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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
第二部

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 今後視点がコロコロ変わります。

 今更かもしれませんが、読みにくかったら申し訳ない。


 一通り話が終わった後、恐る恐る手を上げた。

 先程黒家茜さん? が放った威圧感により、半数以上がお通夜のような空気になっている中、こうして発言するのも新入部員としては結構勇気がいる訳だが。


 「あ、あの……その場合って、私たちが動くべきなんでしょうか? 人為的な物ということなら、警察に任せるとか……色々方法はある気がするんですけど」


 確かに、とばかりに隣に座っている一花も頷いて同意してくれる。

 聞いている限りだと、この部に所属する人たちは誰も彼も“幽霊”に対してとても強い力をもっている。

 だがしかし、それは“怪異”が相手であるからして発揮できるものであり、普通の人間にはまるで効果がないと思われるモノがほとんどだ。

 当たり前だけど私の“未来視”だって人間相手では見ることができない。

 むしろそれさえも見えているのなら、普段からもっと多くの未来の映像が見えていてもおかしくないだろう。

 そして現実問題、私はそういった光景は見たことがない。


 「それにもしも降霊術をやっている人を見つけたとして、その後はどうするんですか? 見えない人たちからすれば遊びの一環でしょうし、注意した所で止めるとは思えないんですけど……」


 先程から否定的な意見ばかりで呆れられてしまったかも……なんて不安に思いながら、それだけ言ってから手を下げる。

 自分から発言しておいてなんだが、やはりこういう会議の場は慣れない。

当たり前だが喋る人間に対して全員の視線が集まるのだ。

可能な限り言いたい事をまとめて話しているつもりではあるのだが、喋っている内に自信が無くなってきて尻すぼみになってしまう。

最終的には視線まで下げて、言わなければ良かったかなぁ……なんて後悔し始める訳だが。

そんな私の肩に一花が手を置き、微笑みながら前を見るように促してくる。

恐る恐る視線を上げれば、部長が何やら唸りながら天井を見上げていた。

他の先輩達も皆部長の方に視線を向けていて、私の発言に対して何か異を唱えようとしている様子はない。

とりあえずホッと胸を撫でおろしてから、今一度部長の方へ視線を向けた。


「確かにその通りなんですよねぇ。 相手生きてるしなぁ……とはいえ放置して増えすぎるとこちらに被害が出る可能性も。 更にいえば“烏天狗”の遺品というのも、私達だからこそ関連付けてしまっているだけの可能性もある訳で……うーむ。 流石に生きた人間相手となると物理に全部頼る訳にもいきませんし、かといって集まった“雑魚”を散らすだけだとトカゲの尻尾切りになりますし」


ぶつぶつと小さな声で呟きながら、部長はゆらゆらと椅子をゆらす。

なにやら非常にお悩みのご様子。

やはり私が余計な事を言ってしまったのだろうか、なんて不安になって来た頃に部長はガタンっと音を立てながら椅子を戻して正面を向いた。


「そもそも降霊術で呪われた相手って、何かしら訴えが出せるモノなんでしょうか? それから呪術を行っている最中に逮捕ってできるんですかね? というかそういう通報をした場合、私達はどういう扱いになるんでしょうね?」


とんでもなく今更に感じる疑問を、ウチの部長は本気で首を傾げながら呟いた。

そうね、そもそも呪術に対する法令とかある訳ないよね。

この人が誰を呪いました!  とか、正直わかんないもんね。

今更過ぎるが、確かに疑問に上がる点だろう。

などと納得している内に、徹先輩がため息を溢しながら口を開いた。


「はっきり言えば、そういう通報を受けても警察としてはパトロールの車を一台回すくらいじゃないですかね? 正直ちゃんと対応してくれたら良い方だと思いますよ? そもそも降霊術なんて、効くかどうかも分からないお遊びみたいに見られてますから」


そう言って首を横に振る徹先輩。

なるほど確かに。

○○さん家で降霊術やってます! なんて通報したとしても、「はぁ?」って言われるのがオチな気がする。

それこそ誰かに襲い掛かるとか、凶悪な事態にならないと警察は動いてくれないとも想像できる。

アレ? 詰まる話今の時点で気づいても、頼れる人って居なくない?

