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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
第二部

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13階段 5


 「んで、お前らはいつまで居るんだ? 大家さんの許可取ったからいいけどよ」


 2日連続で夕食を作っている大学生諸君。

 まあ旨い飯が食えるので、俺としては大いにありがたいのだが……いいんだろうか?

 なんて事を考えながらジャラジャラと麻雀牌を混ぜる。


 「別にいいじゃないですか、明日から連休に入りますし」


 サラダを混ぜながら、黒家がしれっとそんな事を言ってくる。

 まあうん、こっちはいいんだけどさ。

 君ら大学生でしょうに、キャンパスライフを楽しむお年頃でしょうに。

 しかも親御さんも良く許可だしたな。

 まあ黒家の場合は親御さんが帰ってこない事の方が多いらしいので、黒家弟を借りている以上一人になってしまう訳だが。

 問題は残りの二人だ。


 「私も別に問題なかったですよ? 草加先生居るよーって言ったら、じゃあいいよって言われました」


 「うん、なんか今度菓子折りでも持って行くわ……」


 キッチンで忙しそうにしている早瀬も、呑気な声を上げてくる。

 早瀬のお母さん、それでいいのですか。

 娘さんに大変お世話になっているのであまり大きな口は叩けないが、それでいいのですか。

 一応独身のおっさんだよ俺、娘さん華の大学生だよ。


 「ウチはあんまり口出ししてこない家なんで、特に問題はないですね。 というか俺も一人暮らし始めたんで、合宿に参加している事すら知らないです」


 「そこは言えよ、ちゃんと報告しておけよ。 というかお前んちの事情は聞いた事無かったな。 どんな感じなんだ?」


 「いやぁ……生徒の家庭事情にそこまで詳しいのって、教師でも草加ッちくらいな気がするけど……」


 なんて、呆れた視線を送ってくる天童。

 コイツもまた黒家早瀬と混じってキッチンに立っておられる。

 ついでに黒家弟も。

 なんというか、現代の男の子は料理が出来るもんなんだね。

 おじさんびっくりだよ。

 とかなんとか思いながら視線を送っていると。


 「浬先生、それロンで」


 左隣に座る鶴弥が、パタッと牌を倒した。

 黒家弟の代わりにコイツを参戦させたわけだが……なんかめっちゃ強い。


 「お前……なんか俺ばっか狙ってない? イカサマとかしてない?」


 「麻雀でそんな事出来る訳ないじゃないですか、偶然ですよ偶然。 更に言えば、イカサマはバレなければイカサマじゃないんです」


 なんかちょっと不機嫌そうな鶴弥が、非常に気になる言葉を吐きながら人の点棒を奪っていく。

 昨日今日でなんかあったのかよ、周りが「ザワ……ザワザワ……」とか言い出しそうなレベルで一人勝ちしているが。


 「鶴弥、なんかお前不機嫌じゃないか? どうしたよ」


 察するとか器用な真似は出来ないので、直接言葉にしてみた訳だが。


 「別に……と言いたい所ですけど、ちょっとだけ思う所がありまして。 なので私の八つ当たりに付き合ってください」


 人から派手に点数を奪っておいて、ブスッとした表情のままそんな事を言い出す部長様。

 なんともまぁ子供らしいと言うべきか、やけに素直なのが子供っぽくないという言うべきか。

 やれやれと首を振ってから、再び牌をジャラジャラ混ぜていく。


 「あいよ、思う存分暴れりゃいいさ。 ただし、次は勝たせてもらうがな」


