第132話『訪れた悲劇』
最近身体が勝手に4時くらいに起きるようになってしまいました。何時に寝てもこれで堪えますね。
今…猛烈に眠いです!!
前回のあらすじ
沢山攻撃を受けたはずなのに全然倒れないノイズと
その仲間のエンデュという男が森の主に注射器を刺しました。
それと同時にゼウスが苦しむようになってしまった…!
それにヨシュアがまだ居ない!!
…
「ゼウス!!ゼウスってば!!」
『ッ…!が…っ』
こんなに苦しそうなゼウス見たことない!
どうしよう!!
ゼウスのスキルが効いていないの?!
それともスキルを発動させない何か?!
それともスキルが発動条件を満たしていないから?!
「あっはははは!苦しんでる苦しんでる!」
「最高神ゼウスが苦しんでますネ!」
「「っはははははは!!」」
とうとう膝を付いてしまったゼウスの口から
ボタボタと血が零れ続ける。
痛いのか息が荒く声を出せていない。
いつも話してくれるゼウスが話さないから、
話せないから、
アイツらの嗤い声がよく聞こえる。
「嗤ってんなよ…」
まさかまたこれを心の底から言う立場に成るとは
思わなかった。
「殺してやる…!」
「「エクス君…。」」
「ゼウスの分も、ヨシュアにやった分も
森の主にやった分も全て乗せて潰してやる!」
「どうぞ?」
「殺れるものならネ!」
「【王の凱旋】」
シャル君とレンに忠告なく発動させる。
僕の杖から眩い光が溢れ、辺りを真っ白にする。
流石に眩しくて目を瞑ってしまう。
「この魔法ハ…!?」
「うっ!?」
アイツらの声が聞こえる。
もっと苦しめ。
苦しんだ皆の分もっともっと!
「もっと沢山苦しめ…!」
そう呟いた途端に光は消え、暗さが戻ってきた。
目を開けるとノイズの頬から血がでており、
顔面に切り傷を付けたのが分かった。
「マジか…治らなイ。」
「…」
エンデュは黙ったまま俯いていた。
疑問に思って見てみると、
ぐらりと身体が傾きノイズへもたれかかった。
「エンデュ!?」
「ひ、か…り…ぁあ」
様子がおかしい。これは…チャンスなのでは?
よし、もう1発!
『マスター』
ゼウスの声!
声の方を向くと肩で息をしながらノイズ達を睨む
ゼウスの姿があった。
「ゼウス休んでて!」
『いいや休まない。
それよりマスター、試したいことがある。』
試したいこと?
『ゲホッ先程の魔法をもう一度だ。』
「わ、分かった。皆目を閉じてね。」
今更だけどシャル君とレンに言っておいて…
「【王の凱旋】」
「まだ打つ魔力残ってんのかよ!!」
ノイズの荒らげた声は再び訪れる白い光によって
遮られた。
『上出来だマスター!』
光が無くなるまで目を閉じていた僕は何が起こったかは理解出来ていない。
けれど確実にノイズ達を倒す算段をつけられるだろう。
目の前にはエンデュを庇うような体勢のノイズが
血塗れになっていたのだから。
そしてゼウスの横には見知らぬ光でできたような人よりも、ゼウスよりも大きい精霊のような甲冑姿の戦士が剣を構えていた。
「誰?」
『【王の凱旋】の精霊を傀儡にしてみたのだ。なかなかだろう?』
「へ?そんなこと出来るの?」
『やったら出来た!』
心からのドヤ顔、久し振りに見た気がする。
ゼウスの指先から黄色の糸が出て精霊と繋がっている。あの糸って確か…
『気づいたか?マスターと出会った初日、
ピュートーン騒ぎで使った糸を太く強くした物だ。』
あ、やっぱり。
あれ凄かったもん、色々な意味で。
ノイズに視線を戻すとエンデュの肩を担ぎ逃げようとする姿が。
「チッ…めんどくさいなぁ!!
エンデュ、もう引きますヨ!」
「ぁあぁぁま、まだ!まだ居ない!!」
「何の話ですカ!
もう言ってる場合じゃないっテ!」
「大切な…あの子が居ない!!」
大切なあの子??
『マスター!!攻撃を止めるな!』
ゼウスに言われ、我に返る。
そうだ、此処で潰さないといけないんだ!
「ゼウス合わせて!」
『無論!』
「ルシファー!俺達もやるよ!」
『承諾。』
「あ、アルテミス!」
『えぇ!私ぷんぷんよ!』
皆で一気に仕留める!
