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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
本編

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反撃 決着

ちょっと色々忙しすぎてお休み頂きました。 申し訳ない。


 見えん、マジで何も見えん。

 また煙幕か? なんて思ったわけだが、妙に風が強い。

 まるで竜巻の中心にでも立っているみたいだ。

 なにこれ凄い、自然現象と煙幕の合わせ技?

 件の忍者先輩だって、ここまでは出来ないかもしれない。


 「なんて、感心してる場合じゃないんだよなぁ……」


 相手は急にワイヤーアクションなんぞかます変態コスプレイヤーだ。

 儂は風の魔法が使えるんじゃぁーなんて言いながら、そこら中にダイ〇ン扇風機を設置して遠隔操作していてもおかしくない。

 だとすればそれを一つずつ潰していけば……


 『さっきまでの威勢はどうした?』


 そんな言葉が聞こえると同時に、後頭部を固い物で殴られた。

 わりと痛い。

 こういう一方的な状況でちくちく攻撃するのは止めて頂きたい。

 ゲームでもそうだが、こういうのはストレスにしかならないのだ。

 煙幕で姿を隠したのなら、ガッと来いガッと。

 一瞬でもいいから姿を現して、俺をボコスカ殴り倒す覚悟で大ダメージを与えに来い。

 それくらい隙を見せてくれないとこっちが反撃できない。

 これじゃゲームバランス崩壊のクソゲーもいい所だ。


 「くっそが……さっきからチマチマチマチマ突いてきやがって。 それでも男かよチビリ野郎が。 っていうか羽の無い扇風機も結構音がするのか……何台使ってるかは知らんが、購入は考え直すか……?」


 さっきから風の音が凄くて、相手の立てる音が掴めないのだ。

 おかしいな、電気屋で見せてもらった時はかなり静かだったのに。

 いや、ここまでの煙幕を自在に操る程の風力だ。

 特別性だったり、金に物を言わせてとんでもない数を容易しているのかもしれない。

 全く、手のかかる忍術もあったものだ。


 『そろそろ諦めたらどうだ? 貴様もわかっているのだろう? このままでは手も足も出ない事に』


 どこからか変態コスプレイヤーの声が響いた。


 「あ、いや。 手も足も出るんだが、新しい扇風機の購入について考えてた。 っていうか煙幕張って勝ち誇るのは結構ヤバイぞ? 絶対死亡フラグだからな? 知ってるそういうの?」


 『……小僧、馬鹿にしておるのか?』


 どこか苛立たし気に聞こえる声。

 しまった、年配の方にフラグだなんだという言葉は使うべきではなかったか?

 前に教頭に同じ様な事を言って怒らせた経験がある。

 たしか「正しい日本語を使え、流行りに流されるのは教師の自覚が足りない」だったか?

