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第175話『休日任務』

もう2023年の終わりが間近なんですね…

クリスマスが終わったら年末ですよ…!!

日々が過ぎるのが早すぎて震えます…。

楽しいことが自分にも貴方にもまだまだ起こりますように。

前回のあらすじ


僕とセヲ君を繋げた手錠が爆発した後、セヲ君と喧嘩しそうになった所をリーレイ先生に強制転移で丸め込まれました。



部屋に転移させられ、着替えた僕はヨシュアにこれまでの事を話した。

ヨシュアは蒼色の目を丸くした。


「な、何か大変だったね。」


「うん…流石に疲れた…。」


「今日は早く寝よ?」


言葉を出す事すら億劫になってきた僕は頷き、ご飯を食べて個室のシャワーを使って寝る準備を整えた。

しかしヨシュアはシンプルな黒のスタンドライトで僅かな明かりを灯した。


「ヨシュア寝ないの…?」


眠気と戦いながら聞くとヨシュアは微笑んだ。


「うん、図書館で面白そうな本を借りてさ。

あ、眩しい?」


「ううん…だいじょ……」


僕の意識はそこで途切れた。


「ふふっ喋りながら寝ちゃった。

おやすみ、エクス。」



勝手に目が覚め、起き上がって伸びをする。


「ふぁあ…あ?」


おかしい。

いつも先に起きて挨拶をしてくれるヨシュアがやけに静かだ。

隣のベッドを見ると珍しくまだ寝ているヨシュアが居た。

今日は休み…だけど僕達はヴァルハラと行動しなければならない。

今日は僕が起こしてあげよう!

ふふ…ヨシュア驚くかな〜?


「ヨシュア、朝だよー。

起きて〜!」


ヨシュアを揺さぶる。

しかし中々起きない。


「ヨシュア〜?」


すると


「あ”…?」


それだけで人を殺せるのではと思えるくらいの鋭い睨みを受けた。


「ヒィッ!!」


あまりの恐怖に思わず仰け反ってしまった。


「チッ!」


アスクレピオスに負けず劣らずの舌打ちをした後、

布団を頭から深く被ってしまった。

まだ心臓がバクバクしてる。

過去ヨシュアか?あれ。

眠いと人格交代する的な?

怖いよどうしよう…!!

でも何とかして起こさないと!


「よ、ヨシュア…」


「…っせぇな…」


「ヨシュアってば…」


「う”〜…っ」


もう魔物の唸り声だよ。

こうなったら!!


「アイオーン!

ヨシュアが1発で目の覚めるような大きい音だして!」


『畏まりました。耳を塞いでください。』


静かな了承の刹那、銃をゼロ距離発砲したような破裂音が部屋中に響き渡りビリビリと周りが振動する。

耳を手で塞いでいても指の隙間を劈くようだ。


「うわぁああああっ!!?」


望み通り驚きの悲鳴と共にヨシュアが飛び起きた。


「あ、起きた。」


「おきっ…えくっ?え?えっ??」


瞬発力で起き上がり、呼吸を荒らげて魔導書を顕現までさせているヨシュアを宥めるべくデバイスのアイオーンを見せる。


『おはよう御座います、ヨシュア=アイスレイン様。

エクス様の命令により起こしました。』


無表情でダブルピースをしているアイオーンが話していてもヨシュアは臨戦態勢のままでまだ酷く動揺していた。流石に驚かせすぎたようだ。


「ご、ごめんねヨシュア。

ヨシュアが中々起きないから…。」


「そっ…そっか。

ごめん、昨日夜更かししちゃったからすぐに起きれなかったみたい。」


そういえば本を読むって言ってたっけ。

夜更かしするほど面白かったんだな。

でもヨシュア寝起き悪すぎでしょ…。

眠いと人格交代するのは記憶しておこう。

合宿の話があったし何よりルームメイトだし。


ピロンッ


『エクス様、ディアレス=リベリオン様からメールです。』


デバイスを確認するとアイオーンが手紙を持っていた。


「うん、見るね。」


『畏まりました。ご要件はこちらです。』


彼が開いた手紙が画面いっぱいに押し付けられると見慣れたメール画面になった。


【今日は魔物とーばつ。

10時に城前へしゅーごー。】


淡白な文だけど分かりやすい。

あの人漢字使えるんだな。


「…」


ヨシュアも自身のデバイスを確認していた。

嫌そうな顔だ。


「僕は魔物討伐だって。ヨシュアは?」


「…聞きこみ調査だって。

集合場所と普段着で良いってだけで詳しい内容は書かれていない。」


普段着…僕も普段着で良いだろうか。

まぁいっか。



ご飯を食べて準備万端の為、シャル君の元へ向かう。

ヨシュアはレンと一緒に行きたくないと先に行ってしまった。

苦労してるなと思いながらシャル君の部屋前まで行くと扉が開いた。


「あ!エクス君。おはようございます!」


艶やかな金髪をポニーテールで結ってあって可愛いシャル君が現れた!

