第140話『招かれざる夢』
リアルが超絶多忙となり更新ペースが格段に落ちたのにも関わらず見に来て下さりありがとうございます(´;ω;`)
ほんっとうに嬉しいです!!
皆様の貴重なお時間を少し下さい!!
前回のあらすじ
ヨシュアです。
エクスが急に倒れて病院へ。
こっそりとゼウスについて行きました。
俺はご飯食べてないけど。
…大丈夫かな、エクス。
…
『ふむ、この姿では些か燃費が良くない。
小さくなるか。』
ゼウスはみるみるうちに小さくなり、
エクスの顔付近へと舞い降りた。
『夢を見ているのだろうか。
ふむ…マスターの魔力もまだ残ってるな。』
ゼウスは右人差し指を立てて小さく回した。
すると毛先が水色に染まった紫髪の男性が勝手に顕現したエクスの魔導書から現れた。
『我が名はオネイロス。
夢を司るも…ゼウス様!』
驚いた表情のオネイロスに優しく微笑みかけるゼウス。
『久しいな、オネイロス。』
『ゼウス様もご健在のようで。』
『して、オネイロス。
その幼子が私のマスターだ。
故にお主のマスターでもある。』
ゼウスが向けた視線を追ってオネイロスは寝ているエクスに目を向ける。
『流石ゼウス様のマスター…
魔力量も桁違いですね。』
『うむ。
しかし理由は私でも分からず寝たきりだ。
私でも無理に起こすと何が起こるか分からん。』
『!』
オネイロスは察したのか、エクスの顔を覗き込んだ。
『せめて良い夢の中へ居させてやりたい。
頼めるかオネイロス。』
『畏まりました。
【目覚めたくない夢】』
オネイロスは両手を突き出し、
淡い紫色とピンクが混じった煙を放つ。
それを見ていたヨシュアは自分の中の者と意思を疎通していた。
ねぇ、何でエクス起きないか分かる?
【1人、誰かが干渉してる。】
干渉?
【君も会った事がある奴が干渉してる。】
…裏切り者とか?
【さぁ…君の交友関係には興味無いからわからないな。】
エクスはどうなってるの?
【誰かが見せてる夢の中。】
どうすればいいの?
【知らない。そこまで万能じゃないから。
あの子が頑張るしかない。】
そんな…。
エクスを辛そうな顔で見やるヨシュアを、ゼウスは一瞥し口を開いた。
『プロメテウスのマスターよ。
《《私達》》は見ているからな。
妙な真似するなよ?
うっかり殺してしまうやもしれん。』
「!」
顔を向けられている訳でも、特別怒りを含んだ声でもいないのにゼウスが怒っているのが分かったヨシュアは肩を震わせた。
「っ…する訳無いよ、大切な友達だから。」
一方、誰かが干渉したエクスの夢の中…
エクスは視界いっぱいに広がるとある村の風景に包まれていた。
雲ひとつない青空、生い茂る草木、一定の距離を置いて建っている白い土の家、響き渡る楽しそうな声。
平和という言葉が似合う風景がそこにあった。
「何処ここ…。」
辺りを見回していると、4人の子供達がはしゃぐ声が聞こえ目を向けた。
1人の女の子が男の子3人を追いかけており、全員が笑いながらエクスの目の前まで迫っていた。
「え、ちょまっ」
ぶつかると思った矢先、子供達全員はエクスをすり抜けた。
「え?」
驚いたエクスは走り去る子供達を目で追った。
その中の1人、ウェーブがかかった黒髪に所々紫メッシュがある男の子に目がいった。
「あの子、ヨガミ先生に凄く似てる…。」
「ヨガミ!スピルカ!つっかまーえた!」
「えっ!?」
女の子は確かにそう言った。
黒髪の子ヨガミと、茶髪の子スピルカはその場に座り込んだ。
「やっぱ姉ちゃん足速ぇ!!」
「後はアゼムだけ!」
「流石だなぁ〜!頑張れアゼムー!」
アゼムと呼ばれた男の子は2人に頷いて更に速度を上げていく。
「待てー!!」
女の子はアゼムを追いかけて行った。
ヨガミとスピルカは笑みを絶やさず2人の後ろ姿を見ていた。
「これは…
本当にヨガミ先生?スピルカ先生?」
「ヨガミの姉ちゃんやっぱすげぇなぁ!」
「ったりめぇだろ!俺の姉貴だぞ!」
今まで見ていた大人の2人からは見れなかった心からの笑顔。
楽しそうな彼らを呆然と見ていたエクスは、以前のヨガミとの会話を思い出していた。
【あんな、俺の家族は全員死んだ。】
「そうだ、ヨガミ先生の御家族は全員死ん…」
じゃあこの世界は何だ??
もし先生達の過去だとしたら…?
あれ?何で先生達の過去を見ているんだ?
僕は…確か…
あれ?
思い出せない。
そもそも先生の過去に触れる事なんてあっただろうか。
ないとは思うんだけどな…。
コレは自由に歩ける…?
エクスは少年2人に歩み寄ろうと1歩を踏み出す。
動ける!
