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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
第二部

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レポート


 『怪異に関してのレポート』


 本日、昨夜の事件に関してのすり合わせを行った。

 やはり微妙に認識の誤差はあるらしく、部員達から聞く一つ一つの話がとても印象に残った。


 現部長(鶴弥麗子)からは“降霊術”を行う人間たちの話と、そして“動物に憑依する霊”のお話。

 後者に関してはそのような事例もあるのか、で済まされるかもしれないが、現場に立ち会っていたとすれば簡単には済まされない出来事であっただろう。

 今回はオカルト研究部顧問(草加浬)が立ち会った事で、事なき終えたようだが。


 とはいえ彼女の話は半分以上が信じがたいモノだった。

 “腕の異能”を持っている彼に掛かれば、何に憑りついたところで祓える事に疑問は抱かないが、彼女の話では憑りついた熊を彼は殴り飛ばしたらしい。

 普通の人間に、その様な真似ができるだろうか?

 今までも異常なまでの身体能力はこの眼で見た事はあった訳だが、野生の熊相手に素手で挑む人間など聞いた事がない。


 彼の言っている内容からは“幽霊”という存在を信じていないという様子が伺えるが、はたしてどこまで信じていいモノか判断に迷う所がある。

 実際には“見えて”いて、あえて虚言を吐いているだけなのではないかと僕自身は疑っている。

 “怪異”を信じず、恐れながらも、彼は果敢にカレらへと立ち向かっている。

 それは“カレら”という存在を知り、更に自身に対抗する力があると知っているからこそ出来る芸当なのではないか?

そう思える程彼は潔く“幽霊”の群れに突っ込んでいくのだから。

 とてもじゃないが全く信じていない人間が、部長の言う適当な理由だけで、あんなに全力を出すだろうか?

 しかも今回は野生動物を相手にしたという。

 流石に話を盛りすぎだとも思う。

彼はやはり“怪異”という存在を認識した上でそれを祓い、熊に取り憑いた幽霊のみを退散させたとしか思えない。

 もし全てが本当の話だったとして、野生動物がそう都合よく退散してくれるとも思えない上、熊に対して素手で立ち向かう人間が居ると言われても俄かに信じ難いのが現実だ。


 もしも、もし先生が本当に素手で野生の熊を撃退したとするならば……考えたくはないが、あの人こそ“怪異”さえ恐れる“化け物”な気がしてならない。

 ただでさえ強力な“腕”の異能を持ちながら、肉体能力だけでなく戦闘行為にまで長けた存在。

 そんな都合の良い存在が果たして存在するだろうか?