軽装なのもいつもと違って良い!

おしゃれ!高そうな服!眩しい!可愛い!尊い!


「エクス君?」


「アッオハヨ!!キョウモカワイイネ!」


「…オレ、可愛いですか?」


あっムッとしちゃった。

そんなところも可愛い。


「可愛い。」


普通に口から出た。


「もう、カッコイイって言ってください。」


拗ねるところも可愛い〜♡

僕が可愛いばかり言うので目を合わせてくれなくなった。ごめん。

少しするとシャル君もクスクスと悪戯っぽく笑って目を見て話してくれた。

靴を運動靴へと履き替えたので準備万端。


「城前までゼウスに連れてってもらおう。」


「よろしいのですか?」


「うん!大丈夫!

ゼウス【summon】!」


魔導書から相棒を呼び出す。

相棒も物理的に輝いて現れ、笑みを向ける。


『私を呼んだなマスター!おはよう!』


「おはようゼウス!」


「おはようございます、ゼウス様。」


『おはよう。

アルテミスのマスターも一緒とな?』


ゼウスに今日のことを話した。

ゼウスは頷いて珍しく杖を手に持った。


『成程。では早速城前へ向かうか?』


「うん、お願い。」


『あいわかった。

では主ら手を繋げ。』


やったぁ…シャル君と合法的に手を繋げちゃった!


