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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
本編

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何この部活

ちょっとばかし新キャラのお話が続きます。


 「えーっと……こんちゃー」


 夕暮れが映える旧校舎の一室。

 その扉を少しだけ開いて頭を覗かせた。

 入部してから数日は過ぎているはずなのだが、未だに慣れない。


 「ノックくらいしたらどうですか? これでも女性の方が圧倒的に多い部室ですよ」


 「あっ……ご、ごめん黒家さん、今度から気を付けるよ」


 もう何度注意された事だろうか。

 気を付けようとは思っているんだが、いざ部屋の前に立つと緊張やら何やらで、結局忘れてしまう。

 普段ならこんなことも無いのに、なんとももどかしい。


 「もう巡、そうツンケンしなくてもいいのに」


 「とは言ってもノックくらいはあってもいいんじゃないですか? 先輩達なんて、部室に来た瞬間だらしなくなりますし。 着替え中だったら事です」


 あー確かにねーなんて言いながら、早瀬さんと鶴弥ちゃんがソファで駄弁っている。

 とはいえこの数日間、そんなラッキースケベなど発生していない。

 確かに黒家さんは普段と比べて服装は緩くなるが、割とガード固めだし。

 他の二人に至っては、早瀬さんは結構ゴロゴロしたりするが、後輩である鶴弥ちゃんが決まってガードポジションを陣取っているのだ。

 しかもそういう視線の一つでも送ろうものなら、黒家さんと鶴弥ちゃんから厳しい眼差しが向けられてくるオマケ付きだ。

 針の筵、とまでは言わないが中々どうして居心地が悪い。

 女子ばかりの部活に、急に男が入部すればそれも当然と言えるのかもしれないが……経験上数日行動を共にしても、ここまで心を開いてくれない友人というのは初めてだった。


 自慢する訳ではないが、俺は結構友達が多い方だ。

 軽い感じで接していれば男女共に友人は増えていったし、例の中二病発言だって結構な人数にネタとして受け入れてもらっていた。

 だというのに、ここではそれら全てが裏目に出ている気がする。

 唯一普通に接してくれる早瀬さんだって、おかしな発言をすれば困った様に笑い、そういう時だけ鶴弥ちゃんがツッコミを入れてくれるという状態が続いているのだ。

 そして肝心の黒家さんといえば……最初の挨拶、というか注意以外は殆ど口を聞いてくれない。

 とはいえ何か直接話しかければ答えてはくれる。

 くれるんだが……「あぁ、そうですか」とか「別に」くらいしか返って来ないのだ。

 会話らしい会話が続かない。

 これはもはやどうしたらいいのか分からなくなり、大体このメンツで居るときは聞き専になったり、相槌を打ったりして過ごす毎日になっていた。

 どうにかしたい現状ではあるのだが、一体どうすれば……なんて思っている内に会話が進んでいく。

 しまった、ちょっと聞き逃していた。


 「ねぇ巡、最近ちょっと変だよ? ずっと上の空だし、ここの所夜の活動も全然してないじゃん。 何かあった?」


 心配そうに覗き込む早瀬さんに対して、黒家さんが気まずそうに顔を背けた。

 これは見た事ないレアな表情、教室内では絶対見せない顔だ。

 ていうか夜の活動ってなんだ、めっちゃ気になる。

 とはいえ何か悩みでもあるなら、ここは多少無理矢理にでも聞き出して、名誉挽回しなければ。

 そもそもここはオカルト研究部、ならば俺という存在は必要不可欠だと思われる。

 だからこそ、今の内から仲良くなっておかなければ!

 なんていう意気込みだけで口を開いたのが、間違いだったのかもしれない。


 「黒家さん、悩み事? 俺で良ければ相談してよ、これでも結構クラスの中では相談事とか——」


 「——この中では最も貴方に関係ない事ですから。 そもそも貴方に相談する理由がありません」


 俺の言葉を遮る様に、ピシャリと言い放たれてしまった。

 普段からクールキャラだとは思っていたが、まさかここまでとは。

 もしかして最初の事をまだ怒っているんだろうか?

