第161話『ぼくの最初の患者さん』
運営さーん!投稿する時のページでルビ振らせてくれませんかねぇ!!あとルビの文字数制限で分割しなきゃルビ振れないのきついですーー!!
前回のあらすじ
メルヴ=メルヒェンがわたくしの骸となりました。
ワルツを踊れたことが嬉しかったですわ。
屍人はわたくしに嘘吐けませんから。
…
鳥や雷龍に攻撃を当て、消しても巨大な2枚の鏡から出てくるせいで防戦一方のエクス達。
構えようとすると鳥が捨て身で体当たりを仕掛け、武器を目掛け軌道を変えてしまう。
そして雷龍の吐く雷の球が皆を確実に狙っていく。
【あっははは!
さっすが契約者!いい気味ぃ!!】
「このままじゃやばいよゼウス!」
『ぐぬぅ…鏡と契約者を護れる量が常にあるせいで鉄壁すぎる!倒したら倒した分出てきおって!!(あと少しだというのに…!!)』
「それなら全てを葬りさればよろしくてよ。」
アムルの声が聞こえた直後、
紫に煌めく炎が羽ばたく鳥達を包み込む。
「わぁ!」
当の本人は浮いた淡く輝く牧師の男性に姫抱きされ優雅に現れた。
「アムルさん!良かったご無事で!
何処へ行ってたんですか!!」
「ふふ、ごめんあそばせ。
時間稼ぎありがとう、エクスくん。」
「はい!(時間稼ぎ?)でも…」
チラリと男性を不安そうな顔で見上げたエクス。
男性もまた無表情でエクスを見下げる。
「メルヴ=メルヒェン…」
<君は私の事をご存知なのですね。>
「えぇ…まぁ…。」
ディストに見せられた記憶の中のネームレスの協力者だった者がアムルを抱えて居ることに複雑な心境のエクス。
「あら、貴方も彼の事をご存知でしたのね。
彼は私の骸なので敵ではありませんわ。」
【おやおやおやおや…
これはまた盛大な裏切りだねぇ牧師さん!】
悪魔の声に反応し、今まで手で顔を覆っていたネームレスがピクリと反応して手をゆっくりと下ろす。
「せんせ…?」
<私は君の親代わりとして止めに来ました。>
骸のメルヴですら顔を認知出来なくなっていたのを見て無表情が歪む。
「止めに来ただって…?
誰もそんな事頼んでない!!
あの時僕を裏切ったくせに!」
<…>
「僕を虐めた子供を逃がして…
その時の僕は怒りと悲しみを覚えたんだ!
大好きな先生に対して!!」
<…>
「それをまた繰り返そうとするのか!!
2度も僕を裏切るのかっ!!」
<…はい、正真正銘これが最後です。
その為に私は輪廻に逆らってきた。>
「何で…何で?
何で先生まで邪魔するの?」
以前逸らした目を今度は逸らさず見据える。
〈貴方がこれ以上悪に染まらないように。
虚無に堕ちる前に地獄で引き止める為に。〉
「…」
黙ってしまったネームレスから後ろにいたシュヴァルツに声をかける。
〈シュヴァルツ。〉
「…!」
〈随分大きく、立派になりましたね。〉
「…」
〈私の事、覚えていないかもしれませんが私は覚えています。大きくなれども変わりませんね、君は。〉
「…せ、んせ…。」
ズキズキと痛む頭を押さえながら見る彼は口角を上げていた。
〈君達の成長を見れて幸せです。
これだけでも力を貸す意味がある。〉
「ではいきましょう。
残りの鏡を割るのです。」
アムルに頷き、全員一斉に構える。
「あぁああああぁぁあぁっっ!!
なんなんだよクソがぁぁあぁっっ!!
邪魔するなら死ね!!死ねよぉっ!!!!」
光り輝いた鏡から沢山の鳥や竜達が溢れてくる。
「ゼウス!」
『うむ!』
〈私が消します。〉
メルヴは声だけでゼウス達を止め、
自身の後ろに巨大な黒い骸骨を顕現させる。
骸骨の目や骨同士の間からピンク色の炎が煌めく。
巨大な腕が鳥達を薙ぎ払い、追うように炎が弧を描き消滅させていく。
「すっご…」
『惚けるなマスター!!』
「あっはい!」
エクスが杖を構えた時、既に光の矢と蒼い炎が鏡を捉えていた。
「【魔刃抜刀・拾七番歌】!」
そしてシオンが飛び出し、鏡に斬り掛かる。
【やめてって言ってるじゃんかー!!】
「先生の邪魔はさせない!
