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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
第二部

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手の届く範囲


その日の晩。

なんとか呼び出した浬先生と俊君と共に、とある神社にやって来た。

 片方は当初不満を漏らしていたが、ネトゲのレアアイテムの譲渡を条件に黙らせてここまでやって来た。

しかしマジで空振りだったらどうしよう。

 現在は深夜と言って間違いない時刻。

 そんな時間に生徒を連れて歩く彼も、違う意味で気が気ではないだろう。

 本当に申し訳ない事をしていると思うが、どうか耐えてくれ。

 むしろ前は結構頻繁に深夜徘徊していた訳だが、よく交渉できたな黒家先輩。


 「しっかし珍しいな、他の連中を連れてこないなんて。 俺と黒家弟がいるから変なのが出てきてもある程度大丈夫だろうが、こんな時間に出るのも随分と久々じゃねぇか?」


 未だに文句を垂れる我らが顧問。

 全く持っておっしゃる通りだ、言い訳のしようがない。

 

 「えぇまぁ、最近入ったばかりの子達も居ますからね。 急に深夜活動に連れ出すのも可哀そうかと思いまして」


 「ふーん、まぁ早いとこ済ませて帰ろうぜ」


 うっわ、この人自分から聞いておいて興味なさそう。

 とはいえまぁ私もそのつもりだ。

何が起きているのか、そしてどれくらい被害が出そうなのかを見る為だけに来た訳で、深入りするつもりはない。

 それこそ本当に個人の趣味で降霊術というか、そういう類の事をしているだけなら好きにしてくれって心境だ。

 ならば放っておけばいいのだが、残念ながらそういう訳にもいかないだろう。

 聞く限りでは範囲が広い、というか数が多いみたいだし、放っておけば結局私達の害悪として繋がってくるだろう事象だ。

こればかりは実際に見ておかないと安心できない。

 そしてなにより、黒家先輩に見せられた“烏天狗”の衣装がどうにも頭から消えてくれないのだ。

 もしもこの件がアイツと関わって居るのなら、放置したら予想外の事態に陥る可能性が高いのだ。

 そんな焦燥感を感じているからこそ、私達だけでやってきた訳だが。

 “あんな事”は再発させていい事例じゃない、以前より近い場所で同じような“妖怪”とも呼べる化け物が生まれたら?

 そう考えると、とてもじゃないが黙ってみている内容とは思えなかった。


 「すみません、我儘を聞いてもらって。 今日は本当に覗くだけですから。 もしかしたら数日似た様な事になるかもしれないので、お礼は色を付けます……そうですね、浬先生の欲しがっていたアバターもプレゼントしますよ。 無料ガチャで出ちゃいました」


