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第133話『必要な犠牲?』

第133話『必要な犠牲?』


前回のあらすじ


僕を庇って赤ずきんちゃんが大怪我を負ってしまいました。

その後、森の主はヨシュアの手によって…



「じゃあ行こう、エクス。」


「待って。森の主に何したの。」


ヨシュアは僕から目を逸らした。


堕天(アンヘル)の力で生命の核?を体外に移動させて、自分の真下…つまり土中に移動させていたらしいから壊した。」


サラッと新しい情報言いながら…


「壊した…?」


「うん。」


「じゃあ森の主は…?」


「うーん…まだ生きてるっぽいけど、

もう死んじゃうと思うよ?」


「…」


言葉が出てこなくなった。

絶句とはこの事か。


「エクス君!!」


「っ!」


この声!

声の方向に顔を向けると、

ボロボロのユリウスさんとラジエルの姿があった。


「っ…ご無事でしたか…!」


「ユリウスさん!今回復しますから!」


赤ずきんちゃんと一緒に回復させなきゃ…!


「【フロアグランダキュア】」


詠唱と共に杖先を地面に向けるも、何も起こらない。


「えっ何で?!」


「瘴気のせいかもしれませんね…」


「っ…せめてユリウスさん達だけでも…!」


僕はユリウスさんとラジエルに上級回復魔法をかける。全体回復が使えなくても個人ならいけるみたいで、2人は元気になった。


「すみませんエクス君。」


『…』


頭を下げるユリウスさんの隣でラジエルもしょぼん顔をする。


「気になさらないで下さい。

でもディアレスさんがまだ居なくて…」


「アイツもぶっ飛ばされましたからね…。」


歪んでひび割れた眼鏡を胸ポケットに仕舞った

ユリウスさんはゼウス達を見やる。


「あれは?」


「それが…あの…え、えっと…」


僕が(ども)るとユリウスさんは見た方が早いと思ったのかあっちへ行く。


「!」


赤ずきんちゃんの変わり果てた姿を見て息を飲んだのが分かった。


「…」


その後、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた

ユリウスさんは今でも懸命に治療してくれている

レンとシャル君の肩に手を置いた。


「…もうやめなさい。」


「「ッ…」」


一瞬迷いが出た2人だったけど赤ずきんちゃんの方を向き、口をきゅっと結んで治療をし続ける。

ユリウスさんは1度下を向いてから2人に置いている

手に力を入れた。


「やめなさいと言っているでしょう!!

彼女はもう助かりません!!

言わなきゃ分からない馬鹿なのですか貴方達は!!」


「「…」」


ヨシュアの視線を背に受けながら僕も彼等の所へ行く。


『マスター…』


ゼウスは2人が止めないから一緒に頑張ってくれているんだよね。

僕だって一緒に助けたい。でも…もう……!


僕の思いが顔に出ていたらしく、

レンもシャル君もアルテミスも治療の手を止めた。

赤ずきんちゃんがこうなったのは紛れもなく


「僕のせいだ。」


謝っても謝りきれない。

この子は前世の僕よりも若くて、

死にたくて死んだわけじゃない。

僕を助ける為に…僕のせいで…


「ごめんね…ごめんね……っ!!」


気付けば膝から崩れ落ちて彼女の身体に沢山の涙を

零していた。


『…謝罪よりも感謝を伝えてあげて。』


いきなり背後から聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。すると目の前には髑髏の仮面を付けたハデスが居た。


「はです…」


ハデスは仮面を外し、僕の左隣にしゃがみこむ。


『この子は君を守るために前線に出たのでしょう?

折角守ってあげた君が悲しんでいたらこの子も辛いよ。』


ハデスの言う事が赤ずきんちゃんの思っている事だとしたら伝えなくちゃ…。


「うぅっ…あり、ありがとうね…!」


僕とシャル君、アルテミスの嗚咽すら響く静かな森。泣き続ける僕達の近くでゼウスとハデスが会話しているのが聞こえた。


『兄様、何故こちらに…』


『主が“アイオーンとの電波が途切れたから行く!”

と珍しく言ってね。』


『左様で。して、兄様のマスターは?』


『トールのマスターの気配がするから拾ってくると。……。』


『兄様?』


『いや、此処は冥界よりも酷いなと思って。

この森は苦しみながら息絶えた。』


『お分かりなのですか。』


『まぁ…これでも冥界の王だし…

命には敏感なつもり…。』


森が息絶えたと言う事は…

森の主までもが死んでしまったと言うことだろう。

…こんなのあんまりだ。

全てはアイツらだ。

アイツらのせいで消えるはずがなかった大切な命が沢山消えた。

魔女の(ヴァルプルギス・)(ナハト)…絶対に許さない…!!


