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第165話『一難去って』

なんと!!この度!!

また変な奴が増えます。

前回のあらすじ


シュヴァルツさんがお気に入りの場所を教えてくれました。でもまさか一瞬で寝落ちするなんて…。



朝11時。

シュヴァルツの健診が終わったヨガミとエクスは再び喪われし郷へと赴いた。理由はヨガミの願いだった為。

2人は瓦礫と化しているデイブレイク家の前に立っている。


「悪ぃなエクス。」


「いえ、でも僕お邪魔じゃないですか?」


「な訳ねぇよ。

俺が来て欲しいって言ってんだから。」


頭に包帯、顔に湿布が貼られたヨガミはエクスの頭をわしゃわしゃと乱雑に撫でる。


「わーっ!!?」


「よし、男前。」


「どこがですかっ!!」


ぷんすこと怒るエクスを「はは」と笑い、家の前に座って持ってきた花束を置いた。


「コイツが俺の生徒。

昔の俺と正反対に良い子なんだぜ。」


「良い子…!」


「まぁ問題児でもあるんだが。」


「ちょっと先生!?」


「俺の、俺とスピルカの生徒。

コイツのお陰で俺は此処に立っているんだ。」


「…」


「俺は姉ちゃんの夢を代わりにって思ってたけど、

今は俺自身の意思で先生やってるよ。」


瓦礫に微笑みかけるヨガミはエクスが見た中で1番悲しい笑顔を向けていた。


「生徒に護られるっていう情けない姿を見せちまったから、もう護られる側は卒業する事を誓いに来た。」


「!」


「俺は他人に命と幸せを奪われるような世界を許せない。だから教え子と頑張るよ。」


静かに手を合わせたヨガミ。

エクスも隣に座り、目を閉じて手を合わせる。


「ヨガミ先生は僕の自慢の先生です。」


「…ありがとな、エクス。」


ヨガミの御礼に満面の笑みで答えるエクス。


「また来る。

墓作ったけど誰も居ねぇしさ。」


立ち上がるヨガミはエクスに手を差し出し、立ち上がらせた。


「ユリウスさんが特別に行っていいって言ってくれて良かったです。」


「そうだな。まだ立ち入り禁止区間だし。

たまにはあの冷徹眼鏡も人の心を持ち合わせてやがる。」


「本人聞いたら笑いながら怒りますよ〜。」


「違ぇねぇ。じゃ、帰るぞ。学校に。」


「はいっ!」



ヨガミの箒に乗せてもらい、ゼウリス魔法学校まで帰ってきた。

謎の緊張感がエクスを襲う。


「なぁに固くなってんだ。

おら、行くぞ。」


「いてっ」


背中を叩かれ、煙草を吸いながら先を行くヨガミを追いかける。


「はいっ!」


ヨガミは1度職員寮へ。

エクス1人で寮へ戻ってもとても静かな空気が漂い、緊張感が拭えない。

そんな時後ろから声を掛けられる。


「あ、エクス君だー!」


聞き慣れた声に振り向くと黒い狐の仮面を付けた男性が着物の袖に手を入れながら立っていた。


「ミカウさん!」


「や!案外無事だったんだねぇ〜!

