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第151話『オルターエゴ』

多忙で筆が中々進まず、話も進まず。

それでもアクセスして下さる方々に感謝が尽きません!!

どうかこれからも宜しくお願い致します!!

前回のあらすじ


あらやだ、わたくしの昔のことが

バレてしまいましたわね。

ま、別に良いですけど。

どうせ変えられませんし変えようとも思いません。

変えてしまったらわたくしはヴァルハラに

席が無いでしょうから。

ですが。

不快な思いを突きつけてきた悪魔さんだけは

頂けませんわね。



冷や汗というものは、

冷たい汗そのものが出ることではなく、

血の気が引き、体温が失われていく感覚が

残っているうちに汗が出ることだと思う。

肌を滑るそれは冷たくもなく、

ただ気持ちが悪い。


そう思ったのは、家族が目の前で亡骸になって、

唯一息があった姉貴と話しているのが初めてだった。


あの時、姉貴と話せるのが最期だと心のどこかで

分かっていたが、認めたくなくて…

助ける方法を探している時から冷や汗が止まらず、

周りの音が小さくなって何を話したかうろ覚えだ。


だからこそ、その感覚が研ぎ澄まされ

冷や汗の感覚を特に覚えている。


“姉ちゃん”と叫んだあの時に涙の蓋も

こじ開けられた。

顔を伝っているものが冷や汗か涙か分からなくなるくらい。


姉ちゃんの目にはどんな俺が映っていただろう。

汚ねぇ面かな。


もしくはもう見えてなかったのかな。

俺の目を見て、涙ぐんだあの目に、

どう見えていたのかな。


もし俺が死んでしまって、

姉貴に会えたらそれが聞きたかったんだ。

他にも俺はちゃんと姉貴の代わりになれたかなとか、多分聞きたいことは山ほど出てくる。


けど俺が死ぬのは当分後のことだから

ゆっくり時間をかけて話したい事をまとめておこう。


そう思っていた。


なのに。



何で姉貴が目の前にいんだよ……!!!


「ぁっ…っ…!!」


ダメだ、何も考えられない。

声も出ない。頭から鼻筋が急速に

熱を失っていく。末端神経が冷えていく。


声が、顔が、姉貴だ。

服だけが、唯一、違う。

姉貴は、絶対に、

スカートしか履かなかった。

だからアイツは偽物。

あれは、偽物。

本物は、もう、死んだんだ。

この世に、居ないんだ。


分かってるんだ。

そんなことくらい。


分かっている、はずなのに…!!

二度と会えないと思っていたから

脳が思い込もうとしている!!


もう一度が、こんなところで…

こんなことで起こってたまるか!!


「せ……んせ…!!


ヨガミせんせぇっ!!!」


「ッ!えくす…」


「気をしっかり持って下さい!

先生にはどなたが映ってるか分かりませんけど!

確実にその人じゃないんです!」


わぁってるよそれくらい!!


けど…嗚呼エクス、その目で見ないでくれ。

そんな真っ直ぐな瞳で俺を見ないでくれ。

姉貴のような目で…!!



「ダメだ…先生戻らないよ!!

ゼウスどうしよう!!」


『今の私ならばアスクレピオスの模倣をするしかない。』


ゼウスはちらりとアスクレピオスを見た。

アスクレピオスは黒蛇の杖を顕現させており、

血眼を向ける。


『私はマスターの心に付け入らせないように必死なんだ!!勝手にしろッ!!』


『そうだな。【心理的治癒(カウンセリング)】』


ゼウスが手を翳すと、先にいた白蛇が

ヨガミの腕から離れアスクレピオスの元へ。

模倣魔法で現れた白蛇がヨガミの腕に巻きついた。


「ヨガミせんせぇ!!」


エクスの必死の呼びかけにヨガミはハッとし、

彼を見る。


「え、エクス!」


「良かった戻った!せんせぇえ…!!」


「ふぅん…なぁんかおかしいと思ったら

妨害しているのか。その白蛇で。

てことはシュヴァルツも…

それにアスクレピオス、何処かで聞いた…」


ブツブツと呟くネームレスは攻撃をする

素振りが無く、様子を伺いながら

アスクレピオスに伝える。


「アスクレピオス!