 何も言えなくなってしまい、オロオロとしている俺に鶴弥ちゃんがため息を溢した。


 「カブト虫、ステイ」


 「か、かぶと虫って……鶴弥ちゃん。 それと俺一応先輩……」


 「変身出来ないカブトはただの虫です。 無駄にしゃしゃり出る男性は嫌われますよ、特にこの部では」


 「え、そうなの?」


 変身うんぬんは置いておいて、結構重要な事を聞いた気がするぞ?

 つまり自分から行くのではなく、相手からのアプローチを待てという事か。

 黒家さんが相談してくれるまで大人しく待っていた方が吉……ってあれ? その場合俺何も喋るなって事なんじゃ?

 悲しい結論を叩きだした所で、困り顔の早瀬さんがやれやれと肩を落としながら再び口を開いた。


 「とはいえ、さ。 このままずっとそんな調子で過ごそうとは思ってないよね? 巡」 


 「……」


 「まぁ言えない事だったら無理に聞こうとは思ないし、言えるようになるまで待つよ。 一人で解決できるなら口も出さない。 でも、そうじゃないんでしょ? 多分」


 あはは、なんて困り顔のまま乾いた笑いを浮かべる早瀬さん。

 今まで見たことも無い程、慈愛に満ちているように思える彼女。

 普段なら明るく周囲に接しているが、今は何となく違う。

 まるで頑なに口を割らなくなった子供に、やれやれと困った笑みを浮かべているような。

 黒家さんの事を良く知っているからこそ、あえて距離を取るようなそんな行動。

 そんな彼女が夕日に照らされた姿は、とても美しかった。


 「ふんっ!」


 「いってぇ!」


 急に鶴弥ちゃんからデコピンを貰ってしまった。

 なんだろう、嫉妬でもしたのだろうか。

 などと冗談で思った瞬間、彼女は害虫でも見るような瞳を向けてきた。

 何故だ、声には出していなかったはずなのに。


 「不埒な考えがダダ洩れしてますよ。 こういう雰囲気の時によく下らない事考えられますねワーム先輩」


 「ワーム!? 直訳でそのまま虫!? カブトムシですらなくなった!?」


 「うっさいです! 雰囲気クラッシャーも大概にしてください!」


 何やら理不尽な事を言われたが、大人しくしていた方が良いのだろう。

 再び「ステイ!」と言われて座らされてしまった、床に。


 「何ていうか、元気だね天童君。 あんまり話したこと無かったけど、ある意味草加先生に似て……るのかな? いや、そうでもないか?」


 「騙されないで下さい早瀬先輩、こんなのは海賊版でしかありません。 しかも劣化品です、言うならば盗作再現品です」


 「ちょっと酷過ぎないかな鶴弥ちゃん!」


 「いつもチラチラとやらしい視線を忍ばせてくる人は悪です」


 「う、うぐっ!?」


 やはりバレていたのか!?

 そうでもなければ、あんな絶妙なポジション取りはしてこないだろう。

 分かってはいたが、こうまで真っ向からぶつけられると流石に何も言えなくなってしまう。

 スミマセンデシタ……


 とはいえその当の本人は、はて? みたいな顔をしているのだから、もう少し自覚を持っていただきたい。

 男子高校生にとって、貴女の無防備さは目に毒なのですよ。

 なんて言った瞬間、周りから引っ叩かれる未来は予想できるが。


 「はぁ……今日はもうお開きにしましょう。 ここはコント研究会ではありませんし」


 そう言って読んでいた資料を閉じ、黒家さんが立ち上がった。

 今日もまた、特にこれといった活動もせず部活動が終ってしまったらしい。


 「あっ、それなら俺が家まで送って——」


 「——結構です」


 相変わらず最後まで喋らせてくれない。

 ちょっと心が折れそうになっている俺を尻目に、彼女は帰る準備を進めていく。

 今日も、進展なし……悲しい。

 なんて思っていると、黒家さんは俯いたままポツリと言葉を洩らした。


 「さっきの話……もう少し、考えさせて下さい。 私の中で答えが決まったら、相談しようと思います」


 思わずガバッと音が立ちそうな程の勢いで、彼女に向き直ってしまった。


 「えっ! それってもしかして!」


 「虫野郎の話はしてません、どう考えたって早瀬先輩に対して言ってますよね!? 余計な口を挟むからこういう事になるんです!」


 スパーン! といい音を立てて、鶴弥ちゃんがハリセンで引っ叩いてきた。

 この部室なんでハリセンとか常備されてるの?