「天帝神雷・天誅!!」
『【傀儡:王の凱旋】』
「『【明けの明星】』」
「【三日月】!」
『【疫病の矢】!』
全員の渾身の攻撃がノイズとエンデュに向かって
飛んでいく。
全ての力が彼らにぶつかり、爆発を起こして僕らは
飛ばされそうになるが足に力を込めて踏ん張った。
風が止んですぐに目を開けて様子を伺うと…
「!」
動かなかった森の主が攻撃からあの2人を庇った…!
「あっぶなぁ。死ぬとこでしタ!!」
「そんな…」
森の主は傷付いているけど…!!
驚いて言葉を失う僕たちに笑みを向けるノイズ。
「っふふフ!残念でしたア!
頑張ったご褒美に1つ教えてあげますヨ!」
返事をする気力が無くなり目線だけ向ける。
「堕天から解放させたければ
絶望させれば良いのです。」
絶望?
「堕天は闇へ堕とす、誘い込む道具。
自ら闇へ1歩踏み出すのなら道具は意味をなさなくなる。故に消えまス。」
「っ…そんなこと」
「出来るわけありませんよねぇ!
だって君達優しいから!!」
僕の言葉を遮ってケラケラ嗤うノイズは正しく騒音だ。
『人間のやることじゃないな。』
「人間辞めた悪魔憑きなのでネ。
じゃ、また迎えに来ますね花嫁さン!」
また目の前から消えていく!!
「逃がさない!!」
『【明けの明星】』
僕が走り出すと同時に模倣元がルシファーかレンか
分からない魔法を放ったゼウスだったけど森の主の
雄叫びに魔法が掻き消された。
そして雄叫びのせいで皆が飛ばされる。
当然僕も飛ばされた。けれど何故か僕は飛距離があまり無く、飛ばされたではなく止められたに近かった。
やばい、倒れた。
早く立て。早く立たないと死ぬぞ。
本当に死ぬぞ。
急げ急げ急げ急げ。杖を持って急いで立って
森の主の迫り来る手を避けろ。
頭ではそう思っていても雄叫びのせいでか身体が
痺れて言う事を聞いてくれない。
動かない僕の身体は森の主の爪に貫かれるのだろう。
僕が死んでもせめて誰かが助けてあげられればそれで良い…。
痛いのは一瞬だけでお願いします…神様!
…
っ…此処は何処だ?
真っ暗で何も無い。目が見えていないのか?
それとも本当に何も無い?
もしかして俺、本当に死んだ?
死後の世界ってやつ?
俺みたいな奴は天国には行けない。
分かっていたけど…せめて地獄くらいには行けると
思ったんだけどなぁ。
虚無は確かに辛いな。
これが俺への罰?それなら妥当かな。
…ん?光が見える。三途の川?
俺の足は吸い込まれるようにして光へ向かう。
歩いている時は何も考えていないのか全くと言っていいほど覚えていない。
気が付いたら目の前に金の燭台にある1本の蝋燭の炎が揺らめいていた。
「…」
【ヨシュア】
「!?」
誰だ!?1面に声が響く!
エクスや他の皆とは違う声。
「だ、誰?」
【簡単に言うと、君の身体を蝕む者】
「俺の…?」
【そう、君の。】
声の主の姿を見ようと目を凝らすけど何も見えない。
【無駄だよ。今はまだ姿が無いんだ。】
ますます分からない。
【分からなくて良いよ。
分からない方が多分幸せ。】
俺喋ってないのに何で分かるんだ?
【分かるよ。だって君でもあるから。
言ったでしょ?君の身体を蝕む者だって。
やがて君になる存在なのさ。】
俺になる…
【そう、君という自我を喰らって生きている。
今は力が弱くてじんわりとだけどね。】
自我?
【今の君が自我だね。
こうやって話す事も、
大切な事も全部自我があって出来ている。】
君に食べられて無くなったら?
