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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
本編

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夏の夜 3

 人気のなくなった暗い公園で、私とつるやんは休んでいた。

 ここに到着した直後はもう一人居たのだが、彼は……


 「俺の相棒を連れてきます……大丈夫、すぐ帰ってきますから……」


 なんて、これ以降帰って来ない感じの雰囲気を醸し出しながら、公園を去っていった。

 かれこれ数十分は経つのだけど、遅いなぁ。

 足をプラプラさせながらベンチで待っていると、いつの間にかつるやんが飲み物を買ってきたらしく、呆けている私に差し出してきた。

 お礼を言ってから受け取ると、そこには懐かしき”抹茶メロンソーダ、ゴーヤ風味”の文字が。


 「すみません、近くの自販機が変なのしか売ってなくて……多分マシだろうという物を買ってきました」


 「そっか、うん。 ありがとう……」


 旧校舎の自販機、繁殖しているのだろうか?

 っていうかコレがマシに見えるラインナップって何!?

 申し訳ないが、コレはちょっと開ける気にはならな……


 「へぇ、意外と美味しいですね?」


 はぁ!? と声を上げてしまいそうになったが、何とか我慢した。

 そして彼女の手に握られているのは、いつか巡が飲んで吐きそうになったソレであった。


 「あ、あのさつるやん。 そもそもなんでソレを買おうと思ったの?」


 謎の媚薬”初恋フレーバー” 甘酸っぱくもほろ苦い、もはや忘れたい味。

 クソ長いタイトルが、彼女の手の中に見える。

 むしろ見たくなかった。


 「えっと、当たり付きの自販機だったんですけど、生まれて初めて当たりました。 そして問答無用でコレが排出されました」


 あぁ、そう。

 もはや罰ゲームドリンクだ、なんだそれ。

 当たったなら好きな物を選ばせておくれよ。

 問答無用で誰とも知らない初恋の味を味合わせないでおくれ……なんてどうでもいい事を思ったが、むしろ気になった。

 隣で一気飲みしている程の彼女が、今どんな気分でそのドリンクを飲み干しているのか。


 「ち、ちなみにさ……どんな味だった?」


 恐る恐る聞いた私に対して、彼女は首を傾げながら普通に答えた。


 「しいて言うなら……徹夜明けにエナジードリンク数本一気飲みした挙句、ビタミンの為だけにグレープフルーツを齧って、最後にあんこを口いっぱいに含んだ様な甘さ。 って言ったら良いんですかね?」


 「ひとつも安心できる要素がないよ!?」


 「エナドリの味がするなら問題ありません」


 「あ、うん」


 こいつは中々の中毒者だ、間違いない。

 そういえば年中草加先生と一緒に、夜通しネットゲームしてるんだっけ。

 つまり、草加先生もこのドリンク飲めたりするんだろうか……いや、考えない様にしよう。


 「ところで、さっきの凄かったね? びっくりしたよ、二人だけで”なりかけ”も相手出来ちゃうんだ」


 やや困った様に笑いながら、つるやんは隣に腰を下ろした。


 「今回が初、ですけどね。 それに先輩達と一緒の時ほど、手早く片付ける事もできません。 とは言っても、少しは役に立てるようになってきた……かな? って思えます」


 まだまだ全然ですけどね、なんて付け加える彼女だったが、その顔は何処か誇らしげだ。

 とは言っても、何処か影の残る表情だったが。

 もっと自信持っていいと思うんだけどなぁ。

 ”狐憑き”の無い時の私なんてただ逃げ回るだけだったし、それこそ巡だって色んな道具を使ったりするけど、当人だけでは対抗手段なんて一つもない。

 というか私と一緒に走っている事の方が多かったくらいなんだから。


 「気にし過ぎ……っていうか勘違いだと思うんだけどなぁ」


 「と、いいますと?」


 何と答えればいいのやら、こういう時は巡の方が良い事言いそうだけど。

 私にはそういう才能ないからなぁ……


 「何て言えばいいのかなぁ……今の私は”狐憑き”の状態になれるから前に出られるようになっただけで、それが無ければ逃げ回る事しか出来ないような臆病者だし」


 「や、黒家先輩と一緒に居るときの早瀬先輩見てるとまるで説得力ないですからね? 事実今までは先輩二人で廃墟探索とかしてましたよね?」


 「あはは、巡は前っからあんな感じだったけどね。 でも二人だけだと、いざ”上位種”が出た時なんか酷かったんだよ? 巡と一緒に泣きながら叫びまくって、草加先生が来るまで汗だくになりながら逃げ回ったもん」