「ね、ねぇ君達…」
話しかけるも無反応。
姿見えてないみたいだし、声も聞こえないんだな。
歩けるだけか。
じゃあ歩こう、探らないと…
もしこの世界に居続けたら死ぬとかだったらやばいし。
そう思ったエクスは子供達とは真逆の家の方へ向かった。
すると、
ゴッ
「あいたっ!」
何も無いはずの道で顔面を打った。
「な…え??」
手を前に出すと全体がひやりと平な硬い感触を伝う。
「これ…壁?見えない壁?」
景色は続いているのに景色そのものがまさに壁。混乱しているエクスの視界は唐突に歪む。
「!?」
次の背景は白い壁、均等に並んだステンドグラス。
自分の意思とは関係なく視界は後ろを向き、天まで届きそうなほど大きいパイプオルガンがあった。
「教会?ん、あれ?」
エクスの手は勝手に足元にあった紙袋へ手を伸ばした。
何これ!?僕何もするつもりないのに!
紙袋を持った自分はそれをゆっくりと被った。
自分の目の位置に合わせたようにくり抜かれた穴で視界を確保出来る。
僕は何故紙袋を被った…?
パタパタパタ
!足音がする…扉の奥から?
足音の正体は勢いよく扉を開けた。
現れたのはヨガミやスピルカではなく、
また違う少年3人だった。
「うわっ!!此処にまでアイツがいるぞ!」
「きっしょ!!やべぇぞ菌が伝染る!!」
「感染したら骨にされるぞ!!
早くコイツから逃げろー!!」
言うだけ言って去っていった。
虐めか。
幼い子ほど残酷すぎる虐めをするんだ。
これはやっぱり僕じゃない。
誰かの…誰かの思い出なんだ。
でも一体誰の…
考えようとした刹那、再び視界が一変する。
とても暗いながらも木が生い茂っているのを見るに森の中なのだろうと予想を付けたエクス。
自分の意識がある他人の体はまた動き始め、足元に置いてあったとあるビニール袋を解いた。
中には乳白色の大量の粉。
空いた左手でスコップを手に持ち、粉を掬い、少量ずつ土へ落としていく。
どうやら何かを書いているようだ。
これは…魔法陣?
この粉は一体何だ?
嫌な感じがする。
そう思っても身体は動き続け、エクスはそれをただ見ていることしか出来ない。
粉を円状に描き、中に模様を付ける。
全て描き終えたのか、粉を取るのを止めた手はいつの間にか置いてあった黒いビニール袋を開封する。
「うっ!?」
鼻を劈くような強烈な臭いに思わず声が出る。
血と脂が混じり、酸化したような刺激臭。
黒い袋に入っていたのは
赤黒い何かの臓器だった。
「ッ!!」
エクスは今にも吐きそうになったが、身体の主はそのようなことは無く、淡々と魔法陣の四方へ置いていく。
とてつもなく気持ち悪いはずなのに吐き気が来ない。
けど臭いがするってことは五感を共有してるのか?
頭がおかしくなりそう…。
臓器を置いた身体は魔法陣の正面に立ち、
人の言葉ではない何かを発し始める。
嫌だ…何だこの言葉ではない何かは…!
自分の口から発せられているようで気持ち悪すぎる!!
勝手に紡がれた言葉が終わる刹那、魔法陣は赤く黒く染まり、黒い光の柱を作り出した。
その光はエクスを飲み込み、彼は何も無い空間で1人となった。
「何だ今の…」
呟いたその時だった。
耳を貫く悲鳴が聞こえ、顔を上げると
先程の長閑な村が赤褐色に染まっていた。
家という家が炎に包まれ崩壊し、人々は苦悶の表情を浮かべ逃げ惑い見るも無惨な光景と化している。
「こ、れ…は…」
呆然と立ち尽くすエクスの目の前に巨大な火の玉が落ちてくる。
「ッ!!」
地を抉るその破壊力に恐れを覚えたエクス。
目を動かすことすら怖くなったエクスの耳に明るい声が響き渡る。
「ご無事な方は急いでこちらへ!!玉藻っ!!」
『翡翠ちょお待ち!!何やアイツ!!』
エクスは見覚えのある者を見て目を疑った。
今はシオンの召喚獣である玉藻前が別の男性と一緒にいる光景を見ているからだ。
そして玉藻前が指を指した場所には周りのどの建造物よりも巨大で黒く禍々しい【何か】が火の玉を口から出していた。
「…」
開いた口が塞がらないとはこの事か。
周りに絶望が広がっている。
しかし驚く事はまだあり、エクスの抱く絶望感とは別に禍々しい【何か】へ親近感を抱いていた。
この身体の主が親近感を覚えているんだ…。
長考させる暇を与えないと言うように、
エクス目掛けて泣きながら走ってきた男女が目の前で炎に包まれた。
男性の片手には赤子も居た。
幸せになるはずの家族が目の前で焼かれた。
「な、あ…」
何なんだよこれッ!!?
気が狂いそうになるッ!!
これは一体誰の記憶なんだよ!?
嫌だ…嫌だよ!!
もう見たくない!!
耳を塞ぎ、目を閉じたいのに身体は動かない。
そして
「ねぇちゃんっ!!!」
ヨガミ少年の悲痛な声が鮮明に聞こえた。