 へっ、と呆れた表情を作りながらジャラジャラする俺に対して、鶴弥はポカンとした表情を向けて来た。

 あんだよ、なんて聞いてみれば慌てて首を左右に振り回しているが……まぁいいさ。

 若者の鬱憤を解消してやるのも、大人の役目ってやつだろう。


 「浬先生は、なんていうか……やっぱり落ち着きますね」


 らしくものない事を言い出す鶴弥に、再び口元を歪めて笑ってやる。

 随分とまあお疲れのご様子で、本当にらしくない事もあるもんだ。


 「だから所詮良い人止まりだってか? うっせぇよチビッ子、今度はボロボロに負かしてやるからな」


 「フフ、やれるものなら」


 そんな会話をしながら、時間は過ぎていく。

 いつまでこの合宿をやるのかは知らんが、こいつ等全員と夜までゆっくり過ごす事なんてほとんどないだろう。

 なら、今の内に楽しんでおけばいいさ。

 どうせ今回の合宿は、迷惑行為の馬鹿共が現れればとっ捕まえて修了……


 「あ、すみません。 天和です」


 「お前ふざけんなよぉぉぉ!?」


 訂正、今日の鶴弥とだけはゆっくりしたくない。

 ゆっくりした分だけ精神ゴリゴリ削られる。

 泣けるぜ。


 ――――


 「今日は皆居るからいつもより安心だけど、無理はしない様にね」


 そう言って玄関まで送りだしてくれる椿先生。

 彼女の後ろには渋谷さんと環さんの姿もある。

 今日の二人は男子部屋でお留守番。

 いくらなんでも狭い空間に“雑魚”が多すぎるので、後衛組にはちょっと荷が重いのだ。


 「はい、行ってきます。 勝手に仕事をした先輩方が、何やら掴んだらしいですし。  近い内に終わるかもしれません。 2時間経っても連絡が無ければ、その時は浬先生をお願いします」


 それだけ言ってチラッと部屋の奥へ視線を向ければ、ソファーで眠りこける顧問の姿が。

 本当にネットやらゲームがないと、早寝早起きだなあの人……

 溜息を一つ溢してから、改めて私達は隣の部屋に移動した。


 室内には私たちの荷物が転がっている訳だが……やはりこっちの部屋は何度見ても落ち着かない。

 隣と同じ空間のはずなのに、何となく息苦しいと感じてしまう。

 まぁ、夜になったら眠れぬ程の怪奇現象が起るのだから、慣れろと言う方が無理なのかもしれないが。


 「さて、それでは時間になるまで作戦会議と、情報共有といきましょうか」


 集まっているのは困り顔の先輩三人と、現オカ研の4人。

 そして足元には渋谷さんの使っている三毛猫が一匹、ついでに茜さんがふよふよと浮いておられる。

 流石にコレだけの人数が集まると、如何せん部屋が窮屈に感じられるが……まあ仕方がないだろう。


 「そういつまでもカリカリしてないで下さい鶴弥さん。 勝手な行動を取ったのは申し訳ないと思っていますが、昨日はよく眠れたでしょう?」


 やれやれと、少しだけ眉を下げた黒家先輩が小さな微笑みを溢した。

 なんかちょっと子ども扱いされている気がしてむず痒いが。

確かに彼女の言う通り助けられたのは事実なので、あまり大きな口は叩けないだろう。


 「それはまぁ……はい、ありがとうございました。 でも、今度からは一言欲しいです。 これでも私、今は部長なので」


 ムスッとした表情で訴えてみれば、今度は早瀬先輩に後ろから抱き着かれてしまった。


 「ごめんねぇつるやん。 でも大変そうだったからどうしても、ね? もっと私達を頼ってくれていいんだよ? 可愛い後輩の頼みなら、皆すぐ集まるし」


 「ヘルプコール出せば絶対集まっちゃう上に、私自身それに慣れてしまうとついつい甘え過ぎてしまいそうだったので……今までは可能な限り呼ばなかったのですが。 特に天童先輩なんて、一人だけ大学遠いですし」


