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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
番外編・後日談

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若気の至り 6


 教室に飛び込んだ矢先、ついこの前見た”烏天狗”の呪いの劣化版みたいなのが蠢いていた。

 キモかったのでとりあえず蹴っ飛ばしみれば案外脆く、二つに割れて教室の端まで吹っ飛んでいった。

 しかし困った、三月さんの言っていた3人の内1人は意識がしっかりしていてガッツリこの事態を目撃されている訳だし、しかも焦るばかりに教室の扉を吹っ飛ばしてしまった。

 どうしよう、いろんな意味でどう説明しよう。

 ついさっき先生達に怒られたばかりだと言うのに、もうやらかしてしまった。

 なんて事を本気で悩んで居ると、背後から叫び声が上がる。


 「黒家君! 来てる、来てるって! ほらまた黒いの来てる!」


 「ん? あ、はい。 そうでしたね」


 目の間に迫った黒い塊に蹴りを叩き込んでから、寝ている二人を担いで環さんの隣まで運ぶ。

 守る存在があるのなら一か所に居てくれた方が守りやすい。

 ”烏天狗”とやりあった時、部員の配置の上手さを今更思い知ることになった。

 姉さんはこういう状況で全ての人に意識を向け、常に保険を作りながら全体を動かしているのか。

 目の前に見えた事をその場その場で対処している僕とは大違いだ。


 「黒家君生きてますか!?」


 一足遅れて、三月さんが息を切らしながら教室に飛び込んできた。

 しまった、三月さんが付いて来てしまう事も想定しておくべきだった。

 新しい獲物が来たとばかりに彼女に向かって伸びていく”黒い霧”に右ストレートを叩き込んでから、三月さんを抱え環さんの元へ戻る。


 「すみません、ちょっとここで皆さんと待っていてください」


 「えっと……黒家君、今あいつ等殴ってませんでした……?」


 床に降ろすと同時に信じられないモノを見る目で見られてしまった。

 多分僕と姉さんを救ってくれた時の先生は、こんな気持ちだったのだろう。


 「安心してください、慣れてますので」


 「もう色々意味わからないんだけど……」


 二人からそれぞれお言葉を貰った後に、僕は”怪異”に向き直った。

 教室の中央に置かれた机、その上に置かれた何かの板。

 今では真っ黒に染まってどういうモノだったのか分からないが、あまりにも”集まり過ぎ”ている。

 『上位種』でも『なりかけ』でも無さそうだというのに、環さんにも見えているくらいに密度が濃い。

 『雑魚』の集合体だという事は分かるが、普通はここまで至る事は無いだろう。

 そしてもしも自然に発生したものなら、”八咫烏”が前兆を見逃すとは思えない。

 だとすればこれは、多分降霊術の類。

 遊び半分で無理矢理引き寄せられた”怪異”が暴れているだけなのだろう。

 ならば……


 「媒体を壊して『雑魚』を散らせば終る!」


 先人の知識とはとても役に立つ。

 ありがとう姉さん、とても参考になります。

 ダンッ! と大きな音を立てながら踏み込むと同時に、教室の中央に向かって全力疾走する。

 させるものかとばかりに”黒い霧”が迫るが、こんなもの”烏天狗”に比べれば屁でもない。

 構わず霧の中を駆け抜けると、多少の衝撃を身体に感じながら集合体をぶち抜いた。

 抜けた! と思った瞬間、背後から悲鳴が上がる。


 「なっ!?」


 思わず振り返れば、ドデカイ穴の開いたようなミミズが彼女達に迫っていた。

 あれだけ痛め付ければ、確実にこっちにヘイトが向くと過信していたのが仇になった。

 どうしてこう、詰めが甘いんだ僕は!


 「二人とも伏せて!」


 声を掛けると同時に向かってきた方向とは反対側に飛び出し、身体を捻りながら”黒い霧”の集合体に再び拳を叩き込む。

 幸い皆に被害が及ぶこと無く霧散していったが、その霧は再び教室の中央へと集まると蛇の様なミミズの様な形を取り戻した。


 「きりがないな……」


 とはいえ事態を投げ出す訳にもいかず、どうにか対処するしかない訳だが。

 さて、どうする?