 「お前さぁ……ホント、運いいよなぁ。 俺の代わりガチャ引いてくんね?」


 望みの物が手に入るというのに、どこか悲壮感漂わせる浬先生がいそいそと私の後を付いてくる。

 まぁいいや、この人はいつもの事だ。

 ある程度諦めた様な、安堵した様なため息をもらしながら俊君に視線を向けると。


 「今の所見える範囲には居ません、大丈夫です」


 赤い瞳の彼が、小さな声で呟く。

 浬先生にその瞳を見られない為か、ずっと私の隣を歩いている俊君。

 いつも通りの柔らかい笑顔を向けてくる所を見ると、すぐさま危険な状況にはならないのだろう。

 こういう時は“眼”とか“感覚”とかあればなぁ……なんて思うが、今更そんな事を言っても仕方がない。

 今は俊君の“獣憑き”状態の眼に任せ、私は音拾うのが最優先だ。

 彼の目がどこまで見えているのか、正直それは定かではない。

 ただ私達よりも見える“眼”になる、くらいの事しかわかっていないのだ。

 とはいえ彼らには“獣憑き”でいられる限界があり、制限時間のような物がある。

 経験者は“電池切れ”なんて呼んでいるが、果たして彼がどれくらいの間“獣憑き”でいられるのか、私は正確にはしらない。

 本人の申告であれば数時間は大丈夫だと言っていたが……数時間ってなん時間だろう。

 気になる点は多いが、ストップウォッチ片手に彼が倒れるまで観察するわけにもいかないので、今の所計測する手段はないが。

 なんて事に頭を悩ませていると、予想外の人物が警告を放った。


 「お前ら静かにしろ! 声を抑えろよ……? 何かいるぞ、こいつは……」


 ゴクリと私達が息を呑んだ瞬間、浬先生は私達の前に飛び出しながら笑みを浮かべた。

 彼は“見える人”ではない、さらに言えば心霊現象の類が苦手なはずだ。

 こうして私達と行動できているのは長年の慣れと、そもそも幽霊なんていないじゃんという勘違いから来ている行動だった。

 だというのに、いの一番に声を上げたのが浬先生……それだけでも異常事態だという事が分かる。

 もしかしてまた特別な個体、私や俊君には見えない“上位種”なんてものが――


 「熊……だな」


 「……はい?」


 一瞬耳を疑ってしまったが、緊急事態に違いはなかった。

 というか彼の言う通りなら、早くも“活動”に余分な条件が付いてしまった訳だが。

 おかしいな、私は“怪異”を調査しに来たはずなのに。

 専門分野から外れる人間を警戒していたら、何故か獣に遭遇してしまったらしい。

 こんな事ってあるだろうか。

 いや、ねぇよ。

 人間以上に怖いわ、どうしようこれ。

 怪異より人間が怖い、でも熊さんの方がもっと怖い。

 なんて事を考えている内に、ガサリと音を立てながら黒い影が姿を現した。

 全長……はちょっとわからないが、結構でっかい気がする。

 そんな彼、というか熊が私たちの前に姿を現した。

 まごう事なき熊、でっかい熊。

 おいコレマジでどうしよう。


 「お前ら少し離れておけ。 モンスターハントの時間だ」


 動物保護を掲げる皆様が聞いたら、顔を真っ赤にして激怒しそうな発言をかましながら、浬先生は熊に向かって拳を構えた。

 まて、お前は素手で熊に挑むのか?

 武器は? ねぇ武器は?

 熊の体重って平均どのくらいあるか知ってる?

 そんな不安を拭い去る様に、彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 「野生動物ってやつはな、鼻先を思いっきり殴ると結構逃げ出したりするもんなんだぞ?」


 知らんがな、ていうか出来んがな。

 夜の闇に紛れながら、野生動物同士の戦いが、今幕を上げた。


 ――――


 カツーン、カツーンと音を立てながら、私はいつもの様に釘を打っていた。

 憎い相手、嫌いな奴を頭に思い浮かべながらひたすらに手を動かす。

 こんな事をし始めて、もうどれくらいになるだろう?

 2週間くらいは経った気がする。

 だというのに、未だ効果は表れない。

 呪っている相手もピンピンしているし、私の日常にコレと言った変化はなかった。

 やはりこんな事を続けても意味はないのだろうか?

 そんな風に思い始めた頃、“カレ”は大体連絡を寄越すのだ。


 『進捗はどうですか?』


 相変わらず淡泊な内容に舌打ちを溢しながらも、暗闇の中静かに言葉を紡いでいく。

 小声というより、周りに聞えない程度の些細な独り言くらいの声量で私は答えた。


 「何も変わらないし、本当に意味があるの? こんな事」


 私が声を上げた瞬間、周囲の草木がザワついた気がした。

 きっと気のせいだろう、流石に連日こんな事をしていれば疲労だって溜まってくる。

 多少不気味に感じはするが、私のやっている行為だって他者から見れば相当なモノだろう。

 今更ながら、何をやっているんだろうかと笑えて来る。


 『私が確認する限り、十分に意味を成しているようですよ? このまま続ければ、貴女の願いは成就することでしょう』


 それが一体いつになるのか、私はいつまでこんな事を続けていればいいのか。

 明確な答えをはぐらかして喋るコイツの謳い文句に、思わずイラッとする。


 「だからそれがいつになるのかって話だよ! いつまでこんな事続けさせる気な訳!? アンタがやれって言ったからこうして毎晩やってるのに、未だに効果の一つもでないじゃんか!」