などと頭をひねっていると、同じように首を傾げた部長が再び口を開いた。


「では明らかに相手を“呪っている”場合なんかはどういう対応になるんですかね? たとえば、さっき話に出た藁人形。 “丑の刻参り”などは、どういう事態になります?」


確かにアレなら特定の相手に対して、呪っていますよーと言っている様なモノだろう。

とはいえ、呪術そのモノが法律では裁けない様な気がするのだが……


「その場合は自分の土地でない限りは、不法侵入罪。 その場の木を傷つけたとして器物破損罪。 そして相手から申し出があれば、脅迫罪が課せられたという事例もありますね。 仮にそれを止めに入ったとしても不法侵入は我々も同罪、器物破損に関しては立証に時間が掛かる上、脅迫罪は名前の書かれた相手に起訴してもらうしかないですからねぇ。 分の悪い賭けとしか……」


どうやらかの有名なあの儀式だったとしても駄目らしい。

詰まる話そこに首を突っ込んだ所で、私達にはメリットよりデメリットの方が上回ってしまった訳だが。

はてさてどうする、なんて思いで視線を送れば再び天井に向かって視線を投げている部長の姿が。

随分と悩んでいるらしい。

とはいえ、この件は放置でいいんじゃないかなぁなんて思ったりする訳だが。

多分こういう部活なら、そういう判断にはならないんだろうなぁ……


 「では“オカ研”としてはこの事案、放置しましょうか。 我々に被害が及びそうなら、その時は対処する方針で」


顔を下ろした部長が、わりとあっさりした決断を下した。

なんだかんだ反論はしたが、この決定には皆一様に驚いた表情を浮かべていた。

私や一花はそこまで部長の事は知らないが、それでも何かしら理由を付けて首を突っ込むのかと思っていたのに。


 「という訳で上島君、“雑魚”があふれ出した場合の予防策を色々と考えておいて下さい。 可能な限り個人でも対処できる方法で、尚且つ君の“指”を最大限に生かす方法を期待します」


 「え? あの、確かに関わる事に関しては反対ですけど。 いいんですか? いつもの部長らしくないというか。 ていうか、僕の異能を最大限にって……こういう時こそ、部長の“音叉”や黒家君の“獣憑き”が活躍する場面だと思うんですけど」


 やけにすらすらと指示を出す部長に対して、徹先輩が混乱気味に言葉を紡ぐ。

 こう言ってはなんだが、今の部長は凄く不気味に感じてしまうのは気のせいだろうか。

 何かを決めてしまって、後の事は任せる、と言っている様な雰囲気がある。


 「集まった“雑魚”がいつあふれ出すかなんて、とてもじゃないですが予想できませんからね。 そういう意味では私や俊君、そして浬先生だって合流できるかわかりません。 なので今の内からお札の量産や、貴方以外にも使えそうな物を用意しておいてくれと言っているだけですが?」


 「は、はぁ……」


 なんだか納得いかない雰囲気の上島先輩との会話を終え、部長は再び軽く手を鳴らした。

 この話は終わり、と言いたげに柔らかい笑みを浮かべながら。


 「それでは、今日の部活はこれにて終了とします。 お疲れさまでした。 私はちょっと寄る所があるので、お先に失礼しますね」


 そう言って部長は荷物を持って立ち上がると、何食わぬ顔で私たちの横を通り過ぎた。

 本当にこれでよかったのだろうか? 私達が行動するべき事態だったんじゃないだろうか?