 あの板を破壊するにしても、僕が離れている間”アレ”は三月さんや環さんを狙ってくる。

 夏美さんみたいに恐ろしく早く動けるなら、一瞬で片が付く相手なんだろうけど……


 「黒家君、その……こんな状況でも、私のことを信じてくれますか?」


 背後にいる三月さんが、ふと声を上げた。

 振り返ってみれば、普段目を覆う程に垂れ下がっていた前髪を掻き分けた彼女が、鋭い眼差しをこちらに向けていた。


 「皆が生き残れる”未来”が見えるなら、僕は信じるよ。 それ以外なら絶対に覆すけど」


 「なら、信じてください。 私の指示通り動いてくれれば上手く行きます、多分……」


 正直そこは言い切ってほしかったが、まぁ仕方ないだろう。

 とはいえ、”異能持ち”が増えたのだ。

 これほど心強い事は無い。


 「このまま動かなければ正面から来ます、10秒後。 真正面から止める事が出来れば……後方までは絶対に届きません。 その3秒後右側から来ます、注意してください」


 彼女の事を信じていない訳ではないが、そこまで分かるモノなのかと思わず驚愕してしまう。

 もしも彼女の能力が本物で、その”未来予知”が寸分違わぬものだとすれば……


 「これって……夏美さんや先生と組んだら最強なんじゃ……」


 「今!」


 「え、あ、はい!」


 彼女の合図と同時に迫ってくる黒い霧を殴り飛ばし、視線を右に向ける。

 たしか三秒後、彼女の言う通りならここに……


 「ふんっ!」


 居た、マジで居た。

 正面は囮だと言わんばかりに、黒いミミズの様な何かがこちらに牙を向いていた。

 そんな初見殺しな相手に対して、僕は今まさに蹴りを叩き込むことに成功している。

 間違いない、彼女は”本物”だ。


 「そのまま本体まで走って! 一回防ぐ必要があるけど、他は無視していい!」

 

 その声を聞いた瞬間に教室の中心へと走り出し、”黒く染まった板”へと向かう。

 一度防ぐ必要があると彼女は言ったが、どう見ても色んな角度から細い蛇の様なモノが迫ってきている。

 これ本当に大丈夫か……? いや信じると決めたのだ、今はとにかく全力疾走するほかあるまい。


 「今! 右斜め上!」


 三月さんの指示通りの場所に、拳を構えながら視線を向ける。

 そこには他の”影”に隠れた一匹がすぐ近くまで迫ってきていた。


 「ぜぇい!」


 拳でその一匹を粉砕し再び”板”に視線を戻した所で、最悪の事態が訪れる。

 背後から、悲鳴が上がったのだ。

 声からするに環さんだろう、僕を避けた”カレら”がどこに向かったのか。

 少し考えれば想像が出来る事態だったはずだ、だというのに。

 だからこそ思わず彼女達の元へ戻ろうとした矢先、その声は聞えた。


 「構わないで! 黒家君の方が早いです!」


 その言葉を、頭より身体が早く理解した。

 彼女達に向かう”黒い霧”を無視し、一直線に元凶へと走り抜けた。

 普段だったら絶対出来ない判断だろう。

 周りを危険に晒す様な真似をしながら、相手を潰す。

 姉さんならそういう作戦だって実行できる気がする。

 でも、僕には無理だ。

 何より頭が追い付かない。

 もし僕が失敗したら皆はどうなる? 危ない橋を渡るより、安全策を考えたほうが良いのでは?