 だとすれば、もっと分かりやすく伝えるべきだろう。


 「えっとだな、フラグっていうのは……あぁえっと、まぁ要するに……そうなるよぉ? みたいな? 前兆みたいな、そんな感じだ。 これで分かった?」


 『貴様はアレか、常に人を馬鹿にしていないと死ぬ病か何かなのか?』


 何とも心外な答えが返ってきた。

 こっちは親切に解説してやったというのに、とんだ老害ジジィだ。

 こういうタイプは何を言っても怒るのだ、話すだけ無駄だろう。


 『もう良い、相手をするだけ無駄な様だ』


 ほらやっぱり、こっちの話なんてろくに聞かずにキレ始めた。

 などと思っている内に、今までは周りを囲んでいた煙幕が距離を縮め、俺の身体を飲み込んだ。

 うわっ、なにこれくせぇ。


 『そのまま腐り果てろ、貴様にはお似合いじゃ』


 これはアレだろうか、鼻が腐る的な、そういうシャレなのだろうか。

 確かにこんな物を嗅ぎ続けていたら、鼻が馬鹿になる。

 強烈な匂いに顔を顰めながら、思わずむせ込んでしまった。


 『ほれ、もう肺も犯されたか。 数分と持たずに、お前の未来は消え去るじゃろうて』


 確かに肺を犯された。

 多分煙幕を抜けても、息を吐けばしばらくはこの匂いが続くだろう。

 最悪だ、マジで最悪だ。

 しかも御老体曰く、未来が消える位匂いの残る代物らしい。

 つまりはいつまでもこの匂いが続くわけだ。

 なんか腐ったような、カビた様な匂い。

 そんな不快な思いしかしないこの匂いが、この先もずっと続くと、こいつは言っているのだ。

 マジかよ、ある意味呪いじゃん。

 俺は今後どんなに旨い飯を食おうが、一週間以上放置された三角コーナーを目の前に置かれた様な状態で飯を食わなければいけないのか?

 絶対に嫌だ、御免被る。

 ご飯は、ご飯だけは美味しく頂きたいのだ。


 「くそったれが! ふざけんな!」


 思わず腕を振り回して相手を探すが、どこに拳を振るおうが空を切る感触だけが虚しく残る。


 『ふはははは! そうだ、それでいい! 苦しめ! もっと苦しめ!』


 好き勝手言いやがって!

 てめぇはコスプレハーレムを築いているのかもしれんが、俺はまだ独身なんだ。

 今後結婚して嫁さんの初料理を前に、この三角コーナー臭がしてみろ。

 絶対においしく頂けないだろうが! そら苦しむわ! ふざけんなボケェ!

 悪臭を我慢して毎日嫁さんの料理食ってたら、嫁さんに逃げられるだろうが!


 「てめぇコラ! 絶対ぶっ殺してやる! 俺の嫁さんを返せ!」


 『ん? お前は何を言っている?』


 「うっせぇ! 死ね!」


 『なにか……会話が食い違っている気がするんじゃが……』


 何やら困惑気味な声が響いて来たかと思うと、再び何かで殴られた衝撃が背中に走る。

 だからさ、地味に痛いのよ。

 なんでこう中途半端な事するかな? 中年をチクチク虐めてそんなに楽しいかね?

 ちょっとその性癖はどうかと思うんだ。


 『もう立っているのも限界であろう? 大人しく楽になるがいい』


 こいつは馬鹿なんだろうか? 何言ってんだ?

 もはや、我が人生に一辺のアレ無し! みたいなポーズを取ってやろうか思った瞬間、正面から誰かが抱き着いて来た。

 相手しているジジィなら即座に返品する為にぶん投げていた所だが、どうやら違うらしい。

 やけに柔らかい上、どことなくフローラルな香り。

 間違いない、こいつはおなごや。

 しかし誰だ。


 「先生、私の指示通りに動いて下さい」


 もはや耳にタコが出来る程聞いたその声は、相変らず命令口調でボソボソと話しかけてきた。


 「先生から見て3時の方向、3・2・1……」


 「おらぁ!」


 彼女の指示通りに足を突き出せば、鈍い衝撃音が響く。


 『ば、馬鹿な……』


 そんな声を残して、”ソイツ”は生ゴミ臭のする煙幕の中を再び移動する。

 ちょっと感心してしまう、お前の鼻は一体どうなっているんだと。


 「次、先生の真後ろです。 今すぐ」


 「あいよっ!」


 くっ付いているその小さな身体を抱きしめるように腕を回し、彼女ごと身体を振り回して蹴りを叩き込んだ。

 その先では鈍い感触と、苦しそうな悲鳴が聞こえた。

 なんとまぁ、良くわかるもんだ。

 何が起きてんだこりゃ。

 色々と思考放棄してるのは自覚しているが、指示通りに動けば”当たる”のだ。

 こりゃ凄い、”こいつ”実はマジで霊能力とか異能力とかあるんじゃねぇの? なんて、ちょっとだけ思ってしまった。


 「最後です、真上。 右の拳、布を巻いている拳で、思いっきり殴ってください」


 「了解了解。 ”部長”様の命令なら、聞かない訳にもいかんしな」


 「無駄口はいいです。 来ますよ? 3・2・1……」


 カウントダウンに合わせて、思いっきり右の拳を上空に振り上げた。


 「随分とまぁ、綺麗に入ったもんだ」


 錫杖を構えた老人の顔面に、自身の拳が突き刺さっていた。

 その顔に張り付いていた仮面は砕け、落下してきた勢いと逆方向に力が働く拳の勢いで妙な回転をしながら老人は地面に堕ちた。

 普通なら死ぬレベルだが……やけに頑丈なこの御老体だ。

 多分大丈夫だろう。

 普通は……死ぬレベルだが。

 大丈夫だよね?


