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第169話『訓練室の礎に』

雨と暑さがとにかく凄い時期になりましたね。

そして家の近くで蝉が合唱の準備をし始めていました。終末の横たわった蝉にいかに出会わないように過ごせるかを考えています。

前回のあらすじ


体力テストは惨敗だったけれど魔法では負ける気がしません!

なんせ勝ったので。勝ったので!!



スピルカ先生は階段を登っていく。

ゲームでも歩いたことの無い場所はやっぱり何処でも新鮮で、石が積み上げられたような壁は歴史を感じる。

キョロキョロしているうちに先生がとある扉の前で止まった。黒いただの扉だった。


「よいしょっと。」


先生は重たそうにドアノブを下げて扉を開けると、奥は先程の歴史を感じるような場所ではなく、とても未来的な白くて広い部屋な空間だった。

長椅子がいくつもあって大勢が休憩出来る。

漫画とかで見た訓練施設のフロアみたい。

ただ別棟の部屋にしては広すぎると思うんだけどな。

さっきの部屋も相当広かったけどそれよりも広いもん、此処。

それが上にあるのは変だ。


「此処まだ完成してなくてさぁ。

あ、このフロアは完成してるんだけどこの奥がだな。」


まだ奥があるのかと思いつつ先を歩くスピルカ先生の後ろをついて行く。

確かにこんな広い空間なのに誰も居ない。

そんな中に僕が入っていいのだろうか。


「エクスは龍脈って知ってるか?」


「えっと…」


ゲームでの知識でしかないけど魔力や力の強い所っていう認識だな。


「簡単に言うと色んな土地にある魔力の通り道。

それがこのゼウリスにもあってな。」


あれ?授業始まった?


「その龍脈から魔力を引っ張ってこの異空間と繋ぐ事で永続的な部屋になるんだ。」


「え、どうやってですか?」


「お前も目にしてるぞ、入学式に。」


入学式に目にするってことは…


「クリスタル?」


「ぴんぽーん!

ぶっちゃけ詳しい事は俺も知らんが龍脈のお陰でクリスタルが機能しているって訳だ。」


「へぇ…」


「んで、その機能しているクリスタルが学校のあらゆる場所に魔力を引っ張ってくれてもいる。」


「成程…」


授業=勉強という考えの僕は苦手意識からあまりちゃんと聞いていなかった。


「召喚獣との契約も出来るし魔力引っ張ってくれてるしクリスタルは本当に大切な物だからな。」


まぁ何でもありな神様のゼウスとの繋がりを作ってくれた物でもあるしな…。


「あ、此処!」


先生と話している内に赤い扉の前に立った。


「この部屋の中に入るぞ!」


先生は背伸びしてドアノブを下げて開けた。

扉の向こうの景色が見えると思ったその時、


口を大きく開けた巨大蛇、ピュートーンが眼前に居た。


「っ」


「うぉりゃあっ!!」


先生が杖でピュートーンの顔を思いっきり殴った。

魔法じゃなくて物理で。

大きく傾いたピュートーンがドサリと倒れ込む。


「ひぃいいっ!!」


「あっぶねぇー!

野放しになってると狙ってきたな。」


「野放し!?狙って!?」


「えっとな…」


先生の話だとさっきのピュートーンはベヒモス同様ホログラムらしく、所謂訓練用ロボットらしい。

殴れたのは実際ピュートーンの大きさのロボットだったからとか。

じゃあホログラムは幻覚の皮って感じかな。

ピュートーンが倒れたことでやっと落ち着いて周りが見える。

周りは草木が生い茂っていて天井は照明が無いのに白く明るく、植物園のようだった。

先生は天を仰いで少し怒ったように声をあげる。


「おいシルヴァレ!どういうつもりだ!」


シルヴァレさん?見てるの?

首を傾げたら先生の睨んでいる先に青く四角い電子映像が浮かぶ。映ってるの昔のテレビばりの砂嵐だけど。


{いやぁ魔力が多い奴を狙うピュートーンの特性が反映されてるからボクじゃどーしよーもないよう。}


魔力が多い奴を狙う…?

最初の時に会ったピュートーンは僕を狙わなかったはずだけど…


{むふ、エクス君は成長期かもしんないね。}


見透かしたようにシルヴァレさんが言う。


「成長期?」


{最初の時よりも魔力が増えたんだよ。

流石はブラックリスト。}


「関係ないですよねブラックリスト。」


「しかもお前が作ったロボットなんだから特性有り無しくらい簡単に設定出来るだろう。」


スピルカ先生の指摘に{うにゃあ…}と歯切れが悪い返しのシルヴァレさん。


{壊されるし良いっしょ!