 「全く想像出来ないんですけど……」


 もはや随分前の事に思える。

 最初にあの廃墟に向かってから、そこまで時間が経ったという訳でもないのに。

 今となっては良い思い出……いや良くはないな、散々な目にあった訳だし。


 「まぁそんな訳だからさ、今みたいに逃げることなく立ち向かえるのって、皆がいるお陰なんだよ」


 「だと、いいんですけどね……」


 やはり言葉が上手くなかったのか、つるやんは微妙な表情になってしまった。

 何て言えば良いのかなぁ、もう充分過ぎるほどに役に立ってますよーって言っても、多分納得しないだろうし。

 敢えて言うなら、そうだな。


 「まぁ私たちの”異能”ってどれか一つじゃ殆ど役に立たないモノばっかりだしさ、迷惑掛けたっていいんじゃないかな? そこはまぁお互い様って事で」


 「黒家先輩にも、同じ様な事言われました」


 「あらら、二番煎じでしたか」


 「でも、ありがとうございます」


 「いえいえ、とはいえあんまり無理はしないようにね? 危ない時は逃げるか助けを呼ぶか――」


 「――それも言われました、ほんと二人は似た者同士なんですね」


 え、それは何か嫌だなぁ。

 なんて渋い顔をしていると、つるやんは小さな微笑みを漏らす。

 さっきまでの切羽詰まった雰囲気は無くなったので、まぁ良かった……のかな?


 「ていうかさ、”異能”だけで考えれば天童君が最強なんじゃない? 草加先生だって、見る聞く感知するってのが全くできない訳だし。 ある程度とは言え、一人で全部熟すのって彼だけだよね」


 「あぁ、それはちょっと思いますね。 今の所どれも力不足の域ではありますけど、”なりかけ”さえ祓っちゃいましたし。 この先どうなることやら……あんなのチートですよチート」


