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第167話『爆弾発言』

暑かったり寒かったり砂漠みたいな環境になってきましたね…如何お過ごしでしょうか?

温度差で風邪を引かないよう、そして無理をしないようお互い今日を生き延びましょうね!

前回のあらすじ


メルトちゃんが僕に気遣ってケーキを皆で用意してくれました。とても美味しくて嬉しかった。その幸せが終わって直ぐにセヲ君がやったとされる男子生徒の山。

入学前からの問題児とされる彼の事を知らないけど、思うところがある人はあるみたい。



ヨシュアと一緒に晩御飯とお風呂を済ませ、各々のベッドへ飛び込んだ。


「あ〜〜…幸せな放課後だったぁ…。」


ボロボロの男子生徒の山という1部映像を除く。


「はははっ!

メルトに御礼言っておきなよね。」


「うん!メールしておく!」


「それが良いね。」


ヨシュアの海みたいな深い青色の瞳が僕を見つめる。

どうやら知りたいようだ。

落ち着いて話すために深呼吸をする。

そしてネームレスが死んだ事を伝えた。

ヨシュアは一瞬目を見開いたけれど、その後


「そっか、勝ったんだね。」


って言って上を見上げた。

僕も上を見て


「悪魔にはね。」


と答えた。


「元気が無かった理由はそれだったんだね。」


「…そうかもしれない。

また目の前で助けられなかった。」


「助ける?

魔女の(ヴァルプルギス・)(ナハト)のメンバーなのに?罪人なのに?」


そう言うのは最もだ。

けれど彼は変わろうとしていた。


「変わろうと…していたんだ。

実際、シュヴァルツさんを助けた。

アイツが…救けたんだ。」


「…」


「なのに…アビスが殺した…っ!

何の躊躇も無く!

僕はアイツを許さない!!」


怒りがフツフツと込み上げてきて思わず叫んでしまった。


「ご、ごめん…煩くして…。」


謝るとヨシュアは静かに首を振り、こちらに顔と身体を向けた。


「ううん。エクスが珍しいじゃん。

もっとそうやって感情を剥き出しにして良いんだよ。」


「いや…気を付けるよ。」


「そう?

少なくとも俺の前では我慢しなくて良いよ。

エクスは抱え込むから。」


そんなつもりはなかったんだけどな。

でも、嬉しい。


「ありがと。」


「俺もアビスを許さない。

俺の身体を実験台にしやがって…」


「そうだ、身体は大丈夫?」


「うん。今のところ何も無い。

アビスへの憎悪もちゃんとある。」


「憎悪…」


ヨシュアは言葉を選ばない素直な奴だ。

それ故の恐怖がある。ほんの少しだけ。

そんな彼は弱々しく


「感情、無くなるのが怖いんだ。」


と呟いた。


「そりゃそうだよね…。

楽しいことも嬉しいことも感じないのは辛いよ。」


と分かったかのように同情してしまった。

まずい、ヨシュア絶対そういうの嫌いそう。

というかゲームの親密度イベであまり良くない選択肢が同情するとかじゃなかったっけ?いや、でももうゲームじゃないよね!?生きてる人間だもんね!?

1人で脳内会議のように悶々としていると


「ねぇエクス。自分語りしてもいい?」


とヨシュアが申し訳なさそうに言う。

僕は高速で頷いた。


「も、もももちっ勿論!」


「ふふ…ありがと。

前にこの足のミサンガの話したの覚えてる?」


ヨシュアは陶器のように白い足を上げて水色のミサンガを指す。


「う、うん。

でもあまり話したそうじゃなかったよね。」


「そう。

俺の兄さん、もう死んでてさ。」


「…え?」


思いがけない言葉に息が詰まった。

ヨシュアは目を伏せ口角を上げる。


「俺の家族、両親が狂っててさ。

兄さんだけが唯一まともで、俺の居場所だった。」


「…」


「まともじゃない両親は兄さんを“神の写し身”と贔屓して、度が過ぎて幽閉しようとして俺は抗った。」


口角は徐々に下がっていき、後悔を物語る。


「小さかった俺は簡単に跳ね除けられ、逆に殺されそうになった。」


今の僕に言葉を紡ぐ事は出来ず、

ただ静かに頷くしかなかった。


「その時、狙われていた兄さんが護ってくれたんだ。」


「!」


「そのせいで死んだ。

俺が殺したようなもの。」


「それは違う!!」


し、しまったぁあ…何も知らないくせに否定したぁあ…!!!馬鹿すぎる!!