次気をつけるにゃん!}


開き直る彼に対して先生の目が死んだ。


「アイツが“変えるの面倒臭い”と思うシステムにしたんだろうな。」


「同意見です。」


アレは絶対自分がめんどくさいからという態度だ。

間違い無い。


{それは兎も角、スピルカ。}


「んぁ?」


{エクスきゅんに内容話した?}


「ピュートーンさえ無かったら終わってた。」


{ごめんてぇ。じゃあボクが話すね!}


溜息を吐いて腕組みする先生はやれやれと言わんばかりの顔だった。


{まず先に、これはエクス君の為だよ。}


「僕の為?」


{そう、魔力バカな君の為。}


ディスった?


{君の力が強すぎて備品壊れると学校のお金が消えてっちゃうからさ。君の力でも壊れない物を作るために開放前のこの部屋で早いとこ済ませちゃうよーん!}


僕のせいで金が飛ぶのか。

…入学式の水晶玉は幾らしたんだろう。

いや、考えないでおこう。

強者の運命だ。今はお金が飛ばないために協力しないと。


「何すればいいんですか?」


{君の最大火力をロボピュートーンに当てて欲しい。}


「それだけですか?」


{それだけ。万が一の為にスピルカを監督に選んだからそこは安心して良いよ。}


万が一とは?


「お前の力が想像以上で至近距離爆発した場合だ。」


スピルカ先生が察して言ってくれる。

とてつもなく怖い事だ。

あれ?でも…


「ゼウス呼べば…」


{此処は召喚獣の顕現禁止しているからにぇ。

召喚獣は呼べにゃいよ。}


「召喚獣の顕現禁止!?

そんな事出来るんですか!?」


{召喚獣はクリスタルが創るシステムだからにゃ。

ボクの素晴らしき発明品で極僅かな場所に限られるけど出来るにゃん。}


「それが…此処…。」


ゲームであった編成制限を実現出来る人が存在するなんて…!

この人、本当に天才だ!


{ちなみにそれだけは壊さにゃいでね。

マジで血と汗と涙の結晶だから。

冗談抜きで創るのしんどいから。}


「あいっす…。」


{でも力加減されたら最大火力時にぶっ壊れて金がすっ飛ぶから気を付けてにゃん。}


滅茶苦茶な…。


{じゃあピュートーン起動させるから後はヨロ〜!}


シルヴァレさんは一方的に映像を切った。

それと同時に横たわっていたピュートーンが動き出す。


「ぎゃーっ!!」


待って!!

壊しちゃいけない発明品がどんなのか聞いてないんだけど!!


「ほらエクス、話は聞いたろ?

ドカンとやったれ!」


そう言いながらスピルカ先生はススス…と僕から距離をとる。

ピュートーンの巨大な顔面が僕を捉えて迫ってくる。

もうやるしかない。

ゼウスの神杖を持ち、両手に力を込める。

正直加減とかよく分からないけど全力で出すイメージで!


「い、いきます!

【天帝神雷・天誅】ッ!!」


上手いこといったのか今までで1番大きな雷龍が杖から放たれる。

雷龍の顔がピュートーンにぶつかったその時、

バチチチッと雷が弾けて僕は察した。


これは爆発する。


僕は気が気でなくなり、先生を見る。


「せんせーっ!!

これ爆発すると思います〜!!」


「俺も思った!こっち来い!」


既に先生は杖を構えて居てくれて、僕は涙目で駆け寄る。その時だった。


予想通り起こった大爆発。


僕は既にスピルカ先生のバリアの中に入って居た為、死は免れた。

先生のバリアは丈夫で爆風が来ても熱さも感じない。

覆っていた黒煙が晴れて辺りが見えるようになった頃、鉄クズと化した物がプスプスと音を立てて黒い煙をあげていた。壊れちゃった。


「これも?」


「器物破損(了承済み)ってとこかな。」


「あー…」


了承済みならセーフ。

あれ?

あんな大爆発が起こったのに草木が燃えていない。


「先生、結構な爆発でしたよね?」


「おう、派手派手のな!」


「何で周りの草木が無事なんですか?」


「あれもホログラムだから。」


「ワーベンリ。」


何でもかんでもホログラムだなぁ。

シルヴァレさんの努力の結晶の部屋なのかな、此処。


{にゃふー!やっぱ爆発したねー!

んで仕掛けたカメラで威力測ったら壊れちゃったにゃーん!}


「それはさっきの爆発でですか?」


{いや、シンプルに測定器の針が振り切れてキャパオーバーしたから。}


「あ〜…」


それって僕の力が凄いって事だよね。

機械にすら計測させないほどの力!

これは前世の漫画で見た戦闘能力を数値で測る機械爆発しちゃうやつじゃない?


