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第110話『変神と変人』

台風凄かったですね…。皆さんは大丈夫でしたか?もしこれが休息のお供になれば幸いです…!

前回のあらすじ


昼間の女性の腕がホムンクルスのようになってしまい、ゼウスの助けを借りたアスクレピオスが必死に

治してくれました。その後少しの不安が残りつつも

僕は病室へ戻って寝ることに。


 …


「ん…」


勝手に目が開き、

脳が覚醒しようとゆっくり動き始めたのが分かる。


「ふぁあふ…っあー…」


身体を起こし、欠伸と伸びをした後に見えた周りは

既に明るく、朝になっていた。

あれ?この明るさなのにやけに静かじゃないか?

皆まだ寝てるのかな。でも何だろう。

少し不気味だ。ベッドを覗き込むように再び辺りを見回すと



 病室に僕だけしか居なかった。



「えぇ!?」


な、何で!?ま、まさか誘拐!??

ネームレスが恨んでて仕返しに来たとか!?

でも不思議と掛け布団が整っている…

な、何か連絡手段は!?あ、僕の枕元のデバイス!


「アイオーンッ!!」


デバイスに向かって声を荒らげると涼しい顔をした

アイオーンがGood morningという文字を浮かべていた。


『エクス様、おはようございます。

よく眠られましたね。』


「いやあのみみ皆に、友達に電話をっ!!」


『電話ですか?畏まりました。友達…学生の皆様に

まとめて電話をお掛けします。Calling…』


お願い!早く出


 ブーッ…ブーッ…


「!?」


部屋の中からバイブが聞こえる…まさか!!


ベッドから下りて皆の枕元を確認すると

全員デバイスを残していた。


な、何で!??


『出られません。位置情報はエクス様のお近くに

全て収束しておりますが…』


「うん…皆置いてってた…。」


『なんと…ではエクス様、一先ずこちらのメールを。

シュヴァルツ=ルージュ様からでございます。』


シュヴァルツさん?でも今見てる暇無いんだけど…

と思いつつ画面を見る。


[差出人:シュヴァルツ=ルージュ

 宛先:エクス=アーシェ

昨日はありがとう。君は疲れちゃっていたからか

大爆睡していたので敢えて起こしませんでした。

他の皆は先に検査を受けているから、起きたら連絡してね。アスクレピオスに迎えに行ってもらうから。

それと電波を放つから検査室へ向かう時デバイスは

置いていってね。]


そう書いてあった。検査?皆は検査で居ないってこと?デバイスもその為に置いていったってこと?


「よ、良かったぁ……」


てっきり連れ去られたのかと思った…杞憂だった…。


『文面に起きたら連絡してね、と書いてあります。

電話しますか?』


「うん。シュヴァルツさんに繋いで欲しい。」


『畏まりました。シュヴァルツ=ルージュ様へ

お繋ぎ致します。』


やがて目を閉じたアイオーンがシュヴァルツさんの姿になる。…シュヴァルツさんはデバイス使って良いのかな?いや、この疑問はしまっておこう。アイオーンの姿が変わったってことは繋がったって事だよね。


「お、おはようございます。エクス=アー」


{遅い。}


「へ?」


 耳に入ってきた声はシュヴァルツさんより低く、

何処かで聞き覚えのある苛立ちを含んだ声だった。


{起こされないのを良い事にいつまで寝ているつもりだったんだ貴様は。だらしのない。}


この声まさか…


「あ、アスクレピオス?」


{ぁ?}


正解のようだ。アイオーンの姿がいつの間にかアスクレピオスに変わっているし…。声だけで威圧感が凄い彼と話をするのがとても怖い。でも話さなきゃ進まない。


「あ、あの〜…」


{チィッ!マスターから頼まれた故に貴様を迎えに

行く。頭を床に付けるほど感謝しろ。}


「ハイ。アリガトウゴザ」


 ブツッ


切られた…。あんな大きな舌打ち聞くのいつ以来だろう。小さく溜息を吐くと不思議な事に扉が勢いよく開く。


『お目覚めの気分は如何かな?

寝坊助大馬鹿者さんよ。』


開けたのは壁にもたれて絵になるアスクレピオスだった。電話切ったのほんの数秒なのに…


「え?早くないです?」


『貴様は何も自分で考えようとせんのな。

少し考えればわかるだろう。

何故私がマスターと一緒に居ると思っているんだ。』


も、もしかしてずっと…?