湿布くらいで包帯ないじゃーん!」


「これ朝にシュヴァルツさんが念の為って…」


「あの子が念の為かぁ。

じゃあ案外本当にピンピンしてる?」


「はい。朝に検査してもらったら骨折れてないみたいですし。」


「ふぅん…」


訝しげにエクスの全身を見るミカウ。

するとミカウの頭上に電球が光る。


「あっそうだエクス君。

“いいよ”って言ってくれる?」


「…?いいよ?」


意味も分からず復唱すると


「ありがとー♡」


と言ったミカウが唐突に霧になった。


「!?」


驚いたのも束の間、エクスは意識を失った。

しかしエクスの身体は立ったまま。


「わっ!?何これ全身めちゃくちゃ痛い!」


声を上げるのもエクス。

しかし本人の意識は眠っている。


「エクス君の身体の痛み…これ筋肉痛じゃんか…っ

若者恐るべし…!!」


全てはミカウがエクスの身体を乗っ取ったためであった。


「こーんな身体でよくもまぁ無事で居られたねぇ。

骨折無いけど体力回復していないし立ってるのもやっとなんだけど。」


エクスの身体を理解したミカウは彼から出た霧で身体を形成して戻していく。

完全に身体が戻った後、エクスの意識も復活した。


「っは!?僕は何を!?」


「やぁエクス君。

今から購買部にいらっしゃいな。」


「え、何で」


「おいで。」


「ハイ…」


ミカウの圧に負けて後をついて行く。

購買部と書かれた扉を開け、1歩踏み入れた瞬間に和の建物へと姿を変える。


「こっちこっち〜」


とある襖の前に立ったミカウ。

襖の奥には医療道具が沢山置いてあった。


「わ…」


「この部屋のねぇ〜…

えーと何処だったかなぁ。うーん?」


棚をゴソゴソと漁るミカウを黙って見ていると


「あったー!」


と嬉しそうに声を出し、スティック状の何かを取りだした。


「糊…?」


「違うよ!紙は貼れない。

これは塗り薬さ。」


きゅぽんと良い音を立てながら外したキャップ。

顕になった糊のような部分。

エクスの不信感が更に高まる。


「やっぱ糊じゃ」


「腕をはいしゃーく。」


無理矢理エクスの手を掴み、塗り始める。


「…?あれ?痛みが消えてきた。

しかも全然ベタベタしない。」


「ふふ…でしょ。

ミカウさん特製の不思議な軟膏さ。

中々に高くつくよ〜!」


「えっ!?お金無いですよ!?」


「ヴァルハラにお小遣いもらったって聞いてるよ。」


「うぇっ」


「と、言いたいけどこれはお節介だから何も取らないよ。」


「ほ、本当に?」


「信用無いなぁ。お金払ってくれるならありがたく頂戴するけど。」


「タダってウレシー!」


「逃げたなぁ。」


両腕に塗ってもらった後、

「足の筋肉痛は有料」と言われたので止めた。

そして入口の前へと戻ってきた。


「ありがとうございました。」


「いーえ。その分ご贔屓にね♡」


「はい、お世話になると思います。」


「あらやだ素直。」


一礼したエクスが扉を開けたその時、


「「!」」


ヨシュアが目の前にいた。


「よしゅ」


「エクス?エクスなの?」


「う、うん。僕だよ。」


「本当に無事だったんだね。

良かった…!本当に!俺皆呼んでくる!」


ヨシュアは足早に去っていった。


「おや?あの子が居るってことは授業が終わったようだね。」


「そ、そうみたいですね。」


「皆の所へ早く行っておいで。」


「はい、行ってきます!」


ヨシュアの後を追いかけるエクスの背中を見届けるミカウ。


「沢山青春しなさいね〜!」



エクスがヨシュアに追いついたのは神クラス教室内だった。


「皆!ただい」


「エクスくぅーん!!」


「ぐぇっ!?」


イデアの突然の突進に負け、倒れ込むエクス。


「良かった!!生きてる!!」


「今死ぬとこだったよ…」


「こらイデアちゃん。

エクスちゃん脆いんだから気を付けなさい。」


イデアを回収するスカーレットは


「無事で良かったわ。」


と一言だけ。


メルトとシャーロットは目に涙を溜めていた。


「ご無事で良かったです…本当にっ!」


「すっごく心配したんだよ!!」


「流石我が宿敵だっ!!

…無事で何よりだよ。」


最初の声量とは違い静かなローランドに目を丸くしてしまうエクスだったが気を取り直して微笑んだ。


「心配かけてごめんね。

それとありがとう。」


丁度昼休みになった為、食堂へ赴く。

相変わらず賑わっている場所は出来事を話すには不向きという事になり、他愛のない会話をする。

午後から授業に参加するエクスは制服に袖を通し、

座学の用意を持ち教室へ入る。

チャイムが鳴り響く少し前にスピルカが教室に入ってきた。


「ほいほーいお前ら〜!