「何も知らないのに勝手にごめ」


「ううん。優しいね、エクスは。

…両親は奇天烈な悲鳴を上げて死んだよ。

今思い出すだけでゾクゾクする…。」


やばい、ヨシュアが恍惚な顔してる。

どうやって戻そうかと思っていたら自分で戻ってきた。


「いけないいけない。

正直、その事は断片的でうろ覚えなんだけど一つだけハッキリしている事がある。」


「?」


「俺の両親を狂わせたのは


アムル=オスクルムだ。」


「え…」


2度目の恐怖に眠気が飛んでいく。

アムル=オスクルムって…僕を褒めてくれたあのアムルさん?

それに前にアムルさんと初めて会った時、

従者がどうのって言ってた気がするけど…。


「彼女は俺の目を見て言った。

あの匂いは間違いなく彼女だ。

その日から俺は彼女に対する負の感情だけで生きてきた。」


「…」


「ずっとそれで生きてきたから感情が無くなったら俺は…俺が分からなくなっちゃうと思う。」


「…」


「エクスも気を付けて。

昨日、一緒だったんでしょ?」


「…そう、だけど…」


メルヴ=メルヒェンを呼び起こし、

僕を護ってくれて、褒めてくれたあの人がそんな人だと思えない。

骸を我が物に出来る力は怖いけど…

彼女がヨシュアのご両親をおかしくして何のメリットがある?

その考えを遮るようにヨシュアは口を開く。


「だから俺には感情が必要なんだ。

嫌なこと話してごめんね。」


「…ううん。話してくれてありがとう。」


なんと言うか…いきなりドッと疲れが押し寄せてきた。急すぎる…。


「俺はアムル=オスクルムに刃を向ける。

それは然るべき時が来たらだ。

今はアビスが優先。」


「…うん…

ねぇ…ヨシュア…」


「ん?」


「お兄さんの名前って?」


あれ?何で僕、そんなこと聞いてるんだ…?


「あぁ、それは」


ヨシュアに話させたくせに僕は寝てしまった。


「ごめんねエクス。

何で自分の話をしちゃったんだろ?変なの。

兄さんの名前、あまり口にしてないな。

…したくない。」



「ふぁあ…」


「おはよう、エクス。

沢山寝れた?」


「うん…」


擦った目を開けるとヨシュアがジャージ姿で微笑んでいた。


「あぇ…実技だっけ…」


「うん。先生が朝、皆に言ってた。

俺が丁度外にご飯取りに行った時に聞いたよ。」


「そっか…」


「ほらほらエクス、早くしないと!」


「はぁい。」


ヨシュアに促され用意を始める。

実技からかぁ…しんどいなぁ…。

よく骨も折れずに帰ってきたよな、僕。

先生達やゼウスのおかげか。

結局人に護られて何してたんだろう。

何が出来たんだろう。


「…」


「エクス?」


「あ、ごめん。考え事。」


「そう…。」


ヨシュアは追求しないでいてくれる。

それが有難い。

あまり開いていない食道に朝食を捩じ込み、牛乳で流し込んで歯を磨く。

運動着に着替えて移動し、靴を履く。


「おはようございます!

エクス君、ヨシュア君!」


「良い天気だねぇ!!」


明るい声が聞こえてきて振り返ると髪を1つに纏めたシャル君と薔薇を持っているローランド君が居た。


「おはよ、シャル君、ローランド君。」


「相変わらずの声量だねローランド。」


「ふはは!太陽下の僕も美しいからねっ!!」


「まだ太陽浴びてないけどね。」


何せ今下駄箱の前なので。


4人で喋りながらグラウンドへ行くとスカーレット君がメルトちゃんとイデアちゃんと喋っていた。

3人がこっちに気付いて女の子2人が手を振ってくれる。


「皆おはよー!!」


「エクス君もいるー!!」


メルトちゃんとイデアちゃんの笑顔に癒される。


「うん、今日から普通に授業受けるからね。」


「身体は大丈夫なの?」


スカーレット君が心配してくれてる…。


「うん、何ともない。」


「見た目に寄らず丈夫じゃない。

良かったけど無理しないでね。」


「ありがとう!」


そして暫くしてスピルカ先生とヨガミ先生が歩いてきた。ヨガミ先生が正方形型の白い箱を持っている。

上に穴が空いているな。くじ引きの箱…?