攻撃する感じじゃないけどネームレスが

貴方を見ている!」


『くそッ標的にする気か…!

(見えない相手だとどうしようも…!!)』


(僕に何が出来る!?

アイツの姿を捉えながら動けるのは僕だけ!

落ち着け、どうする!?)


「アイツが居なくなったらシュヴァルツは

きっと悲しむよね。どうしようかな?

…あ。」


口に手を添え動かなかったネームレスの

目玉だけがギョロリと動く。


「ヨガミせんせぇッ!!」


いち早く気づいたエクスの声と同時に

ヨガミの前に鏡が現れた。


「ぁ」


何かが来る。


そう分かっていても地面に張り付いたように

動かなくなった足。


動けと念じている内に鏡が自ら割れ、

大小様々な破片が空中に浮く。

刹那、切っ先が全てヨガミに向いた。


一瞬のはずがゆっくりと、確実に見えている

その動作に自分がどう対処すれば良いか、

いつもなら直ぐに思いつくはずなのに。

足が動かない焦りからか何も分からない。


否。


分からないから足が動かない。


「先生を守らないとっ!!

【天帝神雷・天誅】」


エクスから発せられた雷は龍へ変わり、

鏡の破片が飲み込まれる。

そしてゼウスはヨガミに怒る。


『おい!アポロンのマスター!

マスターの手を煩わせるな!

せめてアポロンを出してから固まれ!!』


「それは違くない!?」


ゼウスの言葉に思わず突っ込むエクス。


「…」


しかしヨガミは応えない。

ネームレスは瞬きをせずヨガミを見据える。


「天帝神雷…凄いな。

ふーん、やれるかな。よし。」


ヨガミに向かって手を伸ばす。

そして


「【天帝神雷・天誅】」


と呟いた。

龍の鱗の大きさの鏡が雷龍を作り出す。


「天帝神雷!?

な、何でアイツが使えるんだ!?」


『(ハッタリか!いや、これは…)

魔鏡の反射か!!』


「流石、秒でバレました。

少し発動の時間が遅いな。」


淡々と話しながら指を鳴らし、

雷龍をヨガミへ飛ばす。


「【王の(ロスト)】」


「【金烏きんう】…ッ!」


エクスの詠唱を遮り、

光の鳥を纏った矢を放ち雷龍を穿ったのは


「よ、ヨガミせんせぇ!!」


「はぁ…はぁ…っ…!!」


ガタガタと震える手で弓を持つヨガミ。

ネームレスは無表情で手を叩く。


「凄い凄い。ご褒美に1つ。

私の鏡は悪魔の鏡。

鏡が映した見た目、鏡が割れた原因の力、

それらを記憶し模倣する。」


「ゼウスみたいなことを!?」


「残念ながら発動条件等含め、

上なのはそちらですがね。」


エクスがただ驚いているのを見てゼウスは

首を傾げる。


『マスター、敵は何を言っている?』


「さっきのは悪魔の鏡なんだって。

鏡に映った見た目と鏡がくらった力を記憶して

模倣するんだって!」


『睨んだとおりだったか。』


「うん、そうみたい。

ねぇゼウス、ヨガミ先生とシュヴァルツさんを

守ってくれる?」


『む、召喚獣がいるのに何故だ?』


「ネームレスを見れて動けるのは僕だけだから。」


『ならば尚のことマスターの援護にまわ』


「お願い、ゼウス。」


『ぐぬぬぅ……』


エクスの真っ直ぐな眼差しと数秒戦い、

ゼウスが折れた。


『…他ならぬマスターの為だ。

承諾しよう。』


「ほんと!?」


『……いや待てよ?

