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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
第二部

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女子会?


 「うっせぇなアイツら……」


 可愛い寝袋に包まった部長が、やけに低い声で呟いた。

 まぁ確かに、隣の部屋から色々な音が聞こえてくるので気持ちは分かるが……


 「まぁまだこんな時間ですからね。 元気なのは分かりますけど」


 あはは、と乾いた笑いを漏らす日向。

 こっちもこっちで、モコモコな上ピンクの可愛いパジャマを着ておられる。

 そんな恰好で布団に横になり、パタパタと足を揺らしながら小説を読んでいる同級生。

 なんか私だけ普通のパジャマで、ちょっと負けた気分なんだが。


 「たっだいまー……って、皆横になるの早くない? 眠くないのウチだけ?」


 そう言いながら、優愛先輩が頭にバスタオルを乗せてお風呂から帰って来た。

 黒いキャミソールに、薄いパーカー。

 そして下に至っては、太もものほとんどが見えるほど短い大人っぽい寝間着姿。

 インナーと短パンはレースが付いていたりするので、なんかエロい。

 くっ! 今度はセクシー系か! ちくしょう、新しいパジャマ買ってくるんだった!

 寸胴の寝袋で、黒猫型マスコットと化した部長。

 まさに女の子、ピンクとモコモコの純情系日向。

 それ人に見られて大丈夫? セクシー寝間着の優愛先輩。

 そしてモブとか見られないであろうブルーの寝間着、下手すりゃ病院着に見えるんじゃないかって言う私。

 まずい、戦闘力がみんな色んな方向へずば抜けている。

 どうした私、中学時代の女子力はどこへ消えた。


 「もう21時です、良い子は寝る時間です」


 「ぶ、ぶちょー……それマジで言ってる?」


 冗談ですよ、なんて言いながらもどこか目がトロンとし始めている。

 本当にこの中で一番年上だよね? 本当は飛び級ですとか言わないよね?


 「まぁ冗談はさておき、警戒していた時刻を過ぎたのでちょっと疲れただけです。 このアパートは夜遅くに“何か”が起きるらしいですから、皆さんも少し仮眠しておいた方がいいですよ」


