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第160話『告死天使』

お花見出来ずに桜が散ってしまった…。

儚い…儚すぎる…。

前回のあらすじ


シュヴァルツさんの準備していた魔法

【神殿:アバトン】が発動成功し、悪魔の鏡を1枚割ることに成功。

でも悪魔達も諦めが悪く、今までに僕達が鏡に当てた魔法を自分のモノのように使い始めた。

すっごいムカつく…!!



【神殿:アバトン】展開の少し前。


エクス達が戦っている中、1人別行動をするアムル。

地震のような振動が起こってもよろめかず歩く彼女は発生源に見向きもせず何かを探していた。


「この辺りのはずですが…あ。」


目的の物が見つかり、ゴシックロリータ調のワンピースが汚れないようにしゃがみこみ、灰や木の粉が広がる床を見る。


「こんなところに居らしたのですね。」


アムルが拾ったのは人間の頭蓋骨だった。

ポンポンと灰などを落として目線を合わせる。


「身体はもう揃えてありますからね。

あと少しですわよ〜。」


大きな戦闘音が鳴り響いても全く気にもとめない彼女はスタスタと目的の場所へと赴いた。そしてふと足を止める。

視線の先には首から下の人間の骨が凭れかかっている壁。

頭蓋骨を首の上にそっと置く。


カランッ


「あら、流石に落ちちゃいますわね。

ボロボロですししょうがないですわ。」


乗せて落ちた頭蓋骨を拾い上げて近くへ置いた。


「うーん…近くにあれば問題ありませんが、

見た目が気に入りませんわ〜。」


まぁ良いでしょう、と呟いて猫のぬいぐるみを顕現させた魔導書から取り出した。


「【死と舞う(ワルツ)】」


アムルの足元に魔法陣が浮かび上がり、

目の前の骨は紫の炎の中で肉と皮膚等を得て人と成る。


<…。>


虚ろな目がアムルを映した途端、

辺りが城のような見た目に変わる。


「シュヴァルツ君の究極魔法ですわね。

うふふ、いつかこんなお城に住んでみたいですわ。

ねぇ、貴方もそう思いませんこと?

咎人メルヴ=メルヒェン?」


<此処は…>


「貴方の人生が1度幕を閉じた場所です。」


<人生が幕を閉じ…?>


困惑している彼に口角を上げて質問をする。


「わたくしの事、覚えてますかしら?」


すると牧師は首を傾げた。


<初対面かと…。>


(無意識に記憶を消された。

大人しそうに見えて裏は強情ですわね。

彼は本能で死んだ事を拒んで認めていないのですわ。)


<えっと…>


「では貴方に倣って初めまして。

わたくしはアムル=オスクルムですわ。」


名前を聞いたメルヴは目を見開く。


<あのオスクルム家の!>


「あら、ご存知でしたの。

嬉しいですわ。」


<かの有名な貴族様ですから。

そのような方が何故私に?>


「貴方がわたくしのモノになったので御報告ですわ。」


<…?仰る意味が分かりません。>


「そのままの意味ですわ。

わたくしは骸を自分のモノにすることが出来ましてよ。

貴方を気に入りましたの。」


<骸?>


「えぇ、手をご覧下さいな。」


彼女に促されるまま右手を見る。

すると自分の手は骨だけになっていた。


<ッ!?>


「驚く事はありませんわ。

本来の貴方ですもの。」


<な、何を!幻術の類ですか!>


「そうお思いでも結構。

ただわたくしには貴方に真実を受け入れさせる義務がありますの。」


<私は生きております!