「部屋の外で待っていてくれたんですか?」


『違う。』


返答も早い。ちょっと傷付くな…。


『お前の為に待っていた訳では無い。

マスターの為だ。自惚れるな気色の悪い。』


「スミマセンデシタ…。」


相変わらず鋭い言葉のナイフで深く傷付いた。

でも良かった、元気そうだ。


『さっさと来い。貴様には別件もあるのだから。

…それと話の最中はゼウスを絶対に呼ぶな、分かったな。』


目がヤバい。圧が凄い。怖くて僕は何回も頷いた。

そして向かった先は検査室。


『入れクズ。』


扉を開けてくれたアスクレピオスの暴言は兎も角

言われた通り部屋に入る。


「(クズて。)…分かりましたよ。失礼します。」


「おはよ、エクス君?」


セクシー女医のフェリア先生が網タイツが似合う足を組んでいた。相変わらず刺激がお強い!


「おっおはようございますっ!!」


「早速検査するわよ。アスクレピオスも手伝って。」


『どうせ面白い症状もない普通野郎だ。

私が出るまでもない。娘だけで十分だ。』


フェリア先生は腕を組んで扉に凭れていたアスクレピオスに目線を向けるが、彼はフンと鼻を鳴らし顔を逸らした。そんな愛想の無い父親を見てヒュギエイアが眉を下げて困っている。フェリア先生もアスクレピオスの返答を予想していたらしく驚きもせず頬杖をつく。


「らしいからヒュギエイア、お願い。」


『!』


頑張る!といった感じでグッと拳を作るヒュギエイア。

性格が父親に似なくて良かった…。


『ヒュギエイア、ゼウスのマスターに何かあれば

荒療治で構わん。クソほど丈夫だからこれを機に実験して医療に役立てろ。』


なんてこと言うんだ!?あー目が輝いている!!

フェリア先生は止めもせずお腹を押さえてケラケラ笑っていた。やっと笑い終わったかと思えば涙を拭ってヒュギエイアに微笑んだ。


「だってヒュギエイア。

さっさと終わらせちゃおうか。」


先生の顔が心做しか怖い笑顔に見えた。


「痛いのあっても一瞬だから。死にそうになれば

ヒュギエイアが助けるから安心してね。」


「死にそう!??いや、あのちょっとま」


その後、僕の断末魔がフロア全体に響いたのは言うまでもない。


 …


「し、死ぬかと思った…」


意識が遠のいている…。

本当に殺されるかと思った…。


「お疲れ様エクス君。結果、やっぱ元気だったよ。

だからこそそんなエクス君に頼みたい事があんの。

アスクレピオスが。」


アスクレピオスが?


『チッ…貴様が言う手筈だろう。』


「いーじゃん減るものじゃないし。」


『私の善意が減る。』


この神は僕への善意があるのか。


『何か言いたげだな。』


「め、滅相もない!!」


彼にギロリと睨まれた僕は蛙に見えていることだろう。さぁ、怒号が来るぞ…と身構えるけど聞こえたのは小さな溜息だけ。


『…今日は特別許してやる。だからついてこい。』


言葉少なく部屋を出てしまうアスクレピオス。

もう行って良いのかな?フェリア先生に確認しようと振り向いたら目が合った。


「医者をちょっと助けて欲しいの。よろしくね。」


優しい笑みに頷いてドアに手をかける。


「わ、分かりました。失礼します。」


「あーい、お大事に。」


 …


アスクレピオスが僕を招いたのは病室だった。

赤の他人ではなく、関わりが無い男子生徒の。

そうか、明日学校へ帰るとは言っても全員起きた訳

じゃないんだな。

アスクレピオスはベッドで眠る生徒を心配そうに

見てから僕に視線を移した。


『…不本意ながら貴様には目覚めない生徒の治療を頼みたいのだ。

助けを借りることに対してはもう吹っ切れたからな。

ただ、祖父だけは気に食わんが。』


凄い心境の変化だ。色々考えたんだろうな…。

勿論、僕に出来ることなら助けたい。


「僕で良ければ手伝います。」


『ふん。で、ゼウスが居ない貴様は使えるのか?

