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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
番外編・後日談

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若気の至り 2


 翌日の放課後、いつも通りホームルームが終るとツンツン頭が迫ってきた。

 暇だなこの人も、周りに取り巻き連れてるんだからどこか遊びにでも行けばいいのに。


 「なぁ黒家、あれからどうなったぁ?」


 今日はちゃんと名前を呼んでくれる日の様だ。

 是非普段からそうして欲しい、コイツは馬鹿なのかといちいち疑わなくて済む。


 「あれからっていうのは、なんの事を言ってるのかな? 具体的に言って貰わないと」


 「環さんの事に決まってんだろぉ?」


 出た、環さん。

 結局誰なんだろう環さん。

 全っ然思い出せない……ごめんよ環さん、薄情な男で。

 でも次からは是非自己紹介してから話しかけて貰いたい、それだったら多分覚えられるから。


 「その環さんというのが誰なのかちょっと分からないので、何ともお答えしにくい所ですが……僕は絶好調ですよ、昨日馬鹿みたいに重い一発を貰って気合が入りましたので」


 「いやお前の調子は聞いてねぇ……ってなに、重い一発って」


 「それはですねぇ、早瀬さんという高校の先輩が——」


 「——黒家君。 あの、文化祭の、その……」


 会話の途中で小さな声が聞こえて来た。

 間違いない、待ちに待った彼女だ。

 休み時間になる度にどこかへ消えてしまうので、結局声を掛けずに放課後になってしまった。

 すぐさま立ち上がり、彼女の方へ向き直り、そして頭を下げた。


 「三月さん、数日間仕事任せっきりでごめん。 遅れを取り戻す意味でも頑張るから、何でも言ってくれると嬉しい。 ある程度の事なら熟せる自信はある、どんな事でもいって貰えるとありがたいです」


 顔を上げると、真っ赤な顔をした三月さんが立っていた。

 良かった、今回は逃げられなかった。

 もし放課後まで逃げられたら、パルクールかましてでも追いかけようかと思っていた所だ。


 「えっと……大丈夫そうなら、良かった、です。 私予定皆に発表するのとか苦手で、どうすればいいか、迷ってたので……」


 消え入りそうな声で呟く彼女に対して、周囲に集まったツンツン男子達が大声を上げて笑い始めた。

 その声に合わせて三月さんは更に顔を赤らめ、今すぐにでも逃げ出しそうな程震え始める。

 本当に彼等は何が面白いんだろう? よく分からないけど不快なのは確かだ。


 「ご、ごめんなさい……やっぱり私……」


 ダンッ! と剣道の踏み込みの様に、片脚を使って周囲の声より大きい音を立てた。

 ヒッと三月さんからも声が上がった気がしたが、今は仕方ない。

 後で謝る事にしよう。


 「すみません、今僕は三月さんと喋っているので少し静かにしてもらえますか? ちょっと鬱陶しいですよ?」


 ニコリと周りに笑顔を振り撒いてから、目の前の彼女の手を取る。

 教室ではいつもこんな調子なのだ、場所を移した方が仕事が捗るだろう。

 やけに静かな彼等を置き去りにして、僕は歩き始めた。


 「く、黒家君。 どこいくの?」


 不安そうにする三月さんに笑顔向けながら、少しだけ歩調を落とす。


 「図書室にでも行きましょうか。 教室より静かですし、話もしやすいでしょう?」


 そう言って目的の場所まで手を引きながら歩く。

 やけに周りの生徒から視線を集めてしまっているが、やはり男女で手を繋ぐという行為が目立ってしまっているんだろうか?

 恋仲だとか噂されてしまうと、また彼女に迷惑を掛けてしまうだろうか?

