第108話『疑え』
やっと城下町から帰還しますよ…!
前回のあらすじ
ヨシュアに彼が倒れた後の会議での事を話しました。その後、物事を整理して歩き始めました。…正直アテはなく、アビス居るかなという思いを秘めてブラブラする感じです。
…
女性が切りつけられ、パニックが起こった噴水広場は何事も無かったかのように人で賑わっていた。流石都会…?都会っていうのか?
「この中から怪しい人を見つけるのは至難の業だね。」
ヨシュアの言う通りだ。通りが多く、人を横一列に見ても歩みを止めている僕達は通り過ぎる人全員を見ることが出来ない。怪しい人は目立つはずだけど…ネームレスのように紛れてしまうと分からない。
アイツはゼウス達に驚かないという反応で怪しんで捕らえることが出来た。逆に言えば反応が真逆であれば捕らえることが出来なかった。それほどまでに溶け込んでいたこと。多分そんな簡単に見つけられる相手じゃない。
見つけたとしても…此処で暴れられたら警備隊の人達と僕達が居ると言っても必ず死者が出てしまう。特定して一瞬で捕えられれば良いのに…。
「エクス、顔怖いよ。」
「えっ」
「もしさ、相手が俺達狙いなら都合良いんじゃない?」
「な、何で…?」
ヨシュアは満面の笑みで答える。
「だって他の生徒達よりも強いしこの事を理解しているもん。それに…何かあってもエクスとゼウスが助けてくれるでしょ?」
それは…そうだ。過信は良くないけど僕達は他の生徒と比べれば強い。何よりゼウスと絶対助けるとヨシュアに言ったし…。
「でも俺エクスに頼りすぎるのは嫌だ。かっこ悪いもん。カッコイイとこ見せてプロメテウスにマスターは大丈夫だなって思わせないと!」
「ヨシュア…じゃあ皆にどれほどカッコイイところ見せられるか勝負しよう。その方がもっとやる気でない?」
「いいね、乗った!」
僕達は普通の学生のように話して、笑った。その時のほんの少しだけアビスを、今回の件を忘れた。ほんの少しだけ、何も知らない学生に戻った。でもそんな呑気にしてられない。それはヨシュアも同じだったらしく、数分笑っていた顔が真顔に戻った。
「エクス、あのさ…まだ整理したいことがある。どうせ敵に顔バレしてるだろうから歩きながら話そう。」
「分かった。何について?」
「アビスやその仲間の目的について。」
「目的?」
「何で悪魔を呼ぼうとしているんだろう。」
「確かアビスは“僕はどんな手を使ってでも召喚士を殺す。悪魔を呼んだり怪物創ったりね。それが与えられた僕の役割。”って言ってた…はず。だから召喚士を殺す為じゃないかな。」
「そんな事を…」
あれ?あの場にヨシュアは…あ、そっか。過去ヨシュアだったから記憶が…。
ヨシュアは少し考えた後、口を開いた。
「悪魔を呼ぶ…つまり召喚?ならさ、何らかの儀式に依代が居ないといけないよね。ならアビス達は向こうからやってくるんじゃないのかな。」
「あ…確かに…。でもそれだと相手が万全の状態で来るってことだよね。怪物を創る…約1万のホムンクルスを短期間で作った奴だから…時間は与えられないと思う。」
「い、1万…。」
ヨシュアが生唾飲んだ音が聞こえた。
「言って思い出したけど学校の地下でホムンクルス作ってたんだよな、アビスは。」
「え!?学校の地下!?」
「うん…実は初めてホムンクルスに会ったあの時に壊れた壁…あそこに小さな部屋があって入口があった…らしいんだ。(レンの話によるとだけど。)作られた1体が逃げ出したのかな。」
「…先生も知らなかったの?」
「うん、そうみたい。会議で話を聞いた先生達もヴァルハラの人達も驚いてたし…」
「その内の誰かが演技だったら?」
「…え?」
