第162話『救けるって約束』
休日とはかくも素晴らしいものですね!
執筆が捗るし寝て起きても休みなのがもう最高です!
だからこその反動というものもでかいのですがね…。
前回のあらすじ
僕の体力が無くなってしまいアスクレピオスに助けられました(背中思いっきり蹴られた)。
鏡は最後の1枚。必ず勝つ!
…
鏡から出てくる者達を少ない動きで躱しながらネームレスの元へ走るシュヴァルツ。
当然ながら悪魔も牙を向けてくる。
ゼウスに抱えられている状態の為、周りを分析しやすいエクス。
「ゼウス!シュヴァルツさんのフォロー!」
『うむ!』
「お願いヘルメス!【summon】!」
ぽふんと小さく現れたヘルメス。
青い羽根帽子を目深に被った彼は頷きもせず魔法を使う。
『【揺籃からの逃走】』
光の玉となりヘルメスから発射されたそれはシュヴァルツへ届いた。
それを見届けた彼はエクスに何も言わずゼウスに一礼して消えた。
「相変わらずマスターには可愛くない。」
『そうか?あぁ言う奴だぞ。』
「だからそう言ったの!」
一方魔法が掛かったシュヴァルツ。
悪魔が手を伸ばしても尾で薙払おうとも素早さの上がった彼を捉えられない。
【くそ!ちょこまかと!】
悪魔の苛立ちの声に口角を上げる。
「…ありがとうエクス=アーシェ。
【神殿:アバトン】第1効果発動!」
シュヴァルツに呼応し、神殿の柱が光り輝く。
【神殿:アバトン】の第1効果は、
シュヴァルツ自身に掛かった魔法を周りにも分ける魔法効果がある。
効果を分ける為、己も周りも少し能力が劣化したものになる。分散される数が少ないほど劣化はしにくい。
シュヴァルツが分けたのは味方全員。
8分割して周りにもヘルメスの魔法を掛けたことになる。
その為、周りも少し早くなったがシュヴァルツの先程のスピードが出せなくなった。
「…(でも思ったより遅くなってない。)」
能力効果に気付いたゼウスは魔法を放つ。
『【模倣魔法:揺籃からの脱走】』
「…!」
受け取ったシュヴァルツは目を丸くしながらも駆けていく。
「ゼウス!僕もう立てるよ!」
『分かった。』
助けに行くべく地に立とうとするエクス。
「わ!?」
しかし意志とは真逆に足がカクンと曲がり膝をついてしまった。
『マスター!もう身体が限界なのだ。』
「そんな!
ゼウスと別行動しなくちゃ皆が!」
『無茶を言うな!
足でまといになりたいのか!』
「!」
俯いたエクスを優しく抱え直し、頭を撫でる。
『私が抱えていようが私はマスターの命に従うしマスターも魔法が放てるだろう?』
「うん…。」
『あの場に行くか?』
「うん、お願い。
このままだとシュヴァルツさんが危ない。」
『あいわかった!』
一瞬でシュヴァルツと会話の出来る位置へ移動したゼウスとエクス。
【げぇっ!!】
2人を見た悪魔は嫌そうに声を上げた。
一瞬自分から注意が逸れたその時、悪魔の右後ろ足を杖で殴る。
【あてっ】
「エクス=アーシェ!」
手を伸ばしてきたシュヴァルツ。
彼の後ろにある悪魔の足には白い蛇の紋章が付いていたのが見えたエクスは瞬時に彼のやりたい事を理解する。
「ゼウス!
シュヴァルツさんと場所変えて!」
『うむ!』
一瞬で場所を入れ替えてすぐ、シュヴァルツは杖で再び左前足を杖で殴る。
【あててっ!ちょっと!
僕のお腹の下で何してんの!】
ゼウスはシュヴァルツの移動先へと動き、
悪魔の足に紋章が付いた瞬間動かす。
「…(言わなくても分かるなんて凄い2人。)」
悪魔の攻撃はエクスが魔法を当てて封じている。その為動きやすいシュヴァルツは最後の足に紋章を付け終わった。
「…一旦離れる!」
「はい!ゼウス!」
『うむ!』
先にゼウスが距離を取り、その後をシュヴァルツが追う。
「…少し時間稼いで欲しい。」
「分かりました。」
『具体的には?』
「1分30秒。」
『うむ、心得た。』
【また何かやる気?