 本当はコント研究会だったりしない?


 「ん、了解。 無理しないでね? 巡」


 「えぇ、心配掛けてすみません。 それじゃ」


 そう言って、俯いたままの彼女が部室の扉を開け、立ち去ら……なかった。

 ふぎゃ! みたいな可愛い声を上げて、目の前の巨体に顔面から突っ込んだ。

 何あれ、ジャージ姿の人が扉のスレスレの位置に仁王立ちしてるんだけど。

 変質者? ではなく、どう見ても顧問の先生だった。


 「先生……何度も言ってますが、来たならさっさと入ってください。 とはいえ今日の部活は終わりです」


 顔面を草加ッちの胸辺りに突っこんだまま、フガフガという表現が似合いそうな声で喋る黒家さん。

 ちょっと羨ましい、俺もアレやられてみたい。

 対する草加ッちはと言えば、へぇ? みたいな返事を返しただけで動じていない。

 これが大人の余裕って奴なのだろうか、俺だったら絶対テンパる。


 「早く退いてください。 これでは帰れません……」


 「おい黒家」


 「……なんですか」


 やけに静かな空気が部室内に漂っている。

 誰もが彼らの会話に耳を傾け、行く末を見守っている。

 っていうか黒家さん先生に突撃したまま止まってるんだけど、何あれ羨ましい。


 「気乗りしねぇなら黙っててもいいがよ、何かあったんなら言えよ」


 「なんですかソレ。 今までそんな事言ってくれた事無かったのに」


 異常とも思える光景。

 二人とも身動き一つしないで、やけに密着したまま会話を続けている。

 草加ッちは無表情だし、黒家さんも声からして表情の変化はないのだろう。


 「最近のお前は気持ち悪いからな」


 「本当に失礼ですね、先生は。 私はいつも通りですよ」


 「そうかよ」


 その一言と共に、草加ッちが体を退ける。

 通路が開いたことにより、止まっていた水の流れが動き出すように黒家さんも歩き出した。

 このまま帰してしまっていいのだろうか? なんて気持ちも湧き上がってくるが、隣にいる鶴弥ちゃんが、少し黙って居ろと視線で訴えてくる。

 とはいえ流石に草加ッちだって、アレは言い過ぎだろ。

 黒家さんだってあんな事言われれば、傷ついて居るだろうし。

 いくらなんでも正面切って気持ち悪いとか、普通口が裂けても言えないだろ。

 そんな事を考えている間に黒家さんは草加ッちの横を通り過ぎて、一人廊下を歩いていく。

 やけに物悲しく感じるその背中を、思わず追いかけそうになった俺よりも早く、目の前の彼が口を開いた。


 「おい黒家」


 「なんですか?」


 「今度また飯作ってくれ、前食った時の旨かった」


 えぇぇ、それはアリなのか?

 もうちょっとこう、色々と選ぶべき言葉がある気が……

 ていうか草加ッちって黒家さんの手料理食べた事あるの? マジで?


 「気が向いたら、作って上げます」


 そう言って、小さな微笑みを浮かべたその顔がこちらを振り返り、再び前を向いて去って行った。

 あれ? もしかして今のでグッドコミュニケーション?

