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第154話『孤児の願いは』

なかなか更新出来ず3ヶ月が過ぎてしまいました。

私事が積もりに積もってなかなか書けないのが歯痒いまま今に至ります。

遅筆なのは変わりないと思いますが、心優しき協力者と共にこの話をゆっくりと書いていく予定なので宜しければお付き合いくださいませ!

前回のあらすじ


祖父(ゼウス)達が鏡に吸い込まれた後、

我がマスターとネームレスと言う悪魔憑きが対峙。

私にはマスターとの会話も、ネームレスの姿すらも見えない故、どのような内容なのかも分からないが

マスターには考えがあるらしい。

私はただ、召喚獣としてマスターを護るだけだ。




「ん。」


ディストの力で眠ってしまったエクスはふと目を開ける。

視界に映るはとても暗く、左側に円になるよう置かれた金色の燭台に立てられた蝋燭でのみ照らされているような薄気味悪い場所。


「空気が重いな…。あれ?」


火に照らされた僅かな場所に模様が描かれているのを発見した彼は近づこうと試みる。


「あれ?進めない!?」


夢の時のように見えない壁に阻まれた。


「ほんと何?此処は一体ど」


するとエクスの声を遮るように右の暗闇から複数の“歌声”が辺りに響き渡る。

突然の事に肩を震わせたエクスだったが立っている場所から動けない為、歌に耳を澄ませる。

宗教を彷彿とさせる歌に聴こえるがしかし。


(こ、これは人間の言葉なの?)


女性の高音も、男性の低音も鮮明に重なり響き合う小さな場所なのにも関わらず、何を言っているかが理解出来なかった。

少しの寒気を覚えるほどに。


(脳が理解するなって言ってる感じ…。)


身体の体温を上げるように腕を小さく摩っていると、赤色のローブを纏った者が布で巻かれた小包を手に暗闇から燭台に向かって歩いてきた。


「嗚呼、人の理を嘲る者よ。

人ならざる輪廻の逸脱者よ。

今こそ顕現せり。」


そう言いながら進み、小包を台座に置いた。

声は女性であると分かったエクスは、彼女が小包の細く赤い布を捲る手元を凝視していた。

その中身に気付いたエクスは慌てて口を手で覆う。


「!?」


小包の布が段々と巻かれていくたび、

顕になる小さな四肢。

最後の布が剥がされた時に見えた頭皮。

そして歌に紛れた泣き声。

小包の中身は紛れもなく


(にん、げんの…あかちゃ…)


理解してしまったエクスは震撼する手を口元に添えた。


刹那、赤子が置かれた台座が紫に光る。

光った台座を目にした周りは歌を放棄し歓喜の声をあげる。


「嗚呼、悪魔様!!

我等の呼び掛けに応えてくださるのですか!

我等の悲願を!!どうか!!」


希望に満ちた女の声に呼応するように光が強くなる。

女が求めるように両手を挙げたその時


【欲に抗えぬ哀れな者よ。

汝の召喚に応えよう。】


高くも低くも聞こえる声が一瞬でその場を支配した。

そしてコツンと足音が辺りに響く。


足音一つだけでとてつもない威圧と悪寒がエクスを襲う。


悪魔が顕現した。


悪魔は黒い炎のようで、手や足のように見えるものの全て輪郭を掴めない。


「これが悪魔…っ!!」


【我は強欲を司る者。

汝の望みを告げるが良い。】


悪魔に語りかけられたのが余程嬉しかったのか、

女はフードを外し嬉々として応える。


「私の赤子を捧げます!

その対価に我等、魔女の(ヴァルプルギス・)(ナハト)を虐げた者共に裁きを!!」


両手を伸ばした女。悪魔は彼女を見て


【黙れ。】


と一蹴した後、首を撥ねた。


「ひっ…!!」


エクスは口を必死に押え、声を殺す。

周りの人は悲鳴をあげ逃げようと悪魔に背を向けて走り出す。


【五月蝿い虫螻(むしけら)共め。

黙れと言っているのが聞こえんのか。】


走り出した者、声を上げた者も全て首を撥ねられてしまい、残ったのはエクスと捧げられた赤子だけになった。


(どうして?!

