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第124話『君は悪くないのに』

間が空いてしまった！！すみません！！

これからもこんな感じでスローペースです…！

これまで見てくださった方、これから見るという方、本当にありがとうございます！

更新速度は落ちますが宜しければ末永くよろしくお願い致します！

前回のあらすじ

悲鳴の正体は赤ずきんちゃんでした。

彼女も森の主を助けたいと同行することに。

ユリウスさんの胃の悲鳴が聞こえた気がしました。

知らないけれど。

…

ゼウスを先頭に不気味な森を歩く。

赤ずきんちゃんの歩幅に合わせて警戒しつつ歩いているのです。

『む。』

急にゼウスが止まった！

「どうしたのゼウス。」

『アレを見ろ。』

ゼウスが指をさしたところにはまるで瘴気が粒になった様な黒い雪みたいなものが数個、フワフワと浮いていた。

「な、何あれ…。」

黒い雪は前に倒れていた猪の亡骸に舞い降りた。

すると雪が亡骸に付着し、溶けた。

次の瞬間、猪の足がピクリと動く。

「！」

そして大きく鼻息を噴き出し立ち上がった。

「ぅえっ！？？」

目には瞳孔が無く見るからに正気じゃない！

猪は左前足で地面を2回ほど浅く蹴り、4足に力を込めて一気に放ちこちらに向かってきた。

『マスター！』

ゼウスが指示を仰ぐように僕を見た。

赤ずきんちゃんに猪が見えないように僕が移動して…よし！

「ゼウスお願い！」

『あい分かった！

望まぬ2度目の死、せめて安らかに逝け！』

ゼウスの右手から放たれる雷に撃たれた猪はパタリと倒れ、動かなくなった。

『…終わったぞ。』

複雑な気持ちを抱えていそうな顔でこちらを向くゼウス。

「おい待て、何かおかしいぞ。」

今度はディアレスさんが倒れた猪を指さした。倒れた猪が頭から段々と真っ黒に染まったんだ。

刹那、それが

爆散した。

『っ！！』

爆散したその時、真っ黒な何かが勢いよく沢山飛び出て空に向かう。

何だろう、物凄く嫌な予感がする。

空を少し見つめていたゼウスはハッとして弾かれたようにアルテミスへ顔を向ける。

『アルテミス！』

『な、何パパ！？』

『今すぐに全員を守れる障壁を！早く！』

ゼウスに腕を掴まれアルテミスに寄るように押された。

『わ、分かったわ！？【満月の加護(フルムーン)】！』

アルテミスが両手を空に向かって突き出し、全員が半透明の球体に包まれる。直ぐに黒い雪が沢山降ってきた。黒い雪は球体に触れると弾けるように消えていく。

「何なのコレ！見るからにやばそうじゃん。」

レンはそう言いながらゼウスを見る。

『この禍々しい瘴気から生まれた寄生虫のようなものだろう。その力は生物の骸に寄生し我が物とするといったところか。』

死骸に寄生！？だから猪が生き返ったのか！

生き返ったと言うより操られたと言うべき…？

ユリウスさんは

「となるとこの量…森全体に降っていると見て良さそうですね。」

と冷静に言う。森全体…

「という事はさ…ゼウス。もし死骸が沢山あったら…」

『あぁ、マスターの予想通り…全部が敵となるだろうな。』

ゼウスが言い終わった直後、背中の方からぞわりと嫌な寒気を感じた。勝手に心臓が煩くなる。

「お、お姉ちゃん。シガイって…？」

「そ、それは…」

シャル君が言葉を詰まらせ赤ずきんちゃんの表情が曇っていく。多分最初に聞いた時点で察しているだろうけど…

「赤ずきんちゃん。此処の森の動物は皆友達？」

いきなりヨシュアが問いかける。

赤ずきんちゃんはコクコクと頷いた。

「そっか。実はその友達が悪いヤツに身体を乗っ取られてしまったんだ。」

「えっ…」

「助けるにはお別れを言わなきゃいけない。

それはとても辛いことだから…帰るなら今からでも遅くないよ。」

辛いし、危険が伴うしな。頷いて欲しいところ…だけど赤ずきんちゃんは首を横に振った。

「お、お別れ言う！！私、皆に何もしてあげられてないの！せめてお別れ言いたい！」

赤ずきんちゃんの決意の眼差しを向けられたヨシュアは目を伏せて困った笑みを浮かべ頷いた。

「…分かった。俺らから絶対離れちゃダメだよ。」

「うん！！」

『ではやるぞ。』

ゼウスに頷き、トールが雷を纏わせた巨大ハンマー(ミョルニル)を構えた。居場所がバレているのか既に動物達に囲まれているからだ。

『少女の別れの言葉を餞に。』

『一瞬の苦しみは最高神の慈悲である。』

雪が止んでアルテミスの障壁から出た雷神2人の真上から地面を揺らすほどの雷鳴が聞こえる。

「火を付けないようにね！！」