 “怪異”が関わって居るのは確かだが、その本元にいる相手は人間だ。

 不安要素が強すぎる上に、単純に恐怖が勝ってしまい何も言葉にすることができない。

 そんな自分勝手な意見が頭の中で渦巻く中、部員の中で一人だけ動いた人が居た。


 「鶴弥さん、僕もお供していいですか? もしもデートとかの予定なら断ってください」


 「君までそういう事いいますか、だからそういうのはないと……まぁいいです、どうぞご自由に」


 そんな短いやりとりを交わし、黒家君と部長は出て行ってしまった。

 残った私達も後に続いて部室を後に……することはなかった。

 しばらく誰も口を開かず、沈黙だけが流れる部室内。

 気づかなかったが、いつの間にか茜さんも居なくなっている。

 何となく居づらい様な、そして退室もしづらいような。

 そんな微妙な空気が流れていた。


 「あのさ、さっきの話。 大体はウチも賛成っていうか、幽霊相手も怖いけど“そういう事”してる人間はもっと怖いっていうかさ。 確かに分かるけど、何か起きた後対処すればいいっていうのは、いつものぶちょーらしくないっていうかさ……えぇっと、なんて言えばいいのか分かんないけど、これ放っておいていいのかな? ぶちょー、あんな事言ってたけど一人で何かやったりしないかな?」


 優愛先輩が俯いたまま、吐き出すように言葉を連ねた。

 それは私達に相談する、というよりは言葉にして自分で確認しているような様子だったが。

 そして彼女の言葉は、私達新参者からしても説得力がある……というか間違いなくそうなる予感めいたものがあった。

 数日しか顔を合わせてないけど、なんというかあの人なら一人でもやっちゃいそう……みたいな。

 そんな私の予想を肯定するみたいに、疲れた顔をした徹先輩が首を縦に振った。


 「多分、やるでしょうね。 俊君もついて行った上に、部長は用事があると言っていたので誰かしら協力者は募るでしょうが……とはいえ僕らが行った所で何が出来るか」


 珍しく眉間に皺を寄せながら深く考え込む徹先輩。

 その彼に対して、優愛先輩が怒鳴り声を上げながら立ち上がった。


 「この馬鹿、馬鹿眼鏡! やっぱり部長だけで動くつもりなんじゃん! だったらウチらも何かしないと! 分かってたなら何で代案とか出さないの、そういうのアンタの役目でしょうが!」


 いつになく激高した様子の先輩に思わずたじろいでしまうが、言われた当人は慣れた様子で表情一つ変えなかった。


 「そうは言っても、さっきの日向ちゃんの発言は間違っていません。 我々に被害が及ばない所でやっているなら、それは全て自己責任。 僕たちが首を突っ込んで危険に晒される様な事があれば、それは大前提の“普通”を求める活動と異なってしま――」


 「それでもぶちょーは関わろうとしてんじゃん! 何ビビッてんの!?」


 その一言に、徹先輩が表情を変えた。

 キッと優愛先輩を睨みつけたかと思えば、拳をテーブルに叩きつけ……るのはどうにか抑えている様子だが、プルプルした右手は行き場を失っている。


 「ビビッて何が悪い!? さっき茜さんの出した気配を忘れたのか!? また“上位種”が出てきたらどうする、俺達完全足手まといだぞ! ……少し前の俺だったら何を言われても付いていっただろうさ、でもまたアレが出てきた場合全員が無事でいられる可能性の方が低いんだぞ? そんな所に最近入ったばかりのこの子達を連れていくのか? いくら何でも無謀だろうが!」


 二人ともいつもの様子が感じられないほど感情を露わにしたまま怒鳴りあい、私たちは唖然として眺めているしか出来ない状況だった。

 徹先輩なんて一人称変わっちゃってるし、優愛先輩に関しては泣きそうな顔で睨んでるし。


 「ウチ馬鹿だもん、何ができるとかわかんないよ! でもぶちょーが言ってたじゃん、“異能持ち”は一人じゃ何もできないって。 だったらウチらも何かしようよ! いつまでもぶちょーに任せっきりでいいの!?」


 「お前は“共感”を使わない限り“普通”の人間だからこそ、そんな事が言えるんだろ! 実際にあんな“化け物”と対峙してみろ! 部長たちみたいな強力な“力”でも持ってない限り、自殺行為だ!」