【身体の所有権を貰うよ。】
随分身勝手だね。
【そのように創られたから。】
…。
「俺は消えてもいい。
けれど皆には手を出すな。」
【それは後で決めること。
君の自我を食べながらゆっくり考える。
じゃあそれを最後に聞く質問にしよう。】
「最後?」
【君の身体を貰う時に聞く。】
「奪うの間違いだろ。」
【そうだね、訂正する。
でもまだ先の話だから安心して。
安心して心を闇に堕として美味しくなってね。】
「は?」
【闇に堕ちた自我は美味しいの。
君の過去を掘り起こして昔の君に戻してあげる。】
「やめろ…折角今があるのに…!」
【だって君つまらなさそうだったから。】
「それは昔の話だろ。
俺は今が大切なんだ!今が楽しいんだ!」
【嘘ばっか。】
「嘘なんか…」
【仲間よりも家族の事を偲んでばかり。
もういいよ、堕天だっけ?の力が
強くなってきたからもっと早く食べれそう。】
「…お前は一体誰なんだ?」
【創られた神様だよ。
じゃあね、ヨシュア。また会おう。】
「…待った!」
【?】
「神様は供物や生贄、舞を奉納される代わりに
メリットを齎すはずだ。その逆も然り。
お前も神様なら贄の俺にメリットを用意するべきだ。」
【…何して欲しいの?】
「俺が欲しいと思った時に力を貸して。
魔力も食べていいから。」
【いいの?】
「本当は良くない。
でもその代わりそれに見合った力を貸してくれるなら致し方ない。」
【…】
「もし条件を飲まないのなら俺は自害する。」
【それは困る!消えたくない!】
「じゃあ決まり。早速力を貸して。」
【何すればいいの?】
「まず俺を皆の元へ。
俺だけ森から出されそうになってるから。」
お前のせいで。
【それは別の誰かがやってる事なんだけど…
分かった、連れてく。でも】
「何?」
【君が起きなきゃ無理。堕天の補給料に身体が追いついてない。】
「苦しかったのはそれ?」
【うん。君の身体の中の堕天が強く反応して周りの堕天を吸収してるの。】
「息できなかったからね。」
【あ、待って。
君の召喚獣が安全地帯に運んだからもう起きるね。】
「プロメテうっ!?」
急に凄い力で身体が上に吸い込まれる!!
【じゃあ力を貸すから死なないでね。】
「…絶対だぞ!」
【うん。】
…
『ス…マ……起きろ!!マスターッ!!』
「っ!!」
プロメテウスの声に身体が反応し、目を開けた。
『起きた!!良かった!』
「うっ…ゲホゲホッ!」
込み上げてくる咳を吐き出し、
心配してくれるプロメテウスを見た。
どうやら俺を切り株に乗せてくれたようだ。
『死んじまったかと思ったぜマスタぁあ!』
「ご、ごめん。大丈夫、生きてるから。」
『おう!』
目が潰れそうなほど眩しい笑顔。
その笑顔を守る為にも…
『?』
魔導書を顕現させて表紙を2回ノックする。
『なっ!?おいマスターッ!?』
「ごめん休んでて。」
納得いかない様子で魔導書に吸い込まれた
プロメテウスを確認して深呼吸をする。
「力を貸して。」
【森の主が仲間の前に居るよ。】
「殺す。」
【分かった、手伝ってあげる。】
突然ドクンと心臓が鳴る。
心臓が鳴る毎に自分の身体が熱くなっていくのを感じる。
【今の君じゃこれが限界。でも十分だね。】
俺の手の周りは黒い光が輝きながら渦巻いている。
「さっさとしよう。」
【うん。】
返事のすぐ後、身体が勝手に跳躍した。
…
『マスタァッ!!!ゲホゲホッ』
ゼウスの声を最後に僕はこれから来るであろう痛みに耐える為に目をぎゅっと瞑った。
しかし来たのは痛みではなく、液体。
顔と手にかかって薄らと目を開けて見てみると、
僕の手に生暖かい赤い液体が付着していた。
「…え?」
恐る恐る目線を上げると、
赤ずきんちゃんが僕の目の前に立っていた。
僕を庇うように両手と両足を広げ、
「あ、かずきん…ちゃん?」
小さな身体に大きな爪の1本が刺さった状態で。
「だ…め…だ、よ」
貫いた小さな身体に止められるはずのない巨体は確かに止まった。
「み、なた、すけ…く…れる…から…!」
赤ずきんちゃんが喉をこじ開け声を出し、口から出た血液で汚れた森の主の爪を優しく撫でる。
すると硬直していた森の主から涙がポロポロと零れた。
泣いてる…。
森の主の目から涙が零れるたびに身体が綺麗な水色へと変わっていく。これが本当の色…?
もしかして堕天が消えてきたの?
てことは自我があったんだ…
そして絶望してる…。
それより早く助けなきゃ…!!
