第112話『褒め殺し』
前回のあらすじ
話しかけてきた子はリリアンさんの大切な友達、
テト=カムイちゃんだった。
彼女も他の堕天被害者同様にあの時の記憶が無く、知りたがってたので全て話した。
聞いたテトちゃんは召喚獣のオロチを呼ぼうとするも出てこず、ゼウスがテトちゃんだけでなく、寝ていた全員のその症状を一瞬で治してくれて…自分がそこまで出来なかったのを痛感しました。起こした人達の中でまだ召喚獣が出ない人が居ないか確認してきます。
…
「こ、こんにちは〜…」
を何回言ったことだろう。そして全てに
「良かったです。安心しました。」
と言った。
つまり、全員無事に召喚獣が出るようになっていたのです。
「流石ゼウスだね…」
僕は隣で浮いているゼウスに話しかけた。
『ふふん、私だからな。』
ちょっとドヤ顔がムカつく。でも反論は出来ないから我慢。するとゼウスはふと顔を上げた。
『む…?アポロンとアスクレピオスの気配が…走り回ってるな。医神共が何をしているんだ全く…』
「と、止めに行こう!」
…
ゼウスの後について行くと子供向けの飾り付けがしてあるナースセンターの周りをグルグル回る親子の姿が。
『そこに直れクソ野郎がッ!!』
『やぁーん!誰か助けてぇえ!!』
その2人は入院している沢山の小さな子供達に何してんだコイツらという目を向けられているのにも関わらず追いかけっこし続ける。
アポロンは兎も角アスクレピオスのその後が色々と大変なことになりそうなので止めないと。
「ゼウス、止めて。」
『あいわかった。』
ゼウスが右手を広げ、力強く握りしめた瞬間、光の輪っかが2人の胴回りに現れ、腕と胴を締め上げた。よく見たら足にも!
『『ぐえっ!!』』
大胆に転けた2人を見て子供達は大喜び。
「ふっ…!!」
僕も笑いそうになったけれど笑ったら即死が待っているのが分かったので必死に堪える。
『何をしとるんだ貴様らは。』
地に伏せている2人の前に着地したゼウスは呆れ顔で腕を組む。アポロンは口を尖らせ、アスクレピオスはそっぽを向く。
ゼウスが彼らを見下し続けているとアポロンが口を開いた。
『だって…話したいのに避けられちゃうから…』
アスクレピオスも鼻を鳴らして口を開く。
『誰が貴様と話なぞするか。時間も空気も勿体ない事極まりない。』
「その割には楽しそうでしたよ、アスクレピオス。」
つい声に出してしまい、アスクレピオスの鋭い睨みを受ける。
『殺すぞ…?』
「すみませんでしたっ!」
やっぱ怖いよこの神!!
『ったく…喧嘩両成敗!!』
ゼウスが拳骨を2人に落とした。今までに聞いた事の無いくらいの重い音が辺りに響き、驚いた子供達が離れていく。
『『…』』
出来たたんこぶから湯気が見える。
2人はピクリとも動かなくなってしまった。
「ぜ、ゼウス力加減…」
『……間違えた。』
珍しくゼウスが本当にやっちまった感の顔をした。本当だからだろう。
「嘘でしょ!??しゅ、シュヴァルツさんに連絡を…ってデバイス置いてきたんだった!!」
『か、回復させるから安心しろマスター。』
『ははは』と笑いながら指を鳴らすと、2人の周りに緑色の魔法陣が現れ、シュワシュワと消えていく。
『…マスター、どうする?』
「気絶してるよね…。タナトスに見張りを頼んでデバイスを取りに行こう。【summon】!」
魔導書から新たな召喚獣、タナトスを出して2人を見張ってもらう内にゼウスが一瞬で病室に戻してくれた。
「エクス君!」
「メルトちゃん!皆!」
病室のベッドには皆が居た。話したいけど今はそれどころじゃない!
「ごめん!また後で!ゼウス!」
『うむ!』
すぐにタナトスの元へ戻って2人の様子を見ても気絶から回復していなかった。ゼウスわざと状態異常回復魔法使わなかったな…。
シュヴァルツさんに電話…っと。
通話ボタンを押したらアスクレピオスから着信音が聞こえた。
そういえば僕が電話した時に出たのはアスクレピオスだったな…。ならヨガミ先生だ!
