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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
第二部

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 「いやぁ……まさかこんな風に、普通の合宿っぽい事するとは思いませんでした」


 敷布団にシーツを被せた三月さんが、乾いた笑いを漏らしながら寝床の準備を進めていく。

 その数、既に5枚目。

 もはや合宿だ、いやまぁ合宿許可とっているから合宿で間違いないんだけど。

 ちなみにオカ研女子全員がこの部屋に集まっている。

 いないのは椿先生くらいなものだ。


 「私は他とは違う“声”を辿って行きついただけだったんですが……その後が問題でしてねぇ」


 次の日から、私達は件のアパートの一室を借りて寝泊まりする事になった。

 名目上は大家さんの言っていた“おかしな事”の調査、そして可能なら形代を使って“相手”が何をしようとしていたのか調べる事。

 可能であれば原因の撃退と、今後同じことが起こらない様にして欲しいとの事。


 ねぇコレもうお金取って良くない?

 部活でやる範囲を悠然と超えてない?


 結局“茜さん”という目に見える怪異を見て、彼らはその存在を信じた。

 そして私達が派手にやった“雑魚”を撃退する姿……アレを見て、大家さんは私たちに正式に依頼という形で頼み込んで来た。


 『現状を何とかしたい、このままじゃ悪評が広まって借りてくれる人が居なくなる』


 というフワッとした内容に対して「いやぁ、私達高校生なので流石に深夜の活動はー」とか言って断ろうとした結果、部屋を提供されてしまったのだ。

 こうして泊まり込みで、このアパートに住み着くという怪異を調べる事になったのである。


 元はと言えばあの眼鏡が、あんな札使うからこんな事に……いや、私にも原因はあるんだけどさ。

 ぐぐっと拳を握りしめ、奥歯を噛みしめていると後ろから渋谷さんが声を掛けて来た。


 「ぶちょー、アイツ何したの……大家さんの娘さんが強く推薦したから、こんな事になったって聞いたけど……」


 ブスッとした表情を浮かべたまま、前の住人が残していったらしいソファーに身を沈める彼女。

 あぁ、ここにもラブコメの波動が。


 「あぁーえっと。 “姿見”の札を使ったそうです。 アレは夢に亡くなった人が出てくるってモノでしたけど、今回は……その。 生霊だったせいか、相手の夢に上島君が出て来てしまったみたいで」


 本人に聞け、なんて思いながら結局私が説明してしまった。

 おい上島、後で何か奢れよ。


 「でもさ、それっておかしくない? “アレ”に書いてあったのは“神蔵雫”でしょ? でも今回の子は“神蔵咲”なんでしょ? それってどういう事? あの場に居たのは妹の方だったって事?」


 あのね、そう言う事は本人に……あぁいえ、なんでもないです。

 今のジトーッと意味深な眼差しを向けてくる彼女には、何を言っても無駄だろう。

 少しでも納得できる内容を用意しなければ、きっと一晩こんな空気になってしまうんだ。

 おい上島、焼肉奢れ。


 「えーっとですね、雫さんと咲さん。 この二人は双子だそうで、しかも二人共白子(しらこ)です。 だから余計にこの“呪詛”が強く影響を及ぼしたのではないかなぁ……なんて」


 あはは、と乾いた笑いを浮かべる私に環さんは首を傾げた。


 「白子……ってなんですか? それに双子だと何か関係あるんですか?」


 おいこういう話はお前の担当だろう、マジで何か奢れよ眼鏡。

 ふぅ、と一息ついてから彼女の前に人差し指を立てる。


 「まず白子、アルビノって言った方が分かりやすいですかね。 詳しい説明は省きますが、遺伝の関係で多くの個体が真っ白い髪と肌、そして赤い瞳を持っています。 つまり人種によって白、黒、黄といった“色”が付いていない特殊な個体という事です」


 私の言葉に、うっと声を詰まらせる環さん。

 やはり急にそんな事を言われても、拒否反応の方が先に来てしまったのだろうか?