と、ゼウスに釘を刺すと一瞬固まってから僕を見るために振り返った。

『……うむ！』

何その間。キリッとしているけど事故にみせかけて燃やそうとしたんだな…。

『最高神の雷を喰らうこと、光栄に思うが良い！！』

『【雷神鉄槌】』

気を取り直したゼウスが指を鳴らし、トールがミョルニルを地面に叩きつける。

2人から発生した雷と空からの落雷が合わさり森全体に雷が発生する。

雷に撃たれた動物達は痙攣を起こし次々と倒れ、身体から出る湯気が痛々しい。

けれど簡単に倒せるなら嫌な予感は外れたかな。

『『…？』』

ゼウスとトールが同時に首を傾げた。

「ゼウス？」

『手応えが全く無い。』

『…』

トールも頷いた。

「ねぇ、見てよエクス君。」

レンに言われるまでもなく周りを見ていた僕の顔に冷や汗が伝う。

「な…」

なんと倒れていた動物達は爆散などはしないものの、何事もなくむくりと起き上がり再び敵意を剥き出しで牙を見せてきた。

『馬鹿な…私とトールの雷だぞ？魔物がそれを喰らって生きてるはずは無い。』

『それに手を抜いた覚えは無いが。』

ユリウスさんは腕を組んで僕を見る。

「まさかの不死身と来ましたか。困りましたねぇ…此処で全員が魔力を使う訳にはいきません。」

「じ、じゃあどうすれば…」

やっぱり森を焼く…？

「逃げます。相手をするのは森の主のみ。

森の主のついでに攻撃を当てるくらいです。」

ユリウスさん…！それにディアレスさんが頭を掻きながら同意する。

「俺はユリウスにさんせー。

不死身なんて相手にするだけ無駄だろ。」

確かに…。僕達生徒も頷いた。

直ぐにユリウスさんが考えていた指示を出す。

「レン君、ルシファーを呼んでください。

ヨシュア君もプロメテウスを。」

「「分かりました。【summon】！」」

珍しく？息が合った彼らの魔導書の中から天使とヤンキーが現れる。2人はキョロキョロと辺りを見回す。

『レン、此処は…』

「変になっちゃった森だよ。解決する為に頑張ろ、

ルシファー。」

『承諾。』

『おうおうおう何だこのいけすかねぇ奴等に変な森！何なんだよ此処はァ！』

「プロメテウス、森を元に戻す為に力を貸して。」

『ったりめぇだろマスター！』

「ではルシファー。この赤ずきんの少女を抱き上げ守ってください。」

ユリウスさんの指示を聞いて“って言ってますけど”的な視線をレンに向けるルシファー。

「この人の指示は聞いて大丈夫だよ。」

『承諾。さぁ、こちらへどうぞ。』

差し出されたルシファーの手を恐る恐るとる赤ずきんちゃん。

『良い子ですね。』

イケボで囁くように言った後、軽々と抱き上げ6枚の羽根で彼女を包むように囲うルシファー。

「ふわふわ〜！」

ルシファーの純白な羽根の奥から楽しそうな声が聞こえる。

「ゼウス様、トールは魔力を温存しておいて下さい。余程の事が無い限りは戦わないように。」

『それだとマスターを助けられぬではないか！』

「貴方様のマスターは貴方様に守られなければ死んでしまうほど弱いのですか？」

眼鏡の奥から発せられる鋭い視線にゼウスの不安げな瞳が僕を映す。

『…』

「僕は最高神ゼウスのマスターだよ。

強いに決まってるでしょ。」

『マスター……うむ、そうだな。』

「ラジエル、来てください。【summon】」

ユリウスさんの魔導書から暗めの青い羽根をはためかせる天使が現れた。

「戦力よりも手数が必要でしょうからね。

では行きましょうか。」

「はい。ゼウス案内をお願い。」

『うむ！任された。』

ルシファーが赤ずきんちゃんを抱えたことにより走る事にした僕達。

走っても何の変化も見られない森。

まるで同じ場所で足踏みしているような…

『止まれ。』

「うわわっ」

急に止まるのやめてほしい！

けれど何かあったから止めたんだよな。

「どうしたの…？」

恐る恐る聞くとゼウスが口を開くまでもなく応えが返ってきた。

ドシンッ…ドシンッ

「この足音は…っ！」

振動毎に身体が跳ね上がりそうになる。

それほどの巨体の足音が今になって聞こえてきたということは…

「休んでいたか待ち伏せしていたって事かな。」

ヨシュアが僕の考えを静かに呟いた。

アルテミスが弓を顕現させる。

『プロメテウスのマスター冷静すぎだわ！皆構えましょ！音の正体は目の前よ！』

僕はゼウスの神杖を顕現させて持ち、手に力を込める。どっちが足音で僕の心臓の音か分からない。

怖い、怖い…！

ガサガサッ

木の上に白っぽく光る紫の鹿のような大きな角が…！沢山の木々を薙ぎ倒すように大きな何かがこちらに向かって突進してくる。

