魔法使いじゃないから!『レベル5―航空祭に魅せられて―』
これは、七生の災難のお話第五弾!
基、『魔法使いじゃないから!』の五作目です。
このお話だけでも、わかるようにはなっています。
―1―
夏真っ盛りの七月。僕は空を見上げていた。
「きゃー!」
僕の横で歓声が上がる。そう悲鳴ではない。彼女も大空を見上げ、目を輝かせていた。その横には同じ部の二人の姿もある――。
僕は、審七生。今年高校生になったばかりだ。登校初日の帰り道に、銀色に光る水色の髪に瞳の少女ミーラさんと出会った。それが今真横にいる彼女だ。
ミーラさんに僕は、彼女の世界から召喚したモンスター倒しを押し付けられた! ミーラさんが持参した『杖』は、師匠が造ったよりによってレア物だったらしく、僕にしか使えないものだった!
向こうの世界では、その杖を造れば名が轟く程の逸品らしい。でも地球じゃ使わないものだし、杖なんて持って歩けない! と言ったらミーラさんの師匠のパスカルさんは、ペン型にしてくれた――大きなお世話だ!!
杖をレベルUPさせたいパスカルさんは、ミーラさんを杖野ミラと言う名で転校生として送り付け、事もあろうに彼女が作った『モンスターを召喚できちゃう』杖を使わせ、僕にあの杖を使わせようとした。――その企みは残念な事に成功してしまった。
ミーラさんの横にいる二人は同じかそう部の同級生。『かそう部』――この部は、趣味全開! 魔女っ子大好きの大場幸映と同じクラスの二色愛音さんがエンジョイする為に作った部だ!
僕はその部の部長だ。やりたくないがやらされた! そしてミーラさんは、部員になった。
そして今回は、この他にも二人一緒に空を見上げている。ミーラさんの世界から来た客人。一人は師匠のパスカルさん、もう一人は、正真正銘の魔法使いのミントさん。
僕達は今、航空祭を見に来ているのだった! ――
―2―
数日前の放課後部室にて突然大場が呟いた。
「今度の日曜日、航空祭だな。今年も晴れるかな?」
「こうくうさい? って何?」
知らないよねと大場と二色さんはミーラさんを見て頷いた。
ミーラさんは帰国子女という事になっている。その為の反応だ。
「航空機が飛ぶ姿が披露されるお祭りよ! 凄いんだから!」
二色さんも見に行った事があるらしく、ミーラさんに熱弁する。
「こうくうき?」
ミーラさんは可愛く首を傾げる。
「飛行機だよ。ブルーインパレスとか聞いた事ないか?」
ミーラさんは、大場の話に首を横に振る。すると大場と二色さんは顔を見合わせ頷いた。
嫌な予感がする……。
「航空祭に行こうぜ!」
大場がそう言うと、嬉しそうにミーラさんは頷く。それを確認した二色さんはこう言った。
「許可を取りに行くわよ! 七生くん!」
「何で? 必要ないじゃん! それにそうなると先生か大人がいないとダメだと思うけど!」
許可という事は、部活動として行くという事。行きたいなら三人で行けばいいのに!
「大人がいればいいの?」
何故かミーラさんがそう聞いて来た。
「師匠に頼んでみようか?」
「はぁ?」
「お願い出来るの?」
二色さんの問いにミーラさんは頷く。
ちょっと待てよ。僕が持っている杖がレベルアップするまで異世界には帰れないんじゃなかった?
「あのさ。師匠とは連絡取れるの?」
「うん。この世界にも魔法があったって言えば喜んで来るよ。きっと!」
ミーラさんは興奮して言った。
どうやら、魔法のお披露目と受け取ったらしい。あれほどこの世界には魔法使いはいません! と言ったのに!
「今日、帰ったら言うよ!」
「ちょっと待って! もしかして帰ってるの?! 戻れないって話は?!」
僕が驚いて言うと、ミーラさんは、あっという顔つきになる。
僕はまたもや騙されていたらしい! って、よく考えればわかる事だった。彼女は、僕の家に泊まるでもなく、姿を消していた。毎回、異世界に戻っていたんだ!