 スマホに向かって怒鳴り散らしてみるものの、今の自分が実に滑稽な存在に思えて無理やり気持ちを落ち着かせる。

 私は“コイツ”の事を本当に信じた訳じゃない。

 利用されるだけの存在にならない様に、私は余裕を持たなきゃいけないんだ。

 そんな事を自分に言い聞かせている間に、スマホの向こう側に居る“カレ”は楽しそうに笑い始めた。


 『貴女は“忌み子”ではありませんからね、普通の人間なら呪うにも時間が掛かります。 ですが貴女の気持ちは本物の様だ。 これほどまでに死霊を集めるのは、中々ないことですよ?』


 普段は宗教の勧誘みたいな言葉連ねるだけの“コイツ”が、今日に限ってやけに饒舌に喋り始めた。

 それだけでも嫌な予感がするというのに、その空気を引き立てるように私の周りの草木がざわめき始める。

 なんだ? 何が起きている?


 『呪いとは、人が人を憎む心。 しかしより大きな、目に見えて“厄災”とも言える呪いを生むには、一人の感情では足りなかったものでして。 貴女はいい糧になりましたよ? あぁ、貴女が呪った相手……気が向いたら殺しておいてあげますので、ご心配なく』


 こいつは何を言っているのだろうか?

 “カレ”の言葉に混乱しながら、未だ騒がしくなり続ける周囲に目を凝らせば……何もいない。

 “何もいない”のだ。

 だというのに、野生動物でも潜んでいるかの様に草木は動き、その存在を主張してくる。

 何だ? 私の周りには、一体何が潜んでいる?


 『お疲れ様でした、貴女は十分に役に立ってくれました。 後は、ゆっくり眠りなさい』


 それだけ言って、“カレ”との通話は切れてしまった。

 ツーツーと響く電子音を聞きながら、私は周囲を見渡した。

 ガサガサと騒がしく鳴り響く音が聞こえるが、いざ音のする方へ視線を向けても誰も居ない。

 何がどうなっている?

 背後で何か聞こえた気がして、思わず振り返ると……そこには今しがた私が打ち付けた藁人形の姿があった。

 笑えて来る、本当に……バカみたいだ。

 あんな素性の知れないヤツに乗せられて、こんな事をしてみれば。

 現実はまるで変わらないし、こんな訳の分からない事態に陥っている。

 ホント、私は何をしていたんだろう?

 分かっていたじゃないか、こんな事意味が居ないって。

そんな風に何かを諦めた乾いた笑い声を漏らしている私のすぐ後ろから、誰かの声が聞こえてきた。

 それこそ耳元から、まるで満員電車で周りの人全てから一斉に問われたかのように、その声は重なって聞こえて来たのだった。


 ――ネェ、ミエテルノ?


 私はいつの間にか、こんなにも多くの“何か”を集めていたらしい。

 あぁもう、私は一体何をやらされていたんだろうか?


 ――――


 「皆大丈夫ですかね……」


 いくつかの心霊スポットや、神社なんか梯子した私たちは現在休憩中。

 どれも空振りであり、件の降霊術をやっている輩や部長たちの姿も見つけられなかった。

 自販機で買った飲み物を啜りながら、道端に停車した椿先生の車の中で待機している訳だが。


 「今の所連絡がないから、多分。 部長たちと連絡が取れれば一番早いんですが……あんな事言った後ですから、なんとも。 渋谷が早く見つけてくれるといいんですが」


 隣に座っている徹先輩も、どこか疲れた顔を浮かべながらスマホを覗き込んでいた。

コレと言って返すべき言葉も見つからず、私は貰ったココアを喉の奥へと流し込む。

こういう時もう少しコミュ力があれば、気の利いた言葉の一つでも思い浮かぶのだろうが。

何となく気まずくなって窓の外へと視線を向ければ、車の外で椿先生が誰かと連絡を取っている姿が見える。

 通話にしては少し長い様な気がするが、誰に掛けてるんだろう?

 しかもこんな深夜と呼べる時間に、もしかして旦那さん……はないか、まだ独身って言ってた気がするし。

 だとすると彼氏とか?