 久しぶりの早瀬先輩のスキンシップに戸惑いながらも、ぶつぶつと言い訳を述べてみるが……先輩達の笑みが余計深まっただけに終わってしまった。

 いかん、この人達の前だとどうしても昔みたいになってしまう。

 あんまり情けない姿は後輩達に見られたくないのだけれど。


 「完全部外者になった訳じゃないんだから、素直に甘えてくれた方が嬉しいんだけどね。 あ、あと俺の事は気にしなくていいよ? 基本バイク移動だし、割とすぐ来られるよ」


 「だからそういう所がですね……」


 ダメだ、甘やかそうとする人達しかいない。

 だから余計に後輩達に見せたくなかったのだが……もう遅いか。


 「部長が凄く甘やかされてますね、普段からは想像つかないくらいに」


 「いやぁ、懐かしい。 昔は大体こんな感じでしたよ?」


 おいそこの眼鏡、後輩に余計な事吹き込むんじゃないよ。

 威厳も何も無くなっちゃうだろ。

 早瀬先輩に抱っこされている時点で崩壊してる気がしないでもないが。


 「仲がいいのは良い事かと。 最近は鶴弥さんも気を張っていた雰囲気ありましたしね」


 また余計な事を言い始める男子が一人。

 というか、忘れてた。


 「俊君、貴方は何無関係みたいな顔しているんですか? 昨夜も参加していたみたいですし、そもそも情報を漏らしたのも貴方ですよね? 後でお説教ですから、覚悟しておいてください」


 「うっ……はい」


 先輩達を信用しているからこそ相談したのだろうが、それでも今回の件は『オカルト研究部』が請け負った依頼なのだ。

 いくら卒業生だからとはいえ、情報を勝手に漏らすのは信用に関わるだろう。

 しっかりと反省していただかなくては。


 「まぁ俊のお仕置きは後回しとして、先に情報共有といきましょう。 それにもしかしたら、今日は俊が戦力外になるかもしれませんし」


 「え? は!? ちょっと姉さん!?」


 意味深な事を言い放った黒家先輩が、懐かしいと感じられる歪んだ笑みを浮かべるのであった。


 「オカ研の部長は、皆あの表情が出来る様にならないといけないんですかね?」


 「いや、まぁ……どうなんでしょう。 多分部長が真似しようと必死に頑張った結果ではないかと」


 おいそこ、何をコソコソ話していやがりますか。


 ――――


 今回は昨晩の出来事を聞くだけだったので、そう長くはかからなかった。

 というか情報そのものより、今後どうするかの方が頭を悩ませてくれそうだ。

 聞き終わってみれば、円を組む様に座った皆が皆渋い顔をしておられる。


 「また“迷界”と“上位種”……なんでこうハズレくじばかり引くんですかね私達は」


 『なんというか、昔よりかは減ったって言う割に結構出ますねぇ“上位種”』


 『私は未だに“迷界”とやらに入った事が無いので、どういう所なのかちょっと気になります。 あ、入りたい訳じゃないですよ?』


 はぁ、とため息を溢しているとインカムからそんな声が聞こえてくる。

 隣の部屋でもしっかりと話を聞いているらしい二人だが、渋谷さんの猫は何故いつも私の膝の上に上ってくるのだろう。

 まあそれは今どうでもいいか。


 「恐らく13段目を告げられたその日に“迷界”に誘い込むんでしょうね、何の意味があってそんな事をしているかは知りませんが」


 黒家先輩が、呆れた様な表情で首を振っている。

 確かに、良く分からない行動する怪異って多いよね。

 ホント、何の意味があるのだろうか。


 「それで、今後はどうするおつもりですか? 先輩方も長く居られる訳ではないでしょうし、僕達も残りの日数全てを熟すとなると体力の問題がありますが……」


 上島君が小さく手を上げ、先輩達と私に視線を送ってくるが……黒家先輩は小さく首を横に振って答えた。


 「先程鶴弥さんが言った通り、これは今の“オカ研”が受けた依頼です。 なので、判断は現部長に一任しようかと。 私たちは鶴弥さんの指示に従います」


 え、ちょっと?

 何を言い始めているのです?

 昨日勝手に暴れまわったばかりだというのに、ここに来て丸投げですか。


 「鶴弥さん、言いたい事は分かりますが表情に出し過ぎです。 交渉なんかで不利になりますよ?」


 「うっ……」


 ピシャリと叱られてしまい、思わず苦い呟きを漏らす。

 本当に皆の前というか、こういう状況になると冷たいこの人。

 しかし、どうしたものか。

 相手は“上位種”だし、戦力的にも先輩達が居るうちに潰しておきたい。

 そう考えると……


 「そうそう、常に考える事が大事ですよ。 今の貴女は皆の司令塔なのですから、何かイレギュラーが起きても常に頭を回すべきです」


 「あの……もしかして試してます? 私の事」


 この部の長として、しっかりと行動出来ているのか試しているみたいな、そんな雰囲気が感じられる。

 もしかして、随分と遅れた部長昇格試験だったりする?

