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第174話『喧嘩するほど』

いいねを押しながら見てくださった方がいらっしゃったおかげでやっと書くことが出来ました。

増える数字がとても嬉しく、やる気に繋がるのです。

本当にありがとうございます。

これからも宜しくお願い致します。

前回のあらすじ


言われた通りにしたはずなのに何故か手錠が爆発しました。



「「…」」


僕は今、保健室前の廊下で天井を見上げている。多分セヲ君も同じ体勢で見ている事だろう。何せ繋がっていた手錠が何故か爆発して僕達が外そうとした力の行き場が無くなり、倒れ込んだのだから。

爆発といっても手錠の鎖を壊す程度で建物や僕自身に怪我は無い。

でも驚きすぎて立ち上がれない。


「セヲ君生きてる?」


返事が聞こえなければ良いのにと思いつつ声を出すと溜息混じりの呆れる声が返ってきた。


「貴方は生きてるんですね…残念です。」


怒る気にもなれない。


「あら〜!手錠を解錠したのね〜!

おめでと〜!」


この花を纏うような声はリーレイ先生だ。

先生は僕とセヲ君の間でしゃがみこんだ。


「言った通りにしても爆発しましたけど…。」


「それは解錠しただけよ〜?

爆発も小さな破裂くらいの小規模だったでしょ?」


僕達が倒れているのも爆発だけが理由では無いし…確かに小規模だった。


「貴方達が倒れたのは爆発から逃れようと身体を仰け反らせたから。」


その通りです。


「そんなセヲ君に質問よ〜。」


リーレイ先生は顎に手を添えながら視線だけ向ける。


「エクス君についていったのは何で〜?」


それは僕も気になっていた。

わざわざメルトちゃんになってまで僕と一緒に来てくれた。あんなに嫌そうだったのにも関わらずだ。


「…。」


そっぽを向いたな。

理由を話す気は無いだろうなと思った時、なんとセヲ君が口を開いた。


「直前で思い出したんです。

ノイン=ムルという奴を。」


あんなに覚えていないって言ってたからそれ以降考えていないかと思ってた。

まさか思い出そうとしていたのか?


「それと同時に俺に仕返しがしたいのだろうと思い返り討ちにしてやるために近づいただけです。」


「でもそれなら何でメルトちゃんに変装してまで…」


僕の言葉にはまず面倒だと言わんばかりの溜め息が返ってくる。

その後の言葉が聞きたいだけなのに。


「油断を誘う為であり変装ではなく幻術です。

貴方は俺の目を何回も見ているでしょう。」


「あ…」


そういえば最近セヲ君が目を合わせてくれるようになったと思ってたんだ。

まさかこの為?


「目を合わせる事で幻術が効くようになるとして〜、どうして他クラスの子達まで幻術を掛けられたの〜?」


リーレイ先生の質問に対しては溜め息を吐かずも嫌そうに答える。


「エクス君を媒介にしたのを分かってるくせに。」


「あら〜?そんな事ないわぁ。

教えて教えて〜?」


手の内を明かすような真似なんてしたくないはずなのにリーレイ先生には逆らえないのか嫌々ながらも話すセヲ君。


「…エクス君が歩く度、俺の霧を目視出来ない程度に発生させるんです。

匂いの無い香水を付けたと思えば良い。」


「じゃあ僕は歩く芳香剤?」


「そこまで言ってません。

香水も付け過ぎれば不快になる。」


そこまで否定する?


「え〜っと、エクス君が発生させた霧を吸い込むことでセヲ君の幻術が効くようになるって事でいいかしら〜?」


「えぇ。ただ避けられても困るので念押しにテストの帰りの際、広場に霧を仕込んでおきました。」


そういえば集合場所伝えたもんな。

先回りしてノインが待っていることを見越しての行動だろう。

じゃあ最初からセヲ君は来るつもりだったんだ。


「でもわざわざメルトちゃんになってまで一緒に来るなんて。」


ついそんな言葉を口に出すとセヲ君は顔をこちらに向けた。


「言ったでしょう油断を誘う為だと。

それにネタばらし後の貴方が絶望した顔を見たかったので。」


その顔は厭らしく嗤っていた。

性格悪いなほんと。

するとセヲ君は天井を見て諦めたように目を閉じた。


「手の内は明かしました。

さっさと罰して下さい。」


リーレイ先生へ言ったのだろう。

尋問されていると理解していたから嫌々ながら喋っていたんだ。


「自発的に答えてくれたから助かったわ〜。貴方達、悪くないから何もしないであげたいんだけど原則魔法禁止ってルールがあるから〜。」


迷っているのか困り眉なリーレイ先生は僕を見ている。僕は勝手に媒介となってしまった存在なのについでに罰せられるやつ?これ。

セヲ君を止める時にも魔法使わなかったのに?


「決めたわ〜!」


ポンと手を合わせたリーレイ先生は満面の笑みだった。


「暴力に関しての罰はさっきの手錠解除したからOK〜。で、次は魔法禁止についての罰よ〜?」


1日で一気に2回の罰を受けるとは。


「今度強化合宿があるんだけどね〜?

ペアを変える話があったんだけど〜

貴方達はそのまま!」


「「は?」」


「スピちゃんが仲は悪いけど凄い奴らだって言ってたの聞いてたから〜。

他の子達は解消しても貴方達はそのままよ〜!」


ペア解消のチャンスを消された!?


「それは困ります!」


「ふふ、困ってもらわないと私が困るわぁ。だってルールを破った罰なんだから〜。」


「僕は破ってません!」


「まぁまぁ〜。」


まぁまぁ!?


