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第122話『濁った森』

第122話『濁った森』


前回のあらすじ


いきなりユリウスさんがヨシュアに電話を掛けたから何事かと思ったら僕もシャル君と共にディアレスさんに呼び出された。

内容はここから少し遠い祈りの森に異変が出たらしい。

それに、リンネさんも怪我したとか。

大丈夫かな…。



「…リンネ、リンネ聞こえる…!?

やだっ…死なないで!!」


医院長シュヴァルツ=ルージュは現在、負傷し意識不明のリンネ=コウキョウの治療にあたっていた。今彼の額には汗と恐怖が滲んでいる。


『マスター落ち着け!お前が取り乱すな!!

大丈夫、大丈夫だ!今までと同じように救けるんだ!!』


召喚獣アスクレピオスが彼の隣でリンネの患部である腹部に回復魔法を施しながら主人を宥める。


「うぅうぅぅ…っ!!」


シュヴァルツは血が滲むほど唇を噛み耐え続け回復魔法を掛け続ける。


『(まずい…負傷者が仲間だからかマスターの発作が…!ただでさえ傷が塞がらない異様な傷なのに今マスターの発作が起これば大変な事になる!)』


「血がほんの少しずつ出てる…あぅ…リンネの血が足りない…っ!今貧血状態…!

はぁっ…はぁっ…ゆ、輸血!

輸血の用意して早くッ!!」


シュヴァルツの指示で動いていた看護師の1人に新たな指示を出す。


『チッ何なんだこの闇の痕のような黒い傷は…何故私の回復魔法が効かぬのだ!!くそっ!!』


アスクレピオスの焦る脳内に1人の神が思い浮かぶ。


『また…いや、弱音を吐いている場合ではない。

マスター、魔力を寄越せ。』


「え…?」


『私の力の最大を掛け続ける。ラブラビ(兎女)が着くまでは持ちこたえてやる!』


「…アスクレピオスは…」


『言っている場合か!!

召喚獣は休めば魔力も戻ってくる!!

今救けるはマスターと同じ人間だ!!

こんな事を言う暇すら無いのだぞッ!!』


「っ…分かった…!!」


アスクレピオスの気迫に気圧されシュヴァルツは頷き彼の手を上から握った。


『ふん、偉いぞマスター…【冥界別離コラスィ・コーリスモス】!!』


「がんばれ…りんねぇ…っ!!」



「あの、ディアレスさん。リンネさんは…」


ワイバーンに乗って移動しているこの時間に聞こうと思い、僕がしがみついているディアレスさんに声を掛けた。


「夜中リンネが1人で城の見回りしている時、何者かに奇襲されたらしい。」


「え…」


ディアレスさんの横顔がくしゃりと歪む。


「本来見回りはヴァルハラ2人、城の兵士達が行っているんだが…リンネが一人で行くと言って聞かなかったとアムレが言っていた。」


こんな時でも名前間違えちゃうんだな。


「アムルさんと見回り予定だったのですか。」


僕の後ろに居るシャル君が質問をするとディアレスさんは頷いた。


「あぁ。リンネはネームレスと話していたから何か感じ取ってアムルを連れて行かなかったのかもしれねぇ。」


アムルさんを守る為に…?


「でもそれなら尚更誰かを連れていくべきじゃ…それか言えば良いのに…」


「…」


「え、エクス君!それはディアレスさんも強く思っているはずです…!」


「えっ!あ…!す、すみません!!」


そ、そうだよな!!僕が思うくらいなんだからもっと近い仲間が思わないはずがないよな!申し訳なさすぎる!!

僕の馬鹿!!