{うわ、ニヤニヤしててきしょいにゃん。}


「エクス、ヤバい顔してる。」


「ハッ!」


{顕現禁止システムは無事だったから良かった!

つーことでエクス君。

君の結果を伝えます。}


機械壊されること前提だったから次はもっと強いやつが来るのかな?

また壊しちゃうぞ〜!


{君、此処の使用禁止。}


「は〜……え”っ??」


予想と違う言葉に思わず疑問符が飛び出る。


「え?使用禁止?」


{うん。

君への耐性付けたロボットを作れるまで禁止。}


「…」


「此処は全生徒の訓練室になるんだけどなぁ。

お前はその必要は無いという事だ。」


とはいえ僕だけ出禁ってこと?


{あ〜…流石に出禁までは可哀想だから…

出入りは自由だけど訓練室で魔法禁止にするにゃ。}


魔法禁止なだけで入って良いんだ…。

なら皆の付き添いが出来る。


{もし中に入っちゃったら魔法は使わず逃げて部屋を出るか物理で倒すかのどちらかにしてにゃん。}


「分かりました。気をつけます。」


物理は100%無理。

あの巨物を倒せるわけが無い。

そう考えるとスピルカ先生ってショタの見た目したゴリラ?


「何か失礼な事考えてるな?」


「いえいえいえいえ」


高速首振りでやり過ごす。

訝しげだった先生はやがて笑顔になり、部屋の説明をしてくれる。今更だけど。


「基本シルヴァレが指導したスタッフがここの管理をする。扉がたくさんあったろ?」


「はい。」


「全ての扉の先に此処と同じ見た目の部屋がある。」


「ひっっろ…」


規模でかすぎ…。


「これも龍脈の魔力があってこそだ!

部屋の内容は一緒だが、ロボットは変更可能。

そうだよな?シルヴァレ。」


{にゃん!ベヒモス、ピュートーンにグリフォンその他諸々データがある魔獣ならなんでもござれ!

コイツらは本物みたいに動くよ〜!}


「という訳で魔法を試したり、立ち回りを考えたり出来るわけ!」


「へぇー!」


本当に訓練が出来るんだなぁ…


「ちなみに怪我しない事が大前提だ。

故意に魔法を他生徒に当てた場合は即出禁。

ブラックリストと反省文付き。」


そりゃあそうなるよね。


{一応AIとスタッフが目を光らせて危ないと思ったらバリア張ったり強制終了させることも出来るにゃん。}


「生身だから怪我したらラブラビに見てもらうようにな。」


仮想空間じゃないから怪我したら普通に痛いのか。

ちょっと怖い。


{それとエクス君。}


「はい。」


{セヲ=ファントムライヒ君なんだけどさ、彼も機械に影響を与えるみたいだね。}


「そう…みたいですね。」


{彼も魔法禁止かなぁ。

物理めちゃくちゃ強いし問題ないっしょ。}


「となると授業で使う訳にはいかないな。

う〜ん…」


授業の時、僕とセヲ君が棒立ちになるしなぁ。


{彼らだけ物理とか。}


「僕が死にます。」


{そうだね体力テスト最下位君。}


ムキーッ!!!

事実かもしれないけれど!!

言われるとムカつく!!


「あ、じゃあ魔物だけじゃなく人型のロボット作って組手の練習とかどうだ?」


{あー!それは良いかも!

ボク達はみっちり兵士達に仕込まれたけどボクがデータ取ってロボット作ればいーもんね!}


「あぁ!頼めるか?」


{おっけー!

ユリウスに言っておくにゃん!

じゃ、お疲れぇー!}


再び一方的に切られる映像。

僕とセヲ君に考慮された機械が作られるかもしれない話。でも組手って言ったよね?

結局物理なのは変わりないんだ…。


「一緒に頑張ろうなエクス!」


先生は教える側のはずなのにまるで生徒と一緒だと言うような笑顔を僕に向けた。

だから僕は頷いた。

それと同時にとあることが頭を過ぎる。


「スピルカ先生、昨日のセヲ君の呼び出しって大丈夫だったんですか?」


「あ〜……ん〜…」


歯切れが悪いな。


「…俺からは言えない。

聞くのなら本人が1番だろう。」


彼が言うわけないだろうな。


は?教える必要が何処にあるんですか?

不愉快です、死んでください。


とか言われる。

脳内再生が完璧に行われる程に予想出来る。

でも…スカーレット君があんな顔するんだ。

何かある…と思う。

いや、スカーレット君の表情もだけど僕の勘がそう言ってる。

どうせ聞いても教えてくれないし迷惑がられるし、

寧ろその方が今日の仕返し出来るから探ってみよう。

勝手に。

でもバレないように。


僕はそう決めて、先生と別棟を出た。

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