「みんなおはよー!点呼するぞー!」


ちゃんと皆が返事をして全員居た。

こんなに点呼早く終わったっけ?

心做しか少ないような気がする。

でも確認出来た先生たちは箱を少し揺らした。


「はい!じゃあ早速お前らこの箱の中身を引いてくれ!並んで並んでー!」


やっぱりくじ引きだ!

皆で顔を見合せながら、列を作って順番で箱に手を突っ込んだ。

2回ほど折りたたまれた紙だ。

全員が引き終わる事を確認した先生は開けという。

開くとそこには数字で8と書いてあった。

何だ?


「はぁい!皆それぞれ数字が書いてあるだろ?

お前と同じ数字の奴がもう一人いる!探せ!」


えぇ!?まさかのペア作業!?

ヨシュアと一緒とか部屋割りで良くない!?


「部屋割りだと同じ奴ばかりになるからな!

たまには違う奴と組んでもらうぞ!」


「召喚士も団体行動とか普通にあるからな。

その日あった奴と協力なんて日常茶飯事だ。」


「その予行練習も兼ねてな!

はい、じゃあ相方探して!」


同じ箱から引いたから男女合同って事だ。

つまりメルトちゃんとも同じになれるチャンス!!

メルトちゃんに話しかけに行かないと!


「貴方が私のペア?」


…どうやらペアは僕じゃないらしい。

困ったな…。

皆だんだんとペアが見つかっているのに僕は見つからない。

誰!?8番って!!

勇気を出して声をかけるしかない!


「は、8番って誰ですか〜…」


「俺ですね、8番。」


少し上から声が降る。

すごく聞き覚えのある、昨日覚えたての声。

顔を向けるのが怖い。


「い、命だけは…」


「おや、心外ですね。

簡単に殺すわけないじゃないですか。」


終わった…。

僕のペアは黒いジャージ姿も様になっている


セヲ=ファントムライヒ…。


「今日が僕の命日だ…。」


「言ったでしょう。

3日は死なない程度に痛めつけます。」


「命日が増えた…。」


「むふ!新鮮だろ?」


どこがだ!!!!!

スピルカ先生の可愛らしい笑顔が今は嫌がらせに思えてくる。


「暫く実技はこのペアで行うから親睦深めるんだぞ!!」


昨日呼び出しくらってた奴と?


「そして、体力テストを行う。

外と中でのテストだからまずは外の競技!」


今更?こういうのって最初にやるよね?


「魔法を使わないテストだ!

己の力だけで頑張れよ〜!」


スピルカ先生が杖を振り、

生徒の前に紙とペンが現れる。

体力テストの結果を自分たちで書く用紙だ。

さらっと見ると中学での体力テストとまんま同じ内容だった。

魔法の世界なのに…。


「さぁ、お前らの名前を書いて!

書けたら出席番号早いやつが相方に紙を渡すべし!」


セヲ君より僕の方が番号が早い。

自分の名前を書いて紙をセヲ君に託す。


「破らないでね。」


「はい。」


笑顔で受け取ってくれた。


その途端、紙が燃えた。


「うぎゃーっ!!!」


入学式にゼウスに似たようなことやられた!!


「エクス!?」


「せんせっ!?か、紙が!!」


「かみぃ?」


もう一度紙に視線を戻すと、セヲ君の手には2枚の綺麗な紙があった。

あれ?燃えたやつは?


「っくく…ここにありますよ。

燃えてなどおりません。」


セヲ君が薄笑いを浮かべてスピルカ先生に報告した。


「んー?大丈夫なら良いが…

体調不良は隠すなよ!!」


「は、はい…すみませんでした…。」


やられた…これイタズラ幻術だ…。


「ホントに騙されやすいですねぇ面白い。」


元凶め…。

体力テストで勝ってギャフンと言わせてやる!!