また通話ボタンを押すと今度はアポロンから着信音が聞こえた。
…アスクレピオスが怒った原因の盗撮に使ったのヨガミ先生のデバイスだったなそういえば!!スピルカ先生に電話しよ…。
{もしもーし!エクスどうしたー?今日は外に出なきゃ何でもいいぞー?}
「あ、えっと実はアスクレピオスとアポロンが気絶してまして…回収して欲しいなぁって…思いまして…。」
{え、マジ?ヨガミーアポロン居たって。}
スピーカー越しにヨガミ先生がスピルカ先生のデバイスをぶんどった音が聞こえた。
{エクス今何処だ!!}
「こ、子供の…エリアに居ます!」
{子供のエリア…?あそこか!すぐ行く!逃がすんじゃねぇぞ!!}
凄い剣幕だったな…。ヨガミ先生が着たら帰ろっと…。
少しするとヨガミ先生が走ってきた。とても怖い顔で彼を見た子供が数人泣いたほど。
倒れたアポロンを見た瞬間、彼の首元を掴んで捲し立てる。
「テメェめっちゃ悲しそうな顔で息子と話すためにこれ貸してなんて言うから貸してやったら息子盗撮してんじゃねぇよ親バカが!!それをスピルカに送ってんじゃねぇだアホが!!心配した気持ち返せ馬鹿が!!」
凄い教育に悪いワードばかりだ。ヨガミ先生の走りで周りに子供が居なくなった事が幸いだな。
『ま、まぁまぁアポロンのマスター…お、落ちつけ…』
「だぁってろ元凶がッ!!」
『あい…。』
ゼウスまで黙らせちゃったよ…。
ヨガミ先生はまだ気絶しているアポロンを引き摺ってエレベーターまで行ってしまった。
残るはアスクレピオスだけど…
『ぅ…うぅ…っ』
あ、気がついたみたい。
「アスクレピオス、大丈夫?」
声を掛けると腕の拘束が解けたからか頭を擦りながら僕を睨みつける。
『これが大丈夫に見えるなら目ん玉に針を刺して薬を入れてやる…!』
想像しちゃった気持ち悪っ!!
『あー…すまなかった。つい力加減を間違えて…』
ゼウスが申し訳なさそうに頭を掻くとアスクレピオスは舌打ちをした。
『チッ…貴様に力加減という言葉があるとはな。あの雷霆ほど間違えたモノはあるまい。あの肌が焼ける感覚を今でも覚えているのだからな。』
『ぅ…』
これは…まずい雰囲気だ。話を変えよう。
「あ、アスクレピオス…あの眠っていた生徒達、やっぱり召喚獣が出せなくなっていたから治しておいたよ。コレを伝えたかったんだ。」
一瞬目を大きくしたアスクレピオスだったけどすぐに目を逸らした。
『…ふん。私が頭を下げたのだ。それくらいしてもらわねば困る。』
あ、頭下げられた覚えは無いんだけどなぁ〜…。
『足のこれも外せ、立てない。』
落ち着きのある声と瞳でゼウスを見た。ゼウスはそれに驚きながら
『う、うむ…』
と返事をして拘束を解いた。
スクッと立ち上がり膝に付いたゴミをポンポンと叩いたあと、光の速さでゼウスに杖の先端を突きつけようとした。その速さにも反応したゼウスは彼の杖を掴んで刺さらないよう阻止している。
『不意打ちしおって!危ないだろう!!?』
『チィッ!!』
大きな舌打ちと共に杖を消し、ゼウスが呆気に取られた瞬間、腹部に右ストレートを入れた。
『ぐふっ!?』
「えぇ!?ゼウス!?」
てっきり避けるかと…
『だ、抱きついてくれるかと…思った…っ!』
膝をついた最高神は口から小さく吐血している。殴った本人は手をプラプラさせて睨みつけた。
『誰がそんな気色の悪い事をするか馬鹿。さっさと行け、顔も見たくない。』
『あぅ…』
「い、行こうゼウス。ではまた、アスクレピオス。」
『ふん。』
背中を向ける彼はそのまま歩いていってしまった。
「アスクレピオスの方が先に行っちゃったね。」
『うむ…』
「僕達も戻ろ!」
『うむ!』