ゼウスを呼ぼうとした刹那、
ぞくりと背筋を悪寒が一瞬で這う。
何だ?嫌な予感がする。
いや、とにかくゼウスだ。
「ぜう」
刹那、森の主が後ろへ吹っ飛んだ。
その反動で赤ずきんちゃんから爪が抜かれる。
後ろへ倒れる寸前でレンが受け止め、
森の主から距離を置く為に僕の後ろへ運んだ。
「っルシファー早く手当を!」
『承諾!』
「アルテミス、オレらもです!!早く!!」
『も、ももももちろんよ!』
『マスター!!』
隣にゼウスが一瞬で現れた。
「ゼウスも早く赤ずきんちゃんを!!」
『う、うむ!ゲホッ』
そして僕は森の主が倒れた原因を…!
「エクス!良かった無事だった!」
森の主が倒れた方向を見た時、
目の前に居たのは笑顔のヨシュアだった。
ただ、何かがおかしい。僕の直感が言っている。
ヨシュアが悪寒の正体だと。
「よ…しゅ、あ?」
「ん?」
何かがおかしいのに、
目の前に居るのは僕の知っているヨシュアだ。
「ど、したの…」
「戻ってきたんだよ?
エクスの方こそどうしたの?それにユリウスさんと
ディアレスさんが居ないね。」
「そ、それについては後から…」
「うん、分かった。」
ヨシュアはすぐに僕から目線を逸らし、
森の主を見やる。
「分かった、地面の下ね。」
と独りで何か呟いて。
「あ、そだエクス。」
「えっな、何?」
いつもなら振り返って目を見て話してくれるのに、
振り返ってくれなくて目を全く見てくれない。
そして声が冷たく感じる。
「森の主は俺が殺る。
エクスは皆に赤ずきんちゃんは助からないと告げてあげて。」
「…え?」
何言ってるんだ?
「皆、心のどこかでもう助からないって分かってる。でも誰かが言わないと手を止められない。
その分の魔力が減っちゃうでしょ?」
「な、何で…?何でそんな事言うんだよ。
ゼウスだって手を尽くしているんだ!
これから僕だって手伝っ」
「エクスだって分かっているでしょ?」
「っ」
息を詰まらせてしまうとヨシュアは「やっぱり」と
言わんばかりの小さな溜息を吐いた。
「ほらね。
それに身体がもう無いと言っても良いくらいだ。
臓器だって全部ひしゃげて無くなっている。
もう無理なんだよ。」
あれ?
ヨシュアってこんな事言う奴だったっけ。
あれ?
これって僕の知っているヨシュアか?
「お前…誰だ?」
「ヨシュア=アイスレイン以外の何者でも無いよ。」
そう言った彼は消えるように見えた速さで
森の主付近の地面を殴りつけた。
その力はとても強く、衝撃で罅が入り波打つように
地面が突き出てくる。
「…終わり。
もうどうせ死ぬんだから自由にすれば良いよ。」
また何か呟いた。
遠くて口の動きも見えなかったし何も聞こえなかった。
「ね、ねぇ。」
「…」
光の無い目…それに腕の周りにある黒いキラキラは
何だ?烏の群れを見た時みたいに胸がザワザワする。
「…。」
僕を見て不気味に口角を上げたヨシュアは素早い動きで僕の首を掴み、左手で絞める。
早すぎて見えなかった…っ!
それに力が強すぎる…!苦しっ…!
「ぅ…ぁ…っ」
「ちょっと何してんだよ。」
何とヨシュアの右手が左手を掴んでいた。
ど、どういう事だ…?
「一瞬意識が無くなったと思ったら…
俺を乗っ取ったからだな。今すぐやめろ。」
すると左手はパッと離れ、僕は倒れ込んだ。
「ゲホゲホッ!ゴホッ!」
「エクス!ごめんね、大丈夫!?」
い、一体何が何なんだ?
ヨシュアがおかしい事しか分からない。
やばい酸素が脳にいかない。
さっきの苦しさで涙が止まらない。
「力はもう良い。引っ込め。」
ヨシュアがそう言うと黒いキラキラはシャンと
音を立てて消えていった。
そして膝を付いている僕の身体を優しく摩る。
「エクス、本当にごめん。
落ち着いてゆっくり息をして。」
「っ…」
そうだ、こんな事でへばってはいけない。
赤ずきんちゃんが待ってるんだから。
落ち着け、落ち着け。
「はぁ…はぁ…ヨシュ、ア。」
「うん、なぁにエクス。」
「後で…何があったか教えてね。」
彼は少しだけ黙って、
すぐに悲しそうな笑顔で頷いた。