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第172話『幻霧の中で』

もう1年の約3分の2が終わってしまったという画像を目にしました。発売が楽しみなゲームもまだ先だと思っていたのにもうすぐになってしまいました。

嬉しいのに少し寂しいような…。

それは兎も角、楽しそうなセヲ君を見てやって下さい。

前回のあらすじ


悪質な野郎に騙されました。



「メルトちゃんッ!!」


僕の叫びも伸ばした手も虚しく、ノインの拳がメルトちゃんのお腹へ。

僕の怒りは一瞬にして頂点へ達した。


「女の子になんてことを…

お前絶対に許さないからな!!」


「そうよ、痛いわー。」


メルトちゃんもそう言って…

…?棒読みだった。

ビックリするほどに棒読みだった。

お腹殴られたら普通咳き込むよね?

下手するとモノが出るよね?

なのに静かに棒読み?

彼女をよく見るとノインの拳を上げた左足で止めている。

しかも靴の裏でだ。


「素直に捕まってあげたら先にエクス君を殴ってくれるかと思ったのに。」


「えっ??」


メルトちゃん?だよな?


「クズは何に関してもクズね。

雑魚なんだからいきがっちゃダメでしょ?」


姿形はメルトちゃんなのに…彼女はこんな口が悪くない…はず。

いや、断言出来る。

メルトちゃんがあんな言葉を使うわけが無い。しかも捕まる時、悲鳴すらあげなかった。

それに…あの子の優しい笑顔はあんな邪悪なものじゃない。


「返事は?」


優しいあの子にノインを見下すあの顔が出来るわけが無い。

ノインが怒りか恐怖で震えている。


「こ、このっクソアマが舐めやがって!!」


ギチッと後ろの男が力を込め、メルトちゃんの腕を掴みノインが顔を目掛けて拳を振るう。


「私の目を見たね、雑魚。」


途端にノインが停止した。

間髪入れずにメルトちゃんの細い足が彼の顔を蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされたノインが彼女の目の前から退いた事により、僕と目が合う。

しかしそこにメルトちゃんの姿は無かった。


「おや?その目は…解けましたか。」


と僕を嘲笑うのは


「セヲ君…。」


来ないと言っていたはずのセヲ=ファントムライヒその人だった。


「いつまで俺の手を掴んでいるのです?

また蹴り飛ばされたいのですか?」


その言葉だけで怯えた男は手を離し、セヲ君は解放される。

コツコツと足音を響かせながら横になっているノイン君の頭を踏みつける。


「うわぁああぁああッ!!!!」


同時にノイン君が苦しみだした。

何が起こっているか分からず、僕含め周りは動揺を隠せない。


「はははっ!滑稽ですねぇ!」


グリグリと頭を踏み躙られているのに痛いというよりもそれ以外の恐怖に怯えているように見える。


「どうです?

家族が!己が!目の前の人間が!

皮膚が溶け、蛆が湧き始めていくのを刮目するのは!」


「いやだぁ…!!いやだぁああぁあっ!!」


「溶けた皮膚から眼球がぼとりと落ちて、虫が蔓延りながらも見えるその目は貴方を恨めしそうに見ているのです。」


そうか。

幻術で言ったことを彼に見せているんだ。

だからまだ喉がはち切れそうな悲鳴をあげ続けているんだ。

その悲鳴を嘲笑うセヲ君は視線を残りの生徒へ向ける。


「今すぐ同じ思いさせてあげましょうか?」


セヲ君の後ろ姿で分かる。

すっごく楽しそうな顔で笑っていると。

それが恐怖であるのと言葉がトリガーになり、生徒達は悲鳴をあげて逃げるように走り出す。


「おい、誰が逃げて良いと言った?」


どこからともなく巨大な鉄格子が降りてきて辺りを囲み、僕までもが逃げ場を失った。

間違いなくこれはわざとだ。


「俺は優しいので選ばせてあげますよ。

俺に蹴られるか悪夢で絶望するか。」


ん?それは僕も?僕も含まれてる?


「あ、でも今でも逃げようとしているそこのお馬鹿さん達〜!」


セヲ君が聞いた事のない明るい声で鉄格子から何とか抜け出そうとしている者達に手を振った後で指を鳴らす。


「お前達には罰だ。」


突如とした重低音。

セヲ君の声によるものなのか、地面がミシミシと音を立てて亀裂を生む。

その亀裂は逃げようとしている彼らの足元まで伸びて、ジワジワと左右へ開く。

それにより生じた穴へ1人、2人と落ちていく。落ちるなんて…深さは分からないけど下手すれば死んでしまう!!


「セヲ君っ!さ、流石にやりすぎだよ!」


止めようとする僕を見るセヲ君の表情は“無”だった。

何を考えているか全く読めない。


「やりすぎ?貴方は怒りを覚えたはずだ。

貴方の加減が効かない魔法よりも優しい方では?」


「僕の魔法とか関係なくて!

