご、ごめんなさい。

ちょ、ちょっと…驚いてて…」


家出同然で出てきたのに戻らなきゃいけないのは驚く他ないよね…。

シャル君の金糸のような髪の奥からスカーレット君が見えた。彼は眉間に皺を寄せ考え込んでいる様子だ。

スカーレット君も家に帰りたくないのかな。

それはセヲ君もか。

彼は窓の外を見ていたようで後頭部しか見えない。

皆、帰りたくないんだ。

でも周りは少し嬉しそうにしていた。

僕の列のメンバーだけが辛そうな面持ちだったと思う。

レンと昨日話していた事がフラグとして立ってしまったのかもしれない。

となると彼も帰らなくてはならないのだろうか。

それに僕も。

今度の休み、怖いなぁ。

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