 「すみません日向ちゃん。 このお礼は後日必ず」


 完全に上の空になっていた私に急に声が掛けられ、思わずビクッと反応してしまった。

 そんな私の反応をどう受け取ったのか、先輩は困ったように笑いながら再び謝って来た。

 

「あ、いえ。 気にしないで下さい。 こっちに来たいって言ったのは私ですし」


 とはいえ、どうしたものか……

 今の所全くと言っていいほど進捗がない。

 たまたま今日は降霊術の類をやってない日で、実は部長達も帰って寝てるだけとかならいいんだけど。

なんて思った所で、スマホに一花から通知が入った。


 『優愛先輩が何か変な人見つけたみたい! 幽霊もいっぱい居るって! 場所はここ!』


 場所を示すURLを開けば、ここからそう遠くない場所の様だ。

 それこそ徒歩でも行ける距離ってやつだ。

 しかし変な人ってなんだ? 部長の言っていた内容通りなら、一見して何をやっているのか分かりそうなものだが。

 その情報がないのが、何となく不安だ。


 「だそうです、とりあえず見に行ってみましょうか」


 スマホを見せながら口を開けば、徹先輩は硬い表情でこちらを見ていた。

 何か失言をしてしまっただろうか? なんて不安になっている私に対して、彼は語るようにしゃべり始めた。


 「ありがとう日向ちゃん、ここまでで十分ですよ。 君はこのまま椿先生と一緒にここで待っていて下さい。 この先はいろんな意味で危険ですから」


 いつも通りの口調に戻り、優しく笑う徹先輩。

 詰まる話、ここから先は自分ひとりで行くと言いたい訳なのだろう。


 「そうですか……」


 ここは女として、先輩を送り出してあげる場面なのかもしれない。

 優愛先輩、そして部長への償いとして、彼は何か行動を起こそうとしているのだろう。

 それは分かる、わかるのだが。


 「だが断る、です」


 だがしかし、生憎と私はコミュ症な上に空気を読むというのが苦手な喪女なのだ。

 一花ならまだしも、私を連れて来てしまった事を呪うがいいさ。


 「徹先輩だけではいざという時対処が遅れる可能性がありますよね? 手持ちのお札を全て知っている訳ではないですが、部長が居なかった場合どうにかなるんですか? その逆だったとしても、私の“異能”があった方がずっと格好良く登場できると思いますけど?」


 慣れない口調で顔を真っ赤にしながらも、何とか言い切って先輩を睨む。

 とにかくここで置いて行かれれば、“オカ研”のお荷物になってしまいそうで必死に言葉を連ねてみた。

 多分私の認識は甘い。

 “黒家茜さん”から感じたあの恐怖、今でもこびりついたように背筋を冷たくしてくれる感覚は今でも残っている。

 そんな相手が、もしかしたらこの先に存在しているのかと思うと、すぐにでも逃げ出したくなってくる。

 だとしても、だ。

 黒家君みたいに抗うと決めたのだ、ここで逃げ出せば昔の私に戻ってしまう気がする。

 ただの意地、というか“敵”としての“上位種”に遭遇していないからこそ張れる虚勢なのだろうが。

 それでも私は、もう逃げたくはなかった。

 

 「確かに君が来てくれれば心強いのは確かだ。 でも、本当にいいんですか? 僕だってこの先に居るモノに対して、どこまで対抗できるか分かりませんよ? もしかしたら命に関わる事だってあるかもしれない。 それでも君は一緒に来きますか?」