 元軍人だとか、元スパイだとか言う映画の様なビックリ人間になってしまう。

 まあ流石にあり得ないだろうが。

 彼の事は、今後も注意深く観察する必要があるだろう。


 そして順番が入れ替わってしまったが、“降霊術”を行っていた女性について。

 彼女は僕と同学年、更には同じ学校の女子生徒である判明した。

 部長の資料による情報が主になるが、後日彼女に直接話を聞こうと思う。

 資料によれば、“とある男性”とSNSを通して知り合ったらしい。

 それがどうやら僕たちが遭遇した仮面を被った男、ということみたいだ。


 SNSに関して言えば正直よくある話だ、としかこの時は思わなかった。

 しかし実際に被害が出ている以上、そう切り捨ててはいけないのだろう。

 彼女(桜井 望)はクラスにおいてイジメ被害にあっていた。

 とはいえ直接的な暴力や嫌がらせがある訳ではなく、無視や遠巻きに陰口など、陰湿極まりないモノが多かったようだ。

 それは中学の頃から続いていた様で、彼女は周りの全ての人間を恨んだらしい。

 その結果、彼女はSNSサイトに愚痴の数々を書き込んでいた所を、“例の男”に目を付けられたようだ。

 最初は文通、というかメッセージのやり取り。

 そしてその悩みを解決する為に力を貸す、というよくある詐欺の手口。

 よくこれで実行に移したものだと感心する程、稚拙な内容をやり取りした後、彼女は男に乗せられ“丑の刻参り”を行った。

 いざ行動に移してからは直接通話のやり取りを行うようになり、“彼”の助言の元連日“降霊術”を行っていたらしい。

 彼女が呪った相手はクラスメイトを含む数多くの人々。

 対象になった全ての人間の安否を確認した訳ではないが、結果は言わずもがな……といった所。

効果の程はまるで見られない様だ。

 少なくとも彼女のクラスメイトはピンピンしているし、体調不良の一つも起こしていない。

 やはり素人の儀式では効果が薄かったものと思われる。

 だがそれ以前に彼女の言う“彼”が、間違った知識……というよりもあえて誤った儀式を行わせていた可能性が高い。

 部長達が現場に到着した時間は0時から1時の間、だと思われる。

 (もっと正確な時間が知りたかったのだが、スマホの電池が切れていた為正確な時間までは分からないらしい。 車のラジオから聞こえたという放送内容から僕が勝手に予測した時刻なので、正しい内容ではないかもしれない)

 部長たちの発言が間違いでなければ、彼女は本来“丑の刻参り”を行う時間よりずっとはやく儀式を始めていたことになる。

 丑の刻、つまり2時から4時。

 その間に行わなければいけない儀式を、彼女は指示通りもっと早い時間から行っていた。

 言い換えれば、あえて“失敗する事が前提の儀式”をやらされていた訳だ。

 それに何の意味があるのか、“男”にとってどんなメリットがあるのか。

 正確には分からないが、彼の目的は僕や渋谷の活動によって、少しだけ垣間見えた気がする。


 渋谷優愛の報告(部長のレポート内容も含む)


 彼女が聞いた限りで、“厄災”とも言える呪いを作る。

 確かにその男はそう言っていたらしい。

 部長や“黒家茜”から“呪い”に関しての話はたまに聞く事が出来るが、僕自身詳しく理解できている訳ではない。

 とはいえ話では前部長(黒家巡)もとある“怪異”、というよりも“妖怪”と呼ばれる存在から呪いを受け、その結果“異能”を手に入れたらしい。

 その呪いを解いた今は、少しだけ“見える”人間になったと聞いているが……正直そうは見えなかった。

 堂々としていて恐れず、更には呑気な声を上げながらも周囲を警戒する彼女は、どう見ても“怪異”に関しての専門家か何かに見えた。

 少なくとも僕の目にはそう映った。


 男が言っていた“厄災”とも呼べる“呪い”。

 それは部長達が解決したと聞く、過去“最悪”の事象の様な出来事を指しているのではないだろうか?

 その“怪異”は生きている人間を食べ、従者に変える。

 その“化け物”は人を呪い、人生を狂わせる。

 そんな怪物になるか、もしくは自身の手で作り上げる事が、僕が出会った“男”の目的なのではないだろうか?

 もしも僕の予想が合っていたとするならば、とてもじゃないが安心して眠れる夜はこれから少なくなる一方だろう。

 実際に“妖怪”を目の当たりにしたわけじゃないからこそ、こんな風に呑気に文字を書いて居られるのかもしれない。

 いざ目の当たりにしたら、僕は毛布に包まって震える事しか出来ないかも知れない。


 そんな風に思える程、話に聞いていた“上位種”というヤツは強烈だった。

 あの化け物に牙を向けられた瞬間、寿命が縮んだ気がした。

 迫ってくる“アイツ”を見た瞬間、泣き叫びながら逃げ出しそうになったのを今でも思い出せる。

 そして“あの男”が作り出そうとしているのが、アレ以上の化け物だとすれば、僕たちには何か出来る事があるのだろうか?