浄化する魔法を。』


それは魔導書を見ないと分からない。

無言で魔導書を開いて回復魔法の内容を見始める。

浄化の魔法っていうと状態回復魔法かな。

文面に目を走らせていると、珍しくアスクレピオスが話しかけてきた。


『おい、貴様もしやこれを全て使えるとか抜かすのか?』


「ぬか…そんなんじゃないですけど使えますよ。」


『とても学生が使える代物ではないものまであるとは…強さのバランスぶっ壊れてるな。』


「はは、自分でもそう思います。

うーん…あ、それっぽいモノありました。」


『どれだ。』


横から覗き込んでくるアスクレピオスに魔導書の

とあるページを指差しながら見せる。


「コレです、この闇を祓う魔法です。

もしダメなら他の回復魔法を使えば良いと思うので…使って良いですか?」


『貴様が倒れん程度にな。

タダの魔力切れの人間の患者などつまらんからな。』


患者に面白さは求めないで欲しい…。


「い、いきますよ。【エクソルキズモス】!」


ゼウスの光杖の先を男子生徒に向けて詠唱した。

緑色の光が出るかと思いきや白く眩い光が部屋中を包む。光が収まり始めた時に目を開いたけど男子生徒が特に変わった所がない。


「…失敗?」


『いや。』


アスクレピオスが放つ2文字の否定の後、

男子生徒がゆっくりと目を開いた。


「…ここは…」


目をゆっくりと左右に動かし、状況を把握しようとしている彼に対してアスクレピオスが


『目覚めたか。では貴様は検査室送りだ。』


詳しい説明をせず、

袖の中から黒い蛇を1匹布団の上に落とす。


「…蛇…?…ひぃっ!!?」


そうなるよね。


『その蛇が貴様を検査室へ案内する。

逃げたり踏みつけようとするならばこの蛇が追いかけその毒で死ぬからな。…おい、行くぞ。』


「あ、はい。えっとお大事に!」


きょとんとしている男子生徒に一言伝えて

アスクレピオスについて行った。


眠ったまま目を覚まさない生徒は想像よりも沢山いて、沢山魔法を使った。

皆、堕天アンヘルの被害で…僕が助けられるなら助けないと。


 …


「ふぅ…」


起こした人数は全クラスの半分は超えたかな。

流石に汗かいてきた。


『おい。貴様の魔力量どうなっているんだ?

普通の生徒も教師ももう倒れているぞ。』


「うーん…普通の人よりも沢山あるみたいですから

大丈夫ですよ。」


正直に言うとアスクレピオスは訝しげに見つめてくる。


『別に貴様の心配など微塵もしてないが…

興味が出た。終わり次第解剖(バラ)させろ。』


目が本気だ。許したら絶対死ぬ!!


「嫌ですよ!!第一、解剖で分かるのですか!?」


『…』


あっ目を逸らした!!分かんないんだ!!


「つ、次は何処ですか!」


『…こちらだ。チッ』


でっかい舌打ち…。


 …


さっき起こした女子生徒に笑顔でお礼言われちゃった!前までは皆が驚いている内に出て行っちゃったからお礼聞けなかったんだよね。


『ご苦労だったな。』


アスクレピオスは腕を組んで壁に凭れた。

歩みを止めたってことは。


「もしかして今の人で最後でした?」


『ふん。』


ふん、じゃ分からないけど多分最後だったんだな。


『そこに座れ。』


壁際の長椅子を指さした彼に従って汗を袖で拭いながら座った。正直ちょっと座りたいなと思っていたから有難い。僕の右隣にアスクレピオスが座った。

その後数秒固まった後、口を開く。


『貴様を甘く見ていた。そこは詫びよう。

貴様は祖父の召喚士なだけある。』


「え。」


アスクレピオスが僕に謝った上に褒めた!?


『勘違いするなよ。褒めた訳ではなく皮肉を言っただけだ。祖父は変神へんじん

貴様もそれ相応の変人だということだ。』


「へ、へんじん…」


虐められていた時でも変人とは言われなかったなぁ…。でも1つ言えるのは…


「僕から見たらアスクレピオスだって…

それに、普通のシュヴァルツさんも…と言うか

ヴァルハラ全員は変神と変人です。」


『ふん、同感だな。私だってそう思ってるさ。』


指を絡ませ顎を乗せるアスクレピオスは

珍しく笑っていた。


 カシャッ


かしゃ?え、何の音?

辺りを見回すと近くの壁からデバイスを構えていた

アポロンの姿が。あれヨガミ先生のだろうな。


『あ、やべ!』


僕と目が合うと足早に逃げていく。

それと同時に悪寒がする。その理由は言わずもがな、アスクレピオスの殺気。殺気を放ちながらゆらゆら

揺れて立ち上がる。


『…医神だからと言って…生命を救う事が使命だからと言って…殺神さつじんをしない訳では無いッ!!この(ピーッ)野郎が!!

今日という今日はぶっ殺すッ!!!』


コンプライアンスがん無視のアスクレピオスは走らず浮かび上がって飛んで行った。

仲は良いように見えるんだけどなぁ…。


「あ、あの。」


「はぇ?」


上から声を掛けられた気がして顔を上げると、お礼を言ってくれた黄緑色ウルフカットの女子生徒が緊張した面持ちで立っていた。


「先程はありがとうございました。

あの、貴方の事を聞かせてくれませんか?

えっと…神クラス代表さん。」

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