今日は面談タイムになりまーす!

順番に呼んでくから隣の部屋で話すぞ!」


「面談?」


エクスを一瞥したスピルカはアストライオスに抱えられながら黒板に


じしゅー!


と白いチョークで書き、


「エクス=アーシェ!お前からだ!」


と名を呼び手を叩きながら退出した。


「ええっ!?はいっ」


慌ててスピルカの後を追う。

隣の小さな空き教室の扉を開け、入室したスピルカは目の前の椅子へ座った。


「お前こっちな!」


スピルカが指すのは机を挟んだ向かい側。

エクスは椅子に座り、スピルカと向かい合う。


「ふぅ…まずはおかえり、エクス。」


「た、ただいまです。」


「うん、無事で良かった。

ヨガミ骨折れたって言ってたからエクスもだったらどうしようって思ってたんだ。」


「え…?先生骨折れてたんですか?」


首を傾げるとスピルカは頬杖をついた。


「肋を何本かやったらしい。

生徒の前でカッコつけるからそーなるんだよ。」


「いや…先生には実際とても助けて頂いて…

カッコよかったです。」


するとスピルカはまるで自分が言われたかのように

にっこりと笑みを浮かべる。


「むふ!それはアイツ喜ぶだろうなぁ。

ヨガミも言ってた。エクスに助けられたって。」


「僕は何も…」


否定をするとスピルカは両肘を付き、指を絡め視線を外す。


「アイツ、家族に会うの怖がってたんだ。」


「!」


「エクスはサバイバーズギルトって言葉知ってるか?」


「さば…?」


「とてつもなく怖い体験をして生き残れた人が

“何故あの人じゃなくて自分が生きているんだ”と

罪悪感で押し潰される事だ。」


「それがサバイバーズギルト…」


「ヨガミはそれで苦しんでいた。

家族を大切に思うアイツだからこそ

助かったのが自分じゃなかったらとよく言っていた。」


「…」


「でもそんなアイツが自分から御家族に挨拶出来たんだ。ヨガミが言っているんだから紛れもなくお前のお陰だよ。」


「…」


「っと!この話はまた今度。

本題喋んないと他の奴らが待っちゃうからな!」


いつもの明るい笑顔に戻ったスピルカはとあるファイルを取り出した。

そしてペラペラ捲り、とあるページで手を止め咳払いをしてからエクスと目を合わせる。


「じゃあエクス=アーシェ君。」


「は、はい。」


「今回の堕天騒動で怖い思いを沢山したと思う。

それでも君はこのゼウリスで学びたいかい?