ゼウスはまた病室へと戻してくれた。彼は魔導書に戻って僕は皆と話すことに。テトちゃんの事も話した。
「カムイさんが!?良かった…。」
瞳を潤ませて安堵するリリアンさん。
「テトちゃんも心配してたよ。」
「大変なのはカムイさんの方なのに…お優しい方。アーシェさん、ありがとうございました。アルファクラス代表として御礼申し上げます。」
リリアンさんはベッドの上で深々と頭を下げた。
「そ、そんな!当然のことしたまでで!」
首と手を横に振る僕をリリアンさんは凛とした眼差しで見つめてくる。
「その当然の事によって彼女達は救われたのです。貴方が居てくれて良かった…。」
「えっと…」
「賞賛は素直に受け取っておきなさい。エクスちゃん。」
スカーレット君にそう言われたけど…こうも褒められたことが1度も無かったから変な気持ち…。
「僕からも賞賛を送ろう!我がライバルよ!良くやった!」
隣から薔薇が1本飛んできた。
「あ、ありがとう…」
「ローランド君!私にも薔薇頂戴!」
メルトちゃんがローランド君に手を伸ばす。
「良いだろう!」
彼は先程のように投げる事はせず、メルトちゃんに薔薇を手渡しした。
「わ、私も…」
「クリムも!」
「あたしも!」
お、女の子が全員薔薇を…!ブームなのかな!?
そんなことはなく、メルトちゃんが僕の目の前に立った。
「お疲れ様、エクス君!ローランド君からの受け渡しになっちゃうけど…」
可愛い笑顔で薔薇を差し出してくれた。
「あ、ありがとう…!」
次はリリアンさん。
「御礼はいくら言っても良いですよね。助けて下さりありがとうございます、アーシェさん。」
「ううん…」
今度はクリムさん。
「クリムを起こして下さり、ヨフィエルとも会わせて下さってありがとうございました!貴方に救われたのですよ!」
「う、うん…!」
スカーレット君の殺気が…!!
でも最後のイデアちゃんのお陰で殺気が消える。
「エクス君がめっちゃ頑張ってるの、あたし達みーんな知ってるからね!」
その言葉が嬉しくて泣きそうになる。皆の前では泣かない!
「褒め殺しだねぇエクス君。ま、本当の事だけどね。」
レンが隣で腹立つ顔をしながらそう言う。顔はムカつくけど悪い気はしない。
「よいしょ…」
え!シャル君が立った…!?
アルテミスに支えられながらシャル君がこちらに向かって歩いてくる。途中、ローランド君から薔薇を貰い、僕に差し出す。
「あの時は力になれずすみませんでした。病院でもオレ達よりもうんと頑張っていたエクス君の力になれるよう、頑張りますね。」
「十分力になってくれたよ。僕は何も…ふべっ!」
顔面に薔薇が!!投げたのはスカーレット君。
「素直に受け取れっつったでしょ。アンタの頑張り、皆知ってんだから。良い気になってなさい。」
「…うん。」
やばい、泣きそう…。気が付くと目の前に笑顔のヨシュアが。
「俺が1番エクスに迷惑をかけたからね。薔薇1本じゃ足りないや。だからこれからは自分に負けないと君に誓う。そして学校でエクスにもゼウスにも勝ってみせるよ。」
薔薇の代わりに拳を向けるヨシュア。僕も頷いて拳を当てた。
薔薇は造花らしく貰った輪ゴムで一纏めにして紙コップに立てかけた。
夜には少し豪華なご飯が出て、自分達の制服と紋章が返ってきた。
明日学校に帰って授業が始まる。
そしてヴァルハラとのアビス探しも。
もう学校であんなことが起こりませんように。もし起こっても対応出来るように強くならないと。
僕はゼウスという最高神に選ばれたのだから。さぁ、明日に備えて寝ようっと!
最後の病室での就寝。だから皆で挨拶をした。
みんな、おやすみなさい!
次回、学校に戻ります!