オカルト研究部へようこそ! 3
今回は少し短めです。
夕焼けに染まる廊下を、上機嫌に歩いていた。
いやはや昨日は実に楽しかった、こんなにも気分が良いのはいつ以来だろう?
昨日街中の『雑魚』を引っ掻き回したおかげで、今日は殆どカレらの姿を見ていないし。
それに昨日の晩、巡の弟の俊君。
彼はとても話が分かる。
私があんな事があった、こんな事があったと話せば目を輝かせながら話を聞いてくれた。
主に草加先生の話ばかりしていたが、それでも彼は私と同じように興奮した様子で「次は!? 次は!?」と物語の続きをせがむ子供の様に聞いてくれた。
いいなぁ、あんな弟。
一人っ子の私としては、純粋に羨ましい。
そして何より、その後何故か草加先生が巡の家に顔を出したのだ。
「あれ? 巡夕飯代貸しにいったんじゃなかったの?」
「あ、いや、あはは。 ホラ、皆で食べた方が楽しいかなって」
「先生! お久しぶりです!」
「おー黒家弟、久しぶりー」
なんて、久々に賑やかな雰囲気に包まれたのだ。
もしならつるやんと天童君も呼べば良かったかな? なんて思ったが、それはまた今度でいいだろう。
しかもその後草加先生に家まで送ってもらうという豪華特典付きだ。
これで上機嫌にならない訳が無い。
なんだかんだ言っても、巡も元の調子に戻ったみたいだし。
弟君も面白かったし。
昨日は巡の家に顔を出して万々歳である。
そんな事を思いながら、ニヤケ顔で部室の扉を開く。
「やっほー、きったよー!」
挨拶とも呼べない挨拶をかましながら、勢いよく開いた扉の先では、予想外のイベントが発生していた。
「だから! いくら私に問い詰められても知りませんよ! 私だって新参者って言ったでしょう!? 色々試してみないと”声”がどれくらい役に立つかなんて分かりませんよ!」
「頼むよ鶴弥ちゃん! 少しでもこんな事が出来るよってアピールしたいんだ! 何か鶴弥ちゃんから見て分かる範囲だけでも……」
天童君が叫んだ所で、二人が私の存在に気づいたらしい。
「あっ、えっと……これはだね」
顔を青くしながら汗を流す天童君、息を荒げながらソファの端っこまで逃げるつるやん。
彼は今にも飛び掛かりそうなほどの距離で、小さな彼女に迫っている。
え、なにこれ。
「警察って、何番だっけ」
「913と押した後にエンターです」
「それ違うよね!? 草加ッち呼ぼうとしてるよね!? 誤解だよ、誤解だからね!?」
試しにその番号で押してみたが、特に何も起こらなかった。
あっ、そうだ119番だったかな。
嫌だなぁ、信じられない環境に置かれると、こんな簡単な事まで分からなくなる。
あはは、と笑いながら画面に映った数字を押していく。
「待って! 本当に待って! 鶴弥ちゃんも何か言って!」
「ゼ〇ターでも呼んで、高速で逃げればいいじゃないですか」
「呼んで来てくれるなら呼ぶよ! 音速で逃げたい状況だよ!」
「選ばれなかったんですね……」
「馬鹿言ってないで早瀬さんを止めてよ!」
やけに軽快に飛び交う会話の中、思い出した番号をタップし通話開始ボタンを押そうとしたところで、横から伸びてきた手によってスマホを取り上げられてしまった。
「何やってるんですか、貴女達は。 ゼク〇ーが必要なら弟から借りてきますけど」
良く分からない呟きを溢しながら、いつの間にか巡がすぐ隣に立っていた。
呆れ顔でため息を溢しながら、普段……というか部室ではかけていない眼鏡をしている。
真面目モードの巡が、そこには居た。
「天童君がつるやん襲ってる」
「あぁ、じゃぁ通報しましょう。 119じゃなくて110ですよ。 でもこの場合先生に連絡したほうが速いですね。 すぐにぶっ飛ばしてもらいましょう」
「お願いだから話を聞いてえぇぇぇ!」
悲痛な叫びが部室内に響き渡る。
なんというか、やっといつも通り? のオカ研に帰ってきた気がした。
————
「さて、それじゃミーティングを始めましょうか」
黒家先輩の声と共に、席に付いた私達は頷いた。
何があったのかは知らないが、今日の先輩はいつも通りに思える。
悩みが解決したのか、それとも吹っ切れたのか。
そこはまあいいとして、こういう黒家先輩の雰囲気は久しぶりだ。
「えっと、なんだか今日は雰囲気が違うよね? そっちの方が俺は好きだけど、何かあった?」
相変わらず空気の読めないカブト虫が囀る。
入った当初からこんな感じだし、いきなり空気を読めというのは酷な話かもしれないが……ここは黙って聞くという選択肢は無かったのだろうか?
だからお前は〇クターに好かれないんだ。
「そうですね、まずは天童さんに謝罪しておきましょう。 申し訳ありませんでした、今まで不快な態度ばかり取ってしまって」
「えっと、私もごめんね。 昨日は言い過ぎたよ……本当にごめん」
先輩二人が頭を下げたが、当人は状況に追い付いていけないらしく困惑の表情を浮かべながら両手を振った。
「い、いやいや! 俺も空気読まずにベラベラ喋っちゃったしさ! ここはお互い様っていうか! 頭下げるとかしなくていいから、俺気にしてないし!」
なんていった直後、黒家先輩は頭を上げ「そうですか、ならいいです」なんて真顔で切り返した。
早瀬先輩は困った様に笑っていたが、恐らくこれ以上掘り下げたりしてくることはないだろう。
まぁある意味部内の空気としては、一件落着と言っていい状況なのだろう。
天童先輩もダラしない笑みを浮かべている事だし。
というか先日早瀬先輩がキレた事の方が意外だった。
当人としても余裕が無い状況だったのだろうが、普段の雰囲気が柔らかい分、正直私も背筋が冷えたくらいだ。
この人だけは怒らせない様にしよう。
「それで、ミーティングを始めるにしても……その、天童さん。 どうしましょうか? 多分聞いてても理解出来ないでしょうし、頭のおかしい奴らと思われるのがオチだと思うんですが」
「あぁそこは心配ないと思いますよ、黒家先輩」
「というと?」
「彼も、私達と同じ異能持ちです」
先輩達の前なのだ、これくらいの仕事はするべきだろう。
そもそも引き留めた……と言っていいのか分からないが、彼の能力を見込んだのは私だ。
ならばこそ私が見た限り知った限りの情報を、彼女達に伝えたよう。
そして私達の”存在”を、改めて彼に知って貰おうではないか。
早瀬先輩が先日言った言葉の意味、そしてこれまでの”部活動”なんて言葉だけで簡単に済ませてきた、この場の意義を。
彼女達が成し遂げてきた偉業を、この場で語ってやろうではないか。
「それは中々、興味深い話ですね」
私の言葉を聞いた黒家先輩は、以前見たのと同じ歪んだ笑みを浮かべていた。
やはり、この人はこうでなくては。
感想来たヤッター!(単純





