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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
番外編・後日談

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謙虚な美徳 2


 何故こうなった。

 車の修理も無時終わったみたいだし、草加君のアパートまでついて行ってお酒飲んで本日は終了! ……だった筈なのだが。

 現在私達は他人様の借りているアパートに上がり込み、お茶を飲んでいた。

 

 「いやぁ申し訳ない、って言うか草加さんがそんな部活の顧問だったとは。 早く言ってくれれば良かったのに」


 「だからと言って専門家でも何でもねぇぞ? ウチの学校のオカルト好きが集まって遊んでるだけだ」


 彼のこういう発言を聞くたびに、認識の差って怖いねって感じる。

 遊んでるどころか、最近までガッチガチの命のやり取りしてたよねあの子達。

 なんて事を思いながら苦笑いを浮かべて居れば、三上さんが「へぇ?」と意味ありげな視線をこちらに投げかけてくる。

 うーむ……色々とご存知の様子。


 「ま、まぁ怪奇現象なんて何かの勘違いだったり、幻聴幻影だったりする事がほとんだし。 サクッと見てサクッと終わりにしよ。 ね? 草加君」


 話の発端としては三上さんの”相談事”。

 彼女が借りているアパートで、夜な夜なおかしな音が聞えるとの事だった。

 実害は出ていないが、多少気味が悪い。

 そして今日”椿”の人間である私に会った事で、これは少し見て貰おうと思い立ったそうだ。

 彼女とお婆ちゃんがいつどこで会ったのかなんて知らないが、私にそんな期待をされても困るのだが……私なんも”異能”持ってないし。

 ”巫女の血”とやらでカレらを遠ざける事が出来るようだ、とは黒家さんから聞いているが……実際見えない私には効果があるのかどうかさえ、さっぱり分からない。

 なのでオカ研の子達を連れてまた後日にでも、と提案しようとしたのが。


 「それストーカーとか、そういう可能性もあるんじゃねぇか?」


 などという草君の発言の元、彼女の部屋にノコノコやってきてしまった訳である。

 三上さんの中ではストーカーなら草加君担当、幽霊なら私担当みたいな構図になっていそうで凄く怖い。

 私マジで何も出来ないんですけど、知識とかさえまるで無いんですけど。

 助けて生徒達、この情けない先生をどうか助けて。

 あとで何か御馳走してあげるから……


 ちなみにこの子の問題を解決すれば、草加君は車の悪くなった消耗品? の交換してもらって、私の車のメンテを次回無料にしてくれるとオネェ店長さんが言っていた。

 凄いホワイト企業でびっくりだよ、店長いい人だね。

 結果的に逃げ道が無くなった訳だけど。


 「急にお願いしておいて今更アレなんですけど、多分サクッとは片つかないんじゃないかなぁと思ったり」


 あはは……と困った様に笑いながら、三上さんは視線を反らした。

 なんかどんどん状況が悪くなっている気がする。

 ”上位種”っていうんだっけ、アレとか”烏天狗”みたいなの出てこないよね? 大丈夫だよね?

 若干どころか結構不安になってきた。

 今からでも皆呼ぼうかな……時間が遅いし他人の家だからって草加君には反対されたけど。


 「と、いいますと……?」


 頼むからおかしなヤツを見たとか、そういう事だけは言わないでくれ。

 祈る気持ちを前面に押し出しながら返事を待っていると、彼女は両手を合わせて頭を下げた。


 「ごめんなさい。 その変な音、いつも0時くらいにならないと聞えないんだ。 だから二人にはこのまま待機してもらえたらなぁって……」


 はやくも長期戦が決定した模様。

 どうしよう、お酒飲みたくなってきた。


 ————


 結果、飲んだ。

 そりゃもう明日がお休みだからとばかりに、皆で飲んだ。

 随分と若く見える三上さんもどうやら成人しているらしく、もはや飲み会状態になっていた。


 「いやぁ草加さんが先生やってるってのも、未だに信じられないけどさ。 話を聞いてる限り、来年以降部活どうするのさ? みんな卒業しちゃって、今一年生の子が一人になっちゃうじゃん」


 「それなー、どうしようなぁ。 最初は今の部長が一人だったから状況としては変わらんけど、その一年は現部長程メンタル強く無さそうだしなぁ……どう思うよ副顧問」


 「どうもこうも、来年の新入生とかにアピールするしかないでしょ。 一人か二人でも入ってくれればいいんだけど」


 とはいえあの部活は色々おかしいからなぁ。

 一般人……って言っていいのかな?