 まぁ下らない噂を流す連中がいれば、僕が説明して回ればいいだろう。


 「こ、こんな事したら……明日から黒家君が色々言われちゃうよ!?」


 「大丈夫ですそれくらい。 人を数メートル蹴り飛ばす先輩より、全然怖くありませんから。 それにここで逃げ出した方が、僕としては恥です。 なので、このまま行きましょう」


 そう言いながらぐいぐい手を引っ張っていく訳だが、途中でふと気づいた。

 これ、相手が嫌がっていた場合かなり悪質だよな。

 周囲の噂が聞こえてくる範囲で行われていれば、僕が説明する事は出来る。

 だが彼女の事を影で何かを言っている様な場合なんかは、僕ではどうする事もできないだろう。

 それを考慮すれば、突っ走るべきではなかったか……


 「すみません三月さん、むしろ貴女に迷惑が掛かってしまうかもしれませんね。 手、放した方がいいですか?」


 今更過ぎるだろうと自分に突っこみを入れつつも、困った顔で振り返った。

 だが彼女は赤い顔のままそっぽを向き、いつも通り小声でポツリと呟くだけだった。


 「黒家君が平気なら、別にいいです……このままで」


 「大丈夫なら良かった……のかな? とりあえず行きましょうか」


 そう言ってから僕たちは、やけに注目を集めながら図書室に向かったのであった。


 ————


 「——なので、日程的にこれくらい余裕を持って準備しておかないと。 でも今の余裕を持ったプランだと全員が準備に参加してくれる事が前提なので、効率は半減……むしろ三割くらいの速度になってもおかしくないかと」


 「いや、肉体労働なら僕が大体できるし、部活とかそれ以外の重要な用事がある人達以外

には可能な限り協力してもらおう。 それなら今の計画のまま少し遅れる位で調整できるんじゃないかな? 明日のホームルームで発表しよう」


 「でも……協力してくれるかな?」


 「させるんだよ、物理で」


 「物理で!?」


 そんな感じで会議は順調に進んでいった。

 元々彼女が随分と細かい内容まで指示書を作ってくれていた為、後は人員をどう動かすかという段取りだけだったらしい。

 よく数日間でここまで練ったモノだと思うと同時に、彼女一人に任せてしまった事がとんでもなく申し訳なく感じる。

 だからこそ、これから挽回しよう。

 などと考えていると、ふいに目の前に座る彼女が笑い始めた。

 普段見た事の無い程清々しい笑顔で。


 「黒家君って、もっと情けないのかと思ってた」


 「酷いな……これでも鍛えてるんだよ?」


 「それは見て分かるけど、なんて言うのかな。 普段影山君とかに何言われても、絶対言い返さないじゃない? だから結構気の弱い人なのかなぁって」


 影山君って誰だろう。

 困った、ここに来て友好関係の狭さが露見してしまった。


 「えっと、影山君が誰か分からないけど。 基本的に相手するのが面倒……は失礼だな、時間の無駄……ってそれも変わらないか。 とにかく、そういう人達の会話はさっさと切り上げて、オカ研……って言っても分からないよね……ええっと、僕の尊敬する人達と会話する為の時間に割いてるというか」


 僕は一体何を言っているんだろう。

 少なくとも彼女に語るべき内容ではないだろうに、慣れない同級生女子との会話で、色々と口滑らせてしまっている気がする。


 「えぇっと……? 波風立てないで終わらせて、その……オカ研? の人達との時間を大事にしてるのは分かったけど。 影山君が分からないって冗談だよね? ウチのクラス男子リーダーみたいな雰囲気あるし」


 「へー、そんな人いるんですね?」


 「さっきも話してたじゃない、黒家君にはやけに執着してるよね?」


 「え?」


 「え?」


 やけにねちっこい性格のツンツン頭男子の名前が判明した。

 彼は影山君と言うらしい。

 明日からはちゃんと名前で呼んであげよう……そう心に決めた所で、今日の会議は終了した。


 ————


 「えーそれじゃ、各委員何か報告とかあるかぁ?」


 何て気の無い担任の声と共に、ホームルームが進んでいく。

 普段なら「何も無いなーそれじゃ終わりにするぞー」なんて声が響く所だが、今日は違う。

 三月さんが真っ赤な顔で真っすぐ右手を伸ばしているのだ。

 頑張れ三月さん、僕も共にゆくぞ。


 「あーえー、三月は文化祭実行委員だっけ? はぁ……んじゃ皆ぁ、文化祭の事で何かお知らせがあるようだからちゃんと聞くようにー」


 適当な上、かったるそうな担任の声が響く。

 コイツはホントに教職免許を持っているのだろうか?