「いや…アイツなりに全員を守ろうとしたんだ。ネームレスの見張りをしていた兵士は鉄格子の鍵を持ってなくてリンネが持っていたらしい。」


襲ったのがネームレスの仲間なら召喚獣が解錠の力さえなければ狙うは兵士よりもリンネさんになる…。


「まるでリンネさんがこの事を分かっていたかのようですね。」


シャル君の言葉に僕もディアレスさんも頷いた。


「ネームレスから何か聞いていたのか、察したのかは分からねぇ。それにリンネは頑張った結果怪我してんだ。俺は俺の仕事を熟す。」


真剣な時に名前を間違えなくなったディアレスさんはワイバーンの手網をぎゅっと握りしめた。


「リンネは大怪我して兵士は数人死んだ。

ネームレスは逃げた。…絶対許さねぇ。」


ディアレスさんの怒りを現すように暗雲が立ち込めてきた。



「城へ簡単に侵入されてしまった事に驚いていますよ。私の目が行き届いて無かったとは。」


ユリウスさんは静かに呟いた。


「…と言うと?」


俺が聞くと眼鏡を中指で押し上げこちらを向いた。


「兵士が買収でもされていたのかもしれませんねぇ、という事です。」


「有り得ない話じゃないですね。もしくは兵士になりすましていたりして。」


俺に掴まっているレンが横から口を出す。


「いえ、兵士は本人でしたよ。きちんと生きていました。」


ちゃんと答えてくれたユリウスさんに対して口を尖らせるレン。


「じゃあ買収ですかねー。」


「我が王がこの時点で狙われていないことは幸いでしたがね。」


オーディンの召喚士である王様。

あの御方の統治があるからこの国は良く廻っている。その人を潰すため念入りに用意しているのか?アビス達は何が目的なんだ?


「…」


ユリウスさん黙っちゃった。けれど凄く分かる。ユリウスさん…


めっちゃ怒ってる。


暫くはこの話しない方が良いな。レンも同じ考えだったのか黙った。でも俺の肩に顔をうずめるのやめて欲しい、ウザイ。


「ヨシュア君、俺眠い。」


「知らな…知るか。」


「ねぇねぇ何で言い直したの?」


「おやおや、喧嘩はいけませんよ?

お友達は大切にね。」



「あれだ。」


ディアレスさんが下の方を指さした。

見えたのは紫色に染まる森のような場所。

周りに黒っぽい煙みたいなのが漂っている。

祈りの森って緑でもっと長閑だったはずなのに今は…


「不気味…。」


「本来はもっと温かい場所だ。温厚な魔物も植物も等しく育つ場所。それを統治していた森の主に何かあったのは間違いねぇとユリウスが言っていた。」


無事じゃないのは見てわかるもんな…。


「降りるぞ。」


ワイバーンを下降させ森の手前で着地した。

カッコよく降りたディアレスさんはワイバーンの首に何か括りつけた。


「それは?」


「俺らが森に着いたぞーっていう手紙だ。

待機しているアーヴァンやアムルに伝える物なんだ。万が一全員死んだら誰も助けに来れないだろ?」


「死ん…っ!??」


シャル君が息を飲むとディアレスさんはケラケラ笑う。


「っはは!誰も死なないから安心しろ。

お前達だけは絶対生きて帰すから。」


リンネさんもその気持ちだったんじゃないかな…。ディアレスさんは今の僕達の気持ちだろう。ちらりとデバイスを見るとアイオーンがしょんぼりしていた。


『ただいま圏外です。

通信手段はございません。』


「だよね…。」


だからワイバーンが行ってくれないとダメなんだ。


「よし!終わったら戻ってこいよ!」


ディアレスさんがワイバーンをぺちっと叩くと小さく唸って城へ向かい飛び立った。

…怒ってるんじゃないよね、あの唸り。

あ、隣にもう1匹見える。という事は…


「エクス!シャル!」


「ヨシュア!」


ヨシュアがこちらへ来た。後から歩いてユリウスさんとレンが来る。

ディアレスさんの隣に立ったユリウスさんは眼鏡を押し上げつつ口を開いた。


「さて、皆さん揃いましたね。

ここからはなるべく全員で行動です。

全員が未知の領域ですのでくれぐれも単体行動は避けるように。」


僕はそれ以前に怖くて1人は嫌だ。

いつの間にか死にそう。


「目的は森の異変の原因を探し出し対処する事です。些細なことでも構いませんので何か気付いたら話してください。」


全員ユリウスさんに頷いて不気味な森の中に入った。

辺りは枯れ木、鬱蒼と生い茂る紫に変色した植物でいっぱいだ。生暖かい湿った風が肌を撫でてきてとてつもなく不気味。


「…」


急に前を歩いていたユリウスさんがしゃがみこんで変色した植物を指先で触る。

すると植物は黒い灰となって消えてしまった。


「ふむ、この森に流れていた魔力が瘴気で汚染されているからあまり吸わない方が良さそうだ。シャーロット君。」


「は、はい!」


「アルテミスにバリアを付与して頂きたいのですがお願い出来ますか?」


「分かりました!アルテミス、来て下さい!

