13階段 3
「はぁぁぁぁぁ…………」
深い、とても深いため息が零れた。
部員皆で登下校するという貴重な体験をしているにも関わらず、私はこの状況を楽しめる精神状態には無かった。
せめて、音叉さえ直って居れば……少しはゆっくり眠れたかもしれないのに。
「お疲れ様です部長、もう4日目ですもんね……」
そう、上島君の言う通りもう随分と時間が経過している。
初めて“怪異”が攻めて来たあの夜。
あれからもう3日経った。
だというのに……
「全滅に近い状態まで殲滅しているにも関わらず、この数日勢いが減らない……何匹いるの……」
「ははは……日向、それ言ったら駄目なヤツ……」
一年生組が、若干青い顔をしながら譫言の様に呟いている。
とはいえ、ソレも無理はない。
「毎晩だもんね……毎晩来るんだもんね。 そりゃ皆引っ越すよ、二週間どこから初日で出ていくよ。 何あの量、普通だったら耐えられないって」
一層フラフラしている渋谷さんは“共感”を使い過ぎている影響か、皆より疲れているご様子だ。
今夜あたりは、浬先生の居る部屋で休ませた方が良いかもしれない。
「とはいえ、やっぱり妙ですよね。 神蔵雫の“形代”が現地にあるにしても、前回以上に集まって来ている。 まるで、ソレ以外にも集めるナニかがあるみたいに……」
一番元気な俊君が、顎に手を当てながら首を傾げる。
はっきり言おう。
今回は無理だ、以上。
いくら何でも数が多すぎる上、こうも連日だと体力が持たない。
あの夜、初めてあのアパートに宿泊した夜からもう随分と経っているのだ。
だというのに、調査どころではなく集まってくる“雑魚”の殲滅に追われている。
原因の調査? そんなもん調べられる程の余裕がない。
しかも、“13階段”のお話通り着実に段数を告げる声も聞こえてくる始末。
こんなの13日も耐えろってか? 馬鹿か。
「今日は浬先生に部屋の交代を頼みましょうか……ちょっとコレは無理です」
あの日から、アパートは無料で二部屋貸してもらっている。
何か少しでも分かれば、という大家さんの意見だったが、もはや十分な気がする。
12時頃から攻めてくる“雑魚”の大群。
そして途中で聞こえてくる、お決まりの文句を言ってくる謎の声。
おかげですっかり寝不足だ。
2時間程度で事態は収拾するのだが、如何せん濃密過ぎる為疲れが抜けない。
俊君は2時間ひたすら動き回り、上島君も私の指示に従って札を投げ続ける。
当然マンションなので大きな音は立てられない上、上島君には至っては札の事前準備が必要になる。
更に渋谷さんと三月さんは常に警戒態勢で、環さんに至っては茜さん協力の元“いざという時”の全員の安全確保と全体補佐。
皆が皆、精神をすり減らしているのは目に見えて分かった。
無理だ、このままでは13日どころかあと数日で飲み込まれる。
“雑魚”に飲み込まれれば、あの部屋で6人の遺体が発見される事になるだろう。
全員“自殺”という形で。
「はぁぁぁ、なんかこう楽に過ごせる方法とかないですかね……せめて一日だけでも」
無駄な発言と分かっているが、思わず愚痴をこぼしてしまう。
だって眠れないのだ。
戦闘とも呼べる状況下で2時間、その後すぐに眠れるかといえば絶対に無理だ。
汗もかくし、アドレナリンだって出る。
結果、ほんの数時間しか眠れない団体が出来上がってしまった訳だ。
というかそろそろネトゲがやりたい。
多分浬先生も同じ禁断症状が出始めている頃だろう。
今の所麻雀やらカードゲームやらで気を紛らわせているみたいだが。
「メンツを増やしますか? アテが無い訳ではありませんし」
俊君が、意味ありげな視線を送って来た。
分かっている、あの人達が居ればもう少し早く片付くかもしれない。
でも、“雑魚”ばかりが出てくるこの状況で頼っていい物なのだろうか?