もうちょっとで身体が見える…！

「来ますよっ！」

ユリウスさんの声で足にも力を入れた瞬間、

目の前から爆音の狼の遠吠えが聞こえた。

そして僕は

空を飛んでいた。

「え」

『マスターッ！！！』

ゼウスが僕に手を伸ばしてくれている。

僕も手を伸ばしてゼウスに抱きとめてもらった時、やっと周りが見えた。

召喚獣が召喚士に向かって手を伸ばす光景が。

どうやら人間だけがあの声量で飛ばされたようだ。

まずい、皆と遠くなった！

『マスター無事か！？』

っ…急に耳が痛くなってきたっ！！

回復魔法を…

っ！？ゼウスの背後から巨大な蔓が振りかぶってる！！

「ゼウス危ない！！」

『むっ！？』

間一髪で避けたゼウス。けれど…

『きゃあっ！！』

『うぉっ！！』

アルテミスとプロメテウスの声！

2人は蔓に叩きつけられたのではなく足を掴まれていた。ラジエルとトールも声を上げていないだけで片手を掴まれていた。

「皆！！ゼウス助けるよ！！」

『うむっ！』

ゼウスに抱えられながら杖を構えた直後、蔓の素早い動きで掴まれていた召喚獣達が散り散りに飛ばされてしまった。

「ルシファー！」

『っ…』

赤ずきんちゃんを抱えているルシファーは片手でレンを掴んでいた為、魔法で動かしている剣で次々と伸びてくる蔓を切っているものの自身が動けなくなっていた。僕達が行かなきゃ！！

『！』

急に僕をぎゅっと抱きしめたゼウスは急降下する。

「ゼウス！？皆が！！」

『アイツらは大丈夫だ！！今はマスターを守るために猛攻を避ける事が重要だ！』

急加速するゼウスの通り道から槍のように先端が鋭い蔓がボコボコと突き出てくる。あんなの串刺しになっちゃう…！！

『マスター、森の主に近づくぞ！』

「うん！！」

皆は大丈夫。絶対大丈夫。皆を信じて僕とゼウスが何とかするんだ！！

『見つけた！

この魔力は蔓の根源でもあるだろう！！』

「攻撃して止めさせる！【天帝神雷・天誅】！！」

神杖から雷龍が勢いよく飛び出す。

龍の後ろにピッタリマークしていると龍が口を開いた。そして噛み付いた直後、破裂音が鳴り響き雷龍が消滅した。噛み付いた場所には火傷や焦げ目が無い。

『マスターの魔法が…』

「効かない…？」

蔓は止まり、僕とゼウスは上を見た。

すると紫色の巨大な狼がこちらを見下していた。瘴気を纏い、頭には鹿のような白が紫を薄らと帯びたような立派な角。額には模様があり目には瞳孔が無く、眉間に皺を寄せて唸り声を上げていた。

「…」

森の…主だ。地面を抉る大きな4本足と爪も…

『何と哀れな…。堕天《アンヘル》の力をこれでもかと感じるぞ…！』

堕天《アンヘル》！？

焦りからか僕はゼウスの神聖な服を掴んでいた。

「た、助けよう！

ゼウスなら出来るでしょ！？」

『…』

ゼウスの辛そうな顔が全てを物語っていた。

もう助からないと。

で、でもまだ行動してない！！やってみなきゃ分からない！！

ゼウスがやらないなら僕がやる…！！

「【エクソルキズモス】！！」

白い光が森の主を包む。お願い、効いてくれ…！

〈グァアゥウッッ！！〉

唸りと共に光が掻き消えてしまった。見た目も変わっておらず効いていないことが分かる。

そんな…本当に助けられないの…？

『迷っている暇は無い。

苦しみを終わらせてやるのもまた救いだ！！』

「でも！」

『マスターはコイツにこのままずっと苦しめと言うのか！！』

「そんな訳ない！！」

『なら！！…終わりにしてやろう。今此処で。守る物を望まぬ力で自ら壊すなど…私には耐えられん。』

「それは…そうだけど…っ」

『それに攻撃して来ないだろう。足元をよく見ろ。』

ゼウスに言われて視線を向ける。

森の主の足は震えていた。力の入れすぎでか…？

〈ゥウウゥゥウウウッ！！！〉

『耐えているのだ。暴れぬように、私達に託すために。自分の事は自分が1番分かるんだ。』

「…っ」

自分が…ならもうやるしかないんだ…。

君は何も悪くないのに…！！

「ごめんね…っ！！

もう終らせてゼウス！！」

『偉いぞマスター！！

安らかに眠るが良い、森の主！！』

ゼウスから巨大な雷が発せられた。その雷は森の主を包み、苦しみの声をあげさせる。

ごめんね、本当にごめんね！！

せめてどうか安らかに…っ！！

雷が消えた後、森の主は木を倒しながら倒れた。立ち上る湯気が苦しんでいた声を頭の中で再生させてきて辛い。

『………』

ゼウスが目を見開いて固まっている。

ゼウスもやっぱり辛いんだな…。

『…まずい。』

「え？」

ゼウスの額から汗が一筋流れた。