 私みたいな? 普通な人が入っても、結局居場所無くなっちゃう気がするし。

 とはいえ鶴弥さん一人になっちゃうとなぁ……正直悩みどころだ。

 それこそ”異能”の一つでも持っている子が見つかればいいが、そんなホイホイいるもんでもないだろうし。


 「でもよ、なんてアピールすんだ? 皆で一緒に廃墟探索に行こう! ってか? いつか保護者に刺されるぞ」


 刺されはせんだろうに、怒られる可能性は大いにあるが。

 っていうかそういうの本当にどうしてるんだろう。


 「むしろ良く今まで平気だったよね、二人とも。 親御さんは部活内容知ってるの?」


 今しがた疑問に思った事を、三上さんが代弁してくれた。

 以前までは結構な頻度で活動していた、というかほぼ毎日か。

 しかも女の子の多い部活だというのに、親御さんには何も言われなかったのだろうか?

 夜遅くまで帰って来ないし、保護者としては当然口を挟んでくるだろうに。


 「あー何か平気っぽいぞ? 部長の所は自分で説得したらしくて、もう一人の子は前よりも断然明るくなったって、むしろ感謝された。 たまに夕飯とか招待されるし」


 「おいそれ初耳、親公認ってか? 調子に乗るのもいい加減にしろよ?」


 もう一人って、間違いなく早瀬さんの事だよね?

 何、どういう事なの。

 お前ご自宅にお邪魔した上、お夕飯頂いてるの?

 馬鹿なの死ねよ、それ普通の教師と生徒の関係じゃないから。


 「いやはや椿さんも大変だねぇ。 それで、残る二人は?」


 やれやれと、もはや諦め気味なため息を吐いた三上さんが話の続きを促した。

 残る二人と言ったら、てんつるコンビ。

 鶴弥さんの所に至ってはそもそも”合宿”で面識あるし、天童君は……あれ? そういえば天童君のご両親の話って、まるで聞いたこと無い。

 いやまぁそれが普通なんだろうけど、コイツの場合家庭環境まで足を踏み込み過ぎなのだ。

 草加君の実家にまで皆を招待しちゃってる訳だし。


 「男子の方の親は会った事ないんだけどな、この前高そうな霜降り肉が大量に送られてきた。 息子がお世話になっておりますって手紙付きで。 もう一人の、さっき言ってた一年生な。 そっちの爺ちゃんからはお歳暮が届いた」


 何それ怖い。

 この人、生徒の家庭事情に足突っこみすぎじゃないですかね。

 っていうか霜降り肉って何、なんでお肉様届いちゃったの。

 確実に天童君の助言ありきな贈り物だよね?

 現物見てないから分からないけど、大量の霜降り肉て。

 マジで天童君の家庭事情が気になってきたんだが。


 「よくわかんないけど、意外とちゃんと教師やってるんだね草加さん」


 「意外ってなんだよ意外って。 これでも頑張って教員免許取ったんだぞ? 今では教科書見ても頭捻る事あるけど」


 「訂正、ちゃんとじゃなかったね。 免許持ってるだけのモグリだ、クビになってしまえ」


 「てめぇ三上、言っていい事と悪い事がだなぁ……言葉にすると現実になりそうだからマジで言わないで下さい」


 あ、こりゃ珍しく結構酔ってるな。

 草加君が変なテンションになり始めている。

 対する三上さんもケラケラ笑ってはいるが、割とお酒が回っているのだろう。

 二人とも飲むペースが速い。

 草加君に関しては向こうのペースに乗せられてグビグビいってる感が凄いが、普段の宅飲み以上には飲んでいる様に見える。

 そして私も同じ様に飲んではいるが……実は結構お酒に強かったりする。

 よく居る顔は赤くなるが、潰れるのは遅いタイプなのだ。

 特に今日は酔ってますアピールも必要ない上、草加君の実家に行った時の様に数時間に渡って飲んでいる訳でもないので割とまだまだ余裕がある。

 とまあそんな感じで普通に飲み進めている訳だが……この二人大丈夫か?

 ちょっと0時まで二人が起きてるか不安になってきたんだが。


 なんて色んな意味で心配しながら、二人からは見えない位置でスマホをいじる。

 さっきメールを送ったのだが、意外にも早く返事が来て先生びっくりだよ。


 『”雑魚”が集まっているだけ、という可能性もありますが下手すると”地縛霊”ってやつかもしれませんね。 そういうヤツらは、その場に留まっているだけで力を増したりしますから注意してください。 てんつるコンビからも報告が上がっていないので、”上位種”って事はないと思いますが……十分に警戒してください。 今からでも向かいますか? 全員動けますよ』