 変態が墜落すると同時に、周りの煙幕も霧散していく。

 どうやらリモコンか何か使って、遠隔操作で風を起こしていたらしい。

 そりゃそうだ、狙った場所に煙幕を集めるなんてオートでどうにか出来る訳が無い。

 もうあんな必殺技は二度と食らいたくない。

 鼻がもげてしまう。


 「おう、黒家。 おつかれさん」


 胸に抱いた少女に声を掛ける。

 いつか俺のベッドに匂いを付けて、寝不足にさせてくれたその香りがすぐ近くから放っている。

 なんでこう、香水もつけてない癖に……あぁいや、止めよう。

 これ以上は変質者の仲間入りだ。

 などと自問自答を繰り返している内に、黒家から返事が帰って来ない事に気づく。


 「おい、黒家? どうした? おい」


 肩をゆすっても、声を掛けても、一向に顔を上げないどころか返事もしない。

 俺の胸に顔面を押し付けたまま、静かに体重を預けている。


 「黒家、いい加減離れ——」


 少しだけ強めに引きはがした瞬間、彼女の体は糸の切れた人形の様に地面に転がった。

 ドシャッという鈍い音が、耳の奥に響く。


 「……は?」


 今の現状に、頭が付いてこない。

 俺の足元に転がった少女、浅く弱々しい呼吸。

 そして真っ青な顔と、肌を蝕むように広がっていく黒い痣。

 本当に、何が起きた?


 「巡!」


 すぐさま早瀬が飛び込んできた。

 黒家の体を抱き起こし、泣きながらその名前を呼んでいる。

 どういことだ? さっきまで普通に立っていたじゃないか。

 今の今まで、俺と話していたじゃないか。

 だというのに、なんだこれは?


 『ふ、はははははは! 随分と蝕まれたようじゃなぁ小娘ぇ!』


 近くに転がっている老人が、さも愉快そうに高笑いを浮かべてこちらを見ていた。

 その顔はどこか見覚えがあるような気がしたが、どうしても思い出せない。

 ただ彼の顔を見ていると、この上なく頭に血が上るのを感じる。


 『ほらどうする小僧。 このままではすぐさまその娘が死ぬぞ? お前に何が出来る? ほら、さっきまでの威勢はどこへ行った?』


 ニヤニヤニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、老人は地面に付したまま笑い続ける。

 コイツに言われるまでもなく、黒家の状態は一刻を争うだろう。

 だからこそ、こんな奴放っておけばいい。

 相手にする必要なんかない。

 だというのに、腸が煮えくり返る程の激情が俺を動かした。


 「全員急いで準備しろ! 山を降りるぞ! 黒家弟ぉ! いつまで寝てやがる! ロープ持ってこい!」


 「……草加先生?」


 八つ当たりの様に怒鳴り散らした声に、早瀬が怯えた目を向けてくる。

 わりいな、なんて心の中で謝りながら、目の前で横たわるジジィに向かって歩き出す。


 『草加? 小僧、貴様草加というのか?』


 今まで散々早瀬が俺の名前を呼んでいたというのに、今更何言ってんだコイツ。

 ソイツの質問に答える義理も無いので、無言のまま襟首を掴んで持ち上げた。

 相変わらず気味の悪い笑みを浮かべたその顔が、俺の目の前まで来る。


 『草加、そうかお前草加の人間か! これはいい、儂と同じ血が流れているのならお前にも分かるであろう!? この”力”の素晴らしさが!』


 なんだこいつ、訳の分からない事を言い始めたが。

 もしかして俺の親戚か何かだったりするのか?