コレくらい私達だけで対処出来なくて、今後大丈夫なのだろうか?
そんな疑念が過ってしまう。
「もう少しだけ……あと少しだけ様子を見ます。 それで駄目なら、あの人達に頼りましょう」
それは、私にとって敗北宣言でもあるかもしれないが。
とはいえ、皆の命には代えられない。
「わかりました。 ではもう少し、僕達だけで頑張りましょう」
俊君はそう言って、その後追及はしてこなかった。
それは他のメンバーも同様。
本来なら楽な方へ逃げたい、誰かを頼りたいと思うのは当然の事。
だというのに、誰一人先輩達に頼ろうとは言って来なかった。
だったら、私が一番先に折れる訳にはいかないだろう。
ここが正念場だ、やってやろうではないか。
「まだまだ掛かるかもしれませんが、皆さんよろしくお願いします」
それだけ言って、私たちは“あの”アパートへと帰宅したのであった。
――――
「巡、オリーブオイル取って。 あと買って来たお肉冷蔵庫から出しておいて、常温に戻しておきたい」
「はいはい、了解です。 夏美、こっちのサラダはドレッシングあえちゃっていいですよね? クルトンどこでしたっけ?」
「あ、クルトンまだスーパー袋に入れたままだった。 はい黒家さん、オーブンの方は俺が見るから大丈夫だよ。 俊君、お皿用意してー」
「はいただいま。 しかし天童さんも料理出来るんですね。 意外過ぎてビックリです」
「お前ナチュラルに喧嘩売ってる?」
何だろうコレ。
皆疲れ切っているし、これからも修羅場が続くだろうと覚悟しながら歩く帰り道。
適当にコンビニで夕飯買って帰ればいいか、なんて思っていたら思わぬ方々と遭遇した。
その結果が、コレだ。
「はい、パスタも出来たよー。 草加先生―! 机開けてくださいねー?」
「あいよー」
今日はまだアルコールを摂取していない浬先生が、卓上の物を片付けていく。
とは言っても、麻雀マットを片付けたくらいで大体終わるのだが。
本当に、何だこれ。
「はいはいお待たせー、皆いっぱい食べてねー!」
そう言いながら、早瀬先輩が大盛りパスタを机の中央にデンッ! と乗せる。
その周りには、サラダやらチキンやら。
やけにイタリアンな料理の数々が幾つも並んでいる。
「皆さん何を飲みますか? 適当に買ってきてしまったので、好みの物があればいいですが」
「あ、あのそれくらいは私が! 先輩方に任せるのはとても心苦しいというか……」
なんて事を言いながら、皆の飲み物を準備する黒家先輩。
そしてキョドる環さん。
そういえば天童先輩とは会ったことがあるらしいが、女性二人と会ったのは初めてか。
わかるわかる、二人とも綺麗だもんね。
そんなのに甲斐甲斐しく世話されていたら落ち着かないよね。
ていうかうん、ちょっと待とうか。
何で居る? というかどうしてこうなった?
まぁ俊君が居る時点で、先輩達には情報が伝わってしまうんだろうけど。
それにしたって急過ぎでしょうに。
「鶴弥ちゃんどうしたの? ホラホラ、部長さんが固まってたら皆手を出しづらいでしょ? 率先して食べなきゃ。 あ、コレ俺が焼いたチキン。 どうどう?」
そんな事を言いながら、天童先輩が私の口に甘辛ダレの手羽先を突っ込んで来た。
いや、うん。
ちょっと待って?
