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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
本編

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夏の夜 2

 ちょっと短めです。



 隣のビルの屋上から、つるやんと天童君の行動を食い入るように見つめていた。

 相手は多分『なりかけ』だろう、見た目が普通じゃない。

 上半身と下半身の間が、やけに長い背骨一本で繋がったサラリーマン風の男性。

 そんなモノが、白いワンピースの女性に絡みつくように憑りついている。

 凶悪な外見のソレを見た瞬間、二人の元へ飛び出そうとしたが……どうやらあんまり手助けは必要なさそうだ。

 ひとまず様子を見る事にして、腰を下ろした。


 つるやんの手に持った音叉から甲高い音が響くと同時に、回りに集まっていた『雑魚』は散り散りになり、そいつ等を天童君が祓う。

 そして今では『なりかけ』を囲むように陣取り、天童君が”声”でその動きを止めている。

 さて、ここからどうするのか……なんて思っている内につるやんが再び音叉を鳴らした。

 ——キィィン! と先程より鋭い音が響いた瞬間、『なりかけ』はビクリと身体を震わせると、放心したようにダラリと腕を下げて憑りついていた女の人を手放した。

 ソイツが離れた途端に、女の人はフラフラとバランスを崩した様に後ろへ下がる。

 未だ放心状態の様だが、あっちはもう大丈夫だろう。


 「”十分苦しんだろ、存分に怨んだろ? もういい、楽になれ”」


 語り掛けるような優しい口調で天童君の”声”が響いた。

 一瞬だけ怪異が天童君の方を振り返ったと思うと、足元からゆっくりと霧散していく。

 その表情は、少しだけ穏やかなモノに感じられた。


 「すっごいなぁ……まさに祓ったって感じ、あんなの初めて見た。 基本殴るか蹴るかされて、バラバラに吹っ飛ぶ所しか見た事なかったし……」


 おかしいな、本来今二人がやってる事の方がちゃんとした”除霊”に見えるぞ?

 私はいつから怪異は殴るモノだと錯覚していたんだろう。

 不味いな、巡に脳筋って言われても否定出来なくなってしまうじゃないか。


 まぁとにかく、大変珍しいモノを見せて貰った。

 天童君の”声”だけじゃ『なりかけ』は祓えなかったけど、つるやんの”音叉”があればそれも可能になるのか。

 弱らせてドツく……じゃなかった。

 暴れないように”結界”で包んだ上で、”声”で導くって感じなのかな。

 凄い、これは二人じゃないと出来ない戦法だ。

 やっぱあの二人のタッグは相性がいい。


 「私も遊んでばっかり居られないなぁ……」


 ちょっとだけ嬉しくなって、ニマニマしながら二人を眺めていた所で異変に気付いた。

 不味いと思った瞬間に駆け出し、二人の居る屋上へ向かって飛び出す。

 どうやら二人とも、まだちょっと詰めが甘いご様子だ。


 ————


 「はぁぁ……終わったぁ」


 「お疲れ様です」


 まさか『なりかけ』を相手にすると思っていなかった俺は、黒い霧が霧散するのを確かめると地面に腰を下ろしてしまった。

 でも、何とかなった。

 正直『雑魚』以外は足止めが精々だと思っていた俺の”声”も、鶴弥ちゃんの”結界”の中なら結構相手には届くらしい。

 あれかね、弱った所に甘い言葉を囁く的な。

 そう言うとちょっと詐欺紛いに聞えるが、結果として祓えたんだから良しとしよう。


 「お疲れの所申し訳ないですけど、彼女に事情説明お願いします。 格好つけてきていいですよ?」


 「お、おう」


 ちょっと人前だと恥ずかしいんですけど。

 とか思っちゃったりする訳だが、最近二人で色々試した結果……無駄に格好つけて立ち去ってしまうのが一番楽だという結論に行きついた。

 普通に声を掛けたり事情を説明したりすると、そりゃもう非常に面倒くさい。

 相手が冷静さを取り戻してしまえば、アレは何だコレは何だと聞いてくる上に、中々帰してくれない。

 パニックに陥って、状況を理解せぬまま通報された事だってあったくらいだ。

 ちなみにその現場には鶴弥ちゃんも同行していて、脱兎の如く二人して逃げ出した訳だが。

 そして話し合いの結果……非現実的な事が起きた後に、非常識な変な人が格好つけた台詞を吐いて立ち去る、これが一番手っ取り早い。

 ようは相手が呆けている間に「お前ももう大丈夫だから、それじゃ!」って言って逃げてしまおうって訳だ。

 無言で帰っちゃってもいいんだけど、後でパニックになっちゃっても困るしな。


 「そんじゃまぁいつも通りに……」


 「今日のキメ台詞はダ〇ルを希望します」


 「無茶言うね君も……」


 やれやれと肩を竦めながら立ち上がり、未だ佇んでいる女性に目を向ける。

 あれ? いつもだったら結構すぐにある程度は正気に戻るのに、今日の人は何だか今でもフラフラしている。

 『雑魚』と『なりかけ』じゃ、やはり憑かれた側の状態も変わるのだろうか?