望みを言えって言ったのに!!)


【はぁ〜!なんてね。

こんな堅苦しいのやめやめ。

もう外野は死んだし。ね、契約者(仮)?】


悪魔は途端に威圧を消し、仮の人間の姿へと変える。

悪魔の欠片も感じさせない人間を演じる彼は赤子を見下ろし微笑んだ。


「君の母親は酷い奴だね〜!

君を売ったよ〜?

しかも僕との契約方法間違えてるし!」


(契約方法の間違い?)


「僕と契約する者は魔方陣の中に居ないと。

魔方陣の中に居たのは君だけだし。」


(だから契約者があの赤ちゃんなのか…)


人差し指を1本立てて赤子に近づけると、

赤子は泣かずにその指をキュッと握った。

無表情でその小さな手を見つめる悪魔は誰かに話しかけるように口を開く。


「一つ、気になることがあるんだよね。

契約方法、あの女に()()()間違うように仕向けたのが居るね。」


するとエクスの方を見て


「お前だよ。」


と告げる。


「えっ!?僕!??」


動けない身体は恐怖を感じてもまだ動かず、

どうしようもないと思ったその時


「あはっ♪やっぱ居ることバレるよねェ!」


後ろから赤いフードを着た者がエクスをすり抜け悪魔の方へ歩いて行く。


エクスはその声を知っていた。


(この声…アビス!!)


「悪魔を喚びたいって言われたから教えたよ?

でも間違ったのはわざとじゃないよぉ!」


「あの女は僕を呼ぶ為だけに利用されたんだね。

ふ〜ん…嫌なことするね。」


「えー!人聞き悪いなァ。

ただうっかり間違えて教えちゃっただけじゃーん!」


「贄も順序も道具も完璧なのに立ち位置だけ間違えるかな。」


「うっかりってそういうものでしょお?」


「僕が契約を結ぶ時に邪魔されることが嫌いって分かってたクセにうっかり、ね。」


「悪魔さんは疑り深いなァ。」


「しかも魔方陣に生きた赤子は…

契約対象になるし余計なことも言わない。」


「いやぁ?

僕は1番大切な贄をって言っただけで何も生きた赤子をとは言ってないんだけどねぇ。

新鮮な方が良いかと思って、だってぇ!

おっかしー!」


「は〜…愉しそうだこと。

じゃ、僕はこの子と契約を結ぶから帰って。」


「へぇ〜い帰りまァす。

赤ちゃん()()()()!」


アビスは手を振って鼻歌を口ずさみながら血塗れの床、死体を踏みつけつつ部屋から出ていった。

エクスは扉が閉まる音で呼吸を思い出す。


「はあ…っ!!(し、思考が止まって息が!!

声も出なかった…。)」


エクスの姿が見えていない悪魔はアビスが出ていった先を数秒見てから赤子に視線を落とす。


「変な人間だったね。

さ、契約しよう。君は()()()()()()()()()1回も泣かなかった良い子だからサービスしちゃう♪」


(確かに…赤ちゃん静かだったな。)


「一先ず仮契約しよう!

サービスってのは仮契約の代償をこの転がってる死体の魂で受けてあげるってこと。」


指を鳴らした悪魔。

すると複数の死体が白く光り、

胸の位置から霊魂のような物が出てきて悪魔の手に集う。


「これだけあれば良いな。では我が契約者へ問おう。

生きたいかい?」


「あぅ」


(へ、返事した…!?たまたま!?)