召喚士になりたいかい?」


「はい、勿論です。」


真っ直ぐな視線にスピルカは満足そうに頷いた。


「お前ならそう言ってくれると思った!」


「何故そんな質問を?」


「この堕天騒動で怪我した奴とか怖い思いした奴が少なからず居る。そういった子に道を示すためさ。」


「道?」


「召喚士を辞めるか辞めないか。

ゼウリスで良いのか。ってな。」


「あぁ…成程。」


「召喚士育成機関はもう一個あるからな。

オーディア学園つってあのジル=ギルベートが居るとこ。」


ジルに良い思い出が無いエクスは思わず

「うわ…」と声を漏らしてしまい慌てて口を押さえる。


「辞めるつもりは無くても此処が嫌ならオーディアへ。辞めるのなら学費は返金する。

召喚獣ともお別れ。」


「…」


「そして本人の意思を確認した後、

親御さんの元へ謝罪と確認しに行く。」


「…大変ですね。」


「んーにゃ。

俺らが甘かったから招いた事故だ。

お前らを危険な目に遭わせたから。」


「少なくとも僕とあの円卓の皆には杞憂ですよ。」


「だと良いがな。」


「大丈夫です。」


「うん、じゃあエクスは続行。

戻っていいぞ。アストライオス、次を呼んでくれ。」


エクスはアストライオスと戻った。

アストライオスは次の生徒の前に立ち、部屋へ誘導していく。


「おかえりエクス。」


「どうでしたか?」


両隣のヨシュアとシャーロットが小声で話しかける。


「これからの事を聞かれたよ。」


「そっか。」


「色々、ありましたものね。」


「うん。僕はだからこそ頑張りたい。」


「エクスらしいや。俺も当然。」


「同じくです。」


暫くするとアストライオスがスカーレットとシャーロットの間になるよう前に立った。


「2人で来い…ということですかね?」


『(コクリ)』


「そうみたいね。

行きましょシャルちゃん。」


「はい!」


「…(先生時間なくて焦ってるな。)」


答えが分かっている2人を呼び出した事を察したエクスは右から視線を受ける。


「?」


顔を向けると、ヨシュアよりも暗い色の銀髪ハーフアップの男性が黒い手袋を付けた手で頬杖をつきながらこちらを見ていた。

整った顔で妖艶に微笑む彼の長い睫毛の下の瞳は紫で、怪しく光るように見えた為背中が震える。

咄嗟に視線を教科書に移す。

すると文字が浮かび上がったかと思えば虫になり蠢き出す。


「ぶびゃあぁっ!?」


思わず立ち上がってしまい周りを驚かせる。


「エクス!?」


「も、文字が!!む、むむむ虫にっ」


「…?文字?」


ヨシュアに伝えるべく教科書に視線を向けると何ともないただの文字の羅列があるだけだった。


「え?あれれ?」


「まだ疲れが溜まってるんじゃない?」


「そうよ、休んだ方が良いわ。」


ヨシュアに同調したメルトがエクスを見ていた。


「ハイ…(メルトちゃんに変な声聞かれた!!)」


メルトに対してのみ羞恥心を抱きおずおずと座る。


「…っ」


先程の彼を見ると窓に顔を向けていた為、

表情は分からない。が、微かに震えていた。


「(あれ絶対笑ってる…。)」


やがてスカーレットとシャーロットが戻ってきた。

アストライオスが銀髪の彼の前に立つ。


「セヲ、次はアンタよ。」


「おや、俺ですか。」


スカーレットにセヲと呼ばれた彼は面倒くさそうに立ち上がり、エクス達の前を通る。


「先程はすみません。滑稽…いや、面白かったですよ。」


小声で確かにそう言って教室を出ていった。


「え?え?もしかしてあの人がやったの?」


「エクス君?どうしたんです?」


首を傾げたシャーロットとスカーレットに文字の事を話した。


「あら気持ち悪い。」


「あらまぁ…」


「さっきのセヲって人が謝ってきたんだけど…

スカーレット君の知り合い?」


「同じクラスの奴に知り合いって聞くの面白いわね。

セヲはアタシのルームメイトよ。」


「セヲさん、綺麗な方でしたね。」


「シャル君の方が綺麗だもん。(性格含め)」


「何シャルちゃん口説いてんのお馬鹿。


セヲ=ファントムライヒ。


入学前から噂が立っていたのに知らないの?」


「シラナカッタナァ…(僕は入学式から人生スタートなので…。)」


「アイツ、強者を求めて片っ端から人を潰してったんだって。」


頬杖を付いているヨシュアの口から出てきた言葉にエクスは肩を震わせる。


「やばい人じゃん…。」


「確か幻術を使えるそうよ。

さっきの話、やられたんじゃない?」


「そうかも…謝られたし…。」


何故話したこともない自分に嫌がらせをしたのか分からないまま、セヲが帰ってきた。

ロングコートの様に改良された黒いジャケットの裾をはためかせながら前を通る。

その際、不意にヨシュアを一瞥した。


「…」


「…」


ピリッとした空気に緊張するエクス。

エクスの心はセヲを見る度、ざわついていた。

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