さっき私達でどうにかしなきゃ! みたいな意思を固めたばかりなんですが。
口に突っ込まれたチキンをモゴモゴしながら、ジトッとした眼差しを先輩達に送っていると。
「い、いただきます!」
もはや知るかとばかりに、上島君が料理に箸をつけ始めた。
彼の行動を風切りに、皆が箸を動かし始める。
イタリアンに箸というのもおかしい気もするが、コレと言って気にした雰囲気もなくそれぞれ好きな物を口に運ぶ。
そして……
「「「「うっま!」」」」
1~2年生4人組が、驚愕な声を上げて硬直していた。
「おかわりもあるから、好きなだけ食べてね? これから別の料理も作るから」
「あ、手伝います」
「俊君もお腹空いてるでしょ? 食べててもいいよ?」
「いえ、頂くばかりでは落ち着かないので」
「そう? それじゃお願いしようかな」
そう言って、早瀬先輩と俊君がキッチンに戻っていく。
何というか、あの二人って何だかんだ相性良いよね。
黒家先輩の家では普段俊君が料理しているみたいだし、そう言う意味でも馴染みやすいのかもしれないけど。
そしてそんな二人の後姿に、深く頭を下げている後輩達。
なんというか、元気が出たようで何よりです……
「ホレホレ、鶴弥ちゃんも食べなきゃ。 草加ッちにみんな食べられちゃうよ?」
ニコッと笑う万人受けリア充フェイスを睨みながら浬先生に目を向けてみれば、そこには怪奇現象が発生していた。
皆とは別に用意されたパスタという主食。
それをダイ〇ンの如く啜る化け物が居た。
見る見る内に主食は彼の胃袋に収まり、他のモノにも手を出し始める始末。
こいつは、一体なんという怪異だろう。
「早瀬、おかわり」
「はいはーい」
「先生、お酒飲みます? どうぞ」
「お、サンキュ」
そんな会話をする隣で、椿先生が悔しそうにパスタを啜っておられる。
間違いない、妖怪リア充だ。
もしくは妖怪ハーレムか? 滅べばいいのに。
なんて事を思っていると、隣にいる天童先輩が再び迫って来た。
「えっと、口に合わなかった? 他のモノが良ければ作ってくるよ? 最近料理にハマってて、結構色々作れるよ?」
自慢しているのか心配しているのだか良く分からない表情で、天童先輩が私の隣で正座しておられる。
なんだろうこの空気、まるで宴会みたいだ。
なんて事を思いながら突っ込まれた手羽先をモゴモゴしてから、喉の奥に押しこんでいく。
「悪くないです。 また食べたくなる味というか、なんというか。 とにかくその、おいしい……です」
俯き気味にそれだけ言うと隣の人は胸を撫でおろし、ホッと安心したような表情を見せてくる。
あのさ、貴方はそう言う行動を別の人にするべきだと思うだ。
黒家先輩だっているし、他の女子メンツだっているじゃない。
なんで付きっ切りで料理取り分けてるの、家庭的男子を見せるなら全員にしなさいよ。
これじゃ私が子守りされているみたいじゃないか。
「なら良かった、また作るね。 あ、ホラ。 こっちのも食べてみてよ、俺的には自信作だよ。 あとね、こっちは――」
「あ、はい。 いただきます……」
なんやかんやこの日の夕食はやけに豪華で、やけに騒がしかった。
皆色んな物をお腹いっぱい食べたし、好き放題騒いだ。
これで今夜以降の活動にも力が入ればいいのだが……なんて事を思いながら、私たちは豪華な食事を満喫したのであった。
――――
「ふむ、皆さま良く眠っていますね。 これで失敗したら確実に恨まれますけど」
横たわった全員に毛布を掛けてから、私たちは移動を開始した。
「黒家さん怖い事言わないで……お願いだから」
情けない声を吐きながらも、その内の一人に視線を向けた後、彼もいつも通りの表情でついてくる。
「まぁ、今回ばかりはね? ちょっと無理やりにでも力を貸したくなるじゃない? つるやんいつまで経ってもヘルプコール出さないし」