 そう言ってから、黒猫マスコットが布団の上でうつ伏せにべちゃっと潰れた。

 布団まで用意してくれるとは思っていなかったそうで、床でも寝られるように持ってきたと言っていたが……部長なら普段からこの恰好で寝ていそうだ。


 「警戒してた時間って……あ、そっか。 前は20時頃に集まってきましたもんね、この形代に」


 一旦小説を閉じて、枕元に放置された形代を手に取る日向。

 何かあってからでは遅いから、という事で部長が合宿中は預かって来たそうだ。

見た目はやはり不気味なので、枕元において寝るのは抵抗があるのだが……遠くに置いて何かあった時に対処できない方が怖い。


 「あの場所じゃないと集められないのかなぁ? もしくは先生達の影響で近寄ってこない、とか?」


 ブオーと長い髪にドライヤーを当てながら、優愛先輩が形代をつついている。

 なんというか皆物怖じしないよね、私も人の事言えないが。

 普通だったら触るのも嫌がりそうな代物なのに。


 「……どうですかね。 でも“腕”の異能が近づいても、“雑魚”が逃げなかった程ですから。 それだけ引き付けられる何かがあるんでしょうねぇ」


 枕に顔をうずめながら、フゴフゴと部長が喋っておられる。

 なんかもうそのまま寝落ちしそうだ。

 アパートの怪異も現れるのは深夜だっていうし、このまま部長だけでも寝かせてしまっていいかもしれない。

 なんて、皆が目を見合わせて静かにし始めた頃。

 その声は聞こえて来た……


 『ロン! 先生それロンです!』


 『は!? 嘘だろ!? 今更コレって、はぁぁ!? 国士とか冗談だろ!!?』


 「あの馬鹿共……いつまでやってるんですか本当に……」


 むくりと顔を起こした部長の額に、明らかに青筋が立っていた気がした。

 隣の部屋は、大いに盛り上がっているようだ。


 ――――


 「国士無双とか初めて見たかも……なんだかんだ言っても成功率低いし」


 「しかも十三面待ちですか……やりますね俊君」


 「最初で結構揃ってたんですけどねぇ、ギリギリで揃ってくれました」


 「嘘だろぉぉぉ、ハコったんだけどぉぉ」


 各々感想を述べながらも、それぞれの持ち点を計算していく。

 麻雀のルール上、誰かの持ち点が無くなれば一応は一区切りとなる。

 言わずもがな、俺がマイナスな訳なんですがね。

 賭け麻雀とかじゃなくて良かった……お金かけちゃうと不味いけど、罰ゲームとかだったら普通にあるからね。

 なんて思いながら額を雀卓にくっ付けていると。


「どうせならなんか罰ゲームでもしない? 一番勝った人が、一番負けた人に命令を出す、みたいな」


 椿の奴が余計な事言い始めやがった。

 というかアレだぞ、そんな条件を男ばかりの空間で言うもんじゃないぞ。

 こいつ等なら心配ないかもしれないが、別の所でそんな事言い始めた日には、全員がア〇ギみたいな表情しながら麻雀し始めるだろう。

 イカサマしてでも椿を負かそうとするだろうな、それくらいに危険な発言な気がする。

 全くこいつは、警戒心ってもんがないのかねぇ……


 「ちょっとそこの無一文、呆れた眼差し向けてくんな。 ここじゃなければ罰ゲームなんて言い出さないから」


 エスパーさんかな?

 ていうか無一文っていうな。

 点数が無いだけでお金が無くなった訳じゃないのだ。

 というかチョンボやらかしたのが痛かった……その後は不幸の連発で、誰かがツモったり俺が振り込んだり。

 最初は結構調子が良かったのだが、中盤から俺の財産はみるみる内に減っていったのだ。

 そして最後は黒家弟に大ダメージをもらい、この有様。

 ちくせう。


 「んーと、俊君が一番多いですね。 誰かに振り込んだ時は大した払いもなく、他で地道に稼ぐ。 そして最後にドカンと稼いだのが決め手ですかねぇ……俊君意外と勝負師ですね」


 「いやぁ、まぐれですよまぐれ」


 そんな会話をしながら笑っておられるが、マジで狙ってやっていたとしたら一番危険だな黒家弟。

 表情に出やすいのも作戦の内か?

 無表情じゃなくて、あえてピエロを演じるポーカーフェイスってか?

 一番やべぇ奴じゃん。

 イカサマとかも笑いながらやっちゃうタイプだよソレ。


 「さてさて、それじゃ草加先生。 罰ゲームのお時間です」


 「流したと思ったのに結局やるんかい!」


 「あったり前じゃない。 あんだけボロ負けしたんだから、盛り上げてよね?」


 悪魔だ、こいつら悪魔だ。

 ニヤニヤといやらしい笑みを向けてくる上島と椿。

 とはいえ決定権は黒家弟にあるのだ。

 大丈夫、コイツならきっとマシな罰ゲームに……


 「あんまりこういう経験が無いので、どうしましょう……あっ、モノマネとかどうでしょう?」


 「一番やっちゃいけないヤツぶっこんできやがったコイツ!」


 よりによって、宴会なんかで一番滑りやすい罰ゲームを突っ込んできやがりましたよ。

 だって皆に分からないと笑い取れないし、そもそも演技力問われるし。

 しかもこいつ等の好きな映画とかドラマとか知らないよ?