 おかしい、俺の常識がまるで通用しない。

 何故だ、というか何だ、ここは。


 「わりぃ、俺も帰るわ。 今日ネトゲのアプデなんだ」


 疑問に答えてくれる人はおらず、顧問までもが帰って行ってしまった。

 本当に、なんだこの部活。


 「天童君って、モテるでしょ?」


 ニコリと笑いながら、早瀬さんが問いかけてくる。

 言ってしまえば彼女も俺にとっての不思議要素の一つだ。

 最近ではクラスメイトと円満に友好関係を築いているにも関わらず、決して深入りはさせない。

 周りの男連中から話を聞けば、早瀬という名前は飽きるほど耳にする。

 それくらい友好的で、多くの異性から注目される彼女。

 だというのに、彼女は決して心を開かない。

 唯一無警戒な姿を晒すこの部活では、彼女は肝心な時に意味深な言葉を残すばかりで、詳しくは語らない。

 だというのに、周りには伝わっているように感じられた。

 これが、信頼の差ってやつなのかもしれないな。

 そんな事を自傷気味に思いながら、彼女の質問に答えた。


 「うんと……まぁそれなりに。 て言っても、キャラ作って好まれてって具合なもんで。 この部に入ってからは自信の欠片も残らないくらい、ボロボロにされてっけど」


 あはは、なんて笑う俺に対して早瀬さんは目を細めた。

 微笑んだという意味ではなく、軽蔑する眼差しを向ける様に。


 「そういう雰囲気っていうか……ノリって言ったらいいのかな。 そういうの続けるなら、ココは辞めた方がいいよ? 多分天童君が居づらくなるだけだよ。 誰も求めてないから、そういうの」


 今ままで言われたどの言葉よりも冷たい台詞が、胸に突き刺さった。

 しかもこの部における仲介役、みたいな雰囲気の早瀬さんからだ。

 いくら何でもこれは効いた。


 「そ、そっか……なんて言うか、難しい部活なんだね?」


 「ううん、そういう事じゃないんだ? 天童君がオカ研続けたいなら私は歓迎するし、今のままでも多分活動は続くと思うんだ。 でもね、そうじゃないの。 私達にとっては、もう”ココしか無い”の。 利用して、利用されて。 気持ち云々の前に、もう逃げ道が無い、それが私達なの。 だから半端な気持ちで続けるなら、多分天童君が辛いだけだよ?」


 聖母のような微笑みで、冷たい言葉を掛けてくる彼女にゾッと背筋が冷えた。

 その笑顔に反して、彼女の瞳は冷え切っていた。

 こんな目を向けられたのは、俺の人生において初めての経験。

 その場のノリと雰囲気だけで生きてきた俺という人間。

 友達はたくさんいたし、恋人だってそこまで困る事もなかった。

 幽霊が見えるとか、俺にはなんとか出来る力があるとか、そういう悩みだって冗談みたいに話しながら、その場その場を凌いできた。

 恨まれる経験一つせず、俺は安穏と生きてきたのだ。


 その人生全てを、俺という人間を否定するみたいに、彼女の冷たい瞳は俺を見ていた。

 見える見えないで悩んだ事だってあった、誰かに真面目に相談できない苦しみだって味わってきた。

 だとしても、そんなものは俺の感覚でしかない。

 それ以上の苦しみを味わい続けた様な瞳が、俺を射貫いていた。

 きっと彼女は、想像も出来ないような苦しみを味わってきたのだろう。

 その経験を経て、軽率な行動を取る俺に対して怒りを覚えたのだろう。

 だからこそ、俺はその『眼』を怖いと感じたんだ。


 「え……っと、何か色々ゴメン。 俺もちょっと考えてみるよ」


 まるでその『眼』から逃げる様に、慌てて荷物を抱えて部室を後にした。

 背後から突き刺さるような視線を浴びて、こんなにも怖いと思った事は無いだろう。

 いつもやってる”除霊”のほうがまだ気が楽だと思える程に。

 今はこの場から離れよう、明日になればきっと何か妙案を思いつくさ。

 そんな願望めいた妄想を浮かべながら、夕日の当たる廊下を走り抜けた。

 背後から興味深そうに見つめる、もう一人の視線にも気づかぬまま。


 感想来たぜヤッター! くらいな心境で、一話書き溜め出来たのでアップします。

 単純な思考回路でペース配分を乱していくスタイル。

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