そんなことしたら死んじゃうって!

君が殺したことになっちゃうんだよ!?」


「はぁ…」


たっ…溜息吐きやがった!!


「貴方との会話は疲れる。

後は全て終わらせてからにします。」


「は…」


当然僕の意見を聞くはずもなく踵を返した彼は残りの生徒を蹴り飛ばしていく。

いとも容易く、愉快に、軽快に。

舞うように暴れる彼を止める術はあるだろうけれど僕は何も出来なかった。

彼に何かすれば必ず何かが返ってくる。

そう思ったから。

でも無事なのはもうあと一人しかいない!

僕は制止させる為にセヲ君の細い腰に惨めにも抱きついた。


「チィッ!

邪魔するなら殺すぞ雑魚!!」


頭に左手が下ろされる。

そうだった、セヲ君は握力がゴリラだった。

僕の頭がギシギシと危ない音を立てている。

痛い痛い!


「痛いでしょう!

ほら、離しなさい!」


「い、やだ…っ!」


「こんの…っ」


苛立ちに塗れた声で僕の前髪を掴みあげた。


「いっ」


痛みに耐えながら睨みつけてやる。


セヲ君の赤みがかった紫色の左目に薄い色の蝶がいる。

正しく言うと、瞳孔に蝶が刻まれている。


「俺の目を見ましたね!」


嬉々としたその声が不気味に感じ、思わず離れてしまった。


「貴方って人を犯罪者みたいな目で見ますね。」


「っ」


「良いのです良いのです。

貴方のその善人振ってる感じが堪らなく嫌いなので!」


「ど、どういう意味だよ…!」


「どうもこうも、貴方が怒りをぶつけたがっていた奴に俺が代わりに制裁を下しているだけなのに」


彼は歩き、頭を抱えながら蹲っている奴の背中を踏み躙る。響く悲鳴と同様に僕の事も煩わしいという表情で振り返る。


「それを止めろと言う。」


「!」


「俺が居なければ貴方がこうしていた。」


「出来る訳ないだろう…そんな酷い事…」


「それを止めるのなら、これが酷い事なら、何故助けようとしないのです?」


そう言いながらセヲ君は下を指さした。

僕はつられて自分の足元を見る。

刹那、1人の生徒に足首を強く掴まれた。

この金髪はノイン=ムルだ…!


「タ…ズゲ…デェッ」


強い力の手は皮膚がドロドロに溶け、骨が見えていた。

ゆっくりと上げた顔は眼球を強調するように顔周りが溶けている。


「ヒッ!!」


急いで足を振り、手を解いた。

僕の力は弱いはずなのに彼のドロドロの身体は大きく反り返りべしゃっと音を立てて動かなくなった。


「はははっ!

彼は助けを乞うていたのに蹴り飛ばした!

なんて酷いんだ!惨いんだ!」


「はぁっ…はぁっ…ちがっ…」


「苦しみ藻掻いている者の手に手を差し伸べない事。それだってとーっても酷い事ですよね。」


その言葉が引き金となったのか前世の記憶のフラッシュバックが始まる。

虐められていた記憶が。

助けてといくら叫んでも誰も助けてくれなかったあの日。助けを乞う事を諦めたあの日。

全てを悪だと認識したあの日。


僕は今、その悪になっている…?


「善人振って止めようとして結局止めない。

君のやり方が違うだけで俺と同罪です。」


「ぼ、く…は…っ」


回復させてあげなきゃ…!

僕は悪じゃない悪じゃない悪じゃない!!

あんな奴らと同類なんかじゃない!!


「は〜い、そこまでよ〜?」


杖を握った直後、ふわふわとした声が響く。


「りーれい…せんせ…」


鉄格子があるはずなのに、シスターの格好をしたリーレイ先生は笑みを浮かべ僕の目の前に現れた。


「メタトロンがね〜、異常と判断したみたいなので来ちゃったわ〜。」


先生はセヲ君の元へ。


「幻術、解いてあげてくれない?」


「……チッ」


珍しくセヲ君は直ぐに言う事を聞き、指を鳴らした。すると鉄格子も、辺りを漂っていた霧も地面の亀裂も元通り無くなっていた。

僕が振り払ってしまった彼の皮膚は幻術で見せられたものだったらしく、気を失って倒れている彼の顔は人間を保っていた。


「も〜!こんなにボロボロにしてぇ。

暴力はめっ!よ〜?」


「…」


ツーンとそっぽを向いている彼の左腕を掴み、強引に僕の横へ連れてきた。


「貴方達やりすぎだわ〜。

叱らなきゃいけなくなっちゃった。」


リーレイ先生、ふわふわとした喋り方だしあまり怒られている感が無いな。


「よって罰を下します。」


前言撤回。

ふわふわ感が無くなったリーレイ先生の目からハイライトが消え背後に開き始めているアイアンメイデンが見える。

ちょっと待って…?僕まで怒られてるよね?

僕、どうなるの!?

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