そうでなければ…>


頑なに認めようとしないメルヴに溜息が出るアムル。

そしてにっこりと笑みを浮かべてぬいぐるみを足元に置いた。

その動作に警戒していたメルヴだったが、

ふと己の右手がアムルに手を差し出す。


<?!>


「まぁ、ワルツのお誘いですのね。」


<ち、ちが!身体が勝手に!>


「ふふ、そうですわね。

わたくしが貴方を動かしてますもの。」


差し出された手に手を重ねるアムル。

メルヴの意志とは反対に、勝手に身体がアムルの意のままに動かされワルツを踊らされる。


<く…っやめてください!>


「どうして?わたくしは楽しいですわ。

知っていますの?ワルツは独りで踊れないの。」


嫌そうなメルヴに笑顔のアムル。

全ては彼女の思う通りに。


「貴方は自身が死んだ事を理解していますわ。ただ認めていないせいで都合よく記憶が塗り替えられる。」


<…>


「貴方は償わなければならない。

その意思が未練の元であり罰なのです。」


<私は>


「貴方は自分がやり残した事を憶えている。

死んでしまえば終わってしまうから認めない。」


反論さえも許されず、アムルの“聞け”という圧に負け彼女の手を離さず踊り続けるしかないメルヴ。


「咎人メルヴ=メルヒェン。

わたくしが償いの機会を与えます。」


耳を疑う言葉と同時に身体が止まった。


「彼が居なければ、アレは貴方だったでしょう。」


アムルが遠くを見つめる先は悪魔とその契約者。


<あれは…>


「言うまでもなく彼ですわ。

貴方の優しさにつけ込んだ悪魔達。」


<そんな言い方…!>


「沢山の罪の無い方々を殺した者に他の言い方がありまして?」


<っ!>


「アレは貴方が芽吹かせた罪そのもの。

立派に成長してしまいましたわね。」


ぬいぐるみを拾い、再びメルヴと向き合う彼女は珍しく笑みを絶やした。


「彼が居て良かったですわね。

そうでなくては貴方があぁなっていました。」


<…私が…>


「だからこそ彼に同情し、生半可な覚悟と有り余る優しさのせいで多くの生命が散った。

貴方も散らせた側。」


<…>


「あの予想以上の哀れな惨状を目の当たりにし、

償おうと考えた結果、彼に殺された。」


アムルはメルヴの首に触れる。

服で隠されているそれを彼自身も上から押さえる。


<ぁ…>


「貴方の子供達を愛する気持ちは本物です。

だから止めなければならなかった。

しかし出来なかった。」


<ぅ…>


「その止める機会を作ると言っているのです。

それが貴方の贖罪となる。」


<贖罪…>


アムルの手は首から手へと移り、重ねた。


「貴方は彼を救う為に今、存在しているのでしょう。

贖罪の機会は今しかありません。」


<………。>


彼女から逸らした目は悪魔たちへ。

暫く動かず沈黙していたメルヴはやがてアムルへと視線を戻した。

雰囲気が先程と変わり、少し穏やかになった気がしたアムルは目を細めた。

彼は徐に口を開く。


<思い出しました…。

死ぬ直前に見た彼は私の罪の権化でした。

その前から予兆はあったのです。>


「えぇ。

貴方はその時に止めるどころか手を貸した。」


<はい。

この子に力を貸せばこの世界を無くせるかもしれないと思った為に。>


(そうでした。彼は世界を壊そうとしていた。

そして彼は魔女の(ヴァルプルギス・)(ナハト)側の人間だった。

彼の記憶の断片が増えてきて分かってきました。)


眉間に皺を寄せ、己を悔いるように話すメルヴ。首から掛かっていたロザリオの十字架部分を握りしめる手に力が篭もる。


<しかしあの惨劇を見て自分が如何に愚かだったかを痛感しました。口約束なぞ破られる。今までの後悔が全身を蝕み、心臓を鷲掴みました。>


次第に頭を抱え、声が小さくなっていく。


<私が望んで力を貸した。

その目的に変わりは無かった。

それが愚かだった…!

死んだ妻にあわせる顔がない…>


「だから留まっていたと?」


<贖罪で己を少しでもまともに戻したかったのです。

自分が壊れていた事に気付いて目を背けていた現実を見た矢先、彼は絶望していた私に微笑んだ。>


「まぁ…」


<あの子は私の事を知っているのに、

私はあの子の事を知れていなかった。>


「それが貴方の罪の1つ。」


こくりと頷くメルヴにアムルは再び笑みを浮かべた。


「死んでも尚償おうとしている貴方の記憶が戻っていくのを感じますわ。

…覚悟をお決めになったのね。」


<はい。

死んでしまった事を認めます。

しかし生者と話せているこの機会に感謝します。>


「それがわたくしの力ですわ。

私に協力してくれますか?」


<貴女は宛ら告死天使と言った所でしょうか。>


「まぁ、実に嬉しいですわ。」


<メルヴ=メルヒェン。

贖罪を果たすべく、貴女に従いましょう。>


アムルに跪いた瞬間、

メルヴの身体が淡く光る。


<これは?>


「貴方が死を認め“骸”という概念を持った為、

わたくしの力が増して貴方へと共有されたのです。」


<確かに力が湧いてくるような…?>


「その感覚は間違いありません。

さぁ、エスコートしてくださいまし。」


<はい、全ては贖罪のために。>

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