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第166話『ケーキの約束』

皆様、豪雨がありましたが大丈夫でしょうか。

どうか息災でありますように。

前回のあらすじ


ミカウさんがタダで身体の痛みを治してくれたり皆が心配してくれたりして嬉しかった。

面談ということでスピルカ先生と話したけど、セヲ君から悪戯を受けました。

理由が分かりません!



「アームールーちゃん♪」


声がする方へ視線だけ向ける。

ボサボサの冴えない男がゴスロリ服を纏った女性の優雅なティータイムを邪魔した。

その為、凄く不快そうに返事をする。


「何でしょうニフラムさん。

今とても気分が悪いですわ。」


声とは裏腹に笑顔を浮かべられニフラムは思わずたじろぐ。


「怖。出来心だよごめんて…。」


「2度目はありませんわ。

それで?何の御用です?」


「やっぱり君も生徒のお守りしない?」


「お断りします。」


「早っ」


「わたくしは団体行動が得意ではありません。貴方もよくご存知なのに酷い人。」


長い睫毛の下からの鋭い目付きに頬を掻くニフラム。


「エクス君や皆のこと守って褒めてたのに。」


「目の前でお墓の用意させられるのは悲しいですもの。」


「お墓の用意が必要無い子だよ。」


「まぁ!

もう既にご用意されているのです?」


「うっそぉ…先にそういう解釈になる??」


「冗談ですわ。

貴方が言う程の強い子ですか。」


「うん、君も知っている有名人だよ。」


口に運ぼうとしたカップが途中で止まる。


「………彼にお話を?」


「おじさんからはしない。

彼は必ず協力してくれる。

人手は多い方が助かるからね。」


「では貴方が引き受ければ良いではありませんか。」


「彼、女性とお子ちゃまには優しいから。」


「躾は貴方の得意分野でしょう。」


「え、口外した事ないし思ったこともないしやったこともないんだけど。」


小さく息をつき椅子から立ち上がったアムルはニフラムを一瞥した。


「どうしてもわたくしへと仰るのでしたら命令すれば良いだけの話ですわ。

話を振られた時点でわたくしに拒否権が無いことなんて理解しております。」


そう言って部屋を出ていってしまった。

部屋に1人残されたおじさんは溜息を吐いた。


「うーん…悪魔との対峙で丸くなったと思ったんだけどな〜。ツンツンしてるなぁ。」


残されたカップの近くには報告書と書かれた紙が置いてあったが、内容は書かれていなかった。



あと数分でチャイムが鳴る。

そんな時にスピルカ先生がアストライオスと共にパタパタと忙しなく教室へ入ってきた。


「あっぶねー!間に合った!

皆の意思を確認できて良かった。」


にっこりと微笑んだ先生は何処か悲しげに見える。


「此処に残る者、残らない選択肢をとった者、両方居る。だから己の選択は1人では無い。安心してくれ。」


残らない選択肢をした者への言葉だろう。

やっぱり全員残るとは限らないんだな。


「さぁ、明日も残りの授業頑張ろー!!

今日は解散!!」


あれ?これが帰りの挨拶?