 なんて事を思った私だったが、彼女は全く違う反応を示した。


 「大体分かりましたけど、あんまりその言い方好きじゃないです。 なんか個体とか言われると、人間として見てないみたいで……」


 その言葉を聞いて、思わず柔らかい微笑みが漏れた。

 この子なら問題ない、なんとなくそう思ってしまった。


 「そうですね、説明の為にそう表現しましたが、彼女達は私達と何ら変わらない人間です。 まぁ色々違う所はありますが、それは個性の様な物です。 今後神蔵さんに会っても、変に意識せず普通に接してあげてくださいね?」


 彼ら彼女らの見た目に驚き、過剰に反応してしまうのも仕方のない事だろう。

 でも、この子なら。

 きっとそういう相手にだって普通に接する事が出来るだろう。


 「さて、それではここからは“私達”に関わるお話です」


 そう言ってから、二本目の指を立てる。

 ちょっと一つ目の話と方向性が違うから、二つ目と言っていいのか迷う所だが。


 「白子、それは呪術において特別な意味を持ちます。 その血、その肉は普通の人間よりもずっと強い力を持ち、“呪い”または“力”に変わると信じられていた事例だってあるくらいです」


 そう伝えれば、全員が真剣な顔でこちらに向き直った。

 とある地域では『アルビノには特別な力がある』と信じられ、その肉を食べれば“その力”が手に入るという迷信もあったそうだ。

 その為誘拐や殺人などの事例もしばしば発生しているとか何とか。

 なんとまあ物騒な話だ。

 しかし、今この場で食人食の民の話をしても気味悪がられるだけだろう。


 「そして尚且つ、今回の依頼人は双子。 彼女のお姉さんもまた白子、なんだそうです。 白子が二人、ソレだけでも厄介な匂いがしますが、今回はそれ以上です。 みなさん双子についての“怖い話”ってどんなものを聞いた事がありますか?」


 私の質問に、皆が首を傾げた。

 予想はしているが、多分それなりに有名な話しが飛び出してくるのだろう。


 「えっと、私が覚えている限りだと双子は意思疎通している、みたいな。 片方に何かあった時に、もう片方に伝わったって話は聞いた事があります」


 まず手を上げたのは三月さんだった。

 未だにお布団の準備をしながら、真剣な顔で聞いておられる。

 ごめんね、任せちゃって。


 「あ、そういう話なら私も。 片方が事故で怪我を負ったら、もう片方にも同じ場所に同じ傷を負った、みたいな」


 一つ聞いて思い出しのか、環さんも手を上げてそんな事を言い始めた。

 うんうん、しっかりと勉強しているようで何よりです。

 なんて上から目線で頷きながら、彼女達の話を聞いていると。


 「えっと、これは行き過ぎた噂話程度かもしれないけど……ウチは双子って儀式に使われるって聞いた事ある、かも。 双子は特別で、その……生贄みたいに使うって、そんな話」


 渋谷さんが弱々しく手を上げ、視線が集まるとともに視線を逸らした。


 「結論から言えば、どれも正解です」


 そう言いながら立ち上がり、全員の注目を集める。


 「“双子”とは三月さんと環さんが言うように、心身ともに共有する存在。 つまりは特別な存在だと信じられてきました。 そして渋谷さんの言う通り、ある意味での“忌み子”として扱われてきたのも確かです。 現に双子巫女、双子地蔵といった物も存在します。 そして過去の書物には、双子という特別な贄を神にささげる、なんて馬鹿らしい儀式もあったようですし」


 そこまで語ってから右の拳を握りしめる。

 だからこそ、今回は気が抜けない程の大仕事なのだ。


 「今回は双子、しかも二人共白子という条件付き。 それを“呪いを作ろうとしている男”が見逃すとは思えません。 きっと例の男が関わって居ます、だからこそ今回もキッチリと叩き潰しますよ。 皆、気を抜かない様にしてくださいね」


 正直に言うなら、関わりたくなんて無い。

 でも私達の生活を脅かす馬鹿野郎なのだ。

 だったらその企みを、準備していた全てを叩き潰して平穏を保ってやろうではないか。

 それだって立派な、“普通”を手に入れる行動につながるのだから。


 「うん、そうだね……でもさ、部長」


 どこか遠い目をした渋谷さんが、ソファーから立ち上がりながら声を掛けてくる。

 そしてそのまま私に歩みより、ポンッと頭に手を乗せた。


 「その寝袋を着ながらカッコいい事言われても説得力ないって。 手足生えてる上に、猫耳生えてるよ。 普通に可愛い」


 「……寝る準備をしていた所でしたね、忘れていました」


 いいじゃないか。

 コレ、結構あったかいんですよ?