『マスター、顔顔。』


「うッ!」


ゼウスに指摘されるほど気色悪い顔をしていたのだろう。思わずシャル君を見たが


「?」


と可愛らしく首を傾げた。

見ていないのか気にしていないのか気にしていないふりをしてくれているのか。

何にせよ乗っかろう。


『せぇのっ』


一瞬身体がほんの少し浮くような感覚の後、地面に着地する。


「ありがとゼウス…って」


後ろに聳え立つ建物を見るために振り返ると見覚えのあるホテルのような大病院。


「病院じゃん…」


目的の城は横を向いている。


『しまった、糸をそのまま辿ってしまった。』


とか言って本当はアスクレピオスに会いに来たんじゃ…


「『あ。』」


人が沢山歩いている中で、ドア越しでもエントランスの真ん中にゼウスの愛すべき孫であるアスクレピオスの姿が。

勿論、あっちも僕達を遠くからでも認識しており苦虫を5、6匹一気に噛み潰した顔をしている。

そして襲ってくる殺気。


「っ…何か急に寒気が…」


シャル君がアスクレピオスを見ていないのに感じている。このままではまずい。

適当な理由を付けて解剖される。


「ゼウス!命令!ごー!」


満面の笑みで手を振っているゼウスの服を引っ張り必死に頭を下げた。

顔は怖いので見ないように。

ゼウスは僕が珍しく命令と言ったのでしぶしぶ聞いてくれた。


『折角運命的な出会いだったのに…』


「生きて帰って来れなくなってたよ。」


「え?え?」


困惑しているシャル君の為に事情を話そうかと思ったその時、


「お、早ぇな。まだ15分前だぞ。」


ディアレスさんの声だ。

少し遠くから歩いてくる彼を見ていると、頭が弱い事を抜きにすればとてもカッコ良い男性だとつくづく思う。

黒いロングジャケットにパンクチックなジッパーやベルトの多いブーツ。

そして黒いチョーカー。轟く雷のように明るい金髪を映えさせる為の暗めの服のトーン。

喋らなければイケメン、

その名もディアレス=リベリオン。


「俺の顔に何か付いてるか?」


あまりにも見すぎた訳ではないのに…視線には敏感だな。


「目と鼻と口が付いてます。」


「確かに。」


面倒で返した言葉を真顔で返されるとこう…

脱力すると言うか何と言うか。


「で、でもディアレスさんもお早いのですね…!」


慌てて会話を変えてくれたシャル君。

ディアレスさんはポリポリと頭を掻く。


「トールに“学生達の手本となれ”って外にほっぽりだされた。」


「「あ〜…」」


正直時間前行動するような人では無いと思っていた。

召喚獣がしっかりしてるからこの人はヴァルハラに居れるんだろう。


「手本って俺は本じゃねぇっての。」


「あ、あはは…」


本人の至って真面目な怒りに僕は呆れ、シャル君は乾いた笑みを向けることしか出来なかった。


『こんな馬鹿が存在するんだな。』


「ゼウスッ」


『ぐふっ』


思わず小突いてしまった。


「シオネにも同じ事を何回も言われた。」


恐らくシオン先生の事だろう。

この人、たまに間違えないけど…確率なんだろうな。


「じゃ、早速向かうぞ。」


ディアレスさんは淡々と魔導書から黒い箒を取り出す。僕とシャル君は目配せをし、頷いて先に飛び立ったディアレスさんの後を追う。

シャル君は可愛い箒に、僕はゼウスに抱えられて。


「あの、何処へ向かうのですか?」


「アルマリー村。」


アルマリー村か。

ゲームにも出てきた城下町から少し離れた農村だ。

村の人達が優しくて強化に必要なアイテムや回復の為の野菜とかをくれたっけ。


「近頃、村に魔物が出て野菜やら農作物を食い荒らす被害が頻繁にあるんだと。」


「野菜を食い荒らす魔物…」


ゲームの頃だから直接的では無いけど恩があるから助けたい。


「ユリウス曰く祈りの森が無くなった事が影響しているかもしれねぇって。」


祈りの森と聞いて僕の心臓がドクンと大きく脈打った。そして身体が末端から熱を失っていく。


「祈りの森が出没地の魔物ばかりらしくて、運良く生き延びた魔物達じゃないかってよ。」


あんな事が起こって生きる為に逃げてきた魔物達を討伐するのか…?

僕と同じなのか、シャル君は震えた声で


「ほ、他の森に逃がす事は無理なのですか…。」


と小さく呟くように問いかける。

ディアレスさんの耳は良く、シャル君の声を聞き取った。

でも僕達と違いディアレスさんは顔色1つ変わらない。


「俺も同じこと言った。

そしたら逃がした先の森の生態系が壊れてまた森が死ぬってよ。」


また森が死ぬ。

また。

…また。


『マスター。』


優しげなゼウスの声に顔を上げる。

いつも通り綺麗な顔だけどそこに笑みは無い。


『食物連鎖は生きる上で至極当然の事。

第三者が連鎖を狂わす歯車を組み込んではならない。』


「でも…」


森が消えてしまって必死で生きているのに。

彼らは何も悪くないのに。


「何を考えているのか知らんが俺らが護るのは生きている人間だ。無駄に心を擦り減らすな。」


ディアレスさんなりの励ましだろうか。

それとも受け入れろという喝だろうか。


『馬鹿のクセにそのような線引きはきちんとしているのだな。』


「ちょっとゼウス…!」


「あ?何か言ったか?」


あの時のシャル君よりも大きな声なのに。

あの耳は自分に都合の悪い事は聞こえないのか。

…都合悪いか?

ディアレスさんの事が分からなくなりつつある時、

小さな農村が見えてきた。

魔物の被害を抑えるためか先端が尖った丸太で作られた大きな木の壁が村全体を囲んでおり、物見櫓のような物が立っていた。


「着いた、降りるぞ。」


高度を下げるディアレスさんは村のど真ん中で降りようとしていた。

木の壁で囲われているくらいだから絶対村に入口あるはず…!

不法侵入として怒られないかと不安を抱きながらついて行く。

結局村の中心あたりで着地したディアレスさんに続き僕達も地に足をつける。

驚かせないようにゼウスを魔導書に戻した。

当たり前だけど疎らにいる周りの人々から驚きの視線が刺さる。

人々は若い男性からおばあちゃんまで幅広いが、城下町の人々とは違い如何にも村人という感じのシンプルなデザインの服を着ていた。


「ディアレス様!?」


若い女性の声が後ろからした為振り返ると、白い三角巾を付けたベージュのシンプルなワンピースにエプロン姿の女性が驚いた顔でこちらを見ていた。


「おう。国家最高機関ヴァルハラ所属、ディアレス=リベリオンだ。」


この人、ちゃんと名乗りを上げれるんだな。

女性は心底嬉しそうに大きな瞳を潤ませた。


「嗚呼っ助けが来てくださった…!