他の生徒達はそう認識したそうで各々筆記具を持って教室を出始める。

隣のヨシュアも立ち上がり、俺に声を掛けてくれる。


「俺達もいこ?」


「う、うん。」


「エクス君!」


メルトちゃんに声を掛けられた。


「?」


「後で食堂へしゅーごーね!」


「食堂?」


「うん!」


「分かった。」


何で?と思いつつ、ヨシュアと寮へ戻った。

荷物を置いたヨシュアがクローゼットを開ける。


「よし!着替えて食堂へ行こうか。」


「え?ヨシュアも?」


「うん。」


「そっか!行こ行こ!」


2人きりでは無いのか。

でもヨシュアなら別にショックは受けない。

何をするのか疑問を持ちつつ食堂へと向かった。


「あ!こっちこっち!」


メルトちゃんが白いヒラヒラの服を着て手を振っている。可愛いなぁ…。

メルトちゃんの元へ向かうと、シャル君達皆が居た。そこにはレンとリリアンさん、クリムさんまで居た。


「えっ皆?」


首を傾げるとメルトちゃんが可愛らしく口角を上げた。


「エクス君が無事に帰ってきたら皆でケーキ食べようって思って!」


「昨日皆で校内バイトして買っちゃった!」


イデアちゃんが両手を広げる。

机に視線を落とすと全員分の色とりどりなケーキが横並びで置いてあった。どれも美味しそうだ。


「エクス君、1番に選んでいーよ。」


とレンが言う。


「え、悪いよ。

皆が頑張ってくれた分でしょ?」


「私達がアーシェさんにお渡ししたくて働いたのです。どうか御遠慮なさらないで。」


リリアンさんまで。

迷っているとヨシュアが僕の背中を叩く。


「皆、エクスの為に動いたんだ。

遠慮されると困るよ。」


「…うん。じゃあ…これ!」


僕は真ん中にあるオレンジ色のケーキを指さした。ツヤツヤにコーティングされている上に薄いチョコが刺さっているのが美味しそうだったのと、オレンジが僕っぽくて選んだ。


「ふふ、兄様の仰る通りでしたね。」


クリムさんの言葉が気になってスカーレット君を見る。


「えぇ、貴方は単純で分かりやすいもの。」


悪戯っぽく笑う彼に思わず僕まで笑ってしまう。


「せめて褒めてよ〜?」


「嫌よ、調子乗るから。」


「う…」


言葉のナイフが…。

皆もケーキを各々選んで席につく。

しかしシャル君とローランド君が座らずに僕の元へ。


「どうしたの2人とも…」


微笑む彼らは僕のケーキに手を伸ばし、何かを置く。見ると三日月と薔薇の小さな砂糖菓子だった。


「厨房を自分達だけの為ならと使わせて頂いたのです。」


「どうやら自分の料理など自炊で使っていい場所があるようだったからね。

お気に召すと良いが!」


厨房入れるんだ…。じゃなくて!


