声と耳
投稿予約間違えました。 半端な時間ですがUP
「”離れろ……二度とこの子に近づくな”」
ここの所毎晩続けているんだから、もはや日課といってもいいかもしれない。
まるで作業の様な感覚で、いつも通り憑いたモノを払っていた。
今日見かけたのは高校生の女の子だった。
その前に一人、下校中に中年男性に憑いた霊を祓ったが、おじさんは気持ち悪そうな眼差しを俺に向けながら去っていった。
やはりこういう事に関しては男性の方が、精神的に図太いんだろうか?
助けた後の反応は、女性の方がずっと好感が持てる。
「あ、あの……ありがとうございます! あの、お名前は……」
「天童糾、通りすがりの陰陽師さ」
いつものキメ台詞を吐きながら、その場を後にする。
ここ最近の活動でいえば、今までよりずっと快調だ。
トラブルも起こらず、除霊も順調。
だというのに、なんともこう、ノリきれない。
思わずため息が零れてしまう程だ。
誰も居ない路地裏で、月を見上げた。
今日も雲が多い、晴れない気持ちの現れみたいに……
「何ていうか、こう……」
「飽きましたか? 正義のヒーローさん」
誰も居ない筈の路地裏から、静かな声が届く。
慌てて振り返れば、黒いフードを被った小さな影が物陰から姿を現した。
誰だ? なんて思っている間に、目の前の小さな影はズカズカと歩み寄ってきた。
「飽きてしまったのなら、貴方には向きませんよ? ヒーローなんて。 とはいえなんとも面白い日課ですね、実に興味あります」
声からして女性だろう。
彼女は口元を歪め、俺の事を見上げてくる。
今までは無かった事例に、思わず逃げ腰になる。
「あれ? もしかして気づいてないですか? 普通、声でいくらか分かるものじゃないですかね」
そういってからパーカーのフードを取り払った彼女を、見計らったように月明かりが照らした。
そこには風になびく長い黒髪と、幼さが残る顔立ちの少女が笑っていた。
見間違える筈もない、鶴弥麗子……同じ部活に所属する彼女だった。
だとしても、何故ここに?
「何故ここにー、みたいな間抜け面で黙らないでください。 簡単な理由ですよ、私達は同類だからです。 あぁ、もちろん中二病の話じゃありませんよ? 貴方の持つ、その”異能”の話です」
「い、異能?」
混乱する俺の思考を他所に、彼女は見たことも無い顔でニヤリと口元を釣り上げた。
————
「えっと、急にそんな事言われても……っていうか後を付けてきたっことは、何かしらお互い感じ取れるモノとかがあったりするの? というか鶴弥ちゃんも僕と同じ能力が? もしかしてオカ研も何か関係があったりする訳?」
未だ混乱しているらしい天童先輩が、矢継ぎ早に口を開く。
いきなりこんな事言われれば色々聞きたい事が出てくるのも分かる、私だってそうだったのだ。
とはいえ、こうも一辺に聞かれてしまうと答える側としても大変だ。
黒家先輩に嫌がられるのそういうペラペラ喋る所だぞ、多分。
「あーはいはい、ちょっと落ち着きましょうか。 鬱陶しい上に、暗い路地裏で迫ってこないでください。 何だか身の危険を感じます」
黒家先輩みたいに口が上手い訳でもないし、早瀬先輩の様に優しくも無い私は、とりあえず面倒くさそうに手を振って答えた。
あーていうか黒家先輩って、新入部員が一人入る度にこうやって説明してるのか。
それはとんでもなく面倒……もとい、大変なお仕事だな。
私なんか早くも切り上げて帰りたくなってきた。
まだそれっぽい事一言も喋ってないのに、相手がこの人だからかな。
「とりあえず最初に、お互いに異能持ちって事が分かるかって話ですが、はっきり言って無理です。 漫画やアニメじゃないんですから当然ですね、見た目だけならふっつうの人間な訳ですし」
もしかしたら私が知らないだけで、そういう異能があったりするのかもしれないが。
黒家先輩の『感覚』みたいなので、生きてる人間バージョン……ないな、うんない。
なんだそのサポート機能しか備わっていないレーダーは。
