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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
本編

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烏天狗


 視界が晴れていく。

 体に纏わり付いていた黒い霧が霧散し、先程までと同じ山小屋のリビングが瞳に映る。

 なにがあった?


 『はははっ、やはりお前は同じ”モノ”を持っているだけあって効かぬか。 まぁこの程度のお遊びだ、大した期待はしておらんかったが』


 カラカラと可笑しそうに笑う”烏天狗”に眉を顰める。

 何を言ってるんだこのジジィは、私には効かないって……


 「……一体何をしたんですか? 貴方の事ですから、どうせロクな事じゃないんでしょうけど」


 正直話しているだけでも不快指数が急上昇する思いだが、正直に話してくれるのなら聞くほかあるまい。

 今ので全員呪われた、なんて言ったら洒落にならない。


 『さっき言った通りだ。 少しばかり夢でも見て貰おうかと思ってのぉ、ホレ、周りを見てみぃ』


 「はぁ?」


 目の前の”ソイツ”を警戒しながら、視線を横に移せば夏美が倒れていた。

 ついさっきまで話していた筈の彼女が、まるで眠る様に横たわっている。


 「夏美!? 夏美! どうしたんですか!?」


 『新しい”げぇむ”と言ったであろう? その娘だけではない、お前以外の全員が儂の用意した夢で遊んでいる頃だろうよ』


 その言葉に背後を振り返れば、最悪の光景が広がっていた。

 本当に全員だ、全員が横たわっている。

 ”コイツ”の言う事が本当なら、まだ皆死んではいない。

 だが今の状況は、不味いなんてもんじゃない、最悪だ。

 どう考えたって、皆が目覚めるまで大人しく待っているようなジジィじゃない。

 改めて”烏天狗”に向き直り『感覚』を広げていく。

 皆が起きるまでの間、私だけでこの場をどうにかしないと。

 そんな事を思った、その時だった。


 「いったぁ……またお尻打ったし……」


 聞きなれたその人の声が、背後から聞こえた。


 『……なに?』


 ”烏天狗”からしても予想外の事態だったらしい。

 今までの楽し気な表情はなりを潜め、今では信じられないモノを見つめる様に、口元を歪めている。


 「椿……先生? 無事なんですか?」


 振り返れば、一番予想外の人物が頭を押さえながら半身を起していた。


 「え? 無事って何が……え、ちょっと!? 皆どうしたの!? ねぇちょっと!」


 そこで周りの状況に気が付いたらしく、慌てて近くに居た天童さんと鶴弥さんを強く揺さぶっている。

 二人とも当然の様に反応を示さないが、それでも椿先生は声を掛け続けた。


 『椿……? 貴様まさか巫女の血筋か?』


 険しい口調で言い放たれた言葉に、ビクッと身体を震わせた椿先生。

 ”烏天狗”は元々草加の家の人間だという話だ。

 椿の家と繋がりがある以上、知っててもおかしくは無いが……何をそんなに驚いているんだろうか?

 今の所状況を理解できない。


 『ふ、はははは……小娘。 なかなかどうして、お前も頭を使ってくるではないか』


 何言ってるんだろうこのジジィ。

 やけに楽しそうに笑っているが、ボケたのだろうか。


 『儂の様な存在に取って”巫女の血”は毒にも等しい。 何故なんの力もないその女を連れているのかと疑ってはいたが。 この事を知っていて、全滅した時の保険とした訳か。 いやはや何とも、”げぇむ”とはこうでなくては! 知らずに食っていたら共倒れだったという訳だ! そんな娘なら儂の”術”が効かんのも頷ける』


 え、あ、そうなんだ?

 何か一人で色々ネタバレしてくれたお陰で、こちらとしては良く理解できたが。

 詰まる話、椿先生はその身に流れる血筋のお陰で助かったと。

 こっちとしてはそれだけ聞ければ充分だ。

 当然椿先生を喰わせるつもりなんてないんだから。


 「椿先生! 鶴弥さんの音叉を使って音を立て続けてください! 私たちじゃ上手く調整出来ないかもしれませんが、ひたすら叩きながらペグを調整してください! いつかは当たるはずです!」


 「へ? は? 何、コレ鳴らせばいいの?」


 椿先生が音叉を拾った所まで確認して、私は『感覚』を広げた。

 さっきから痺れている腕に伝わる鈍痛、腕程ではないが感覚が無くなり始めている半身に、ゾワリと奇妙な感触が走る。

 まだ大丈夫だ、右側もまだ使える。

 出来れば腐って落ちる前に、症状が左側に移ってほしい所だが……まぁ贅沢は言ってられないだろう。


 「行け!」


 体から溢れるゆらゆらした黒い影が、一瞬だけ刃物の様に尖ると”烏天狗”に向かって走る。

 それを錫杖で弾いた”ソイツ”は、再びニヤッと気味の悪い笑顔を浮かべた。


 『まかさ捨て身という訳ではあるまい? 何を隠している? 次はどんな手で儂を楽しませてくれるんだ?』


 なんもないよ捨て身だよ。

 椿先生が皆を起してくれるのを信じて、ただただ時間稼いでるだけだよバーカ!