 二人共白熱して怒鳴り合っていたが、徹先輩の一言で優愛先輩が唐突に口を閉じた。

 それと同時に大粒の涙を音もなく溢し始め、二人の表情は徐々に冷静なモノへと戻っていく。

 5秒くらいだろうか? 再び無言の空間が訪れ、気まずいというか……何を言葉にしたらいいのか分からない空間がおとずれてしまった。


 「徹は、まだそんな風に私を見てたんだね」


 沈黙を破ったのは優愛先輩だった。

 表情を変えず、頬を濡らす涙さえも無視しながら乾いた笑いをこぼしていた。

 それをみた徹先輩も、無表情のまま視線を逸らすと。


 「悪いかよ。 お前は俺らの中では一番“まとも”なんだ」


 苦しそうに、そう呟いた。


 「とはいえ俺だって何もしない訳じゃ――」


 「もういい。 徹には頼らない、バカはバカなりに考えてみるよ。 ごめんね」


 「あっ、おい!」


 そう言って、優愛先輩は部室を出て行ってしまった。

 かつてこんな状況を目の当たりにした事があっただろうか?

 いや、断言するがありえない。

 というか交友関係の少ない私には、まるで惨劇を繰り返す恋愛ドラマの様に見えてしまった訳だが……そんな事を口にしたらえらい事になるだろう。


 「えっと、徹先輩。 追いかけなくていいんですか?」


 これまたそれっぽいセリフを吐く一花に対して、徹先輩は困ったような笑みを浮かべた。


 「今追いかけても、何を言えばいいのかわかりませんから」


 小さな声で呟く徹先輩が、普段よりずっと小さく見える。

 幾分か顔色も悪い様に見えるが、大丈夫だろうか?

 というかコレ、明日からどうするんだろう。

 部長の行動も気になるが、優愛先輩だって何をするか分からない。

 そんな状況で、普段通りの部活なんてできるんだろうか?

 などと考えていた私の前に、あり得ない光景が映し出された。

 何がどうしてこうなった?

 そういう感想しか出てこないくらいに、急展開過ぎる流れ。

 徹先輩が机に頭を擦り付ける勢いで、私達に頭を下げていた。


 「ごめん、これは僕の我儘なんだけどさ。 ふたりにどうしてもお願いしたい事があるんだ。 協力してくれないかな」


 言葉を紡いだ後も頭を上げない先輩に対して、どうすればいいのかしばらく混乱してしまったが、彼が何をしたいのかくらいは予想できているつもりだ。

 他の部員たちや、それこそ優愛先輩の力になろうとしている事くらいは理解できる。

 私と一花に関しては、黒家君の様に即戦力にはならないだろう。

 でも、なにかしら力になれる事はあるかもしれない。

 そのチャンスが、今訪れたのだ。


 「言ってください、徹先輩。 私達、何をすればいいですか?」


 さぁ、今日の“活動”の始まりだ。


  ――――


というわけで、徹先輩の指示を受けた私は優愛先輩のお宅の前までやって来た。

日向と先輩の“異能持ち”組は、他にやる事があるらしく二人してどこかへ出かけてしまった。

元々は日向もこっちに付けるという話だったのだが、彼女自身が拒否し徹先輩に付いて行く選択をした訳だが。

 現在は夜8時。

高校生でこの時間に寝ている人は少ないと思うが、訪問するにしては失礼な時間帯。

 先輩が「向こうには親御さんには連絡してあるから」なんて言っていたが本当に大丈夫だろうか?

 一抹の不安を残しながらも、妙案も浮かばないので諦めてチャイムを押す。

 しばらくしてから扉が開き、家の中からやけに柔らかい笑みを浮かべた女性が顔を出した。


 「えっと、遅くにすみません。 私は――」


 「徹君が言ってた優愛の後輩ちゃんかしら? いらっしゃい、待ってたわよ? ささ、上がって上がって」


 挨拶を途中でぶった切られた上、早く早くとばかりに家に招かれしまった。

 呆気に取られている私に、ニコニコ笑顔の優愛先輩のお母さん? がマシンガンの様に喋りながらスリッパを用意してくれる。


 「あの子が友達を連れてくるなんて珍しいから、色々準備しちゃった。 ご飯はもう食べた? まだなら食べていってね、嫌いな物とかある? あ、今日は泊っていくのかしら? 遠慮とかいらないからゆっくりしていってね」