マスター、私が敵を見れれば良いな?』


「ん?」


『私のスキル【万物を見通す者】はまだ常には

使えぬ故、別スキルでマスターの視覚を

私と共有出来れば良いではないか。』


ゼウスの発言にネームレスは鼻を鳴らし


「面白い事を考えますね。

じゃあ先に手を打ちましょう。

私はシュヴァルツと話したい。」


と言って両手を突き出した。


ヨガミ、エクス、ゼウスの目の前に

それぞれ縦長の鏡が現れた。


『鏡なぞ割れば良かろう!!』


手に雷を宿したゼウス。

しかし


「待って!!」


とエクスが止めに入る。


『何だマスター!』


「アムルさんが!!」


鏡の中に映るアムルを見て止めたエクス。

鏡の中で戦い乱れた服装のアムルが肩で息を吸っている。


「物分りがよろしいですね。

では、助けてあげてください。」


中心の鏡が光り輝き、

エクスを飲み込もうとする。


『そうはさせるか!』


ゼウスは光でエクスと埃を被った鏡の位置を入れ替えた。


「だと思いました。意味無いですよ。」


先程の入れ替えで微量ながらも埃が落ちたからか、

エクスを直線上に捉えたその鏡からも眩い光が溢れていく。


『発動が速いなくそっ!マスターッ!!』


「ゼウス!!」


光に飲み込まれる寸前、エクスの視界に

ゼウスだけでなく、

ヨガミも光に飲まれていくのが見えた。



「姉貴…」


鏡の中に吸い込まれたヨガミは独り、

真っ黒な空間に浮遊していた。

落ちているのか浮いているのかも分からぬこの場で

ネームレスのことを思い出す。


やっぱり完全に姉貴だった…。

本物じゃないと分かっていても手が震えて

動けなかった。

相棒すら呼ばずに何してんだ、俺。

教え子の前でかっこわりぃ…。


一瞬でも姉貴に会えてしまったと勘違いしたことで

何もする気が起きなくなった。

死んだ姉貴の為に召喚士になっただけの俺は

どこかでもうやらなくていいのか、


もう死んで良いのか、


そう思ったんだ。

まるで昔みたいに…

生きる希望を一瞬無くしたんだ。


偽物に騙されて手のひらの上で転がされて…


「ばっかみてぇ。」


「もう!ヨガミはそうやってすぐ自分の事を悪く言うんだから!」


この明るい声…


「ねぇ、ちゃん…?」


いつの間にかヨガミの姉が目の前で

頬を膨らませていた。


「私の好きなヨガミを悪く言うのやめてよね!」


「お、俺の事だから悪く言おうが別にいーだろ!

第一姉ちゃんに関係ねぇし!」


口が勝手に…!!

身体も小さくなってる…!!


「関係ある!!

好きな人を悪く言われるのは

誰だって嫌でしょ?私が悲しい!!」


「はぁ?何だよそれ…」


この会話、覚えがある。


姉がゼウリスの入学が決まったと知らせが入り、

寮生活になると聞いて嬉しかった反面

ショックを受けた直後の会話。

子供だったから、みっともなく拗ねたんだ。

自分を悪く言って姉貴を困らせれば

何かあるんじゃないか、

そんな訳ない事くらい分かっていたのに。

いつも笑顔の姉貴が珍しく怒ったことに戸惑って、

何て言えば良いか分からなくなった。


姉貴が召喚士になる為に沢山努力していた事を

知っていたのに。


召喚士になる為には金がいる。


だから太陽が昇る前に魔物が蔓延る長い道を華奢な

体で歩き、城へ向かって出稼ぎに行っていたのを

知っている。

親の反対を押し切ってまで進み続けた。

朝早くに出て夜遅くに帰ってくる姉貴は

傷を付けて帰ってくることが多かった。

魔物は夜になると活動し始める凶暴な奴もいる。

長い道故にそれに狙われたらしい。

城の外は召喚士が定期的に見回り、

魔物を討伐しているそうだ。

でも、全ての魔物を倒すと生態系が崩れるとか

何とかで危険をわざと残していく。


そのせいで姉貴は怪我したんだぞ


心の中で恨むようになった。


「ヨガミ!」


でも姉貴は俺達に心配かけないようずっと

笑っていたんだ。


恐怖した思いを隠して。


俺、姉貴が夜に泣いていたの知ってたんだ。


死にかけたんだ。

怖かったんだろうなって思って、

何もしてあげられなかった。

そのくせ、拗ねて姉貴を困らせて。


努力していない自分だけが生き残って

召喚士になって、教師になって。

本来頑張った姉貴がそうなるはずだったのに。

死んでしまった。




何で優しい人ほど早く死ぬ?