マ、マヌケすぎる……。
はぁ……。
「じゃ、話は決まったわね! ほら許可をもらいに行くわよ!」
「いや、部活動にする事ないくない?」
僕は抵抗を試みてみた。
「何を言ってますか! 師匠に来て頂くチャンスなのよ!」
「………」
目的が変わっていた。二色さんは航空祭に行きたいから師匠に会いたいに変わっていた。多分、反対しても無駄だろうなぁ……。なんでこうなるんだろう?
「わかったよ。許可がおりたらね」
何の事はない。大人が同行すると言ったら許可はあっけなくおりた。
あぁ、行きたくない。
絶対に何か起きそうな予感がする。師匠まで一緒だなんて!
ミーラさんもそうだが、師匠もこの世界の常識が通用しない。大変な目に遭うのが目に見えている。
こうして、僕以外は皆、航空祭を心待ちにしていた。
―3―
そして当日。朝早くに学校に集合した。
取りあえず、人前に出る前に師匠に色々を釘をさしておかなくてはいけない。
学校に行くともう全員集まっていた。って、一人多い気がする。
大場に二色さん、そしてミーラさんに師匠のパスカルさん。……それと、エメラルドグリーンの短い髪の男。誰だよ!
「お、おはよう……」
「おはよう。遅いわよ!」
時間より早く来たのに二色さんに遅いと言われてしまった。
「あのさ、きっとミーラさんが連れて来た人だと思うけど誰?」
というか、この髪の色にこの格好。ミーラさんの世界の人だよね。初めてミーラさんに会った時と同じ水色ワンピースを着ている。これは、彼女の世界の服のようだから……。
「私はミントと言います。空を飛ぶお祭りがあるというので、ご一緒させて頂いた」
思ったより丁寧な挨拶に僕は驚いた。
まともそうだ。
「えっと。よろしく」
「ミントさんって、魔法使いなんだって!」
「師匠の杖の話も聞いたんだぜ」
二色さんと大場は興奮して僕に話しかけて来た。もう既にテンションが上がっている。
まともだと思ったけど、こっちの常識を教えないと! この二人だと変な事教えそうだ!
「あのパスカルさん、ミントさん、お願いがあります。この世界では男性はそういう格好をしていないんです。僕みたいなズボンと言うのをはくんです! ですので一旦戻って違う……」
「何を言っているのよ! そんな時間あるわけないじゃない!」
二色さんの言う事はごもっともだけど、この格好のまま連れていける訳ないじゃないか!
ミーラさんを学校に送り込んで来るぐらいだから、それぐらいはわかっていると思って服装の事を何も言わなかった僕も悪かったけどさ!
「なるほど。この格好ではまずいんだな?」
頷くとミントさんは、腰に下げていた杖の一つに手を掛けた。彼は、腰に数本の杖を剣のように下げていた。剣のようにと言っても、腰にぐるっとだけどね。
そして杖を手に取った。僕は咄嗟にミントさんの手を掴んでいた!
ミントさんは、凄く驚いた顔をしていた。そりゃそうだろう。突然、がっしっと両手で僕が押さえつけたんだから。
直感が働いた。きっと、この杖にはそれぞれ出来る事が違って、多分今持っている杖は変身が出来る杖。
つまり一振りで、格好を替えられる。着替えてくれるのはありがたい。だがそれを二人の前でやってほしくない。
大場と二色さんは、この前、ミーラさんが作った杖で魔物を出した。魔法を信じているようだけど、手品だと思っている様子。これ以上魔法をみせてバレたら厄介だ。
「お願いだから陰に隠れて魔法使ってくれる? この世界の人は魔法を使えない。これから見に行くのも魔法ではないから。文明が作り出した物だから……」
こそっとミントさんに言ったら顔を真っ赤にして頷いた。そして、僕のお願いを聞いてくれて師匠と二人で陰に隠れ変身してくれました。
……が、二人共制服なんです! ミントさんはまだ僕達より少し上ぐらいの様に見えるからいいとして、パスカルさんもですか!
「あぁ、パスカルさんはせめて無地してもらってもいいですか?」
だからつい、そう言ってしまった。無地なら背広に見えなくもないだろうと。だが、それが間違いだった。頷いたミントさんは、結局二人の前で杖を振りパスカルさんの服装を替えてしまった!