 もう夜の11時を過ぎていると言うのに、皆元気だな。

 っていうか心配してくれてるのに酒盛りしててごめん、なんか悲しくなってきた。


 『ありがとう、夜遅くにごめんね? 今回はこっちの都合だし、今日は私達だけで様子を見る事にします。 草加君も居るし、車屋の子も私も最悪の事態にはならないと思う。 もし危なそうだったら、明日皆にお願いするかもしれない。 連絡しておいてアレだけど、心配しないでゆっくり休んでね』


 そう返事を返して、失敗したかな……なんて反省する。

 こういう内容を”彼女達”に相談すれば、気にするなという方が無理であろう。

 今しがた送信したメールの宛名を見て、もう一度ため息をつく。

 それこそ彼女には、もう”異能”が無いというのに。

 どうしても、こういう時に相談するなら真っ先に彼女を思い浮かべてしまう。

 駄目だな、数か月前の”あの時”だって偉そうな事を言いながら、私は何も出来なかったというのに。

 これじゃ本当に情けない先生の出来上がりだ。

 もう少しちゃんとする為にも、今日はこの部屋の”怪異”について情報収集しないと。

 なんて、改めて気を引き締めて視線を戻すと。


 「おい、なんでこうなったし」


 机に突っ伏してスヤスヤと眠る二人のだらしない姿が広がっていた。


 ————


 目を離した数秒間だけで、どうしてこうなるんだよ。

 二人の幸せそうな寝顔を見て居ると、思わず引っ叩きたくなってくる。

 だがしかし、そんな事をした所で二人は起きてくれないだろう。

 随分と飲んでたもんね、仕方ないね。

 諦めて三上さんはソファーへ、草加君は重くて動かなかったのでそのまま横にして毛布を掛けた。

 ある程度予想していたのか、三上さんが色々用意していてくれたから何とかなったが……いやまて、これ私一人で0時待つの? 嘘でしょ?

 対怪異殲滅兵器が、アルコールに負けて使い物にならないんだが?

 私だけで除霊できるとか思って、草加君の毛布とか色々用意した訳じゃないよね? むしろ幽霊信じてないです系の草加君に見せない為に酔い潰したとか言わないよね?

 だったら三上さんは起きてようよ、深読みしすぎかもしれないけど起きてようよ。

 私何にも出来ない上に、今さっき強力な助っ人断っちゃったんだけど。


 「こりゃ、ちょっと不味いかも。 改めて黒家さんに連絡……」


 ——カツンッ!


 廊下の向こうから、何かを叩いた様な音が聞えた。

 二人は間違いなくここに居るし、三上さんは一人暮らしだ。

 他に人なんている訳ない。


 「ちょっと待ってよ……私だけで対応しろとか、冗談キツイんですけど」


 その間もカツンッカツンッと、どこからともなく音が聞えてくる。

 ある時は浴室から、その次はトイレから。

 そして終いには天井から子供が走り回る音と、楽しそうな笑い声が聞えてくる。

 ゾワッとするような寒気を覚えながら、震える手でスマホを確認すると、そこに0時を告げる時計が表示されていた。

 不味い、不味い不味い。

 そもそも”雑魚”を遠ざける程度の力しか無い”巫女の血”。

 私が居るだけで、いわゆる”お守り”みたいな効果はあるらしいが……結局は”雑魚”にしか効果が無い。

 それ以上を望むなら、前回の様に私の血を相手に摂取させるのだとか。

 試したことが無いので、血に触れさせれば祓えるとは言い切れないらしい。

 今の所部長さんから聞いてた内容はこのくらいだろうか……えっと、つまり?


 「この部屋に居るのは”雑魚”以上、”上位種”未満。 ってことは……”なりかけ?”」


 まるで返事をするみたいに、今度はクローゼットの中からドンドンドンッ! と過激なノックが聞えた。

 思わずビクッと身を潜めてしまった私を、誰が責められよう。

 だって見えないのだ、急にそこら中から音がするんだ。

 めっちゃ怖い、何コレめっちゃ怖い。


 「ちょ、ちょっと二人とも起きて! 起きてったら!」


 揺らしても引っ叩いても草加君は起きないし、三上さんも同じ様な状態だ。

 いや、本当にどうすればええねん。


 ——ネェ


 「え?」


 今、誰かの声が聞えた気がする。

 多分小さい子、男の子か女の子か、判断できなかったのは何故だろうか。

 上手く聞き取れなかった、というのは違う気がする。

 声そのモノが”歪んでいた”というか、どちらにも聞えたのだ。

 まるでノイズまみれのラジオから、複数の子達が同時に喋ったみたいに。


 ——ミエテルノ?


 すみません、これっぽっちも見えません。

 早くも泣きそうになりながら、単独での幽霊探索が余儀なくされた瞬間であった。


 後書きに何か書きたい。

 しかし、何も思いつかなかった様だ。

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