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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
本編

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記憶

 ここから四章です。



 中学二年の夏、学校行事の一環で山登りという意味の分からないモノがあった。

 なんだ山登りって、全くもって理解できない。

 なんで趣味でもないのに山を登らなければいけないのだ。

 運動不足の解消と言う意味なら、普段の体育は一体なんなのか。

 もしも普段と違う環境で友人達とどうとかこうとかする、というオリエンテーリングならはた迷惑も良い所だ。

 だって私、友達いないし。


 「はいそれじゃぁ昨日決めたグループに別れてー」


 うっさいよ、ぼっちにとっては死刑宣告だよ。

 昨日決めたグループとやらも、余り物の私が無理矢理人数の少ないグループに突っこまれただけだ。

 これで一緒に山登りしろと言われても、どうすればいいというのか。

 なんて不満の嵐を巻き起こしながら、昨日顔を合わせたメンツと集まる。

 こっちも仲良くする気など無ければ、向こうにだってない。

 それが一目でわかるくらいに、集まった彼女たちは私と視線を合わせようとしなかった。


 「いくぞぉ! 準備はいいなぁ!」


 よくねぇよ、帰らせろよ。

 はっきり言って休んでしまえば良かったのだが……姉には怒られ、弟には御土産を頼まれてしまった以上、参加するしかなかった。

 なんともまぁ、やる気が出ない。

 はぁ……とため息をつけば、グループのメンバーからは舌打ちが返ってきた。


 「やる気ないのはいいんだけどさ、私たち、黒家さんに合わせる気ないから」


 ご丁寧に予定を暴露してくれたらしい、ありがたい限りだ。


 「どうぞご自由に。 遅れれば置いて行って構いませんよ?」


 その返事が気に入らなかったのか、再び舌打ちで返されてしまった。

 思春期というのは、なんとも面倒くさい。

 同い年の私が言うのもおかしな話だが、とてもじゃないが相手するのが面倒臭い。

 今日一日共にするだけなのに、何故ここまで嫌われるのか。

 まるで理解できない上に、鬱陶しい。

 多分私に声を掛けてきたこの子は、将来接客とか無理だろう。

 下手したら客先の対応という意味でも、対人に関わる仕事は向かないのかもしれない。

 そんな意味もない想像を膨らませていると、今度は周りから睨まれた。

 なんだかなぁ……なんて、思わずため息をついてから彼女達の後に続いた。


 ————


 「それじゃ下山するぞぉ! 登りより下りの方がキツイから、皆気を付ける様に!」


 やけに声のデカい体育教師の指示を受け、食べ掛けのお弁当を片づける。

 人気の無い場所を探してから、休憩所の端っこで食べていた為、お弁当の半分も食べられなかった。

 急いで弁当箱をバックに押し込み、慌てて立ち上がった所でグループのメンバーが私の元に訪れた。

 まさか迎えに来てくれたのだろうか? いや、そんな馬鹿な。

 私の思考に答えるみたいに、周りの連中はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。

 ろくでもない事でも考えてなければいいが……


 「黒家さん、スマホ貸してよ。 皆で写真撮ろう?」


 多分学園カースト的なものの上位に入るであろうクラスメイトが、急にそんな事を言い出した。

 どうしたのだろう、脳細胞にバグでも発生したんだろうか。


 「ホラ、早く」


 「え、あ、ちょっと」


 運悪く片手に持っていたスマホを彼女に奪われてしまった。

 さっき風景を撮影して、弟に送ったばかりだ。

 さっさとポケットにでも突っこめばよかったものを。


 「ちょ、返してください」


 「こんな時でも敬語で喋るんだねぇ、なにそれブリっ子? キモイんですけど。 あっ、ごめーん!」


 わざとらしく謝罪を口にしながら、彼女は私のスマホを下山口とは逆の方角へ投げた。

 っていうか、いくらなんでも気合を入れて投げすぎだろうに、柵の向こう側まで飛んで行ってしまった。


 「ごめんねぇ、わざとじゃないんだけどさぁ」


 鬱陶しい言葉を放つ彼女に対してため息を一つ溢す。

 それが気に入らなかったのか、思いっきり顔を顰めた彼女は叫ぶように大声を上げた。


 「わっかんないかなぁ! そういう態度がさぁ——」


 「——おいこら、見てたぞ。 さっさと黒家の携帯を回収して来い。 お前が投げたんだからな」


 いつの間にか、やけに声のデカい体育教師が彼女達の後ろから歩いて来ていた。

 体育教師の声と共に、チッと舌打ちした彼女は、大人しく柵の方へと歩いていく。

 こういう状況はあまりよろしくない。

 この場は良くても、絶対後で面倒くさい事になるのだ。

 それさえ分かっていない体育教師は私の隣に並ぶと、やけに鼻の下を伸ばして肩に手を置いた。


 「こういうことがあったらすぐ先生を呼ぶんだぞ? いいな黒家? いつでも助けてやるからな」


 「は、はぁ」


 明らかに視線が胸にしか行ってない。

 こいつこそ警察に突き出した方がいいのではないだろうか。

 なんて考えている、その時だった。

 前方からミシッと嫌な音が聞えた。


 「え?」


 私が視線を送った時、柵に手を掛けながら足元に手を伸ばしていた彼女。

 そう遠くない位置に私のスマホは転がっていたんだろう。