『…』


ハデスは僕の横に戻ってきて赤ずきんちゃんの顔に

優しく触れた。


『幸せにお眠り。』


その瞬間、赤ずきんちゃんからふわふわと白い玉の

ような物が3個浮かび上がってきた。


白い玉の中には赤ずきんちゃんが森の魔物達と楽しそうに笑っている姿が。


あっちの玉には切り株の上で森の主と笑っている姿が。


最後の玉には全員が笑って、

僕達も混じって笑っていた。


笑顔がいっぱい…。

これを見て止まっていた僕の涙がまた溢れ出した。


『幸せな走馬灯と理想の世界へ。

君が怖くないように。【死への慈悲】』


ハデスは祈るように手を前で組み、目を閉じた。

僕達も黙祷として同じようにした。


ありがとう、赤ずきんちゃん。

僕は君のお陰で生きている。

助けてもらったこの命で


必ず魔女の(ヴァルプルギス・)(ナハト)を全滅させるからね。


ハデスは森の主にも近付いて同じ事をする。


『!』


しかし目を見開いて驚いていた。


『兄様?』


『生命の核が移動している…。』


「あ、その事については俺が。」


ヨシュアは僕にした説明をハデスにもした。

するとハデスの表情が曇っていく。


『…そう、なの。

堕天(アンヘル)の力で生命の核が移動…

核が破壊されていなければ不死身の完成…』


不死身…

冥界の王としても許せないのだろう。


『なんて事を…!』


ハデスが握り拳に力を入れ、何かに耐えている表情を浮かべると紫色の煌めく炎が微量ながらも溢れていた。

声をかけようとすると、後ろから明るい声が響いた。


「あー!居たにゃー!」


にゃ?

ハデスのマスターってそう言えば…



誰だっけ…?



『ご主人様の声紋確認。

アイオーン起動します。』


ポケットに入れていたデバイスが震え、

アイオーンの声がする。

僕、吹き飛ばされたりしていたけどデバイス無事なんだ…。


「やぁやぁご機嫌麗しゅう皆の衆!」



僕達の前に現れたのは…


適当だろうと察せる、点のような目と口が細いサインペンで描かれた茶色の紙袋を被った人。

あの人の右肩にはだらりとしているディアレスさんの姿があった。


「…どなたです?」


ユリウスさんが声をかけた。


「んにゃ!?

シルヴァレ=ジョーカー様を()()忘れたのかにゃ!?」


「あぁ、冗談です。じょーだん。」


アイオーンとハデスのマスターの名前は

シルヴァレ=ジョーカーさんか!忘れてた!


シルヴァレさんはよろよろと歩き、

ユリウスさんの元へ。


「ユリウスぅコイツ重いにゃあ〜

変わってぇ〜!」


「はいはい。」


シルヴァレさんからディアレスさんを受け取った

ユリウスさんは彼の様子を見る。


「ディアレス、気を失ってますね。」


「そ、だから重いにゃん。

トールはボクが来たら“後は頼む”って言って

消えちったにゃあ。」


消えた…?何で?


「あ、あの…何でトールは消えたのですか?」


申し訳なく会話に入らせてもらうと、

シルヴァレさんがこっちを向いた。


「ディアレスを庇って大ダメージ受けたっぽい。

マスター守る為に頑張ってその場に留まっていてくれてたみたいにゃん。」


「そう、ですか…。」


「さ、皆帰るにゃー。もうこの森は死んじゃうから。

無くなっちゃうから。」


「え、あの…でも…」


僕の反応に疑問を持ったのか、

シルヴァレさんはちらりと赤ずきんちゃんを見た。


「…お墓、作ってあげよう。

うんと可愛いやつをにゃ。」


お墓と聞いて赤ずきんちゃんが改めて亡くなってしまったと思い知らされる。


「………はい。」


「ハデス。」


『は。』


ハデスは赤ずきんちゃんの傍に戻り、

再び優しく触れる。

その手から眩い紫の業火が溢れ、赤ずきんちゃんの

全身を包んでは数秒後に消えてしまった。

もう驚かない。

あれはハデスの四次元ポケット転送術だ。


『…(兄上のあれは転送ではない。

ものの数秒で火葬を終えてしまわれた…。

遺骨は回収したようだが。)』


ゼウスが小さく驚いている。

…何で?