偶だとしても返事は返事。

悪魔はにやりと口角を上げて頷いた。


「宜しい。汝の願い、生への強欲。

このマモンが叶えよう。」


赤子の下の魔方陣が再び光り輝いた直後、

エクスの視界は暗転した。


「っ!?」


【これが彼と僕の出会いさ。

その後、この建物で彼を育てた。

僕の力で1から教えなくても言葉を理解し、

喋れるようにしたり、人間の料理を教えたりね。】


エクスの頭に響く声。

間違いなく、ディスト=マモンだった。


【こんな感じでね。】


エクスの目の前には小さな男の子が1人で過ごしているのを早送りされている映像が。


「お、お前が居るのに…何で1人なんだよ。」


【生きるだけなのに僕の顕現が必要?

僕はずっと彼の中で話し相手になってたよ。】


「…何かズレてる。」


【人間ならざる者に人間の振りは大変だよ〜?

バレないけど面倒臭い!】


「面倒って…」


【しかも本契約じゃないし。

生きたいって言われたから生かしているだけ。

心臓が動いていれば人間は生きているんだから。】


「…」


契約上正しいと言っているディストが流している映像には、城下町を親と楽しそうに歩いている子供、遊んでいる子供たちを影から見ている彼の後ろ姿があった。

エクスは直感的に“寂しそう”と思う。


【力で買い物の為の計算も出来るようにしたし、金はあの女の率いていた教団の残っていた奴らから貢ぐように洗脳していたし。

僕の力で欲しい物は何でも手に入れてあげてたよ。】


「彼のあの感じ、

そういう事じゃないと思うんだけど…」


【そうなの?

ま、僕は僕のするべき事をしていたよ。

暫くして彼は自分の思考を持つようになったから本契約しようと思ってね。】


パチンと指を鳴らした音。

映像が広がり、エクスはそこに立っているかのように感じ始めた。

そこはとても暗く、大きな鏡が1枚壁に立てかけられていた。床には血のようなモノで描かれた魔方陣とそれを照らす燭台が数本。

まるで最初に見た場所と酷似していた。


【僕は鏡を自由に行き来できるから暇な時はよくフラフラしててね。面白い物を発見したのさ。】


「面白い物…」


【気付いた?

そう、僕を喚ぶ儀式の道具が1式揃えられてるの。】


「…」


言われる前に誰かが悪魔を呼ぼうとしている証拠なのは直ぐに分かった。


【僕は既に居るから意味ないんだけどさ。

だからこそ、有効に活用させてもらおうと思ってね。

本契約を結ぶ為に。】


「人が用意したものを勝手に使うってこと…?」


【うん。

だって僕が応えないから意味無いし。

ん?え?何か問題なとこあった??】


「…」


言葉を交わしているのに通じない、

エクスは喋るのをやめた。


【ここからは映像で見せてあげるね!】


エクスの意向を無視して悪魔は指を鳴らす。

動画の再生ボタンが押されたように空気が流れ始める。

鏡の中から現れた悪魔は黒髪で、エクスの見たことの無い人物の姿だった。

悪魔に手を引かれながら現れたのは成長した“彼”。

周りをキョロキョロと見回している彼の後ろ姿。


(思えば赤ちゃんの時から始まっていても1度も彼の顔をきちんと見れていないな。

顔がないのは生まれた時からなのかな…)


「…」


「此処、気になるでしょ。

昔に君と出会った場所に似てるんだよ。」


「…」


全く喋ろうとしない彼と優しい笑みで向き合う悪魔は人間のようだった。


「もう本契約しないと僕が限界でね。

君をここに連れてきたって訳。」


「…契約…。」


「そう、契約。君の望みを叶えてあげる。

その分、僕に何か頂戴?」


「…望み…」


「何でも良いよ。

君が何でも差し出せるなら。」


「…望み…何でも…?」


「勿論、何でも。

あ、僕を消そうとするのはやめてね。」


「…」



「さぁ、何が良い?

君は自分が何かを犠牲にしてでも叶えたいことは何?」



「…自分の、望みは…」


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