もう頭きた!】
再び黒い炎を口から吐いた悪魔。
ゼウスが障壁を作ろうとした時、
煌めくピンクの炎が壁となるように現れた。
『むむっ』
「…先生!」
振り返ると、鏡の者達を行かせまいと倒し続けている教師たちとアスクレピオス、アムルの1歩後ろに居たメルヴが微笑みながら一瞥したのが見えた。
「…(何も言わないけどぼくのこと、ぼく達の事を気にかけてくれてる。先生はそういう人だったな。)」
悪魔へ向き直り、杖を構える。
「ゼウス!」
『うむ!』
【(あの牧師の炎のせいで鏡の破片が届かないどころか動かない!くそ!鏡たちは何をしているんだ!!)】
左手を振りかぶる悪魔に対してゼウスは雷の糸を巻き付ける。
糸が食い込むのも厭わず降ろされる手。
持っていた糸を顕現させた自分の杖に巻き直し、後ろの柱に向けて飛ばす。
それは見事に柱へ突き刺さり、悪魔の腕は反る。
【うぎゃっ!】
『この神殿の力で光の力をも得ている糸だ。そりゃあ痛かろうに!』
「どっちが悪役か分からない顔になってるよ!!」
「…でもそのお陰でやれる事がある!
【神殿:アバトン】第2効果発動!」
第2効果は神殿創立の1度だけ紋章を付けられた者全ての悪性異常を消す効果がある。
そのタイミングで悪魔に浄化の魔法を掛ける。
「…君を救ける!【エクソルキズモス】」
【神殿:アバトン】の前に発動していた【聖地神光】の元効果、アバトンでのシュヴァルツの魔法効果が上がる効果が上乗せされる。
第1効果の能力分割の際も【聖地神光】の効果でスピードがあまり落ちなかったと見られる。
強力な浄化魔法をくらう悪魔。
紋章は全て悪魔の身体に付けられた為、その効果は倍増どころではない。
【くっそがぁああぁあ!!!!
何て力だッ身体がっ保てないぃいッ!!!】
〈!〉
悪魔から肉の焼けるような音が聞こえ、
なんとあの巨体が爆発を起こした。
意図していなかったこの場の全員が巻き込まれ遠くへと吹っ飛ばされる。
至近距離に居たゼウスは地を転がっている間も腕の中の者を護り、止まった所で無事を確認する。
『ぐ…っま、すたー無事か?』
「僕は何とも無いよ!
でもゼウスが!!」
『私も問題ない。』
「でもボロボロだよ!」
『む、本当に大丈夫だ。しかし…』
身体を起こしたゼウスとエクスの視界には立っている者が居なかった。
「ど、どうしよう…!
取り敢えず誰か…!」
『探るぞ。』
ネームレスや悪魔の姿すら無く、焦燥感がエクスを襲う。
『むっ』
ゼウスの目に何か映った。
エクスに視線を向けると頷いた為、近づく。
「シュヴァルツさん!
アスクレピオス!」
シュヴァルツを守るように覆いかぶさっていたアスクレピオス。そしてその下のシュヴァルツは意識を無くしていた。
「そんな、そんな!
起きて!起きてください!」
エクスの声にも反応を見せない。
「何とかしないと!」
「…だ、じょ…ぶ…」
掠れた声が下から聞こえる。
アスクレピオスの腕からゆっくりと出てくるシュヴァルツは傷だらけだった。
しかしどれも擦り傷ばかり。
「…アスクレピオスが助けてくれた。
…皆は?」
「まだ…」
「…そう。じゃあ最後。
【神殿:アバトン】第3効果発動。」
柱は淡い緑色に光り、光の粒子が溢れてくる。
【神殿:アバトン】第3効果。
神殿を閉じる代わりに全体回復を行う。
閉じるという代償がある代わりに全体効果。
回復量は【聖地神光】を発動した後の為、全快となる。
「温かい…。」
シュヴァルツの優しさが体現されたような温もりに心まで癒されるエクス。
徐々に傷が癒え、ヨガミ、シオン、アムル達が体を起こした。
「っててえぇ…」
「傷が…」
「んもう、爆発するなんて聞いてませんわ!