 ――――


 女子達が真面目な話で盛り上がっている頃、一つ隣に貸してもらった男子部屋も非常に盛り上がっていた。

 俺、上島、黒家弟。

 そして何故か椿までいるが。

 それでも俺たちは、真剣な表情で互いに互いを観察し合っていた。


 「では……」


 上島が、額に汗を浮かべながら一つの(はい)を目の前に置いた。

 これはもう、行くしかない。


 「ローーン! 満貫(まんがん)!」


 「ぬああぁぁ、やっぱりこれでしたかあぁぁ!」


 非常に、男子部屋は盛り上がっていた。

 賑やかどころか、とてもうるさい。


 「流石先生、全然分かりませんでした」


 「え、いやいや。 割と分かりやすいっていうか……特徴的だったよね?」


 黒家弟と、椿のヤツが互いに対照的な表情を浮かべている。

 流石は椿、さっきから誰にも負けないが、大勝もしない。

 まさに中立といった性格が出ている。

 ちょびちょび失点を取り戻すくらいで、負けない為の手で押し通している。


 「上島、お前は頭では分かってんのに勝負しすぎだって」


 「ぐっ……でも、こういう時くらい勝負したいのが男というものでして」


 「あ、先輩それ凄く分かります」


 そんな事を言っている訳だが、実際は黒家弟が一番負けている。

 上島もなかなかだが、黒家は顔に出過ぎるのだ。

 椿なんて、コイツの分かりやすい表情を見る度に吹き出しているし。


 「いやーしかし、下も上も人が居ねぇってのはいいな。 こうして麻雀出来るし」


 そう言ってから、ジャラジャラと派手な音を立てて洗牌(シーパイ)を始める。

 コレコレ、コレだよ。

 アパートじゃ絶対出来ない。

 なんでこんな広い上に家賃の低いアパートに誰も住んでねぇの?

 俺引っ越しちゃうよ?

 しかも周りの部屋誰も住んでねぇし。


 「まぁ……はい、それなりの理由があるんでしょうけどね。 先生だったらどうします? 毎晩何かしら起こるいわく付きの物件だった場合」


 上島の発言に、周りの二人が妙に反応した気がするけど気のせいか?

 プークスクス!

 そんな与太話いちいち信じていたら、アパート契約なんて出来る訳がない。

 だってお試しでお泊まりとか出来ないし、そんな事よりいざ入居した後の不備の方が何倍も怖いのだ。

 事故物件とか言われない限りは、消費者はそんな事確かめる術なんて無いしなぁ。


 酒の入った頭がそんな言葉紡ぎながら、思わず口を押えた。

 そう、この男飲んでいるのである。

 女子達が部屋に籠った事から、今日はもう出かけたりしないのだろうと勝手に解釈。

 そして今回の合宿は無料の寝どこまで用意してくれたので、上機嫌でコンビニに向かってしまったのである。

 本来色々駄目な行為だが、今日はもう寝るだけという思い込みでおっさんは飲んでいた。


 「何、お前ら幽霊怖い系? いる訳ねぇじゃんそんなの。 そもそもだよ? 映画とかでよくあるけど、首絞めて来たり上に乗っかって来たりするじゃん? なのにこっちは触れられないっておかしくない? 相手が物理攻撃してくるなら、こっちの物理攻撃だって効くでしょ普通。 その時点で作り物だっての」


 わっはっはと笑いながら、自分の牌を並べていく。

 いやまぁね? 思ってる事自体は本心だが、触れてこないにしてもジッと立っていたら怖いよ?