 なんて、言える訳が無い。


 「私たちがこの程度で死ぬなんて思わないで下さいね? 貴方の事を隅から隅まで調べ上げてきたんですから、勝つのは私たちです」


 『面白い、面白いぞ小娘! そうでなくては!』


 はったりも結構役に立つみたいだ、今後は是非とも使っていこう。

 だが今現状は”烏天狗”が私達を舐めてかかってるからいいものを、本気にさせてしまったら勝機なんて欠片もないのは明白だ。

 ある程度煽って、私に注目を向けさせておかないと……でもやりすぎたら一瞬で終る。

 なにこれ、ホントに馬鹿みたいな難易度なんですけど。


 『とは言え少人数では遊戯も盛り上がりに欠けるだろう?』


 「は?」


 『少しばかり役者を増やそうか』


 「え、いや」


 結構です、何て言おうとした瞬間、部屋中から黒い霧が立ち上った。

 さっき見たものと同じだ。

 出来れば外れて欲しい予想だったが、霧が晴れた頃には数十体の『上位種』が部屋の中に立ち、私の事を見ていた。

 コレはマジで、本格的に最悪だ。


 「ほんと、余計な事ばかり……」


 思わずボヤいた瞬間、『上位種』の中に”彼女”が居るのが見えてしまった。

 さっきも今もだが、出来ればその姿は見たく無かった。

 だというのに、その彼女を……”浅倉ひかり”を見せびらかす様に、”烏天狗”はその腕に抱いていた。

 光の無い瞳をこちらに向けて、彼女はポツリと言葉を溢す。


 『お願イ……殺シて』


 その言葉を耳にして、再び何かがキレた。


 「あぁぁもう! 何で貴女はそうヒロインっぽい台詞ばかり吐くんですか!」


 思わず彼女に向かって”影”を伸ばした。

 他の『上位種』も”烏天狗”さえ無視して、彼女を消す為だけに”影”を伸ばした。

 確実に罠だ、向こうも私にとって彼女が無視できない存在だと分かった上で手元に置いたのだろう。

 それを証明するように、周りの『上位種』が一斉に襲い掛かってくる。

 ダメだ、私はここで終る。

 私の”影”が彼女に到達する頃には、私は周りの怪異によって命を落とす。

 そう確信した、その時だった。


 ——クァッ。


 間の抜けた軽い声が、室内に響き渡った。


 「へ?」


 君いつから居たの? って言いたくなる状況だった。

 三本足の随分と大きな烏が、私の右肩にとまっていた。


 『馬鹿な……”八咫烏”だと!? 貴様一体どうやってソイツを連れて来た!?』


 叫び声を上げる”烏天狗”を無視して、”八咫烏”が威嚇する様に大きな翼を翼を広げる。

 たったそれだけ。

 それだけでの行為で、周辺の『上位種』達は”八咫烏”を恐れるように引き下がっていく。

 いや、うん、ほんと……何が起きてるんですかね?


 ——クァッ?


 いや、君も不思議そうな顔するんじゃないよ。


 「えっと、お久しぶりです。 あの時といい今回といい、お世話になって……ってあぁ! どこ行くんですか!?」


 せっかくお礼を言おうと思ったのに、肩にとまった”八咫烏”は無情にも飛び去ってしまった。

 後方に倒れている弟に向かって。


 「えーあー、あのですね。 出来れば人の弟の頭に座るの止めてもらっていいですか? 何か突っついてますけど、何してるんですか?」


 ——クァァ!


 「いや、クァーじゃなくて」


 何て緊張感もクソもない会話を繰り広げたその時。

 黒い霧が噴き出したと思もうと、”八咫烏”は数倍の大きさまで膨れ上がった。


 「は?」


 ——グァ!


 意味が分からない、グァ! じゃないよ、ちょっと声低くなってるし。

 大きさから言えば、夏美の”狐”を初めて見た時と同じくらいだろうか?

 とんでもない大きさだ、人なんか一口でペロリといけるそのデカさ。

 そんなモノが弟の頭の上に乗っているのだ。

 いや、潰れる、潰れてしまうから!

 なんて思わず叫んでしまいそうになった瞬間、”八咫烏”は翼を広げた後、弟を包み込むかのようにその翼を閉じた。

 まるでヒナを守る親鳥の様に。


 「まって! それ卵じゃないから! っていうか俊が潰れるから!」


 状況を忘れて叫んでしまった私に、罪はないと思う。

 

 『ふざけるな……神が人を受け入れるだと? そんな物好きは、そこの”狐”だけで充分だと言うのに! まさか”八咫烏”までそんな下らない事をするのか!? 人の身に交わればその力は制限される、人は神を受け入れられる器ではないのだ! 何故それが分からん!?』


 解説ご苦労様です! でも今は黙って!

 弟がなんか温められてるから! しかも頭にデカい鳥が乗っかってるから!


 「俊! 起きなさい! そのままじゃ潰されちゃいますよ!」


 気に入らないが、どっかのジジィと同じく叫んだ私の悲鳴が室内に鳴り響いた。

 次第に”八咫烏”の輪郭がボヤけ、徐々に俊の体へと侵食していく。

 ちょっと待って、見た目的にとてもじゃないが良いモノとは思えないんだけど、大丈夫なのコレ。


 その質問に答える様に、俊の体が痙攣し始める。

 やっぱり駄目なヤツだった!!



 「俊! 俊!? 大丈夫——」


 「——大丈夫だよ、姉さん」


 はい?

 予想外に、返事はすぐに返ってきた。

 スッと何事も無かったように立ち上がる弟、その瞳は赤く染まっていた。

 うん、なんじゃこりゃ。


 「お待たせ、ココからは僕の出番(ステージ)だね」


 もうね、意味が分からないよ。

 私の心の叫びは届く事なく、弟は”烏天狗”に向かってすぐさま駆け出した。


 ”サバイブ”


 とか言ってみたりするけど、前回同様通じる人がどれくらいいるのか。

 俊君覚醒&反撃開始です。

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