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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
本編

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新しい日常


 「あぁ~、終わったぁぁ」


 最後の授業が終わり、両腕を伸ばして凝り固まった体をほぐす。

 窓際の席で夕日を眩しいくらいに浴びながら、コテンと頭を机に突っ伏した。

 何気なく視線を送れば、巡が教室から出ていく姿が見える。

 あいつめ、ホームルームはサボる気満々だな。

 いかにも真面目! という見た目の今の彼女は、あの時一緒に走り回った勇ましい彼女とはどうにも結びつかない。


 半分くらいしか目を開けてないし無口だし、眼鏡なんか掛けちゃってるし。

 学校に居る時も、あの時の一割程度でいいから素を出して打ち解けてほしいものだ。

 早々に退散して、今頃は部室に向かっている事だろう。

 とはいえ、今日ばかりは私もさっさと部室に向かいたい気持ちだった。


 なんたって本日は、一週間ぶりのオカ研活動再開の日なのだ。

 そう、一週間だ。

 とんでもない経験をしたあの日から、もう一週間も立っている。

 今回ばかりは危険だったと草加先生が激怒し、しばらくの間活動禁止令をだしたのだ。


 「これを守れないならもう合宿許可なんぞ取ってこない」


 という脅し文句に、流石の巡も素直に頷く事しか出来なかったらしい。

 まぁそれも仕方のない話、というか一週間って結構短い気もするんだが。

 なんて事を一人考えている内、ホームルームが始まった。

 さて、これが終わったら私も向かうとしよう。

 旧校舎にある、あの部屋へ。


 少しだけ、あの日あの後の事を話そうと思う。

 結果から言ってしまえば、あの後それ以上の怪異は起こらなかった。

 アイツが黒い霧をひとしきり吐き出した後、しばらくすると霧は薄くなっていった。

 視界が戻ってくる頃には『迷界』は消え、私達は最初に休憩した場所に戻されていたのだ。


 どうやら草加先生には、アイツを殴り飛ばした直後から姿が見えなくなり、黒い霧に呑まれたように見えていたらしい。

 まあ幽霊の存在を信じていない草加先生の事だ。

 殴った相手が首縄に引っかかって、そのままぶら下がったなんて光景を見たら大慌てしそうなので、ある意味では良かったのかもしれない。


 「アイツも忍者か!? 煙幕炊いて消えたぞ!」


 なんて訳の分からない事を叫んでいたが、まあそれはいいだろう。

 それこそあのまま終了という事になったなら、また逃げられたのではないかと不安が残りそうだったが、結果はそうならなかった。


 廃墟に戻った先で、私の『眼』はカレの姿を捉えたのだ。

 とはいえ緊急事態が続いた訳ではなく、『迷界』で最後に見た姿のまま部屋の中に吊るされていた。

 どこからともなく垂れる首縄に吊るされた男、というのは流石に精神的に来るものがあったが、その姿は徐々に薄れていき最後には跡形も無く消えてしまったのだ。

 それが退治したのか、成仏でもしたのかは分からないが、私の『眼』だからこそ見えた光景だったのだろう。


 草加先生には当然の様に見えていないし、その時は眠っていた巡に後日確認しても、それらしい現象は見た事がないらしい。

 結局はそんな感じで一件落着、となったのは良かったのだが……疲れ果てて眠ってしまった巡の姿に、草加先生が大慌てしながら病院に駆け込むという慌ただし最後となってしまった。

 まあ病院に行った所で「疲れて寝てるだけですね。 随分汗をかいてる様だから起きたら水飲ませてね。 この恰好で限界までランニングでもしたの?」などと言われる始末。


 草加先生に抱き抱えられ運ばれている間、終始幸せそうな寝顔を浮かべる巡。

 放っておいても大丈夫だろコイツ、なんて思える程に。

 それはそれは幸せそうな寝顔だったので、あまり心配はしていなかったが、まあ何事も無くて良かった。

 そんなこんなで長い夜は終わり、帰ってから私も泥のように眠ってしまったのは言うまでもない。


 そして先ほど言った活動禁止令。

 期間中巡は草加先生から見てもビックリするくらい大人しくなり、学校が終わったらすぐ帰宅する、というスタイルを貫いていた。

 部活が出来ないんだから少しくらい遊びにでも行こうと誘ってはみたが、今週は忙しいと取り付く島も無く断られてしまった。


 とはいえ禁止令も昨日で終わり、またあの生き生きとした彼女が戻ってくる事だろう。

 そんな訳で私は再び、あの部室に向かって足を進めているという訳だ。

 あんな出来事があったのだから、もう関わらない様にしても普通おかしくない。

 でも私にとっては普通の日常を手に入れる為の活動であり、身を守る手段でもある。

 前回のようなのは御免だが、毎度あそこまで酷いものではないだろう。

 そして何より、この部活を続ける限りは草加先生と一緒に居られるのだ。

 なら私がオカ研を離れるという選択肢は、存在しないも同然なのである。

 また今度お弁当でも作ってこようか。

 部室が使えるようになれば、お昼は皆で集まってもいいかもしれない。

 その時は巡の分も作ってきてあげよう、きっと楽しい筈だ。

 そんな妄想をしながら、軽い足取りで旧校舎の廊下を歩いていた。

 もう少し、あの角を曲がればすぐ……


 「はい?」


 部室の扉に、何か書かれた紙が貼ってあった。

 近づいて手に取ると、丸っこい字で短い文章が書かれていた。


 『本日の部活は先生の家で行います。 もしも場所を知っているのであれば、貴女も来るといいですよ。 約束の夕飯を作りに行くだけですから、ご心配なく。 巡より』


 「な、な……な!」


 グワシッと紙を握りつぶす勢いで扉から引っぺがす。

 何を言っているんだあいつは、今日は活動再開の日だから楽しみにしてたのに。

 それなのに、コレだ。

 もちろん草加先生の家の住所など私は知らない、というか何で知ってるんだあいつは。

 そして夕飯を作りに行くって、前に私のお弁当に対抗して言ってたアレか!

 なんて奴だ。

 一人抜け駆けして、まるで通い妻の様な事を行うつもりなのだ。

 即座に『住所教えて! 私も行く!』とメールしたが、『いやです』と冷たい内容が凄い速度で返ってきた。


 こいつ……何が何でも二人っきりになるつもりだ。

 なんて奴だ……なんて奴なんだ……


 「あぁもう! 巡のアホーー!」


 私のその叫び声は、誰も居ない旧校舎の中に虚しく響き渡るのであった。


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