【summon】!」


月が煌めく魔導書からアルテミスが現れた。

この異様な周りでも純白な彼女の綺麗さは変わらない。


『はーい!呼ばれて参上アルテミスでーす!

って何ココ!!』


「アルテミス、瘴気が溢れているので守って欲しいのです。」


『勿論よシャル!私に任せて!

【月光花の守り】!』


アルテミスが祈るように手を組むと自分に優しい光が纏ったのが分かった。

彼女はシャル君の肩に手を置いてフワフワ浮かぶ。その顔は困り顔だった。


『こんなところ、長居はダメよ。良くない気で溢れてるわ。シャルが変になっちゃう!』


頬を膨らませるアルテミスにユリウスさんは呆れ顔で


「そのつもりですよ。」


と言ってまた歩き始めた。

奥に進むにつれ魔物の死体などが増えてきた。皆白目だ…苦しかったんだろうな。

どうか安らかに、森の主は任せてください。


「ん…?」


レンがふと立ち止まって左の方を向いた。


「どうしましたレン君?」


「あの場所だけ緑じゃないです?」


レンが指さす方向は死んだ森の中なのに1部分だけ生きているような…円状の安全地帯のような場所があった。元の緑がぽつんのある切り株を守っているみたいな感じだ。


「どうやらあの場所だけ被害が無いようですね。」


何故あの場所だけが被害を受けてないんだ?


「もしかすると他にも同じような安全地帯があるかもしんねぇな。行こうぜ。」


ディアレスさんはユリウスさんを抜かして歩き始めた。僕達は走って追いかける。


「植物さん達…苦しそうです。」


シャル君の悲しそうな呟きが聞こえ、目を向けるとアルテミスが彼の頭を撫でていた。


『シャル…私もそう思うわ。早く助けてあげましょう。』


「はい。じゃないと森を住処にしている生き物全てが死んでしまいます。そんなのダメですっ!」


シャル君の言う通りだ。

一刻も早く助けないと…



ドシンッ


ドシンッ



「うわわっ!」


急に身体がよろめく程の地震が!!


「これはっ…地震じゃありませんね。

何かの足音です!」


ユリウスさんが声を上げた直後


バキバキバキッ


と木々をへし折る音まで聞こえてきた。

まだ音は小さいけどだんだん大きくなってきている。これはどう考えても…


「何かがこっちに来てるぅううぅっ!??」


「皆さん走りますよ!!」


ユリウスさんとディアレスさんに続いてひたすら走る。

音が遠のいてきたのを確認しゆっくり歩く。


「はぁ…はぁ…っな、何だったんだ?」


汗やばい、冷や汗と走った汗が。


『膨大な量の禍々しい魔力を感知したわ。

とても辛そう…』


アルテミスが言うなら間違いないだろう。

その正体は多分…


「森の主、かもしれないね。」


皆がヨシュアに頷いた。ユリウスさんも言葉を繋げる。


「森の主の魔力が行き渡っているこの森ですから、森の主の魔力が何者かによって汚染されてしまってこの状態と考えるのが妥当かもしれませんね。」


「何にせよヤバそうなのは確かだ。正面衝突は避けたいところだな。」


そう言うディアレスさんは平然としてるけどあんな足音する奴って絶対大きいじゃん!!

枯れ木ばかりでも残って変色した植物は生い茂っているから姿も見えないけど!!


「ですが森の主を止めないとこの問題は解決しないと思います。」


「うーん…まず何がどのように森の主を苦しめているか確かめないと。」


レンの言う通りだ。こういうのって大抵トゲだったり矢だったりが刺さっているもんだと思うけど見ないと分かんないしなぁ。

恐怖のモンスターになった主に追われるのか…


「きゃああぁああっ!!!」


「!??」


お、女の子の悲鳴!?

何でこんな所に人が!?


「何故こんな所に人が…急ぎましょう!」


ユリウスさんに返事して声の方へ走った。

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