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第一話 ゾンビの少年



 飯山いいやま淳也(じゅんや)は、残業を終えて、職場である高校を出た。淳也は自家用車に乗り、自宅へ向かった。

 しばらく走っていると、人気の無い道で人影があった。淳也は誰かが横断するのだと思い、車を止めた。すると、その人影は淳也の車のガラスを割って入ってきた。

 人間じゃない……噂のゾンビだ……。

 逃げようとするが、シートベルトが止まっていて動けない。ゾンビがニヤリと笑い、淳也を殺した。


 しばらくして、淳也は目覚めた。すると、後ろからパトカーが来た。先程のことを話そうと思い、車から降りた。すると、警官が青褪めた顔で拳銃を淳也に向けた。


「ゾンビ、大人しく死ね!」


 淳也は本能的にその場から逃げ出した。


「俺……ゾンビなのか……?」


 涙を流しながら、雑木林を駆け抜けていく。気付いた頃には、人が居ない川辺に来ていた。

 安堵したせいなのか、淳也はゆっくりとその場に倒れた。




 相澤あいざわ花怜(かれん)は、勉強が嫌になって外に出た。真っ暗で、とても冷たい風が頬を掠める。

 近くの川辺に辿り着いて辺りを見渡していると、少年が倒れていた。花怜は急いで駆け寄った。


「大丈夫ですか?起きて下さい!」


 声を上げながら、体を揺らした。その体はとても冷たかった。長い間ここで眠っていたのだろうか。

 すると、少年が目を覚ました。


「大丈夫ですか?」


「……ひっ!」


 少年は花怜を見て、肩を震わせた。その様子に、花怜は首を傾げた。


「えっ、どうしたの?なんか、怖いことでもあった?」


 花怜が頭を撫でると、少年は頷いた。そして、花怜は立ち上がって言った。


「あっちの階段に座って話そうよ。ここよりは汚くないよ。ね?」


「うん……」


 花怜は少年の手を引いて、土手の石造りの階段に座った。


「何か、あった?私で良いなら聞くよ」


 花怜はそう聞いた。少年は涙を流して言った。


「俺、ゾンビにされて……急に拳銃向けられて、逃げ出してきた」


「ゾンビ!?」


 まさかの話に花怜も仰天。花怜の大きなリアクションに、少年は驚いている様子だった。


「全然、ゾンビって感じしなかったんだけど。先ず、ゾンビって自我なんて無くて話せなくなるんじゃなかったっけ?」


「俺もよく分かってないんだよね。ゾンビになったのかって自覚も無かったし、警官に言われて初めて知ったって感じだった」


「うーん、ゾンビって何なのかよく分かんなくなってきた……」


「俺もだよ」


 二人で顔を見合わせて笑った。それで、二人はハッとした。


「ゾンビって会話も通じないよね?何で、一緒に笑えてるんだろう」


「知らん。俺は最も人間に近いゾンビって世界記録も取れるんじゃね?」


「馬鹿なこと言わないで」


 またまた二人は爆笑。その情景は、友人以上恋人未満の少年少女にしか見えなかった。


「名前は?私は花怜」


「俺は、淳也」


 どこかで聞いたことがあるような名前に、花怜は首を傾げた。淳也はハッとした様子だったが、すぐに表情が笑顔に戻る。


「よろしくな、花怜」


「よろしくね、淳也」


 お互いにそう言って、二人はまた笑い合った。


「俺、どうしようかな。ゾンビだからあまり彷徨いちゃいけないような気がする」


「それなら、私ん家に来る?独り暮らしだから」


「えっ、良いの?」


「うん。それに独りは寂しいから」


 花怜の提案に、淳也は胸を撫で下ろした。そして、二人は立ち上がった。手を繋いで、花怜の自宅であるアパートに向かった。


 シンプルな造りがお洒落に見える、そんな花怜のアパートに着いた。花怜の部屋は普通に女の子らしい部屋であった。


「こんなゾンビを泊めるなんてなんか申し訳ないなぁ」


「別にいいよ。淳也は優しい人だから」


 確かに少し抵抗はあるが、ゾンビらしくない優しい人柄である淳也なら良いと花怜は思ったのである。

 そんな花怜の言葉に、淳也は満面の笑みで言った。


「ありがとう!」


「そんなことないよ。独りぼっちは少し嫌だと思い始めてたからさ」


 結局、どちらにもメリットはあるのだ。寂しさを埋めるため、殺されないため。そうであっても、淳也の不安は取り除けない。


「もしも、自我が無くなって、花怜を殺しちゃうかもしれないよ」


「死んでも良いよ。死ぬのには抵抗は無いし、そこまでわだかまりも無いからね」


 花怜の発言に死にたいという思いが隠れているように感じたのは気のせいだろうか。

 淳也は洗面所で手を洗いに行った。鏡を見て、淳也は驚いた。


「若返ってる……だからかぁ」


 大人である自分を前にしても彼女は敬語を使わなかった。それは、自分が彼女と同じ年くらい若返っていたからである。


「というか、肌が緑に見える……ゾンビだからか?」


 自分の体をよく見ると、肌が緑色に見える。人間じゃないことが悲しく思えてきた。


「まぁいいか」


 大好きな彼女と居れるし。

 淳也は手を洗い、リビングに戻った。花怜は一人でご飯を食べていた。


「ゾンビって食べれないと思ったから作ってなかったけど、食べる?」


「いやぁ、死んでるし、やめとく」


「あんまり理由にもなってないけどね」


 ゾンビは体の器官も死んでいるはずなので、ご飯を食うことも出来ない。もしかしたら、漫画のように心臓も取り外し出来るかもしれないと淳也は考えていた。

 淳也は、食べている花怜の目の前に座った。食べている彼女がとても可愛く、羨ましいと思った。


「いいな、お前は人間で」


「そうなのかな?人間だからこそ、ダメなんじゃない?人間以外の生物なら法律とか色んな物に囚われず、自由に生きて行けると思うんだよね」


 お前には何があったんだよ、と聞きたくなったが止めた。人の闇に迫るのはダメだと思ったからだ。

 彼女の理論もあながち間違っていないのだろう。法律や世間に囚われて生きる人間は、とても狭苦しい生活を送っている。働いて金稼いで、そんなのも結局は自由ではない。


「ごちそうさま。ゾンビでもお風呂は入れるんじゃない?でも、シャワーだけでお願い」


「俺が入って風呂が緑色になってたら困るもんな」


 淳也は自虐的な笑いを見せた。


「とりあえず、私はお風呂入るよ」


「うん、行ってら」


 淳也はソファーに座り、色んなことを考えた。自分は後に行方不明の扱いになるのだろうから。


 しばらくすると、花怜がお風呂から上がってきた。彼女は頭を悩ませていた。


「一緒に寝る?」


「何言ってんだよ。俺ゾンビだし、やめとけ」


「ベッド、一つしかないよ?」


 花怜にそう言われて、淳也は顔を歪ませる。すると、花怜は淳也の腕にしがみついてきた。


「一緒に寝ようよ。一人で寝るのは寂しい……」


 上目遣いで訴えてくる花怜に、淳也はため息を吐いた。そして、彼女の頭を撫でて言った。


「良いよ。ゾンビと寝ても大丈夫ならな」


「うん!大丈夫だよ」


 花怜は嬉しそうに淳也を引っ張って、ベッドに連れて行った。そして、同じ布団に二人で入った。


「おやすみ、淳也」


「うん、おやすみ。花怜」


 二人は眠りに落ちたのであった。




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