【天帝神雷・天誅】!」
『【模倣魔法:雷の繭糸】』
ゼウスから出た糸が悪魔の片手を縛り、
雷龍がその手に衝突する。
【いたーい!!】
すると悪魔はニタリと笑い2つの口から黒い炎を吐き出した。
エクス達は距離をとる。
鏡に亀裂を入れようとするシオンはその場から動けない為、エクスが相棒に指示を出す。
「ゼウス!」
『あいわかった!【模倣魔法:冥界拒絶】』
シオンの周りに突如現れる半透明のバリア。
それにより黒い炎が弾かれる。
『私の!この…っ(私のものよりも遥かに障壁が分厚いではないか!嫌味か!)』
その時だった。
「っ!?」
突如鏡ごとバリアで守られているはずのシオンの身体から血が吹き出る。
『紫苑ッ!!!』
「シオン先生!!」
「な、ぜ…!?」
思わず刀を落とし、よろめく。
左肩からの出血のようだった。
【あっははは!!
1枚目の鏡で油断したでしょ!!
ちゃんと立ってみなよ!!】
言われて動くのは癪に障るが、知る必要があると思ったシオンはゆっくりと身体を起こす。
『鏡の切れ込みが紫苑の肩や…!』
割ろうとした鏡の切れ込みが立ったシオン出血した左肩で止まっていた。
【その通り!
映っている鏡像と君はリンクしてるのさ!
鏡を斬ってしまったら映っている奴も傷つける!】
「小癪な…!!」
【1枚目は最初から簡単に割らせるつもりだったからね。
フェイクってやつ?】
ケタケタ笑う悪魔の声すら耳に入れず考えを巡らせていたエクスがふと顔を上げた。
「鏡に映る…ねぇゼウス。」
相棒は声をかけられることが分かっていたかのように目を伏せた。
『うむ、マスターの言いたいことは私がやろうとしていたことだ。』
「やってみる価値はあるよね!」
『うむ!頼んだぞ、マスター!』
「先生達は目を閉じて!【王の凱旋】!!」
【は!?】
悪魔の驚嘆の声をも掻き消すくらい眩い光がエクスの杖から発せられ、辺り一面が白に染まる。その中で響く悲鳴。
明るさが引いた後に見た光景、
2枚目の鏡が木っ端微塵となり額縁だけが浮いている状態となっていた。
「鏡が砕けた!先生達は怪我してない!?」
『うむ、皆驚いた顔している。
問題ないようだ。』
「素晴らしい魔法ですわ〜!
流石エクスくんです!」
「えへへ…」
【な、なんだい君の魔法と魔力量…
あれ光の精霊じゃないか…
最初よりも量を増やしやがってどんだけ出すんだよ!
捌ききれなかったクソが!!】
『(あぁは言っているがあの状態で動いたということ。)…?最後の鏡は何処だ?』
【ここ♡】
いつの間にか最後の1枚がネームレスのすぐ側に現れ、エクスを映す。
ネームレスの手にはナイフが光る。
『マスター!!』
「ぁ…!」
理解した時には既に鏡越しのエクスの首を狙って引かれる一線。
エクスの視界は急にスローモーションとなったものの、動けないでいた。
そんな中、鏡とエクスを遮るような煌めくピンク色の炎と黒い腕が視界の隅から飛んできた。
そして自分を抱く感覚が来て、
スパンと裂ける音がする。
「よ、よがみせんせい?」
「よぉ…無事か?」
「は、はい!でも先生が!!」
倒れたままのヨガミから血がエクスを狙うかのように床に広がる。
「へーきへーき…っ…いいか、お前は…
お前だけは極力鏡に映るな…!
どこかへ隠れてろ…!」
「そんなの無理です!」
「これは命令だ!!」
「っ!」
「ゼウス!」
お前からも言え。
そういう様に名を呼ばれた彼は腕を組んで呆れた顔をする。
『ここまで来て酷な事を言うものだ。
問題ない、私がマスターを守る。
貴様達を犠牲にしようとも。』
「………なら良い。」
【契約者?契約者ってば!
魔力が途切れ途切れになってきてるって!
落ち着いてー!】
「はぁ…はぁ…っあの炎が邪魔をしなければ1人確実に殺せてたのに…!くそ…くそっ!!」
ネームレスの視線はアムルの後ろのメルヴへ。
バキッ
『どぅえっ!?鏡の破片危な!』
玉藻前が2枚目の鏡の破片を踏んずけ割れた音がした。
「ぐ…っ」
神殿が再び大きく揺れる。
シュヴァルツの頭痛が酷くなった証拠だった。
『おい狐貴様!!
皮を剥いで捨ててやる!!来い!!』
シオンを治療中のアスクレピオスが青筋を立てていた。
『それで行く奴おらんやろ!!