 「あー、えっと。 夕飯はまだですけど、とりあえず優愛先輩と話してから予定を決めようって話だったので……」


 「あらそうなの? ごめんねぇ、優愛ったらお出迎えもせずに、帰ってきてからずっと部屋に引きこもってるのよ。 後輩ちゃんは一花ちゃん……で良かったかしら? あの子の部屋は階段上がってすぐ右だから、ご飯も二人分すぐ持って行くわね」


 「あ、あはは。 おかまいなく……」


 一応部活の後輩だと説明されている様だが、本人に確認を取らず部屋に立ち入る許可を頂けるのはどうしたものだろう。

 普通に考えれば友達がよく来るとか、たまにある放任主義とか思ってしまう事態だが……どうもそうではないらしい。

 出迎えてくれた優愛先輩のお母さんは、やけに歓迎してくれるし。

 というか、今夜はご馳走にしなきゃ! みたいな声が今でもキッチンから聞こえるし。

 あはは……と乾いた笑い声を上げてから、案内された二階へと続く階段を上ろうとした所で今度はリビングから男性が顔を出した。


 「おや、いらっしゃい。 徹くんの言っていた部活の後輩さんかな?」


 「あ、はい! 環一花って言います、お邪魔しております」


 慌てて頭を下げれば、男性も柔らかい笑顔を作りながらこちらに向かって頭を下げてきた。


 「優愛の父です、今後ともよろしくね」


 「あっはい! こちらこそ」


 「泊っていくのかな? もう夜も遅いから、もし帰るなら声掛けてね。 車で送るよ」


 そう言って、何やら書類の束を持って他の部屋へと向かうお父さん。

 結構ラフな格好で出迎えてくれたが、在宅業なのかな?

それとも仕事から帰って来た後なのか、とにかくこちらも感じのいい親御さんだった。

 どちらもとても交友的というか、凄く喜んでくれたみたいで何よりだが……なんだろうこの違和感。

 まるで優愛先輩が、友達を初めて連れて来たみたいに歓迎してくれている。

 あの人なら交友関係も広そうだから、流石にそんな事はないと思うが……考えすぎかな?

 というか徹先輩、優愛先輩とどういう関係なんだろう。

 ご両親から凄く信頼されてない? え、なにどういうこと?

 なんて疑問を抱きながら、教えられた先輩の部屋に向かう。

 階段を上った先に「ゆあ」と可愛らしい賭け札が掛けられている扉があったので、ここで間違いないだろう。


 「優愛先輩―、環です。」


 声を掛けてからノックしたものの、反応が返ってこない。

 下の二人の話だと出掛けているって事はないだろうが……もしかして寝てる?

 それならそれで問題解決なのでいいんだが、どうしよう。

 私が受けた指示は優愛先輩が無理をしないように見張る事、そして何かあった場合には皆へすぐ連絡する事の二つ。

 もう眠ってしまっているのだとすれば私の役目も終わりなので、そう報告すれば済む話だが……一応ちゃんと確認しておいた方がいいか。


 「し、失礼しまーす」


 親御さんの許可を貰っているとはいえ、人の部屋を勝手に覗くのはちょっと罪悪感があるが……優愛先輩、ごめんなさい。

 心の中で謝ってから、ゆっくりと扉を開けると――


 「はぁ……はぁ……! 次は、南の方。 何か、何か見つけないと……」


 そんな事を呟きながら眼を閉じた優愛先輩が、汗だくでベッドに横たわっていた。

 一瞬何が起きているのか分からなかった。

 擦れる様に続ける呼吸は、まるで全力で運動を続けた後みたいに苦しそうだ。

 とてもじゃないが、普通の状態ではないことが一目で分かる。


 「優愛先輩!? ストップ! ストッープ!」


 慌てて彼女の肩を揺さぶり、大声で呼びかけると先輩は瞼を開いた。

 疲れ切ってダルそうにしながらも、ふにゃっといつもの柔らかい笑顔を浮かべて、彼女は困ったように笑った。


 「あれ……いっちゃん? どうしたの? なんでこんな所に」


 「えぇっと、今日の私のお仕事? なので。 急ですけど、終わるまでお供していいですか?」


 今の所私には、そんな理由しか思いつかなかったのだった。



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