 だが、問題はそこではなかった。


 「え、あ、嘘?」


 メリメリッ! と乾いた音を立てながら、砕けた木製の柵ごと、彼女は向こう側に倒れていった。

 その先にあるのは人の手が加えられていない山肌。

 もしも落ちれば無事では済まないだろう、そんな感想しか出てこないような切り立った斜面だった。


 「……っ! クソっ!」


 咄嗟に彼女に向かって走ってしまった。

 止めておけばよかった、どうせ間に合わない。

 それに彼女がどうなった所で、私には不都合はない。

 むしろ今まで散々嫌がらせしてきた相手が居なくなるのだ、メリットしかないじゃないか。

 だというのに、助けを求めるその瞳を私は見てしまった。

 ゆっくりと傾いていく彼女が、救いを求めるように差し出した手は、こちらに向いていた。

 だからこそ、私は走り出した。

 こんな状況で見捨てたりしたら、きっと”彼”の隣に立つ資格が無くなる。

 そう思ったのかもしれない。

 助けを求める事しかできない私と弟を、急に現れて助けてくれた”ヒーロー”。

 あの人が軽蔑するような存在に、私はなりたくなかった。


 「手をっ!」


 「っ!」


 差し出した私の手を、確かに彼女は掴んだ。

 だというのに。


 『ほぉ、二匹も釣れるとはな。 今日は良い日だ』


 その声が響いた瞬間、手を取った彼女は誰かに引っ張られるみたいに急に重くなった。

 さっきまで踏んばれば二人とも助かる、そんな状況だったのに。

 彼女の腰に腕を回している後ろの黒い影は、そのまま私の手首を掴んだ。


 『ほら、おいで』


 そういって”ソイツ”は、私共々谷底に放り込んだ。


 ————


 目が覚めた時、目の前には赤黒い空が広がっていた。

 こんなの見た事がない。

 どことなく不安を煽り、不快な空。

 そんな空間で、隣から押し殺した様な声が聞えてくる。


 「……うっぐ、あ! あぁ……がっ」


 思わず視線を投げれば、そこには地獄が広がっていた。


 『やはり貢物というのはこうでなければ。 うむ、若い女はやはり良い物だ』


 髭を生やした仮面の老人が、口元を真っ赤に染めながら、クラスメイトを文字通り食べていた。

 隣に寝そべる彼女と目が合った、間違いなくまだ生きている。

 腹を引き裂かれ、その臓物を目の前の老人に咀嚼されながらも。


 「くろ……ぁさん。 コ、レ……ごメ……あぁぁ!!」


 彼女が差し出してきたスマホを受け取った瞬間、悲痛な叫びが響き渡る。

 その瞳は苦痛に染まり、止まること無い涙を垂れ流しながら、自らの身体に受ける屈辱と痛みに奥歯を噛み締めながら泣き叫んでいた。


 「なに……これ……」


 意味が分からない。

 さっきまで嫌いだったはずの同級生が、目の前で凌辱されているのだ。

 汚され、食べられ、死を待つばかり。

 しかしその最終地点はなかなか訪れない。

 生きたまま内臓を喰われる痛みを味わいながら、彼女は今悶え苦しんでいる。


 「あ……ぁ……」


 意味もない言葉が私の口から零れ落ちる。

 すぐに目を塞ぎたい、耳を塞ぎたい。

 今目の前で起こっていることが全て夢なのだと、そう自分を騙したかった。

 だというのにすぐ側から聞えてくる声も、生暖かい鉄の匂いも、それを許してはくれなかった。


 「は、く……に……げ……」


 もう意識が朦朧としているのだろう。

 瞳孔が開き始めている彼女が、小さく言葉を口にした。

 その口元からは血の泡を吐き、瞳も明後日の方角を向いている。


 「……っ! ごめんなさい!」


 それだけ叫んで、私は逃げ出した。

 どこへ逃げればいいのか、走った先に何があるかも分からずに。

 彼女を見捨てて、私は走った。


 「ごめ……ほん、とに……ゴメ……ああぁぁぁぁ!」


 最後の言葉は、とてもじゃないが彼女の両親には伝えられないだろう。

 まるで獣のような声が、周囲に響き渡った。


 「すみません、ごめんなさいごめんなさい。 本当に、ごめんなさい!」


 涙で歪む視界を腕で払えば、そこにはまるで樹海のような光景が広がっていた。

 普段は見たことも無いような、変な形に高く伸びた木々。

 足場なんてとてもじゃないが人間が歩けるモノではない。

 岩が突き出していたり、急に高低差が生れるような不安定な足場。

 その森の中を、私はひたすら走り続けた。

 後ろから聞こえる叫び声が聞えなくなるまで、ただひたすらに走り続けたのだ。

 だがその叫び声は私の耳にこびり付いた。

 いくら耳を塞いで走ろうとも、彼女の最後の悲鳴が聞えてくる。


 「なんで、なんでこんな事に……!」


 嫌だったはずの学校行事。

 もしも私が参加しなければ、彼女も私もこんな目に合わなかったのだろうか。

 そんな風に考えると、両目から止めどなく涙がこぼれた。

 私のせいで彼女を殺してしまった、私が居なければ彼女を殺す事はなかった。

 顔は覚えているが、あの子の名前さえ私は覚えていない。

 そんな薄情者が、クラスで楽し気に話していたその子を殺してしまったのだ。

 心が潰れる、詩的な表現だと思ったソレを、私は今身を持って実感していた。


 「やだ、やだよぉ……だ、誰か……誰か助けてぇ!」


 私の悲鳴は、誰の耳にも届かなかった。


 夏バテでダウンして昨日は更新お休みしました。

 そういう意味でちょっと不定期更新になる……かも?

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