てか私が原因!?すまんて!!』
そしてまたシュヴァルツの中に失われていた記憶が戻っていく。
1人が好きで孤立していた自分の隣に現れた者。
自分より感情が乏しかった者。
ただ1人の普通の人間として自分の瞳に映った者。
「先生は何でお医者さんになったの?」
時間が経ち担当していた患者の少年に問われた時、
ぼんやりと影として現れた者。
「…君や、他の人を救うためだよ。」
己の口から出た嘘偽りのない言葉。
ただぽっかりと空いた心の穴の正体。
自分が医者になろうと思ったきっかけを与えた者。
それら全ては敵対している彼1人だった。
「…そうだ。
…ぼくは、キミが悪魔憑きだなんて知らなくて。
…病気だと思って治したかったんだ。」
『マスター?』
アスクレピオスの怪訝な声にも目を向けず、
目の前の親指の爪を齧って苛立っている彼に向かって話し続ける。
「…医者を志した理由を思い出せなかったけど、ならなきゃいけないって心が言ってた。」
「なんだよ今更自分語りかよ。」
「…ずっと分からなかった。
…衝動だけで勉強を頑張って…理由を有耶無耶にして。
でも、今思い出せた。」
意を決した顔で白蛇の杖をネームレスに向ける。
「…最初に言ったけどぼくが君を救うんだ。
…君はぼくの最初の患者さんだから!
【治療開始】!」
『!』
【神殿:アバトン】発動前に1度かけた魔法を発動時にもう一度かけることで効果が倍増し、重ねがけとなる。
「っまたか!意味もないことを!」
「…ぼくは医者になれて多くの人を救えた。
でも、最初の患者さんである君を救えないなら医者失格だ!」
「お前のエゴを押し付けるなッ!!」
ネームレスが声を荒らげると、地に落ちた大量の鏡の破片が浮き切っ先を向ける。
「押し付ける!!君を救うために!!
友達を助けるために!!」
「ッ五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!
偽物のくせにほざくなぁっ!!!」
破片は全てシュヴァルツに向かって飛んでいく。
「シュヴァルツさん!」
飛んできた破片を全て飲み込む炎がシュヴァルツを護る。
「!」
〈行きなさいシュヴァルツ。
貴方の友達を助けるために。〉
「…うん!お願い皆手伝って!」
「勿論です!」
エクスの快諾に微笑み、鏡から膨大な数の鳥と龍、人型鏡が溢れ出たが全員で対処する。
その間でシオンの治療が終わり先程まで倒れていたヨガミへ回復魔法を使おうと傍に来たアスクレピオスを手で止める。
「俺はもう大丈夫だから行く。
ありがとうアスクレピオス。」
『はぁ?貴様に回復魔法なぞかけてないぞ。
痩せ我慢は死への第1歩だ腑抜け。』
「腑抜けて。この神殿のお陰か寝っ転がって下になってた傷口は癒えてたんだ。」
『チッ…他の傷を無視するというなら次は治さん。』
「こりゃ手厳しいねぇ気を付けるわ。」
そう言ってシュヴァルツの元へ駆け出した。
いつもなら罵声を浴びせるアスクレピオスが彼から途切れ途切れ床に落ちた赤い跡を見る。
『私の魔力切れに気を遣ったつもりか馬鹿め。
まだあと2人くらいは治せるわ。』
先を走るシュヴァルツを追うように地を駆ける。
その行く手を遮る人型鏡。
『邪魔だ!!』
杖でなぎ倒そうとしたが、
身体を砕くことが出来なかった。
『硬っ!?』
驚きのあまり距離をとってから力いっぱい薙ぎ払う。
それでも脇腹の位置が欠けた程度だった。
「ゼウスごめん!!ぼ、僕じゃ力が!」
『構わぬ!
マスターを守護するのが私の役目だ!』
「ありが…」
エクスも同じなのかと少し安堵した直後、
「アスクレピオス!!後ろ!!」
目が合った途端に言われた。
振り返った時、既に雷龍が口を開けて喰らおうとしていた。
『っ』
『【太陽の光矢】!』
毛嫌いしていた声の放つ魔法が雷龍を貫き爆散させる。
『こら!!
戦場で余所見しちゃダメでしょ!!』
『チィッ!不愉快だ!!』
『エッごめんねぇ!??』
勢いで謝ったアポロンへ再度舌打ちした後、
シュヴァルツの元へと走る。
「はぁ…っはぁ…っ」
『マスターッ!!』
「ごめっ…も、体力が…」
ぺたんと戦地でへたりこんでしまったエクス。
それを狙う人型鏡。
『戦場で座りこける奴がいるかど阿呆ッ!』
「ヴェッ!!?」
戻ってきたアスクレピオスに背中を蹴り飛ばされる。
エクスを狙った攻撃はアスクレピオスが構えた杖で防がれる。そして跳ね除け、蹴り飛ばす。
激しい動きで長く綺麗な金髪が舞い見蕩れていたエクスをゼウスが抱え他の敵を蹴散らす。
「う〜…っごめん…すぐ立つから…!」
『マスターはスグに息が切れるなぁ。
幼子の象徴だ、愛い愛い。』
『ガキを甘やかすな老害!』
「が、がきっ!」
『ろ、ろうがっ!?』
一文で2人を傷付けた彼は鼻を鳴らす。
『借りは返したぞ。』
「え?」
そうしてすぐにシュヴァルツの元へと動いた。
『まさかあのアスクレピオスが…ふはは!
マスター、私が動くから体力を回復させよ。』
「う、うん。ごめんね。」
『良い。行くぞ!!』