 とてもじゃないが、僕個人としては何かが出来るとは到底思えない。

 とはいえ泣き言ばかり言ってはいられないだろう、せめて“呪い”を作るのを邪魔出来ればいいのだが。


 『異能についてのレポート』


異能というものについて色々調べてみたが、やはり眉唾な物語しか今の所出てこない。

昔の記録や、物語から探すのはそろそろ限界なのかもしれない。

やはり今目の前にいる多くの“異能力者”達から調べるのが一番なのだろう。

そんな風に考えてから、随分と時間が経ったがやはり分からない事の方が多いのは確かだ。

前部長(黒家巡)の“感覚”の異能、それは呪いの解除と共に無くなった。

これは誰よりも貴重なサンプルになり得る。

もしかしたら“異能持ち”は、己の枷から逃れる事が出来るかもしれないのだから。

そしてここで重要になってくるのが、彼女は後天的に“異能”を手に入れたという点。

黒家巡はとある“怪異”に呪われ、“感覚”を手に入れた。

それはつまり、“異能”とは“呪われた者”が持つ、一種の“お釣り”の様なモノではないかと考えた。


そうは言っても、これだけ多くの“異能持ち”が集まり、その全員が誰かから“呪われている”とは少し考えにくい。

僕が思うに、先天的な“異能持ち”は遺伝。

後天的な“異能持ち”は呪いだと考えている。

とはいえ立証は難しいだろう。

実際に“普通の人間”に対し、試しに呪ってみるという訳にもいかない。

もしくは先天的な“異能持ち”ですら、我々の先祖が“末代まで祟る”といった呪いを受けている可能性だってある。

こればかりは全ての答えを見つけるのは難しい、というか不可能に近いと思われる。


何が言いたいのかといえば、『異能を無くす事が出来るのかどうか』だ。

それを研究するために、僕は“オカルト研究部”に入部したといっても過言ではないのだから。

希望的観測をするなら“後天的の異能持ち”に関して、“異能”を取り去る事が出来るのかもしれない。

もう少しサンプルが多ければ良いのだが、“異能が無くなった元異能持ち”なんて探す方法が思いつかない。

こればかりは地道に探していくしかなさそうだ。


そして“忌み子”。

後天的な前部長と、先天的な現部長。

その二人共“忌み子”と呼ばれた事に関して、今の所詳しい内容はわからない。

やはり“異能持ち”の事を、一部の人間がそう呼んでいるのだろうか?

今後も調べる必要があるだろう。


思考が脱線しすぎて書き忘れていたが、渋谷が見たという“怪異”。

部長は“ブギーマン”と呼んだが、情報が少なすぎて特定は難しい。

 だが、他の収穫はあった。

彼女の“異能”、“共感”と呼ばれているソレが“幽体離脱”に近いモノだという事は今回の件で確信した。

 人の魂と肉体の関係性において正確な答えは出ていないが、それでも彼女はおそらく自身の魂を肉体から切り離し、“動物に憑依”しているのだろう。

 部長達が遭遇した熊。

 人の霊が動物に憑依できる、という事からおそらくこの考えで間違いないだろう。

 幽体離脱と憑依、それが彼女の“共感”の正体であると思われる。


 そして彼女の魂と体は、ある種のパス……もしくは糸の様なモノで繋がれていると考えた。

 “共感”を使用している間彼女は大きな行動は取れないと言っていたが、喋りもするし表情を動かすくらいはする事から、完全に魂が抜け去っている状態ではないと思われる。

 だからこそ憑依した動物と距離が離れれば負担が掛かり、近ければ負担なく動かせる。

 そして彼女と魂を結ぶ“糸”の様な物が、離れすぎて切れてしまうなんて事態に陥れば、彼女の魂は他の物に乗り移ったまま“本体”を見失い、体の方は抜け殻になってしまう恐れさえある。