 「何度も言わせないで下さい。 行きます」


 この時ばかりしっかりと自分の意思を示し、彼の瞳を睨む。

 彼は予想外の反応を示した者を見るような眼でこちらを見た後、まるで執事の様な綺麗なお辞儀を披露する。


 「わかった……それじゃよろしくね、“未来視”の異能者さん」


 幾分か崩れた口調で、先輩は笑った。

 全く、本当に素直じゃない人ばかりが集まっている部活だ。

 私も含めて、にはなってしまうが。


 「格好いい所を見せて、早く優愛先輩と仲直りしましょうね?」


 「そういうのは、言わないでくれると助かるんだけどなぁ……」


 困ったような笑みを浮かべた後、彼は今まで見たこともない様な真剣な表情に変わる。


 「じゃぁ、本当に行くけど……準備はいいかい?」


 きっとこれが彼の“素”なのだろう。

 いつもの軽い雰囲気は無く、どこまでも真剣。

 どこか死地に向かうかのような、覚悟の決まった漢の顔。

 きっとこれがオカ研における、彼の本当の顔なのだろう。

 “怪異”に立ち向かうと決めた、一人の“異能者”としての素顔。

 そんな彼は、今まで見せていたどの表情よりもずっと凛々しく見えてしまった。


 「もちろんです、行きましょ――」


 「ごめんねぇ、お待たせ。 それで、次の行き先は決まった?」


 とんでもなく間の悪いタイミングで椿先生が戻って来た。

 戻って来た本人は私たちの顔に交互に視線を向けた後、はて? と首を傾げる。


 「なんかいい感じに盛り上がってるみたいだけど、何かあった?」


 「あーいえ、次の目的地が本命っぽいので」


 思わず答えてしまった私に、徹先輩が「あ、ちょっと!」みたいな声を上げたが……少しばかり遅すぎた。

 多分さっきの雰囲気からして、椿先生は置いていくつもりだったのだろう。

 聞く限りでは彼女にも“特別な力”がある。

 でもそれは他の人たちと同じように“怪異”に対してのモノ。

 そして何より、彼女の持っている“巫女の血”とやらは、随分と代償が物騒なモノであったと記憶している。


 「それなら、ちゃちゃっと行っちゃいましょうか。 何か助っ人も来てくれるみたいだし、ある程度なら私達だけでも問題ないでしょ」


 そういって笑う椿先生。

 やはり前からオカ研に居た人たちは、どこか肝が据わっている気がする。

 何をもって大丈夫と思えるのか、そして当然の様に誰かに助力を頼んでいるみたいだし。

 というより、相手から申し出てきたのか? この場合。

なんというか、まだ私達にはない信頼関係というか……誰しも頼る頼られるは当たり前、みたいな。

そういうのが自然に出来る事が、私としては結構驚愕である。

 部長や椿先生、そして黒家君にもそういう雰囲気を感じる。

 いつか私も、皆の様になれるのだろうか?

 

 「いえ、しかし椿先生。 これから行く所は渋谷も霊が集まっていると言っている訳ですし、椿先生まで巻き込むわけには……」


 申し訳なさそうに言葉を紡ぐ徹先輩に対して、運転席に座った椿先生が「はぁ?」と間抜けな声を上げる。

 その後に、アンタ馬鹿? って続きそうな雰囲気だったが、先生はため息を溢しながら真面目な顔でこちら瞳を見返してきた。


 「それなら尚更、生徒達だけで行かせる訳ないでしょ? 私は“見えない”し対抗手段も少ないけど、それでも子供たちだけを危険な目に合わせる為に今日車出した訳じゃないのよ? 皆が居るならまだしも、今日は二人だけなんだから。 自由行動はないと思いなさい」


反論を許さない強い口調でそう言い放つと、椿先生は黙って車のエンジンを掛けた。

なんというか、部長といいこの先生といい。

この部活の女性陣強すぎませんかね?

ちょっと私、ここまでなれる自信ないんですけど。

などと思いながら呆けていると、再び椿先生がこちらに向き直って呆れた声を上げた。


「ほら、急ぐんでしょ? 地図見せて?」


 「え、あ! はいっ!」


 急に向こうのペースに呑まれてしまった感がぬぐい切れないが、こればっかりは仕方がない。

 私は慌ててさっき送られてきた地図を表示して、先生に見せる。

 それを見た椿先生が、何やら再びスマホをいじってから正面に向き直った。


 「それじゃ行くよー? シートベルト締めてねぇ?」


 まるで遠足にでも行くような気軽さで、先生はそんな言葉をはいている。

 この人たちには恐怖という概念がないのか……なんて思えてくるが、よく見ればハンドルを握る手が震えている様だった。


 「ほんと、強いね。 この部活の女性陣は」


 そんな事を漏らした徹先輩の表情は、どこか先程より緊張が解れているようにも見えたのだった。



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