「ヨガミ?どうしたの?

あっごめん私言いすぎたね!?」


「…」


思い出の中で優しくしないでくれ。


「ごめんね、ヨガミの事大好きだから。

自分を悪く言わないで欲しかったの。

貴方は凄い子なんだから。」


抱きしめて体温を渡さないでくれ。


やっぱり生きてると錯覚するだろう。


「私はちゃんと頑張るから。

ちゃんと生きて頑張るから。」


そう言って姉貴は俺の肩に手を置いたまま、

目を合わせて微笑んだ。


ただ、違和感しかない。


最後の言葉を言われた記憶はない。


「お前…誰だ?」


姉貴は驚いた顔で俺を見つめ、

やがて禍々しく笑う。


「うーわアドリブに気付いた!

シナリオ通りに動かない!

思い出したくない記憶のくせにちゃんと

覚えてるんだ!!」


「…」


「この後、君は素直に謝れないまま…

私、死んじゃうんだもんね。

あ、死ぬのは家族全員か。」


姉貴の見た目をした奴は姉貴の喋り方で

姉貴では言わないことを姉貴のように言う。


「教え子、貴方を守ろうとしてたよ。

貴方が動けないから。頼りないから。」


「…」


「貴方には特別に猶予をあげる。

教え子が苦しみながら死ぬのを私と一緒に見るの!」


姉貴が指を鳴らすと、

1枚の大きな鏡が現れた。


「エクス…!」


不安そうに周りを見渡しているエクスの姿が中にあった。

助けないと。助けないといけない。


「無理だよ。

貴方が出した魔法【金烏きんう】は攻撃を相殺する為に放った魔法だもん。

貴方は私に武器を向けれない。」


喋っているアイツを黙らそうと思い

構えようとした。


だが、構える事はおろか弓が、

杖が顕現しない。


「…?」


「ふふふっ!

無意識にストッパー掛けてるのよ貴方!」


「なん…だと?」


「悪魔との契約内容が

死者蘇生だったら貴方は私を信じてくれる?」


「誰が」


次の瞬間、左腹部に衝撃が走り、

俺は吹っ飛ばされた。

真っ黒な空間で地面が何処かも分からない状態で

受身が上手く取れずに打ちつけられ転がる。


「げほっ!ぐ…っ!」


「痛い?信じてくれないから

ちょっと手荒な真似しちゃった。」


姉貴はゆっくりとこちらへ歩いてきた。

すると急に頭を抱えた。


「やめて!!

私の大切な弟を傷付けないで!!」


確かにそう言った。


「煩いなぁ!!黙ってろよ!!」


1人でバタバタと手を振ったり頭を抱えたりしている。


「ヨガミ!私の事はいいから逃げて!!」


「は…?」


「私の!!身体を勝手に使ってるの!!」


何言ってるんだコイツ…


姉貴は潰れて燃えたんだぞ?


「早く逃げて!!」


これは本物の…?


「姉ちゃん…?」


「っさいなぁもう!!」


もしかして…本当の姉ちゃんが居る?

今話しているのは別人格で、本物が居る?

確証は無いが…悪魔が絡んでいるのなら本当に

死者蘇生が行われたという否定の材料もない。

ならば俺がやる事は1つ。


「お前を殺して話を聞く…!

summon(来い)】アポロン!!」


『はいはーい!』


ようやく顕現した杖を黄金の弓に変え、

相棒に問いかける。


「お前、アイツ見えるか?」


『バッチリ見え…るね。

うん、見える見える。女の子が。』


「アイツを殺す程度にいくぞ。」


『おっけ!』


別人格さえ消えれば姉貴が…

姉貴が苦しまずに済むかもしれねぇんだ!!

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