 そんな事ばかり考えて、尻込みしてまうのがいつだって僕だった。

 だというのに彼女は、そんなウジウジした考えを持つ前に指示を出した。

 ”必ず上手くいく”、そんな自信が持てるほど力強い彼女の言葉は、思わず動いてしまう程の何かがあった。

 だからこそ振り返らずに走り抜け、僕は拳を振り上げた。


 「砕けろぉぉぉ!」


 振り下ろした拳は”黒い板”を真っ二つに砕き、ソレが置いてあった机までも粉砕した。

 ズバコンッ! みたいな普段聞かない音が教室内に響き渡ったかと思うと、周囲の霧が晴れていく。

 今までは深夜の様に暗かった筈の室内が、窓ガラスから差し込む夕日で嘘みたいに朱く染まった。


 「皆さん大丈夫ですか!?」


 勢いよく振り返れば、ヘナヘナと腰を抜かしたかの様に倒れ込む環さんと、泣き顔を無理矢理引き締めているような三月さんがブイサインを送ってきた。

 なんとか、間に合った様だ。


 「結構ギリギリだったけど……大丈夫です」


 「なら、よかったです……」


 はぁ、と大きなため息を一つ溢しながら床に直接腰を下ろした。

 コレが今の僕の実力、今できる全て。

 ”抗う力”を手に入れた気になっていたが、今まではどれ程周りに助けられていたのか身を持って知ることになった。

 まず間違いなく僕一人だったら守り切れなかっただろう。

 三月さんの”未来予知”があったからこそ、どうにか乗り切れたに過ぎないのだ。

 僕はまだまだ弱い、そしてなにより守る術を知らなすぎる。


 「やっぱり、先輩達は皆強いなぁ……」


 そんな呟きが、静かな教室内に響き渡った。


 ————


 「椿先生!」


 ホームルームも終わり、一度職員室に戻ろうとしていた私を呼び止める声が聞えた。

 あぁなんか、前にもこんな事あったなぁなんて思いながら振り返れば、そこには二人の女子生徒が。

 両方とも今年から私が受け持つ事が決まったクラスの生徒で、今日顔を合わせたばかりだ。

 もう名前を覚えてくれたのかと思うと、ちょっとだけ嬉しくなってしまうのは仕方ない事だろう。

 そんな二人がやけに思いつめた……というか切羽詰まった表情で話しかけて来た。

 どうしたんだろうか?


 「どうしたの二人とも、そんなに慌てて」


 いつも通りの笑顔で返事を返すが、二人の様子は変わらない。

 入学初日から何をそんなに慌てる事があるのだろうか?


 「この学校にオカルト研究部ってありますか!? ありますよね!? 場所を教えてください!」


 確か環さん、だったかな?

 やけにグイグイと身を乗り出しながら、凄い勢いで迫ってきた。

 その後ろでもう一人、三月さん……っていったよね? 彼女が必死で頷いている。

 何と言うか、印象の違うペアだなぁなんて思いながら、思わず二人の顔を見比べてしまった。

 なんというか、雰囲気は違うけどいつかの二人みたいだ。

 そう思おうと、思わず頬が緩んでしまう。


 「あるよ、オカルト研究部。 入部希望?」


 「「 はい! 」」


 今度は元気よく二人から返事が返ってくる。

 なんともまぁ嬉しい限りだ、コレが顧問の喜びというモノなんだろうか?

 まぁ私は副顧問な訳だが。

 とはいえ、これだけは言っておかなければいけないだろう。

 なんたってあの部活は、とてもじゃないが”普通”ではないのだから。


 「でもオカ研はちょっと変わってるよ? 普通のオカルト好きとかが入部しても、多分長続きしないし正直危ない事だってある。 本当に必要な人だけが入部するような、そんな所なの。 二人はそれでも入りたい? 遊び半分なら、他の部活の方が良いと思うよ?」


 こんな事、教師の言う台詞ではないのだろう。

 身の危険があるのなら即刻廃部にするべきだし、何より彼女達の意思にいちいち釘を刺す行為だって本来は好きではない。

 だとしても、あの場所に居られるのは多分”本当にあそこが必要な子”達だけなのだろうと思えてしまうのだ。

 あの子達の為にも、彼女達の為にも、私のような存在が予防線を張らなければいけない。

 これで気を悪くしたり、思い悩むのであればお引き取り願うのも私の役目だ。

 だというのに。


 「問題ありません。 多分、私も”そっち側”なので……」


 三月さんが俯きながら、確かにそう言った。


 「私は”そういう力”とかないんですけど、ちょっと私情で力になりたい人がいまして……」


 少しだけ恥ずかしそうに、環さんが頬を掻きながら視線を反らした。

 まぁ多分、この調子なら大丈夫だろう。

 うんうんと一人頷いてから、ニカッと”素”の笑顔を浮かべて言い放った。


 「それじゃ一緒に行こうか二人とも、ようこそオカルト研究部へ。 副顧問の椿美希です、今後共よろしくね?」


  そう言ってから二人の生徒を引きつれ、私は今日も部室へと歩きだしたのであった。


 BBAファイナルベントを喰らってから、やっと事態が収拾しました……

 疲れた。


 まぁそんな事はどうでもいいとして、これにて俊君(中学)編は終了です。

 あと二つか三つ書いたら、現オカ研の話に入れるかなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 祝え!また一人、新たなるハーレム野郎の誕生した瞬間である。
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