 椿はたまにウチで映画とか見るからまだしも、上島はどんなの見るんだよ。

 あー不味い、面子的に詰んでいる気がする。


 「全員に分かるネタが思いつかないんですけど……」


 「なんでもいいよー? 分かんなくても変な事してるなぁって思えれば楽しいし」


 変な事って言うな、そして何でもいいが一番困るんじゃ。

 夕飯何が良い? って聞かれた時になんでもいいって答えると鉄拳が飛んでくる家で育ったんだぞ。

 つっても、マジでどうするかな……


 「あ、僕は結構幅広く見る人間なので本当になんでも大丈夫ですよ? 特撮、アニメ、ドラマ、映画。 そしてネットで話題のアレやコレ、なんでもござれです」


 チラッと視線を送った矢先に、そんなコメントを頂いてしまった。

 ホントお前は万能だな色んな意味で、完璧超人か貴様。

 やれやれと溜息をついた時、黒家弟がポンッと手を鳴らしながら口を開いた。


 「じゃぁアレにしましょう、13ラ〇ダー変身ポーズ。 是非ともキレッキレでお願いします」


 「あぁ~龍〇? そっちの二人は分かるのかね」


 「「問題なし(です)」」


 椿の方は多分詳しく知らないだろうが、上島が意外にも食いついて来ている。

 まあならいいか、13回変身するだけで罰ゲームが終わるのだ。

 キレッキレにやってやろうではないか。


 「ふっふっふ、見せてやろう。 俳優バリの変身を……」


 酒の入ったおっさんは静かに立ち上がり、例のデッキの代わりにスマホを正面に構える。

 ついでにとばかりに黒家弟がBGMをかけ始め、完全に舞台は整った。


 「それではまず一人目……変し――」


 ――ブゥゥゥ、ブゥゥゥ。

 バッ! と音がするほどの勢いで変身ポーズを決めているというのに、手に持ったスマホがタイミング良く振動し始めた。

 おい止めろ、絶妙なタイミングで雰囲気ぶち壊して変身キャンセルさせるなよ。

 というかこんな時間に誰よ……


 「はいはい、どちらさ――」


 『さっきからうっせぇ、寝ろ』


 それだけ言われ、通話は切れた。

 うん、なんかごめん。

 テンションが急激に低下した事が見て取れたのか、全員がこちらに視線を寄越してくる。


 「なんか、鶴弥にめっちゃ怒られちゃった」


 「あちゃー……流石にうるさかったか」


 男子二人も口には出さないが、気まずそうにポリポリと頭を掻いていた。

そんな感じで、夜の宴はお開きに……なる訳がない。


 「それじゃ洗牌は静か目にっと……」


 「あ、でも続けるんだ」


 静かに、静かにね? なんて口に手を当てながらも、俺たちの勝負は更にヒートアップしていくのであった。


 ――――


 緊急時には起こすので、皆さんお気になさらず自由に……と言い残し、部長が落ちた。

 まごう事なき、寝落ちである。

 ソッと布団を上に掛けたが、寝袋の上からでは暑いだろうか?