 なんて事を考えて顔を青くしていると、隣の早瀬先輩がクスクスと笑い始めた。


 「そういうのじゃないよ、巡も分かりやすく言葉にすればいいのに。 単純に見てない所で無理してないか心配で、一緒に居る時くらいつるやんに自信を持たせようっていう分かりづらい愛情表現。 何かあった時一番ソワソワしてるの巡なんだよ? 全く、素直じゃないよねぇ」


 「夏美、黙りなさい。 マジで」


 黒家先輩はプイッとそっぽを向いてしまうが、少しだけ耳が赤いように見える。

 なんとも、心配ばかり掛けてしまっている様だ。

 浬先生の事ばっかりの恋愛脳とか思ってごめんなさい、非常に感謝しております。


 「ありがとうございます、黒家先輩。 これからも危ない判断とか失敗しそうな時は、助言してくれると嬉しいです」


 「えぇ、もちろんです」


 改めてお礼を口にすれば、まだちょっと耳が赤い先輩が真面目な表情で向き直って来た。

 ほんと、ダメだな。

 いつまで経っても私は皆に頼りっぱなしだ。

 でも結局は私一人で解決できる訳じゃない、だからこそ私なりのやり方でやらせてもらうしかない訳だが。


 「では改めて、皆さんに思いつく限りの今後の方針を伝えます。 ただ思い当たる節や、更に良策があるなら迷わず発言してください。 コレは命に関わる事例だという事は理解しているでしょう。 だからこそ、私の言葉を鵜呑みにしない様に。 私には全ての状況を予測できる程の頭はありませんからね」


 そう言って、全員に顔を向けた。

 私は足りない所ばかりだ、でも皆が居る。

 補い合っていい結果が出るなら、それに越したことは無い。

 使えるモノは、全部使うのだ。


 「全ての事態を想定する完璧超人なんて、どこにも存在しませんよ。 いつだってイレギュラーは起きるものです」


 スカした表情な上、演技かかった動作で眼鏡を持ち上げる上島君。

 まあ確かに、彼の言う通りだろう。


 「私も詳しくはありませんが、一生懸命考えます! あと、何か“見えたら”すぐ伝えます!」


 フンスッと可愛く気合いを入れ直す三月さん。

 なんともまぁ、この子も頼もしくなったものだ。


 「とりあえず鶴弥さんの話を聞いて、その後補う形で考えましょう。 というか僕は作戦とか苦手なので、あまり妙案は浮かんでこないかもしれませんが……」


 ちょっと自信なさそうに笑う俊君。

 いつも最前衛で殴る事が君の仕事だもんね。

 こればかりは適材適所だ。


 『今回は本家本元の“眼”があるから、出番少ないかもしれないけど。 ウチも頑張るよー!』


『私はあんまり出来る事がありませんけど、出来る事があれば何でも言ってください!』


 インカムから聞こえてくるのは渋谷さんと環さんの声。

 うん、私はいい仲間を持った。

 先輩達も居るから心強いのは確かだが、現在のオカ研のメンツだって十分に頼もしい。

 きっと大丈夫だ。

 皆の能力を最大限に生かし、全員で無事に乗り切る。

 そして最重要とも言える指示を出す立場の私は、より一層気を引き締めなくては。

 両頬を叩いて気合いを入れ直し、改めて皆に向き直る。


 「では、作戦会議といきましょう。 私が今の所思いついている行動方針は――」


 その後いくつもの意見が交わされ、時刻は進んでいく。

 あまり長い事話し合っている訳にもいかないのでサクサク進めてしまったが、それでもやる事は決まった。

 さあ、今夜も生き抜いてやろうではないか。


 ――――


 「そろそろ時間ですね……というか黒家先輩、今更ですけどその大荷物はなんですか?」


 昨日は無かったはずの、大きなリュックサックに黒家先輩が座っている。

 この人の事だから、また何かしら道具を仕込んで来たのだろうけど……なんかいつもより大きい気がする。


 「本日ホームセンターで仕入れてきました。 役に立ちそうなモノを買いそろえたつもりなんですが、もしかしたら見当外れかもしれませんので……まぁ気にしないで下さい」


 「はぁ……」



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