 だとしたら、正直嫌すぎる。


 『どうだ? お前もそれだけの”力”があるんだ、試してみたいとは思わんか? 同じ血族の者なら歓迎するぞ? どうじゃ? 全てを手に入れてみたいとは思わんか?』


 あぁ、ダメだコイツ。

 もう話が出来る状態じゃない、脳内がファンタジーだ。

 ベラベラと喋るソイツの口に、さっき早瀬に巻かれたハンカチを叩き込む。

 ふごっ!? みたいなおかしな声を上げたが、もうどうでもいいや。


 「うるせぇよ、ちと黙れや」


 『がっ! ほまえは、ふぉれへもくはかのにんへんは!?』


 「あーうっせぇうっせぇ。 んで、思い出したわ。 ウチのお袋と死んだ婆さんからてめぇに似た写真を見せられて、良く言われてる事があったんだわ」


 『は??』


 呆けた顔のソイツの顔面目掛けて、右腕を構える。

 ゆっくりと後ろに引き、腰を落とし、全身に力を入れた。


 「”見つけたら、絶対にぶっ飛ばせ。 加減なんぞするな、本気の拳を叩きこめ”だったかな」


 『んがぁ!?』


 「いっぺん死んどけドぐされがぁ!」


 黒家弟にだって、ひたすら”手加減”の仕方を教えてきたと言うのに、これじゃ師匠失格だな。

 なんて事を思いながら、ほぼ零距離で本気の拳を相手の顔面に叩き込んだ。

 首の骨が逝ってしまわれたのではないだろうかというほど、とんでもない音を立てながら老人は吹っ飛んだ。

 ゴロゴロと勢いよく転がり、やがて太い木に衝突して動きを止めた。

 どうやら少なくとも意識は刈り取れた様だ。

 もう流石に起き上がってくる様子もない。


 「せ、先生……ロープ、持ってきました……」


 ぜぇぜぇと苦しそうに息を吐く黒家弟が、いつの間にか注文の品を持ってすぐ近くまで来ていた。

 その姿はまさに満身創痍。

 周りを見回してみれば、どいつもこいつも似たような状態だった。

 思わず舌打ちが漏れる。

 もっと早くこの場についていれば、ここまで酷い惨状にはならなかったのかもしれない。

 とはいえ、今更そんな事を後悔していても仕方がないが。

 今やるべきことは、一刻も早く黒家を病院に連れていく事だろう。


 「ジジィは縛って一旦ここに放置する! 天童は椿を運べ! 俊は動けそうならそのまま走るぞ! 無理なら俺が黒家と一緒に担ぐ! 鶴弥は早瀬のフォロー! 荷物なんざ全部捨て置け!」


 動ける全員に指示を出してから、ジジィを縛り上げる。

 山小屋の近くの木に拘束しておけば、もう一度来た時だってすぐ分かるだろう。

 こいつを警察に突き出すのは後でいい、今は生徒達が優先だ。


 「準備OKです!」


 「椿先生、乗り心地悪いだろうけど我慢してね」


 鶴弥と天童の声を聞きながら、黒家の身体を担ぎあげる。

 軽い。

 あまりにも軽いその体重に、不安と恐怖が煽ってくる。

 大丈夫だ、まだ大丈夫。

 息はしてるんだ。

 そう言い聞かせながら、帰り道を睨む……睨む……んだが。


 「ナビゲェェタァァァ!」


 『あぁはいはい……こっちに向かって山を降りてくださいね。 ホラ、あの烏見えますか? あの子について行ってください』


 いつの間に隣に現れた高性能忍者ナビが、一匹の烏を指さした。


 ——クアァッ!


 その姿を見つけた瞬間、俺たちは走り出した。

 とにかく急げ、それだけを心に全員全力疾走で山を駆け下りる。

 頼む、間に合ってくれ。

 柄にもなく神頼みなんぞしながら、斜面を滑り降り、坂を登り。

 俺たちはただただ、走り続けたのだった。


残り2話です。

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