「嬉しい…ありがとう!」


御礼を言うと満面の笑みで返してくれた。

2人が席に戻るのを確認してから手を合わせる。


「頂きます。」


僕のケーキは予想通りオレンジの味がしてとても美味しい。中はスポンジとムースだった。皆の思いが反映されたような優しい味。


「…」


「エクス?」


「…無事に帰って来れて良かった。

皆が待っててくれたの、嬉しかった。」


視界が潤んでしまった。

瞬きをしたら落ちちゃうからと目を開けていたけれど1つ、また1つと雫が頬を伝う。


「心配してもらえるって嬉しいね。」


「…」


あまり感じる機会がなかった感情で皆を困らせているのが分かる。


「ごめんね…。」


謝ると皆が優しく首を振る。


「私達がしてあげられるのは心配と、協力と、居場所作りだから。」


メルトちゃんの優しい声が心に染みる。


「ケーキの事もメルトちゃんが考えたんだよ。俺達も直ぐに賛成したさ。」


レンを見て、メルトちゃんに再び視線を戻す。


「最初はエクス君だけにケーキを用意する予定だったのだけど、エクス君だけだと受け取ってくれないと思って。」


「受け取って食べても味しないとか、しないけど美味しいって言いそうだよね。」


ヨシュアが呆れた顔をする。

その通りだと思う。


「だから皆で食べようってなったんだよね!」


イデアちゃんの明るい笑顔にクリムさんが頷いた。


「とても良い案だと思いました。

お誘い頂けて、少しでもご助力出来たら嬉しいです。」


「また、このように皆でケーキを囲みましょう。私達だけの恒例行事として。」


リリアンさんが言うとは思わなくて思わず驚いた顔をしてしまった。


「良いじゃないの。

頑張った後はご褒美がないとね。」


スカーレット君の言葉に皆が頷いた。


嗚呼、なんて良い友人達なのだろう。

今まで感じたことの無い温かくてずっと触れていたい何かが心に広がる。


また頑張ろう。

今度、何があっても此処に帰ってきて皆でケーキを食べるために強くならないと。

帰ってくる為の居場所を護る為にも。


そう決意してケーキを美味しく頂いた。



ケーキを食べ終わり、昼のように他愛ない話が終わりを迎えて立ち上がった時にアナウンスが響く。


ピンポンパンポーン


{えー神クラス、セヲ=ファントムライヒ君。至急職員室まで来るように。

繰り返す。セヲ=ファントムライヒ君、至急職員室まで来るように。}


スピルカ先生の声だ。


「今までアナウンスとか無かったのに…。」


「今度は何をやらかしたのかな。」


ヨシュアの疑問の応えを示すかのように辺りがざわめく。入口側に何かあるようだ。

僕達も見に行くと、複数の男子生徒が積み重なって出来た山が廊下の壁際にあった。


「何これ…」


「おー。これはボコボコにされてるねぇ。」


レンが勝手に山になっている生徒の顔面や腕をチェックし始める。


「ちょっ!?レン君!」


「殺人現場でもないんだしいいでしょ。

ほら見て、顎の裏が腫れてる。

こっちは頬っぺ。」


確かにレンが指さしたり動かしたりする場所は青紫に腫れていた。


「多分、全員顔面だけやられてるっぽい。」


「うわ…容赦ないな。

もしかしてこれをセヲ君が?」


「多分ね。目撃者が居たんでしょ。

セヲ=ファントムライヒを知らない人は居ないだろうし。」


僕はさっき知ったからセーフ。

でも知らない人そんなにいないの?

ますます怖いなぁ。

そんな彼がスカーレット君の同室なんて…。


「…」


スカーレット君は何か考えているような顔だった。でも微かに疑いの目を生徒の山に向けていた…気がする。


「回復させてあげた方が良いかな?」


優等生レンが僕を見る。

頷こうとした時


「どけどけぇ!!姐さんのお通りだぁ!!」


大きな足音と共に聞き慣れた声が響く。

ルプス先生がフェンリルに乗って来た。

先生の後ろにラブラビ先生も居る。

2人は華麗にフェンリルから降りて山を見る。


「わぁ〜!派手にやったねぇ!」


「患部は顎と頬、あと額っすね。」


「お顔だけ狙ったみたいだねぇ〜!

足長ーい!」


蹴りでやった判定されてる。

殴るという選択肢は…?


「確かに顎裏やられてた奴以外は傷が2つあったな。

めちゃくちゃ痛そうな痕と少し離れたところにまた1つ小さな痕が。」


何故レンは確かにって言うんだ?


「セヲは男子にしては少し細くて高いヒールの靴を履いていたはずだよね。」


にゅっと出てきたヨシュアが僕に分からせるように言った。


「じゃあ小さな痕の方がヒールの?」


「そゆこと〜!ちょっとザラっとした傷だし!じゃ、貰ってくね〜!」


ラブラビ先生はデコられたような杖を振り異空間を生み出し、フェンリルが身体を使って山をそのまま異空間へ押し出した。


「てめぇら!姐さんを崇め奉れよ!!」


ルプス先生は言いながら異空間へと入っていき、フェンリルが屈んで潜ったら異空間は閉じた。山があった場所は少しの血が筆を振ったように付いていた。

少なからずこの人数がセヲ君を囲んでいたはず。でも…


「あんな山が出来るくらいなのにざわついたのさっきだよね。」


「幻術でも使って周りに見えないようにしたとか?」


「あー…」


幻術…前世でアニメや漫画で見たことしかないから何をどれくらいまでやれるのか分からないな。有り得るだろうか。


「セヲは此処に残る選択肢をとったのかな。」


ヨシュアは首を傾げる割には興味が無さそうだ。


「どうだろうね。

もしかすると残らない選択肢をとって好き放題暴れてるとか?」


レンが冗談か分からない事を言う。

でもその可能性は大いにあるだろう。


しかし視界の隅のスカーレット君が眉間に皺を寄せて腕を組みながらまだ何かを考えているようだった。


彼は彼なりにセヲ君に思うところがあるのだろう。


「何か別の理由があったりして。」


と言ってみると僕を驚いた顔で見るスカーレット君。


「…貴方、人を簡単に信じるのね。」


「信頼している人だけだよ。」


真実を述べると彼はフッと笑う。


「貴方のそういう所は評価してるわ。」


そういう所“は”ね…。

ちょっと傷付く。


「でもセヲ君、呼び出しくらってたけど…」


「ま、返答次第では退学ね。」


「だね…。」


「じゃ、アタシは行くわ。」


「あ、うん。」


後ろを向いたまま手をヒラヒラ動かし、

スカーレット君は人混みへ紛れた。


「エクス、俺達も行こう。」


「うん。」


ヨシュアと共に廊下を後にした。


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