 俺だって怖いよ? でもお化けなんて居ないし。

 俺見たことないし。


 なんて事を考えながら手元の牌を確認すると、おっさんの表情はビシリと固まった。

 え、マジか。

 良いどころじゃないわ今回、というか無双しちゃうわ。


 おっさんは、かなり気分が良かった。

 点数的に勝っている事と、アルコールが入っている時点で色々お察しだが。

 とはいえお化けなんて嘘さ! で押し通している為、これと言って気にしない酔っぱらいがここに一人。

 ここの大家さんも信じているタイプらしく、最近変な事が起きるから調べろと言われているらしいが……どうせ近所のガキが遊びに来ているだけだろう。

 騒がしい馬鹿が訪れたらとっ捕まえて一件落着だ。

 なんて事を考えながら、ニヤけ面で手元の牌を並び替えていく。


 「あーえっと、草加君。 おかわり持ってくるからちょっと待ってね? 皆も何か飲む?」


 「「お、お茶で……」」


 どうやら皆、かなり手が悪いらしい。

 ふふふ、いくら時間を駆けようと俺の持ち牌は変わらないぜ。

 もうね、貰ったね。

 この勝負俺の勝ちだわ。

 そんな確信と共に高笑いを浮かべそうになった瞬間、椿がお酒のおかわりを対面から差し出してきた。


 「調子に乗るのもいいけど、あんまり酔わないようにね? これでも合宿なんだから」


 やけに身を乗り出して、お前人の牌覗きに来たな!?

なんて言いそうになったが、むしろ屈んだ時に赤い何かが見えてしまって、何も言えなくなってしまった。

ごちそうさまです。


 「それじゃ、続けましょうか」


 それぞれ飲み物が届けられ、黒家弟から勝負を進め始める。

 黒家、椿、上島。

 そして、ついに俺の番が……


 「コレ、来たわ」


 指先に感じる、次に俺の手元に来るであろうその牌。

 俺の盲牌(モウパイ)に間違いはない。

 俺の望んだその牌が、一度目の引きで来てくれた。

 生まれて初めて出来た、“地和(チーホウ)”。

 欲を言えば、“天和(テンホウ)”の方が良かったのだが……この際欲は言うまい。

 一巡目で上がり、麻雀をしたことのある人間なら分かるだろう。

 そのロマン、快感。

 そして普通ならあり得ない、この圧倒的低確率を引き当てる幸運!

 勝利の感触を改めて噛みしめ、ニヤッと不敵な笑いを溢しながら、俺は持ち牌を全て倒した。


 「ツモ! そして、地和ぉぉ!」


 最後の牌をスパーン! と卓上に叩きつけ、ドヤッと三人の顔を流し見る。

 そして……


 「な、なんと!? 凄いです先生!」


 「いやマジですか、リアルでお目に掛かれるとは……ん? あれ? え?」


 「ばーか、だから調子に乗るなって言ったじゃない。 ホレ、皆に払いなさい」


 叩きつけた最後の牌は、望んだのとは全くの別物だった。

 どうやら俺の指先は、酒とテンションによってとんでもない勘違いをしてくれたらしい。

 詰まる話、ちょんぼだ。

 それも盛大に、見る人が見たら視線をそっと逸らしてしまうくらいの醜態を晒した。

 人生とは、本当に上手くいかないもんだ。


 「おま、え? 嘘、は? ちょっとぉぉぉ!」


 おっさんの叫び声は、幸いにもクレームにはならなかったらしい。





 麻雀知らないって人の為に簡単に。

 満貫→8000点くらい貰える役を揃えた状態の事。 わりと強い。

 洗牌→牌をジャラジャラ混ぜるアレ、毎回最初にやって牌をごちゃまぜにします。 とてもうるさい。

 盲牌→指の腹で擦って、牌を確かめる事。 分かる人にはしっかり分かる敏感肌。

 地和↓

 天和→麻雀は勝負の度に親1人、子三人に別れて勝負します。 その際一手目で上がり(勝ち)の状態を揃える事。 親なら天和、子なら地和となります。 点数めっちゃ高い上に、次の日死ぬんじゃね? って言われるくらい低確率で発生する。

 ちょんぼ(チョンボ)→反則行為、イカサマとはまた別。 認識間違いで上がり(勝ち)を宣言したり、牌が多かったり少なかったり。 本来初心者にありがち、玄人気取りがやるととても恥ずかしい上に皆に点数を取られてしまう。


 因みに洗牌は、中国では縁起が良いと言われ葬儀の後で麻雀をしたりするそうです。

 一勝負を人生に見立て、終わったら綺麗に洗い流し、またすべての牌(者)が一から始めるという意味があるそうな。

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