準備では役に立つけど現場で何の役にも立たないじゃないか。
そんなご都合主義全開のサポーターがいるなら、是非オカ研のマネージャーにしたい所だ。
「えっと、そうすると……鶴弥ちゃんは何で俺の所に? もしかして他の理由で付けてきちゃった?」
「帰りますね、カブト虫と戯れる趣味はないので」
「ゴメンナサイ続きをお願いします帰らないで」
急に低姿勢で懇願されてしまった。
ノリが軽い、というかチャラい。
多分私含めて、あの部の人達はこういうの苦手なんだろうな。
早瀬先輩も天童先輩と話はするが、終始困った様に笑ってるし。
唯一まともに会話してるのって、先生組だけな気がする。
そう考えると、慣れなんだろうなぁ……
「あぁ、それから……さっき言ってたキメ台詞、リアルでやっても寒いだけですよ? 呆れを通り越して全身に鳥肌が経ちました、もちろん悪い意味で」
「やっぱり聞いてたのね……ゴメンナサイ、今は反省してます」
むしろ続ける様なら近くに居たくない、というか他人のフリがしたい。
下手に浬先生なんかに目撃されてみろ、一緒にポージングし始めるかもしれないじゃないか。
是非とも止めて頂きたい。
「えーっとそれで何でしたっけ、貴方を見張っていた理由でしたっけ」
「あ、そうそう! 一見分からないなら、何で鶴弥ちゃんは俺に付いて来たのかなって」
付いて来たって言われると何か癪だが……まあいいか。
私が感じていた彼に対する違和感、それをどう話せばいいだろうと考えたが、途中で止めた。
面倒くさいからまんま伝えよう、こういうの私に向いてないし。
「最初に会った時、ってかその前に”アイツラ”の声が聞えたんですけど、何か他の”声”が聞えるなーって思ってたら貴方が痴漢で捕まりました。 んで、その時聞いた声と貴方の声が同じだったので、あぁこいつ何かあるわって思って、ここ数日観察して確信しました。 以上」
「うん待って、よくわかんない。 ざっくりしすぎてて本当に分からない。 えっと、つまり? 初日から俺の事を意識してたってのは分かったんだけど、でもそれってどういう事? アイツらって亡霊の事? 聞こえたっていうのは?」
「オイそういう所だぞ。 一辺に聞くなよカブト虫、私はウィキじゃない」
「あ、うんゴメン。 それから俺先輩、あとノットカブト虫。 OK?」
「黙れ変身出来ない黒い虫」
「本当に口悪いよね君は!」
「人によりますのでご安心を」
「俺にとっては不安要素しかないよ!?」
どうしよう、面倒くさくなってきた。
帰ろうかな。
あ、そういえば浬先生がネトゲがどうとか言ってたな。
私も帰ってログインしようかな、レベリングでも手伝いながら遊んでもらおうそうしよう。
「お願いだから黙って帰ろうとしないで。 なんか夕飯奢るから! もちろん食事のお誘いとかじゃなくて、テイクアウト出来る物にするから! 頼むから話を聞かせて!」
チッと舌打ちしてから振り返る。
もはや90度を超える角度で頭を下げる天童先輩。
見た限りでは多分、オカ研の中でもかなり使える異能だと思うんだけど、キャラがなぁ……
なんてとんでもなく失礼な考えだと分かってはいるものの、どうしても気が引けてしまう。
「喋るのが面倒になってきたんで、一回で覚えてくださいね? 私の異能は”耳”、カレらの声を他の人より鮮明に聞くことが出来ます。 この前の夜はその声と、私にとっては違和感の塊みたいな”生きている人間”の声を、”異能としての耳”が捉えました。 だから何だコイツってなったわけです」
あの晩、皆とご飯を食べに行く途中それは聞こえた。
どう考えたって良くないモノが複数、誰かを唆しているような声が聞えた。
最初は慌てたが、その後に聞こえてきたどっかの誰かの声によって、事なきをえた事がその場で分かった。
いつもの調子の黒家先輩であれば、真っ先に違和感に気づきそうなモノだが、その日……というかここ最近は俯いたまま、心ここにあらずといった雰囲気なのだ。