わたくしの可愛い顔に傷が付いたら許しませんことよ!」
「先生!アムルさん!」
全員の召喚獣、メルヴも身体を起こした。
『う…』
「…アスクレピオス」
『ます、たぁ…。無事だったか。』
「…うん。護ってくれてありがとう。」
『ふん…それが私の役割だ。』
微笑ましいやり取りを見ていると神殿が完全に消え、もう1人身体を起こした者が居た。
「ネームレス…!」
爆発で義手が吹っ飛んだらしく、とてもゆっくりでないと身体を動かせない状態だった。
『生きて、居るのかそこに。
殺るか?マスター。』
「…待って。」
シュヴァルツが彼の元へと歩いていく。
そして彼の身体を支え、己に凭れさせる。
「シュヴァルツさん?!」
「っ回復を僕にも掛けて…何のつもり?」
「…言ったもん。…救けるって。」
「偽物のくせに…」
「…偽物なんかじゃないもん。
…本当の友達のシュヴァルツだもん。
救けに来たよ。」
「とも、だち…ともだち。ともだち…!」
確かめるように繰り返す言葉。
【治療開始】の力でネームレスの心は声を受け取りやすくなっていた。
やがてその声は潤みを含む。
「あぁ、やっぱり感情なんて知らなければ良かった。こんな思いするのなら…知りたくなかったなぁ…!」
震える声でシュヴァルツの肩に顔を埋めるネームレス。
手が無くなっていなければシュヴァルツの背中に爪が立っていたはず。
シュヴァルツは彼の背中を優しく擦る。
「…お願い、最後の鏡割らせて。」
「無駄だよ。もう割れちゃったもん。」
「えっ!?」
驚いて声を上げたのはシュヴァルツでもなく、エクスだった。
ゼウスには聞こえないので確認をする。
『マスター、なんて?』
「最後の鏡が割れたって…。」
『おや、それは僥倖。』
「先生にしてやられたよ。」
「…そうなの?」
ネームレスの視線はアムルの傍で2人を見守るメルヴへ。
「あの爆発が分かっていたみたいにただの石に炎を纏わせて打ち込んだのが見えた。
そして爆発の衝撃で罅から全壊。」
「…凄い。」
「ね。」
「な……にしてん…の…けーやく…しゃ!
わざと魔力切らしやがって…!」
「!」
人型に戻ったボロボロの悪魔。
服や皮膚は焼け、角が折れた状態の立っているのもやっとの姿で2人を睨みつける。
「…殺しなよ…早く…!それか魔力回して…!
ソイツは…ひひっ…偽物なんだよ…!」
「…消えてなかったんだ。」
シュヴァルツの問に嫌らしい笑みを浮かべる彼。
「特別な鏡が消滅しない限り僕は在り続ける!
僕は腹が立っているんだ!!
殺らないなら僕が殺してしまうよ!!」
「もういい!やめろ!」
「何故止めるか分からないね!
あんなにも殺したがっていた偽物に抱擁されている気分はどうだい!?」
「シュヴァルツ、僕から離れて。」
「…嫌だ。」
「じゃあ死になよねぇッ!!」
真っ直ぐ見据えるシュヴァルツに鏡の破片の刃を振り下ろす悪魔。
〈死ぬのは貴方です。〉
悪魔の手を蹴り上げ、がら空きになった胴体へ煌めく炎を纏わせた足で2度目の蹴りを入れるメルヴ。
その勢いはとても強く、遠くへ飛ばされた悪魔。シュヴァルツとネームレスだけでなく、周りも目を丸くした。
〈2人とも、怪我は?〉
「…大丈夫、ありがとう先生。」
〈無事で良かった。本当に良かった。〉
「…」
シュヴァルツの笑顔とメルヴの安堵した顔を交互に見たネームレス。
そんな彼は徐に口を開いた。
「シュヴァルツ、聞いて。
最後の鏡は僕が持っていた小さな鏡だ。
僕の魔力が籠った最後の物。」
「…持っていたって言い方…今は無いの?」
「ごめん。落としちゃって…ここの何処かにあるはずなんだ。それが消滅すればディストは消える。」
〈貴方自身が契約を切る事は?〉
ネームレスは力なく首を横に振った。
「ディストが…アイツが認めなくなってしまったから僕から切る事が不可能になった。」
〈そんな…〉
「…皆、お願い!鏡を探して!」
全員がシュヴァルツに頷いたその時だった。
「何言ってんだけぇやくしゃあッ!!