 辛気臭い話は終わりとばかりに違う話題を振れば、彼女も全力で乗ってきた。

 きっともう大丈夫だろう。


 「まぁそんな彼と一緒に、つるやんがラブホテルに消えた時はどうしようかと思ったけど……」


 「早瀬先輩であっても、誤解しか招かない発言をするなら怒りますよ? 入ってませんから! 建物の側面と屋上しか滞在してませんから!」


 「いやぁ屋上から見てた時に、あぁついにかぁ……って思って席を外そうかと思っちゃったもん」


 「その時点で離れなかった事には感謝しますけど……あっ先輩飲み物おかわり如何ですか? 結構ヤバそうな名前の物あったんで買ってきますね」


 「ごめんね、もう余計な事言わないから許して? ね?」


 なんて会話をしている内に、天童君が返ってきた。

 入り口付近にバイクを止めて、ヘルメットを片手にこちらへ向かってくる。


 「早瀬先輩、ちょっと彼に言ってみてほしい事があるんですけど……」


 急に小声で耳元に寄ってきた彼女に、一瞬ゲテモノドリンクを無理矢理飲まされるのかと警戒したが、特にそんなつもりはないようでボソボソと言葉を発する。

 よく分からないけど、言われた台詞をそのまま天童君に言えばいいのだろうか。


 「は、なの? が、とかじゃなくて?」


 「はい。 は、です。 しかもちょっと強調してください」


 「お待たせー、結構距離あったからちょっと遅くなっちゃった」


 ボソボソ喋っている私達に対して、片手を上げて戻ってきた天童君は笑顔を向けてくる。

 そして――


 「おかえり天童君、バイク”は”格好良いね!」


 「ぐはぁ!」


 さっきまで笑顔だった天童君は、急に胸を押さえて膝をついた。

 その急激な態度の変化と彼の反応にびっくりした。

 何が起きたのか理解出来ず、思わず駆け寄ろうとした私をつるやんが押さえ、首を横に振った。


 「いいんです早瀬先輩。 彼には少し現実を見せるべきだと――」


 「鶴弥ちゃん!? 絶対君の仕業だよね! そうだよね!? 早瀬さんがナチュラルに俺を貶してくる事って絶対ないよね!?」


 なんかよく分からないが、二人の間では通じ合っているらしい。

 仲いいなぁ……


 「ちょっとチート持ちに嫉妬心が湧きまして、今では反省しているかもしれません」


 「かもじゃなくてちゃんと反省しようか!? 結構ダメージデカいからね!?」


 「よくわかんないけど、バイク格好いいよ?」


 「ありがとね早瀬さん! でもこの状況で言われると何か心に来る!」


 テンション高いなぁ。

 前からではあるけど、以前とは違うテンションの高さだ。

 入部当初の彼はあまり好きではなかったが、今の様なやりとりをする彼は結構好きだ。

 皆と楽しそうにしてるし、見てて飽きないし。


 なんて、和やかな空気に包まれた時だった。

 ピコンッというどこか抜けた音が響いた。

 そして続けざまに、二人からも電子音が聞える。

 各々スマホを取り出して、画面を確認すると全員の表情が固まった。


 「多分、皆同じ物見てるよね?」


 「ですね、ちょっと文章に気になる点が多すぎますけど」


 「最後の……ってどういう事なんだろ? 黒家さんから何か聞いてる?」


 それぞれ疑問を口にしながら顔を見合わせるが、答えはやはり皆知らないらしい。

 問題の送られてきたメール、そこには。


 ――次の合宿の予定が決まりました。

 ただし今回は今までとは比べ物にならない程危険です。

 なので、参加する前に諸々の事情を説明する場を設けようかと思っています。

 その話を聞いた上で、参加するかどうかを各自で判断してください。

 正直命の保障さえ出来ないモノになります。

 なので強要はしません、参加しなくても誰も責める事の無い様にしますのでご心配なく。

 多分コレが最後の合宿になると思います。

 出来れば、私に力を貸してくれるとうれしいです。

 では、合宿前のミーティングでお会いしましょう。

 黒家。


 その内容を見て、全員が不安に駆られた。

 彼女が素直に力を貸してくれなんていう事は、今ままでにあっただろうか?

 命の危険とは? 以前椿先生のお婆ちゃんが言っていた事と何か関わりがあるんだろうか?

 そして何よりも……


 「「 何故最後に名前を入れた 」」


 「だが、そこがいい」


 「ブレませんねカブト虫……」


 と、とにかく、やっと事情を説明してくれる気になったようだ。

 これまで知る事の出来なかった彼女の深い部分に、やっと踏み込める訳だ。

 巡の目的……は、茜さんから聞いた訳だが、それも今一度確認すべきだろう。

 そして何よりも、巡に掛けられた呪いとは。

 椿のお婆さんが言っていた”巡が死ぬ”という発言に対して、彼女が反論しなかったのは?

 異能者を集め、彼女が私達に何をさせようとしていたのか。

 聞きたいことは山積みだ。

 これまでは気になっても必死に踏み込まずにいた領域。

 そこへ踏み込む許可が出たのだ、もう遠慮する事は無いだろう。

 巡め、今日は眠れると思わない事だ……

 なんて不敵な笑いを漏らしながら、とりあえず口を開いた。


 「それじゃ、今から皆で巡の家行こうか。 せっかく集まってるし」


 「え、でも事前の説明する場を設けるって……あ、日時と時間書いてありませんね。 更に場所の記載もありません、これはもう文句言えませんね。 えぇ仕方ありません」


 「ついに、黒家さんのお家へ……ご招待されてしまう時が……」


 「いや招待されてない上に乗り込む感じですからね、嫌われる覚悟しておいてください」


 「嘘だぁぁぁ!」


 悶絶する天童君を無視しながら、つるやんと私は同じ様な文章を打ち込んでニヤッと顔を歪めた。

 これから根掘り葉掘り聞きに突撃するのだ、もはや気を使っても仕方ないだろう。

 そして私たちのスマホに表示された文字は……


 ”文章の最後に何で名前入れたの? ねぇねぇ何で?”


 「完璧だね!」


 「ですね!」


 つるやんの方は敬語交じりな文章だったが、内容は似たようなもんだ。

 二人揃ってメールを送信してから、私たちはダッシュで巡の家を目指した。

 さぁ今夜は長くなる、準備は出来ないだろうが覚悟しておけ!

 意味の分からない下剋上を心に残し、私達は巡の家へと向かった。


 ギャグもホラーも薄い内容になってしまいましたが、中間パートです。

 間延びしちゃってたらごめんね。

 もう少し打ち合わせパートです。


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