エプロンを外しながら、母親みたいな表情で皆を見る彼女。
「皆さんわざわざすみません。 鶴弥さんの音叉が無いと、やはり押され気味だったもので」
普段と比べ物にならない位情けない表情を見せる弟も、ゴツイグローブを嵌めて気合いを入れ直したご様子。
「俊君も寝てていいよ? 疲れてるでしょ?」
「僕は大丈夫です、鍛えてますから。 それに夏美さんのフォローに入るなら同じ“獣憑き”じゃないと」
「カッコいい事言ってミスるなよ? 肝心な所でやらかすのがお前だからな」
「肝心な所でヘタれる人よりかは頑張るつもりです」
「あははっ、二人共仲良くなったねぇ。 頼りにしてるよ、俊君」
そんな会話をしながら、私たちは報告のあった部屋の中に立った。
弟の報告によれば、おそらく13階段。
しかも毎晩“雑魚”が大量に攻めてくる上、何かしらの“異物”が一段ずつ近づいてくるらしい。
それを三日間、後輩達は凌ぎきったというのだ。
言葉にすれば短く感じるかもしれないが、毎晩ろくに眠れない状態で三日防衛戦をするというのは、相当にキツかっただろう。
戦場に立つ兵士でもキツいと言われている状況に、一般人である私達の様な人間が立つのだ。
それはもう、相当なストレスになっただろう。
だからこそ、今夜は私達が変わってあげようという訳だ。
いっぱい食べて、いっぱい眠る。
これが出来ないと人間はろくに動かなくなる。
無理をしたところで、成果など出ないと分かってもらうには丁度いいだろう。
なんたって、私たちは“一人では何もできない”集団なのだ。
少し位は、頼って貰おうではないか。
「とはいえ、これでも十分恨まれそうだけどね……」
天童さんの言う通り、私達が勝手な事をしたと知れば鶴弥さんは特に怒るだろう。
とはいえ明らかに顔色の悪い後輩達を放っておく事も出来ず今に至る。
やった事としては単純も単純。
お腹いっぱいにして、お風呂に入れて、皆でのんびり過ごす。
ついでに安眠効果のあるお茶を出したり、アロマを焚いたりと色々やった結果あっさりと皆睡魔に負けてくれた。
夜更かし上等の鶴弥さんだけは最後まで粘っていたが、「少ししたら起こす」なんて言ったらあっさりと横になってくれたので一安心。
最悪の場合睡眠導入剤でも盛ろうかと思っていたのだが……もちろん合法の奴。
とはいえ呆気なく眠ってしまったので、お薬の出番はなくなってしまった訳だが。
ここ最近で随分疲れていたのだろう。
何かあった場合も、椿先生が起きていてくれているし。
最悪の事態でも、ここには何人もの異能持ちもいる。
気持ちよさそうに眠って居るので、出来ればそうならない様にしたい所だが。
そして何より……
「まぁいざとなれば、叩き起こしてでも“腕”の異能を使うまでです。 3人共準備はいいですね?」
皆静かに頷いてみせる。
今問題の部屋には私達しかいない。
つまり、守るべき存在がいないのだ。
まあ皆からすれば私がお荷物になっているのは否定できないが、今は考えないでおこう。
とはいえこのメンバーで集まると、鶴弥さんが居ない事にちょっと違和感が……まあ仕方がないか。
とにかくこの3人が攻撃手を務めるのならば、私はひたすら調査に専念できる。
ソレが、今できる私の仕事なのだ。
「そろそろ時間だね、俺と黒家さんが中央。 早瀬さんと俊君が全体を散らす。 でも無理しない程度に、溢したのは俺が仕留める。 で、いいんだよね?」
「お手数おかけします、私には“異能”が無くなってしまったので」
目の前で警戒する天童さんに頭を下げると、困った顔で笑われてしまった。
「このまま“見える人”の枠組みから外れてくれれば、目的達成第一号なんだけどね。 こんな力、無い方が良いに決まってるよ。 でもまぁ、俺達で守るから。 黒家さんは調査に集中して」