殺されてぇのかあッ!!?」
「ッ!!」
人型すら保てなくなり、黒い炎が自我を持つように揺らめく悪魔。
瞬きの間にシュヴァルツ達の目の前に現れた悪魔。
メルヴが2人を護るように手を広げた。
「また死になよ!!!無様にさぁ!!!」
「「先生!!」」
『おい牧師!受け取れ!!』
ゼウスがとある物をメルヴに投げた。
キラキラと月光を反射させながらメルヴの手に渡ったそれは銀色の板だった。
「僕の鏡!先生!!」
「割って!!」
声と同時に鏡に炎を灯す。
途端に悪魔が苦しみだす。
「うぎゃぁぁぁぁああああッッ!!!!!!」
「…」
その様子を助けずに見届けるネームレス。
「許さない…絶対に赦さないよ契約者…!!
この僕がこんなとこで終わるなんて!!
契約したのに裏切りやがってさぁ…いずれ君は酷い目に遭うだろうよぉ…!!」
そう言って悪魔と鏡は塵も遺さず消えた。
シュヴァルツは彼の顔を覗き込む。
「どうして協力してくれたの?」
「分からない。あんなにモヤモヤしていたものが渦巻いていたのに…浄化の魔法と回復魔法、それと君の言葉で解放された気になった。」
「…嬉しかった。」
「僕も、シュヴァルツに会えるなんて思ってなかったから。」
「…アスクレピオスが行こうって言ってくれたから。」
シュヴァルツがふと相棒に視線を向ける。
相棒はネームレスが見えない為、
笑っているマスターに対し
『?』
と疑問符を浮かべる。
「でも何で最高神が僕の鏡を?」
「…そういえば鏡、外で拾ったような…。」
『む?皆で外を回っていた時、見つけたな。』
シュヴァルツの視線に気付き、鏡の事をエクスと話す。
「あぁ、キラキラ光る灰?」
『左様、異空間でアレを繋げていたら予想通り鏡に戻った訳よ。』
「え?それって…
まさか戦い中にやってたの?!」
『うむ!お陰で気が逸れる逸れる。
ま、私に不可能など無いからな!
褒めて良いぞマスター!』
「…」
ゼウスの偉業に呆れるべきなのか褒めるべきなのか分からなくなり固まるエクス。
「ははっ何でもありだな、最高神サマ。」
「…うん。お陰で君と悪魔を離せた。
治療終了って感じ。」
「ん、ごめんじゃ済まないけど言わせて。
ごめんね、シュヴァルツ。」
「…ううん。」
2人の頭を優しく撫でるメルヴ。
「せんせ、あの鏡を最後まで燃やしてくれてありがとう。」
〈いえ、貴方は消滅と言いました。
壊すだけでは駄目だと思ったので。〉
「そう。アレは破片が遺っていれば終わらない。他の鏡は別だけどアレは僕の魔力が篭っていたやつだから。」
「…でも、あの鏡は最近のってゼウスが言ってた。来てたの?」
心無く頷いたネームレス。
「来てた。
先生を殺した事、後悔してたから。」
〈えっ〉
思わぬ答えに驚くメルヴ。
そんな彼へ顔を向けられないのか視線を下に向ける。
「僕という存在の証拠隠滅がしたくて痛みが少ないように殺した後、そう思った。」
〈…〉
思わず切られた首に手を添える。
「だから行ける時に花を置いていった。
城下町であの子とあの人に会った時、花を買おうとしていたんだ。」
エクスとシオンは腕を向けられお互い目を合わせる。
〈そうだったのですか…。〉
「また先生達に会えるなんて思わなかった。
嬉しいって気持ちは良いね。」
「…うん、ぼくも思い出せて良かった。
でも顔は治らないの?」
「治る治らないの話じゃないんだ。
君達に見えていないだけで顔はあるから。」
「…そう。じゃあぼく、君の顔が見えるように治療する。医者だから。」
大真面目に返答したシュヴァルツに思わず吹き出すネームレス。
「ふふっ…なぁにそれ。
けど今度は僕、ちゃんと待ってるよ。
悪魔と契約の代償を取り返せるようになった君を。」
「…うん!」
「僕には時間が作られた。
色々とやらなきゃいけないから。」
〈私も一緒ですよ。〉
「せんせ……うん、ありがとう。
そしてごめんなさい。」
〈赦されるように償いましょう。〉
幼い時と同じように笑い合う彼ら。
この場の誰もが武器を収めた。
その時だった。