 とにかくそんな状態で屋上の端っこの方に立たれているのは、非常に心臓に良くない。


 「あーえっと、君……大丈夫?」


 声を掛けながら近づこうとしたその時だった。

 グラッと今まで以上に彼女はバランスを崩し、後ろに向かって倒れていく。

 思わず駆け寄ろうとしたが、すぐさま支えられる距離に居なかった俺。

 その視界には、彼女の向こうに広がる夜景へ向かって倒れ込む光景が映っている。

 あ、これ……まず——


 「——天童先輩!」


 「っ!」


 必死で手を伸ばすが、当然届かない。

 前に見た嫌な光景が脳裏に過り、思い切り地面を蹴った。

 あの時は俊君がたまたま通りかかったから助かったけど、今回は間違いなく来ない。

 こんな裏路地の先にあるホテルまで足を伸ばしていたらこっちがびっくりする。

 だからこそ今回は俺がどうにかしないと、彼女は助からない。

 切羽詰まった気持ちで駆け寄るが、その願いも虚しく彼女は屋上から姿を消した。


 「……そんな」


 後ろから小さな呟きが聞えた。

 俺はまた、目の前の命を助けられなかった……なんて思った次の瞬間、物凄い速度の金色の物体が隣を通り過ぎ、彼女と同じように屋上から飛び降りた。

 飛び降りたというより、屋上の淵に足を掛けて、真下に向かって飛び出したようにも見えたが……


 「あの、今のって」


 「だ、だよね?」


 思わず二人で顔を見合わせながら、唖然としたまま呟いてしまった。

 見間違い、な訳ないよな。

 一瞬だったけど、あんな見た目をしている人を、俺達は一人しか知らない。


 「ほいっと」


 などと考えている内に、さっきの女性を肩に担いだ金色のモフっ子が屋上へと戻ってきた。


 「まだ落ちてないから大丈夫だよー、3秒ルール3秒ルール」


 なははーなんて気の抜けた笑い方をしながら、”狐憑き”の姿の早瀬さんが歩いてくる。

 いや、3秒ルールって。

 言葉通りだったら落ちちゃった後だよソレ。


 「よ、よかったぁ……」


 「ホント、マジで、助かったよ早瀬さん……」


 今度こそ完全に脱力した。

 今回もまた他の人に助けてもらう結果となった訳だが……だからどうした助かったんならいいじゃないか。

 思わず二人して屋上で寝転がってしまった。

 本当にこういうのは心臓に悪い、寿命が縮むかと思った。

 そんな俺達を笑いながら近くまで歩いて来た早瀬さんは、肩に背負った彼女を下ろすとその頬を引っ叩き始めた。

 最近彼女の行動が攻撃的になっている気がするのは気のせいだろうか?


 「ほらほら起きて―」


 「あ、あの早瀬先輩……もうちょっと優しく……」


 何て言っている内に、倒れている女性は呻き声を上げながら薄らと瞼を開けた。

 そして——


 「——ヒッ! 狐の化け物!?」


 「……あー、そっかぁ」


 「そっかぁ、じゃないよ……」


 当然と言えば当然だけど、目を覚ました彼女の前には狐の耳と尻尾を生やした早瀬さんが居る。

 もう俺達にとっては見慣れた姿だが、普通の人から見たらそりゃもう異様な光景だろう。

 コスプレとか言っても説得力がないくらいに完成度の高いケモミミだし、そもそも動いてるし。

 どうしよう、これ。

 うーん、と頭を抱えていると、早瀬さんがおもむろに立ち上がりポンッと手を叩く。


 「これは、アレだね」


 「「 どれ? 」」


 「戦術的撤退!」


 言うが早いか、あろうことか早瀬さんは俺達二人を肩に担いで隣のビル目掛けて飛んだ。

 そりゃもう言葉通り、飛んだ。


 「ちょぉぉぉぉ!」


 「俺のバイクゥゥゥゥ!」


 あぁ、これが普段早瀬さんの見てる世界か……出来ればもう二度と味わいたくない。

 高い、速い、そして落下の時には色々ヒュンってしちゃうくらいだ。

 ホテルの裏手に止められた自分のバイクを遥か上空から眺めながら、俺は涙を流した。

 すぐ……迎えに来てやるからな……

 その願いを嘲笑うかのように、俺達を担いだ早瀬さんはとんでもない速度でビルからビルへと渡り歩いたのであった。


 次の話は少しだけ時間が前後します。

 巡の昼間から夜にかけてのお話に戻ります。

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