 ”先生”だったら絶対こんな態度はとらないだろう。

 僕が良く知っている二人の教師なら、生徒に対してあんな視線は向けない。

 あの二人が生徒の事を邪険にする姿なんてまるで想像出来ない。

 将来どんな仕事に就きたい? と聞かれればまずあの二人が思い浮かぶ程、僕の中で”教師”という職業は素晴らしいモノだと感じている。

 だというのにコイツはなんだ? 教育者という言葉の意味をもう一度考え直した方がいいのではないか?

 若干イライラしながら三月さんと一緒に教卓に上がれば、ニヤニヤとした視線や鬱陶しそうな感情が僕らに集中する。

 とてもじゃないがいい気分ではない、こいつら絶対聞く気無いだろう。


 「えっと、文化祭についてですが……」


 話し始めた三月さんの言葉に耳を貸しているのは、果たしてどれくらいいるだろうか?

 誰もが好き勝手に喋り、スマホをいじり、とあるものは別の意味で僕たちを熱心に眺めていた。

 そんなため息が零れそうになる中、一人の生徒が手を上げた。


 「はいはーい。 そっちの話もいいんだけどさ、お二人の仲は今どんな感じですかー? ちょっとそっちが気になっちゃってー」


 なんだっけ、何とか山君。

 その彼の発言に合わせて、クラス中が湧き上がる。

 笑い声に包まれ、どいつもこいつも馬鹿笑いを浮かべる。

 そして担任の教師までもが、小さな笑いを堪えながら座っているくらいだ。

 じゃぁ、もういいか。

 僕は一人、教卓から降りて歩き始めた。

 何とか山君の元に向かって。


 「な、なんだよ黒家。 なんか文句あるのか?」


 目の前まで歩いて来た僕に対して、何とか山君は後ずさりながら声を上げた。

 どうした、さっきと同じ様に威勢よく吠えて見せろ。


 「”先生”は言っていた」


 「は?」


 「先に暴力を振るえば犯罪になるが、”デコピン”は暴力じゃないって」


 「お前何言って——」


 ズパンッ! という音を立てながら、何とか山君は後方へ吹っ飛んだ。

 おや、白目をむいてピクピクしている。

 なんだ、僕の姉より耐久度がないのか。

 男として終わってるな。


 「く、黒家!? なにをした!」


 慌てた様子で立ち上がった担任に対して、満面の笑みを返しながら教卓へと歩み寄った。


 「デコピンですよ? 見てたでしょう? それ以外の何に見えました? さぁ、会議を続けましょうか。 この文化祭は皆さん協力が大事ですから、まさか理由もなくサボろうとする人は居ないですよね? なんたって学校行事ですから」


 そういって笑いかけると、クラス中が静まり返っていた。

 これでいい、これなら三月さんの声もよく届くだろう。


 「さ、三月さん。 どうぞ」


 「あ、うん……」


 やり切った感じの笑顔でニコニコしながら、僕は彼女の斜め後ろに立って笑顔のままクラスメイトを見つめていたのであった。


 「く、黒家……会議が終わった後でいいから、職員室に来なさい……あと誰か影山の事を保健室に連れてってやれ……」


 「えぇ、わかりました。 会議が終わった後なら同行します」


 そうそう、彼は影山君だったか! 今思い出した。


 書いてたらちょっと長くなっちゃいました。

 4話くらいになりそうです。

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