だからこそ不味いと思えた。
もしかしたら今までも知らずの内に、天童先輩がこういった事例を未然に防いでいたのかもしれない。
だとしても、だ。
ここ最近は私でもわかるくらいに、『雑魚』が猛威を振るっている気配がある。
いくつもの個体が重なり合って、誰かを陥れよう、引きずり込もうと動いている。
今までこんな事は無かったのだ。
何かしら変化があった、そう仮定して私が想像出来る範囲で思いつくのは……最近のオカ研の活動くらいしかなかった。
以前は毎晩のように『雑魚』を散らす活動をしていたという。
だというのに少し前に”蟲毒”を相手にしてから、黒家先輩が明らかなまでに非協力的なのだ。
何があったのか聞いても答えてくれず、彼女が居なければ活動しようにもどこに向かえばいいのかわからない。
そんな足踏みをしているような状態だからこそ、天童先輩の様な”祓える”であろう力は必要なのだ。
少しでも異能力者を増やし、急な状況でも対処出来る様にしておかないと……なんて思っていたのは確かだったんだが、これだもんなぁ。
「えっとつまり、鶴弥ちゃんには俺の”声”が普通とは違う風に聞えるってこと? その……亡霊達の声と近いっていうか、そんな感じで」
「まぁそんな感じですね。 あーあと何でしたっけ、質問が多すぎて忘れました。 後は黒家先輩に聞いてください、私も新参者なんで。 それじゃまた明日部室で」
そういって立ち去ろうとする私の手を、後ろから彼が掴んできた。
そのせいで痴漢呼ばわりされたことを、もう忘れてしまったのだろうか。
「えっと、あの……」
人を引き留めたというのに口籠るとは、なんも情けない。
しばらく黙ってみていると、彼は諦めた様に口を開いた。
「俺は、その。 黒家さんに嫌われてる……のかな」
「嫌っているというか、単純に苦手なだけだと思いますけど」
「あはは、やっぱ毒舌だね、鶴弥ちゃん。 容赦ないや」
力なくその手を離し、俯いてしまう。
なんというか、面倒くさい人だ。
「とはいえ、ここ最近は黒家先輩ずっとおかしかったですから、多分貴方のせいって訳じゃないと思いますよ? というか、そんな風に思っているのなら単なる思い上がりです」
「ほ、本当に!?」
「か、回復速いですね……」
本当に、面倒くさい人だ……
さっきまでこの世の終わりみたいな顔をしていたのに、今では目をキラッキラさせてやがりますよ。
とはいえ苦手意識は変わらないと思うんだけどなぁ。
「とにかく、詳しい話は明日です。 それじゃ」
「ちょ、ちょっと待って鶴弥ちゃん!」
「まだ何か?」
「俺まだ、夕飯奢ってない」
「意外と律儀ですね……」
調子の狂う事この上ない先輩に対して、盛大なため息を一つ溢してから、私達は明るい路地に足を進めた。
私がこんな事をした処で、今後の活動が上手く行くとは限らない。
それこそ先輩達は彼を認めてくれないかもしれない。
早瀬先輩ならまだわかる、けど黒家先輩に関してはそうなってしまってはおかしいのだ。
大して役に立つとも思えない私の異能だって、彼女は必死に手に入れようとした。
だとすれば、隣に立つこの人の異能を知った状態で手放すなんて、到底ありえるとは思えない。
いつもの彼女なら、事情を話せば飛びついてきそうなものだが……果たしてどうなるか。
これで興味も持たれなければ、私にはどうしようもないだろう。
「こういう時こそ、出番なんじゃないですかね……浬先生」
「え? 何か言った?」
「別に」
不思議そうに首を傾げる天童先輩の隣を、フードを被り直して通り過ぎた。
天童先輩に助けられた人にとっては、きっとこの人もヒーローなのだ。
そのどちらも見ているからこそ思う。
浬先生なら、多分この状況を変えられる。
先輩達のヒーローであり、真っすぐで余計な事なんて考えない彼ならきっと彼女を救ってくれる。
そんな気がするのだ。
だからこそ……
「いい加減、動くべきだと思うんですけどねぇ……」
そんな呟きが、夜の街に溶けていった。