まさかヴァルハラ直々、それもディアレス様だったとは…!」


まるで英雄を見る目。

その目で僕とシャル君にも視線を向けた。


「そちらの子達は?」


「連れ。

魔物討伐は俺一人で十分だが学生を預かってる身でな。」


彼が挨拶しろと言うような目で僕達を見るので取り敢えず頭を下げた。


「ゼウリス魔法学校生徒、エクス=アーシェです。」


「同じくシャーロット=アルカディアと申します。」


女性が微かに息を飲む音が聞こえた。

アルカディア家のシャル君に驚いたと思ったけど


「ゼウリス魔法学校…!?」


と、学校名を口にしていた辺り違うようだ。

しかしディアレスさんが会話を切るように言う。


「話は後だ。

被害に遭った畑に連れてってくれ。」


女性は我に返ったように背筋を伸ばし、僕達を案内してくれた。


「こちらです。」


そう言って彼女が止まって指した場所は大きな畑だった。しかし折角育った葉物野菜を汚く破り散らかしたような跡が沢山あった。

葉物野菜だけでなく、荷車に乗せてあった麻袋を食いちぎり中を貪ったような跡も見えた。


「酷い…」


悲惨な状態に女性も目を伏せてしまう。


「何回も魔物がこの壁を突き破り村へ侵入してきました。男達が応戦するも勝てず、怪我をしてしまい被害が増える一方で…」


彼女は後ろの家を見つめる。

恐らくそこに怪我人が居るのだろう。

突き破られた壁も薄い木の板で何とか応急処置のみ施したようだった。


「このままでは食糧も無くなって生きて行けません。

どうかお助け下さい…!」


女性の藁にもすがる思いがひしひしと伝わってくる。

ディアレスさんは無表情のままだけれど


「その為に来た。」


その女性が心待ちにしていたであろう言葉を告げる。

安堵からか女性は涙を流した。


「嗚呼…ありがとうございます…!」


彼は頷きもせずシャル君を見る。


「シャル、お前は怪我人の治療出来るか。」


「は、はい!」


「エクス、お前は畑を守れ。」


「え、あ、はい!」


え?名前を間違われなかった…!

衝撃に呆けているとディアレスさんは魔導書から再び箒を取り出した。


「え?ディアレスさんは何処へ」


「言ったろ?魔物討伐。」


とだけ言い飛び立ってしまった。

僕もついて行く流れじゃなかった…?


「お姉ちゃん!パパ達の治療してくれるの!?」

「お願い!パパ達助けて!」


いつの間にか小さい子に囲まれていたシャル君は僕を見て笑った。


「じゃあオレ、怪我をしている方の治療をして来ます。」


子供達に連れられ、先程の視線が移った家へ入っていった。

僕と女性は残された。

まずい…何をしよう。何を話そう。

悶々としている僕へ女性は優しく声を掛けてくれる。


「今更ですが私はクレアと申します。」


「クレアさん…。」


「エクスさんはまだ学生さんなのにディアレス様とご一緒なんて凄いですね。」


クレアさんの気遣いを感じる言葉に僕は首を横に振った。


「いいえ。社会勉強とは言われましたがこのように肝心の討伐には置いていかれましたしまだまだです。」


「そんな事ありません。

貴方も、シャーロットさんも。」


「ありがとうございます。

シャル君…いや、シャーロット君と相棒の回復魔法はよく効きますよ。」


「くん…?」


あぁ、首を傾げている…。

僕が訂正しておくねシャル君。


「彼、ああ見えて男の子なんです。」


「えっ…えぇえッ!??

あんなに綺麗な子が!?」


「はは…ホント間違えちゃうくらい綺麗ですよね!」


「えぇ本当に!

あの、宜しければシャーロットさんやエクスさんの

ご学友についてお伺いしても…?」


僕の事じゃないなら話せる自信はとても有る。


「勿論!」


快諾した僕はヨシュアやメルトちゃん達皆のことを話した。クレアさんは全て優しく相槌を打ってくれて聞き上手だった。

そんな彼女は意を決したような面持ちで僕に問う。


「もしかしてエクスさんのクラスに


セヲ=ファントムライヒという方が居ませんか?」


「………え?」


さっきの話にも出さなかったのにまさか此処で出るはずがない名前に僕は思わず顎が落ちそうになった。

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