なんでこういう恰好の良い台詞を、鶴弥さんの前では言えないのか。
本当に不思議だ。
あの子の前だと天童さんが不思議と年下の男の子に見えるくらい、不器用というか無邪気になってしまう。
本当に、どうしたものか。
『おい、下らん事を考えてないで集中しろ。 我が取り逃す事など無いが、“迷界”でない以上すぐ近くから現れる可能性もある。 脚から食われてしまっては、流石に我も対処できんからな』
玄関を睨む夏美が、銀色になって鋭い言葉を紡いでくる。
この場合、“コンちゃん”と言った方が正しいのかもしれないが。
「では、全体警戒をお願いします。 暴れて構いませんが、周囲から苦情が来ない程度でお願いしますね?」
『つまり、床をあまり蹴らなければ良い訳じゃな?』
銀髪ケモミミの夏美が、ニヤリといやらしく笑う。
あぁ、これは……明日夏美が筋肉痛になるヤツだ。
なんて事をやっている内に、セットしていたアラームが鳴り響く。
「なんやかんや言っている内に、お時間です。 頼みましたよ? “九尾の狐”。 そして俊と“八咫烏”。 この防衛戦は、貴方達が頼りです」
『任せておけ、“雑魚”程度なんの障害にもならん。 貴様らの言う“調査”にも、力を貸してやらん事もない。 期待しておけ』
「任せておいて、ちゃんとやるから。 僕だってこの数年遊んでいた訳じゃない」
随分と低い体勢で構える夏美と俊。
片や足に力を入れ、もう一方は拳に力を入れるという違いはあるモノの、二人からピリピリした空気が伝わってくる。
さぁ、始めようか。
ここまで大掛かりな案件は久しぶりだ。
緊張もあるし、恐怖もある。
しかも“異能”が無くなった私でも、何かが大量に近づいてくる気配が感じ取れる。
「“調査”開始です。 皆さん、今日も生き残りましょうか」
ニヤッと笑いを浮かべるとともに“黒い霧”が部屋中からあふれ出し、“獣憑き”の二人が床を蹴った。
空中で何かをズバンッ! と蹴る音が聞こえてくるものの、着地の音が聞こえてこない。
視線を投げれば空中に足場でもあるかのように飛び回る銀狐。
しかもかなりの速度あっちに行ったりこっちに行ったりと、縦横無尽に銀色の残像が駆け巡っている。
きっとこの狭い空間で、彼女を視線で追おうというのがそもそもの間違いなのだろう。
もはや人間離れしまくっている気がするが、この上なく頼りになる事は間違いない。
その代わりといっては何だが、弟は一応目で追える速度で動いていた。
いつもの様に強く踏み込む事が出来ないのも原因の一つなんだろうが、静かに着実に一体ずつ殲滅している。
とはいえ流石に夏美より殲滅速度は劣る、まあ“アレ”と比べるのは流石に可哀そうか。
「さて、どうする?」
隣に立った天童さんが、意味ありげな視線を送ってくる。
彼ともまた付き合いが長いのだ、このまま2人に任せるとは思ってないご様子だ。
まぁ、私としてもそのつもりはないが。
「まずは“例の声”とやらが聞こえて来るまで待ちます、少し気になる事もありますので。 私程度の能力だと聞こえない可能性もありますので、誰か一人でも聞こえたら教えてください」
「「了解」」
『ふん、まぁ暇つぶし程度に力を貸してやるわ』
「コンちゃんは調べものとか苦手だもんねぇ」
『黙らんか!』
なんやかんや言ってはいるが、今夜の方針は決まっている。
さて、何が出てくることやら。
今夜だけで終わってくれるのなら、ソレが一番いい展開なのだが……
なんて思っていた所で、カツーンッというヒールで歩くような音が響いて来た。
「巡!」
「えぇ、私にも聞こえています」
ほぉ、コレが。
耳を澄ませていれば、着実に近づいてくる足音が聞えて来た。
ゆっくり、ゆっくりと踏みしめるかの様な速度で登ってくる。
そして。
『4段、登ッタ』