 「ぶちょーが本気で小さい子にしか見えなくなってきた……」


 驚愕の眼差しを向ける優愛先輩に、日向が困った顔で笑っている。


 「えぇ、まぁ確かに。 普段は格好いいんですけどね、こうしてるとちっちゃい子みたいで可愛いです」


 まるで幼い妹でも見るような眼差しで、柔らかく日向も笑う。

 さて、部長からは好きにしていいと言われたが、どうしようか。

 今は静かになったが、向こうの部屋みたいに騒ぐ訳にもいかないだろうし。

 せっかく修学旅行みたいな事をしているのだ、どうせなら楽しんでおきたい。

 とはいえこの件が今晩で解決すると決まった訳ではないので、下手したらしばらく泊まり込みになるのだが。

 明日はここから学校に行くのかぁ、何か違和感。


 「なんかソワソワしてるね、一花。 もしなら隣に遊びに行く? 部長だけ残す訳にもいかないから、私がこっちに残るよ。 まだ眠くないだろうし、行ってきてもいいよ?」


 そう言いながら、日向は手持ちの小説に再び視線を落とした。

 とは言ってもなぁ……それはそれで悪い気が。

 更に男子部屋に夜中に侵入するって、結構ハードルが高い気がするんですが……


 「ウチもこっちに残るよ。 ひなちゃんだけに見張り任せるのも悪いし」


 髪を乾かし終わったのか、今度はトリートメントか何かを塗っている優愛先輩。

 女子力……いや、考えるのは止めよう。

 悲しくなるだけだ。


 「そういう事なら私もこっちに残りますよ。 でも何かしましょうよー、暇ですよー」


 部長が起きていたら緊張感がないって怒られてしまうかもしれないけど、今はフルメンバー揃っている訳だしちょっとくらい、ね。


 「危機感が足りないって、ぶちょーから怒られない程度にね。 とはいえなんにも持ってきてないしなぁ……普通に話でもしながら過ごしますか」


 そう言ってから優愛先輩はソファーに深く座り直し、瞼を閉じた。

 あれ? 言っている事と行動が真逆なんですがソレは。


 「優愛先輩? 眠るなら布団に……」


 「あぁ違う違う、ゴメンね? 紛らわしくて。 部長が寝てる間だけでも、“共感”で周りを見張ろうかなって」


 あぁ、なるほど。

 “共感”を使いながら話は出来るらしいし、ついでに見回りですか。

 いざ襲ってくれば日向の“未来視”があるし。

 うーむ、どうしよう。

 私だけ役に立ってない。

 “異能”がないから仕方ないっちゃ仕方ないんだが。


 「でも見回りって結構暇なんだよね、周囲をグルグル回るだけだし。 なのでここは面白い話の一つでもお願いしようかな」


 目を閉じた優愛先輩が、どうぞとばかりに掌を向けてくる。

 どうぞと言われても、急には思いつかないが。

 とはいえ私に出来る事なんてコレくらいか。

 よし、頑張って退屈させないようにしよう。


 「これは私達と同じくらいの歳の女の子が田舎で体験した話です。 その子は学校帰り、とある畑の向こうに白くクネクネと動くナニかを――」


 「まって、待って一花。 なんで急に怪談話が出てくるのかな? 違う話にしよ? これから実物が来るかもしれないのに、そういうのは違うんじゃないかな!?」


 「それもそうだね」


 ここの所徹先輩にくっ付いて、その手の話ばかり頭に叩き込んでいたので、パッと思い浮かんだのだが。

 日向の言う通り、話のチョイスを間違った感しかない。

 では他に何の話をしようか。

 色恋沙汰の話とかし始めれば盛り上がりそうだが、私にはネタがないし。

 二人から話を聞くのもいいかもしれないが、今の優愛先輩に語らせていいものなのだろうか。

 今の先輩は、よくある『ラジオ聞きながら運転をする』みたいな感覚だろうしなぁ。

 何か、他になにか……


 「いっちゃんはさ、ここ最近眼鏡君と一緒に色んな怪談話とか、怪異とか呪術の話とか調べてるんだよね?」


 「え、はい、そうですけど」


 先輩が瞼を下ろしたまま、人差し指を立てる。


 「じゃあさ、今回に関りがありそうな話とかある?  噂話からメディアに乗った怖い話まで、幅広く調べてるなら多少なり参考になりそうじゃない? 見て回るポイントなんかも絞れそうだし」


 「あぁ、なるほど。 そういう捉え方もあるんですね。 それに私達の様な人間の感覚を織り交ぜながら考えれば、結構核心に近づけるかもしれませんね」


 そう言いながら日向は小説を閉じ、興味深そうにこちらに視線を向けて来た。

 さっきとはえらい違いだ、まぁいいけど。


 「それでは、とっておきのアパート系の怖い話といきますか。 トイレ行けなくなっても知りませんよ!」


 それだけ言って、私は布団の上で座り直す。

 参考になればいいが。

 なんて事を考えながら、いくつかの話を語り始めたのであった。



 前回に引き続き。

 国士無双→とても強い、いっぱい点数を貰える。

 十三面待ち→『国士無双』という強い手札な上、自分が持っている13牌どれかと

同じモノを相手が捨てれば勝ち確定。

 ハコる→持ち点が無くなる、点棒が無くなり箱だけになる。 つまり負け犬。

 ツモ→自分が牌を引いた時に役が揃い、勝利を宣言する事。 この場合全員から各点を貰う。

 ロン→相手が捨てた牌によって、自身の手札が完成する事。 この場合捨てた人間から点を貰う。

 13ライダ〇→戦わなければ、生き残れない。

 

 もう少しだけ日常パート? が続きます。

 こういう話がみたいんじゃぁ! とか、こっちはどうなったんじゃぁ! というご要望があれば感想欄まで。

 また、評価やブクマ等もよろしければ。

 やはり変化の有る無しでは気持ち的にも違いますので、是非ともお願いします。

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