首を傾げた瞬間、

周りの森の木や地面が灰色に変わる。


「!?」


木の葉は灰となり、幹は黒く染まる。

草は灰色になった時にそよ風に煽られボロボロと

崩れて地面に還る。


な、何これ…。


「森が死んだということにゃ。

最期に瘴気を吸ってくれてるんだにゃ。」


シルヴァレさんが静かにそう言う。

やがて変わり果てた木だけが周りにあり、

森と言うにはおかしい場所になってしまった。

森の主の亡骸はと言うと、跡形もなく無くなっていた。


「あそこにワイバーン連れてきてるから、

皆で帰ろう。」


シルヴァレさんが指した遠い場所にワイバーンらしき影が見える。


「行きますよ、皆さん。まずは病院へ。」


ユリウスさんに肩を叩かれ、

先に行く彼の背中に俯いたまま着いて行った。


「…」


『マスター…』


報告


捜索範囲:祈りの森


原因不明の力で壊滅。

発生した濃密な瘴気を吸った影響の可能性あり。

名称を抹消し、以後立ち入り禁止区域とす。


責任者:ユリウス=リチェルカ



僕達はワイバーンに乗ってシュヴァルツさんの病院へ。今は看護師さんに案内されて廊下を歩いている。


「今になって傷が痛んできましたよ…。」


気を遣って話してくれる眼鏡の無いユリウスさんを改めて見るとイケメンで、いつもなら腹が立っているはずなんだけど文字道理の無気力で何も思わない。

口から言葉を出そうとも思わない。


「相当参っているにゃん、皆。」


「そうですねぇ…。

ま、アレをどうとも思わない子は居ないと思いますから。」


ちらりと僕の隣にいてゆっくり歩いてくれているヨシュアに視線を送るユリウスさん。

タイミング良くヨシュアはそっぽを向いていた時だった。

そのままバレることなく視線を戻す。


ヨシュア、ちゃんと悲しんでるかな。


「ねぇ、ヨシュア。」


「ん?」


「ヨシュアは…悲しい?」


目線を合わせるのが怖くて僕は床を見ながら言った。ヨシュアは少し驚いたのか間があった。


「…悲しいよ、そりゃあね。」


安心した。

期待通りの解答で良かった。


「だ、だよね」


「でも必要な犠牲だったと思うよ。」


「え…?」


「あの子があぁしてくれていなかったら死んでいたのはエクスだったでしょ?」


「…」


赤ずきんちゃんが護ってくれなかったら

死んでいたのは僕、その通りだ。

そう、その通りなんだ。

その事実で悲しさでいっぱいなのに、

まだ泣き叫びたいのに、身体はそうしない。

でもヨシュアに突っかかりたかった。

「何でそんな事言うんだよ」って。

でも実際に身を呈して護ってもらった僕に言う権利などない。


でもヨシュアの“必要な犠牲”という言葉は無性に腹ただしいと思った。



何だよ、必要な犠牲って。

あの子が亡くなったのは、

いや、あの子を殺したのは


紛れもない僕自身だろうが。


もし僕が動けていたら?

僕も一緒に飛ばされていたら?

僕があの場にいなかったら?


彼女の笑顔の未来はあったはずでは?

生きていられたのでは?

僕さえいなければ…僕さえ…!!


「エクスきゅん。」


「っえぁ?」


気が付くと目の前に顔が描かれた紙袋が。

シルヴァレさんだ。


「でこ〜…ぴんっ!!」


「痛った!!」


赤や青、黄色のネイルが見えたと思ったらめっちゃ

痛いデコピン飛んできた!!


「手、これ以上怪我はダメにゃん。

アイオーン、自分を持ってもらってにゃ。」


『畏まりました。

エクス様、両親指で私に触れてください。

触れなければ最大音量で貴方様の寝言を再生致します。』


AIが脅してきた。


渋々触れようとデバイスを取ろうとした時に自分の手が見えた。


「あれ…」


僕の手は爪がくい込んだのか、なだらかな弧を描いたような線から血が滲んでいた。

認知してから痛みが来る。


これだけで結構痛いのに、

赤ずきんちゃんは…


アスクレピオスにこっぴどく怒られても

今なら何も思わないだろう。

どんなに理不尽な理由だろうと寧ろ真摯に受け止めれる。


そして辿り着いた先、ユリウスさんが目の前の黒い

ドアをノックする。


「シュヴァルツ、入りますよ。」


「…うん、どうぞ。」


その声で扉が勝手に開く。

スライドドアだったようでゆっくりと開閉する。


「…あはは、皆も…ボロボロだね。」


僕らを見て微笑んだシュヴァルツさんの隣にはベッドがあり、その中でリンネさんが寝ていた。


「少々手こずってしまって。

リンネの容態は?」


フルフルと首を振ったシュヴァルツさん。


「…アスクレピオスが魔力全部使って何とか進行を

遅らせた…という感じ。」


魔力全部って事はアスクレピオスは…


「…アスクレピオスは本の中に戻ったよ。

僕だけだから…治療遅いけどごめんね…。」


確かに看護師さんが誰もいない。


「…此処は信用出来る人しか入れたくない。」


彼の目は静かな怒りを帯びている。

それを察したユリウスさんは丸椅子に腰掛けた。


「じゃあ私から治療して下さーい。

私1番の重傷者ですからぁ。」


「おいコラ。

何自分が先に治療されようとしてるにゃ。

1番の重傷者はディアレスだにゃ。」


「やーん乱暴はやめてくださぁ〜い」


ディアレスさんを引き剥がし、ユリウスさんの背中をゲジゲジ蹴る紙袋マンを見てシュヴァルツさんは少し目を大きくする。


「シルヴァレ…?

君がお外なんて随分と珍しいね…。」


「まぁにゃあ。

はい、のびたディアレス一丁。」


「…はーい。」


その後、僕達はシュヴァルツさんの治療を受けた。

皆切り傷、擦り傷、打撲が殆どでユリウスさんと

ディアレスさんは肋骨が数本折れていたようだ。

治療中、ユリウスさんは静かにリンネさんを見つめていた。

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