 それだけは絶対に避けなければいけない。

 戻るべき体が別の“魂”に憑依されたり、戻るべき本体を見失った彼女など、僕は絶対に見たくない。

 だからこそ、彼女の“異能”は絶対に消す必要があるだろう。

 今回の一件で、より一層そう強く感じた。

 強い衝撃や印象を受ける事柄ばかりで、もしかしたら書き忘れもあるかもしれない。

 僕の目的は変わらない、これからも自身の為に“あの部活”を利用する事には変わらないだろう。

 許してくれとはいわない。

 でもどうか、僕が駄目になった時は“彼女”の事を守ってほしい。


 ――――


 そこまで書き綴り、ため息を吐いてから僕はPCの電源を落とした。

 何を書いているんだろう……これじゃ遺書か何かの様だ。

 もし僕が居なくなった後、この文章を読んだ人に向けてのメッセージに近い何かを所々に挟んでしまった気がする。

 今まではこんな事なかったのに。

 再び大きなため息を吐いてから、椅子の背もたれに体重を預ける。


 「何を弱気になってるんだ。 馬鹿じゃないのか」


 自分に対して愚痴を漏らしてから、ベッドに向かって身を投げる。

まるで書き綴ってしまった弱音から逃げるみたいに。


 薄暗い天井を眺め、何度目かの大きなため息を溢してから瞳を閉じる。

 真っ暗になった瞼の裏に浮かぶのは、先日の出来事。

 正直、恐ろしかった。

 あんなものがこの世に居るのかという驚愕な思いもあるが、それ以上に平然とあんな“怪異”に立ち向かう先輩達に、違う意味で恐怖を覚えた。

 なにより早瀬先輩だ。

 なんだアレは? “獣憑き”は黒家君で何度か見ているが、アレは別格……というか別物な気がする。

 まるで生きながらにして“怪異”になっているというか、人間として踏み入ってはいけない領域に足を突っ込んでいる様にしか見えなかった。

 だからこそ、在学中も僕らにあの姿を見せてくれなかったのだろうか?

 黒家先輩に色々言われていた事もあって、彼女は現場に行っても決して“獣憑き”になろうとはしなかった。

 というか、部長の音叉や天童先輩の“声”。

 そして草加先生を使った、“腕”によるローラー作戦で全て片が付いてしまっていたのも原因ではあるのだろうが。

 何はともあれ、味方としては心強い限りだが……果たしてどこまで“獣憑き”を信用していいものなのか。

 使い続ければいつか取り返しのつかない事態が起こりそうで、正直怖い。

 いつか早瀬先輩や黒家君に“憑いているモノ”の影響が出て、生きている人間に牙を向いたら?

 そんな事を考えると、容易に使用していいモノには到底思えなかった。

 そうなると、黒家君にもあまり能力を使わせないようにする戦術が必要になる訳だが……


 「そうなると、やっぱり僕の“指”と部長の“音叉”だよなぁ……」


 分かってはいるが、とてもじゃないが自信はない。

 あんな人達を見た後だと、余計に。


 「もう少し、何か……考えないと……」


 呟いている内に、徐々に意識が遠くなっていく。

 昨日今日の疲れが残っていたせいか、グルグルと答えが出ない疑問ばかり考えているせいなのかわからないが、泥の様な睡魔が襲ってくる。

 もう、考えるのは明日でいいか。

 回らない頭でそんな事を考えた後、僕は意識を手放した。

 うっすらと開けた瞳が、一瞬窓の外に黒い影を捉えた気がしたが、何かを考えるより先に意識が途切れた。

 きっと気のせいだ、ここ最近忙しかったから。

 そんな言い訳じみた感想を残しながら、僕は夢の中へと落ちていった。




 これにて2部、第一章は終了となります。

 二章も製作中ですが、まだストックがあまり出来ていない為少しお休みを頂くか、数日に一度上げる様なペースに戻ると思われます。

 もうしばらくお待ちください。


 ブクマ、評価、感想、レビュー等々。

 どうぞよろしくお願いいたします。

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