「本当は地下を知っていてアビスがホムンクルスを作るのを手伝っていた人間が居るとしたら?」
「そ、それはつまり…先生かヴァルハラに…」
「裏切り者がいるかもしれない。」
その言葉で鼻筋と背筋が凍てついた。
血の気が引いているんだ。
「あくまで仮説。俺だって信じたくないし…でも疑う事も大事。裏切り者じゃないと信じる為に俺は疑う。」
「そ…んな……訳ないよ…先生達はヨシュアを守るって言ってたし…ヴァルハラの人だって…怖いけど…国民を守る為に…動いて…」
「かもしれない。でも俺を守るのは悪魔を統べる者になる奴なのだから傷付けたくない、とかだったら?」
「っ…み、皆優しいもん…う、疑いたくない…!」
「じゃあエクスは疑わないで良い。その代わり俺が目を光らせるから。それに1つ考えたんだ。先生達は裏切り者じゃない、全てはアビスの犯行だって。アビスが見つからないのは彼に変身能力があるから。入学許可を出す鏡を誤魔化せるほどの…例えば魔力ごと欺ける変身能力があって何年も学校に居続ければ秘密裏に出来るだろうし先生を近付けないようにすることも可能だろ?ほら、疑わなくて良い。」
「…気を遣わせてごめん…。」
「いいや?エクスは俺と違って優しいから。こういうのは俺の仕事。正直、先生やヴァルハラの中に裏切り者が居たら俺は容赦なくトリガーを引ける。なるべくしたくないけどね。」
「…うん…。」
ヨシュアの話…もし本当なら疑わなくて良い…。でも変身能力があっても召喚獣はどうなる…?召喚士は自分から召喚獣を還すことだって可能だろう。折角相棒になった召喚獣を切り離して…入学してを繰り返すのなら…最悪な野郎だ。…アビスなら禁忌に触れて…何か想像出来ない様なことをする可能性がある。存在しない人間になるとか壁すり抜けるとか。寧ろそれのが強い!なら先生達を疑わなくて済む!
それに…やっぱ疑いたくない。疑って疑心暗鬼になって不安になるくらいなら…信じきって裏切られた方が良い。ゼウスとなら対処出来るもん。絶対、絶対。
「ヨシュア、僕はやっぱり疑わない。信じきって裏切られることにする。それでその後に怒ることにする。」
「!」
ヨシュアは目を見開いて、やがてフッと微笑んだ。
「それがいい。エクスらしいや。」
「でしょ。よし!ショッピングついでに怪しい人探そう!」
「おー!」
僕達はすぐ側の服屋に入った。
…
{だって、ハデス。教師やボク達を疑うのか…良い判断だ。だって学校内で事件が起こってんだもんね。}
『はい。ですがヴァルハラは…』
{そう、学校には何か無いと赴かない。今回みたいに建物が破損とかしない限りは。それに学校に地下があったのボクですら初耳だったからそれっぽい反応したユリウス以外ほぼ全員知らないだろうし、あのニフラムを欺けるとは思えない。ユリウスすらね。}
『ですね。…それなら教師陣だって…』
{うーん…無い話じゃないかなぁ。ぶっちゃけヴァルハラにだってボクが思ってないだけでニフラムを欺ける奴がいるかもしれない訳だし…んっふー!ボクも分かんないなぁ…楽しくなってキタ━(゜∀゜)━!}
『何よりです。胸弾んでキャラを忘れていますよ。』
{あ、いけね。ありがとにゃ、ハデス。そういやそっちどーお?}
『特に怪しい者はおりません。ヨシュア=アイスレインの暴走もないです。』
{にゃらいいね。引き続き宜しくにゃ。}
『は。』
…
「特に買うもの無かったね。怪しい人も居なかったし。」
「ね。でも見てるの楽しかったよ。」
「僕も!今のこの顔は色んな服が似合うから楽しい!」
「え…エクス整形でもしたの…?」
「ぅぇっ!?」
しまった失言した!!!誤魔化さないと!!