「連帯責任、ね?」


「そ、そんなぁ…」


連帯責任…嫌いな言葉を聞くことになるとは。項垂れる僕にリーレイ先生は笑顔を絶やさず言葉を発する。


「でもぉ?セヲ君に助けられた、違う〜?」


「ぐっ…」


その言葉が僕の心に突き刺さり言葉が出なくなった。


「あ、そういえば助けてあげたのに御礼を言われてませんね。」


寝転んだままのセヲ君は僕を嘲笑うように見ていた。でも助けられたか?

メルトちゃんのフリをしていたセヲ君をノインが痛めつけようとして返り討ちにあったんだよね。…僕、助けられたか?


「俺が来ていなければやられていたのも、やっていたのも貴方でしたよ。断言出来る。」


「やられていたかもしれないけどやっているとは限らないだろ。僕は人を傷付けることが怖いんだ。」


魔女の夜のようにあからさまな悪人なら話は別だけど…ってノインも悪人か。

それならどうだっただろうか。

もしかしてもしかすると…

僕の思考を遮るようにとてつもなく大きな溜息をセヲ君が吐いた。


「はぁ…貴方のその善人気取りが本当に嫌いです。」


「は?」


「傷付ける事に躊躇いが無いくせに怖いと言って逃げて害のないアピールして。」


その言葉がやけに頭にきて思わず体を起こして声を荒らげた。


「躊躇いが無い訳あるかッ!!

傷付けられる事がどれほど恐いことかわかっているのか!!」


怒る僕を宥める訳も無い彼の声も表情も落ち着いている様が、静かな水面みたいで余計に腹が立つ。


「さぁ?どうでも良いですね。」


嘲る表情に思わず手が出そうになる。


「この…っ」


「こぉら。先生これ以上は許しませんよ〜?」


リーレイ先生は僕の頭をわしわしと撫でる。

先生の声と撫でられた事で怒りが少しだけ和らいだ。


「傷付く事の恐怖を知ること、知らないことは両方とも強い事だわ〜。」


「「…。」」


そっぽを向く僕らを宥めるようにリーレイ先生は話し続ける。


「だからこそ貴方達は反発しちゃうのかしらねぇ〜。ふふ…喧嘩するほど何とやら〜?」


リーレイ先生にはこれが仲良しこよししてるように見えているのか!?

ありえない!


「ふん…」

「ふんっ」


セヲ君と同時に鼻を鳴らした。

尚のことリーレイ先生から花が舞う。


「あらあら〜ふふっ」


笑い事じゃないんだけど!

言おうとした矢先、リーレイ先生は僕らを解放し勝手に転移魔法でそれぞれの部屋に返された。


「ふげっ!!」


勿論着地の事なぞお構い無しだろう。

僕はヨシュアとのベッドの間に落ち、顔面強打した。


「うわ!え、エクス?」


ベッドの上で本を読んでいたヨシュアが慌てて駆け寄る。


「うぅ…ったたぁ…あ、あれ?部屋?」


うわ靴履いたままだよ。

ヨシュアにちょっと待ってと言ってから靴を脱いで砂や埃が落ちないよう横に向けて靴裏を合わせて玄関まで持っていく。

もう散々な日だ。



「っ」


「あらセヲ。

カッコよく着地してるけど土足じゃない。」


スカーレットは驚きを見せずセヲを横目に自身のネイル作業をしていた。


「チッ…不可抗力です。」


セヲ自身も嫌だったのか、言われた事に苛立ったのか舌打ちをしてからふわりと浮き、玄関を目指す。


「ちょっと魔法禁止…ってあら、一段とご機嫌斜めだこと。」


「チッ!不愉快極まりない。

あの教師の視界に映らないようにしないと…」



職員室。

書類整理をしている神クラス担任スピルカにリーレイはニコニコしながら話しかける。


「んふ、ねぇスピちゃん。

今回は面白い生徒ちゃん達がいっぱいだね〜!」


紙の束を整えるため、机で側面を合わせるスピルカはリーレイに視線を向けた。


「ん?おう、もれなく問題児だけどな!」


自身も書類を整えながら話を進めるリーレイ。


「神クラスってホント個性が強くて良いわねぇ。」


「そういう奴らがパートナーとして選ばれてんだろなぁ。

勿論俺も含め。」


スピルカの笑みに笑みで返すリーレイ。


「メタトロンも見てて飽きないって〜。」


「それは光栄だ。」


常に笑顔が絶えなかった彼女だったが、スピルカに投げかける質問で珍しく口角が下がった。


「…ファントムライヒ家()()行くの?」


心配そうに揺れる瞳へ困ったように笑うスピルカ。


「セヲは来るなと言っていたがな。

そもそもアポすら取れるかどうかだが。」


セヲとの面談を思い出すスピルカは思わず苦笑してしまった。


【家には来ないでください。

俺は元から独りですから。】


あのセヲの顔や声が寂しそうに感じていたが、本人の為にと触れないでおいたのだ。

本当は手を伸ばしたいがセヲが素直に受け取るはずがないと諦めてしまったことがつっかえていた。それを理解したかのようにリーレイは言葉を紡ぐ。


「あの子、上手くやれるよ。

向き合ってくれる友達がいるから。」


「…そうだな。

それに仮にも生徒(セヲ)の親御さんだ。

会わない理由は無い。」


「うん。そうね〜!」


「よし!珈琲飲む!お前は?」


「カフェラテ飲みたぁい!」


「はいはーい。」


椅子から立ち上がったスピルカの机には

全生徒の名前と連絡先の電話番号と住所が載っているファイル、カレンダーが置いてあった。

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