昔の僕とは違う今のエクス=アーシェの身体!

悪魔と戦って生還した身体は強いんだから!


まずは50メートル走。

セヲ君に勝つ事だけを考える。


「魔法使ったら記録無しだからな!」


スピルカ先生の横でアストライオスが浮いていた。

彼は僕が魔法を使わないかジャッジの為か鋭い目で見る。

ちょっと怖いけどセヲ君に勝つ為に頑張る。

一緒に走るのは関わりの無いクラスメイト。

いつも最初のこの緊張感が苦手だけど、頑張らないとな。


「はい、名前言ってぇ。」


隣の子の後に名前をスピルカ先生に言う。


「エクス=アーシェです。」


クラウチングスタートでやるぞ…!


「よし、位置について!

よーい…ドン!!」


セヲ君に勝つセヲ君に勝つセヲ君に勝つ!!

邪な思いで足を必死に動かした。

しかし隣の子に抜かされる。あれ!?


「エクス、8秒7!」


ゴール地点に居るヨガミ先生が言う。

は、8秒台!!初めて8秒台って言われた!!

四捨五入すると9秒だけど切り捨てれば8秒だ!!

セヲ君はどれくらいかな…!


「お疲れ様です。」


「ありがと。」


セヲ君から紙を受け取って自分で記録した。

そしてセヲ君の紙を受け取った。

字、筆記体で綺麗だな…。

って見惚れてる場合じゃない。

セヲ君の走りを見ないと。


「セヲ=ファントムライヒ。」


セヲ君の番だ!

…転けてくれないかな。


そんな願いも虚しく、彼は風を切るように走った。

暗い銀髪が一瞬にして遠のいたように見えるほど。


「セヲ、6秒ジャスト!」


な、6秒ジャスト???

ストップウォッチ壊れてない?速くない?


「チッ…」


納得していなさそうな彼が帰ってきた。


「お、お疲れ様。速いね。」


「いつもと違ってスパイクですからね。」


僕から紙を受け取って記入する。

6秒ってとても速いと思うけど何故不服そうなのかな。


「不服?」


「えぇ、少し遅くなりました。」


「えぇえ…」


化け物だよぉ…怖いよぉ…。


「ま、貴方に勝てたのは上々ですがね。」


あ、確かに負けてた。


「つ、次は勝つもん!」


しかし悉く負け、結果…

セヲ=ファントムライヒに全敗。


「な、何で勝てないの…ってか…

記録がバケモンすぎる…」


「そうですか?

貴方が平均以下で俺が平均以上なだけですよ。」


「事実を述べるな。」


顔も良くて運動も出来るとか恵まれすぎじゃない?

おかしい。

僕は下手すると最下位の可能性があるというのに。

セヲ君を睨むと同時にチャイムが鳴る。


「よぉし!お疲れ様お前ら!

お昼食ったら次は室内でのテストだ!

別棟入口にしゅーごーな!」


「昼飯は汚さなきゃジャージで食えばいいぞ〜。」


もうお昼か。

お腹減ったなぁ!


「エクス!」


あ、ヨシュアだ。皆も来た。


「お昼食べよ!」


「うん!」


イデアちゃんに頷いたあと、

僕は何故かセヲ君に声をかけた。


「セヲ君も一緒に」


「俺は群れるのが嫌いですので。」


振り向かずに1人で行っちゃった。

折角のご飯時なのに。


「エクスちゃん、ありがと。

彼は誰が言ってもあぁ言う奴だから気にしないで。」


とスカーレット君が僕を気にかけてくれた。

僕は全く気にしていない。


「うん、大丈夫。」


しかしスカーレット君の姿を見て思うことがある。


セヲ君は悪い人じゃない…はず。


「あぁ、言い忘れてました。」


セヲ君が足を止めて満面の笑みで振り返った。


「エクス君。

俺、貴方の事嫌いなんで。」


「はっ?」


脳の理解が追いつかない。

セヲ君の背中は遠くなっていくのを見てやっと理解出来る。え?嫌い?嫌いって言った?え?は?


「はぁああぁあっ?!」


「え、エクス君落ち着いてください!」


「ちょ、君もだよ!

落ち着きたまえヨシュア君!」


「離してローランド。アイツ殺す。」

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