「え、えっと…髪型の話!この髪型は入学前に学校デビューとしてやってみたの!入学直前だったから服屋行く暇も無くてさ!あは、あはは!」
「そうなんだ。昔のエクスも見たかったな。」
「やめた方がいい、友達辞めたくなる顔してるから。」
「え、絶対そんな事ないよ…。エクスがどんな顔であろうと友達辞める気無いし。」
「よしゅあぁ…」
本当に良い奴め!!!
感動しているとデバイスが震える。取り出すと画面の中のアイオーンが黒電話を持っていた。…何で?
『ヒメリア=ルージュ様からです。』
「繋いで!」
『畏まりました。』
アイオーンは目を閉じ、姿を変える。
{アーシェか。私だ、ヒメリアだ。}
「はい、どうなさったのですか?」
{折角の休日だったのに悪いがそろそろ病院に戻ってくれ。その代わり警備隊が目を光らせるから。}
「あ、もう時間ですか…。」
{あぁ、日が沈んできたからな。音声データは聞かせてもらった。考えられる狙いはお前たちだろうからな。…すまない。}
「ヒメリア先生が謝ることじゃありません。分かりました、戻ります。」
{あぁ、私も其方へ向かう。また後で。}
「はい、失礼します!」
ヒメリア先生が切ったのを耳で聞いてからデバイスを離す。画面には既に姿を戻したアイオーンが。
『お疲れ様でございました。そろそろ私も食事がしたいのですが…』
アイオーンの手の上に電池のマークが現れ、中身は半分以下になっている。確か雷魔法を当てれば良いんだよね。
「分かった、いくよ?」
『お願い致します。』
画面内に何故か卓袱台が置かれ、空っぽのお茶碗を持ったアイオーンが正座をする。
…まぁ気にしない気にしない。ゼウスの光杖を手に持って初級雷魔法を…壊さないように小さく小さく小さく…!
震える手で杖の先をデバイスに近付けた。杖の先から光が伸びてパチリと音が聞こえた。成功したかな?
「ど、どう?アイオーン。」
『完璧でございます!満腹です!ご主人様からエクス様の力は計り知れないから気を付けろとありましたので万が一に備えて大切なコアを護っておりましたが杞憂でした。』
立ち上がったアイオーンは卓袱台を叩いて消した。…それが大切なコアを護っていたのかな。この光景を黙って見ていたヨシュアが首を傾げた。
「エクス?ヒメリア先生は何て?」
「あ、病院に帰って来いって。」
「じゃあ急がないとね。」
「うん!ちょっと運動がてら走らない?」
「賛成!いくよ、よーいドン!」
「あ、狡いぞヨシュア!!」
少しのアオハルの続き。病院まで少し遠い道を頑張って走ったら息が苦しくて足がつった。
でも僕達はそれが楽しくって笑っていた。
自分達の病室に着くと既に皆が帰っていた。
「おかえり、エクス君!」
メルトちゃんの笑顔に足がつったのを忘れられる。
「ただいま、メルトちゃん。皆。」
自分のベッドに腰掛けると隣のレンが話しかけてくる。
「2人とも汗びっしょりだねー。何してたの?」
「ヨシュアと病院まで走った…。」
「うーわお疲れぇ。」
直後、壁についている電話がなる。1番近いレンが受話器を取った。
「はい、レン=フォーダンです。…え?エクス君ですか?分かりました。エクス君、ユリウスさんからだよ。急いでるみたい。」
僕?急いでると聞いて駆け足でレンの元へ。
「お電話代わりました、エクス=アーシェです。」
{エクス君ですか。今すぐ2階の208号室へゼウスと共に来てください。昼間の女性の容態が悪化しました。狭い部屋ですので召喚士は貴方1人だけで来てください。}
「わ、分かりました。すぐ向かいます。」
と言って受話器を置いた。これはヤバイ気がする…!直ぐに出ようとするとレンが
「ユリウスさん、何て?」
と首を傾げる。全員がそうしたので僕は
「ユリウスさんに急いで来るように呼ばれた!行ってきます!」
本当の事を伝えて質問とかされない内に走って出てった。
評価をして下さった方、ありがとうございます!これからも頑張りますので宜しかったら暇潰しとして見て頂けると嬉しいです!