「すげぇ!」
「無地になったわ!」
二人は拍手喝采。それにはミントさんも驚いていた。こんな事で拍手されるとは思っていなかったんだと思う。
「ね。驚かれたでしょ? 取りあえず、僕達のいう事聞いて着いてきて下さい」
ミントさんは、頷いた。
「でさ、ミントさんは何故そっちの格好なの?」
そっちとはスカート。男性はズボンって言ったんだけど。ズボンを知らなかったかな? でもパスカルさんは、ズボンだよね? うん? もしかして……。
「そんなの決まってるじゃない。私と同じ女性だもの」
ミーラさんは、僕が行きあたった答えを言った。女の人だったんだ! 失礼しました。
ミントさんは、赤面していた――。
そして僕達は、何とかJRで南千歳まで行った。凄い人でミーラさん達は驚いていた。
本当は、ここからバスに乗って行くと五分もかからずに開催場所に到着する。但しバスに乗るまでの時間は別だけどね。
ミーラさん達が乗り物に乗るのに慣れていないので、結局歩いて会場まで行くことになった。
「これ見えるのかしら?」
歩きながら二色さんが空を見上げ言った。
残念ながらどんよりとした曇り空だった。しかも風もある。
歩く事三十分程して会場に到着。ミーラさん達は、展示してある航空機の大きさに驚いていた。そして、それが飛ぶと聞くと更に驚く。
魔法で飛ぶわけでもない事ももう一度伝えると目を見開いていた。
僕としては、魔法で飛ぶ方が凄いんだけどね。
結局、午前中はずっと曇ったまま、風邪も凄かった。その天気の中、会場を見て回った。プログラムも変更になったっり中止になったり。
飛んだ航空機も雲の中に直ぐに消えてしまう。それでも見えればミーラさん達は喜んでいた。
だが、午後には晴れた!
メインであるプログラムの最後、ブルーインパレスが華麗に飛行する姿を堪能する事ができた!
ゴゴゴー! と過ぎ去った後に聞こえて来る音にも感動する。
「晴れてよかったわ!」
「おう! やっぱカッコいいよな!」
「凄い音だったね!」
ミーラさんが、ミントさんに言うと彼女は頷く。
「あれは遅いね?」
そして、見上げた空に見えた旅客機を見てミントさんはそう続けた。
比べれば速さってこんなにも違うんだなぁっと、僕も見上げていた。
―4―
帰り道、僕達は歩いて会場を後にする。
「あれが魔法じゃないなんて、信じられないな……」
ミントさんがぼぞっと呟いた。
「あはは。魔法で飛んでいたら逆に凄い驚くけどね……」
僕はそうミントさんに返した。
「飛んでみたい?」
「飛んでみたいよな!」
「勿論! 皆で手を繋いで!」
二色さんは、お約束とばかり言う。制服に手をつないで空を飛ぶ。アニメのようだ……。
いつものごとく、ファンタジーな内容の会話をしつつ僕達は帰った。
そして、二色さんと大場と別れた後、ミントさんがもう少しこの世界を見て行きたいと言うので、僕と二人でその辺をぶらぶらする事にした。
何故かミーラさん達は帰って行った。作戦会議とか聞こえたので、僕に杖を使わせる作戦を考えるんだろうけど……。
「この世界って不思議だね? 魔法がないのに魔法と同じ事が出来ている!」
「そう? 僕達には当たり前の事だから。不思議だとは思うけどちゃんと原理というかそういうのがあるから……。説明は出来ないけどね」
「この世界では、魔法は必要ないんだ……」
何故かミントさんは、寂しそうに言った。
「えっと。この世界の人間は、自分で理解出来ないものは認めない人が多いんだ。だから本当に魔法があったとしても何かトリックがあるに違いないって思うものなんだよね。僕には、必要かどうかより楽しめればいいんじゃないかなと思う」
って、何言ってるんだろう僕。
でもそれを聞いたミントさんは、嬉しそうにほほ笑んだ。
「じゃ、楽しもう!」
突然ガシッと右手が掴まれた。見れば右手に杖を持っている。
待って! と言う前に彼女は杖を振るった!
フワッと浮く感じがする。そして、サーと空を飛び回る!
「うわー!」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど! って、言いたいけど、それどころじゃない! 手を離したら落ちる!
「大丈夫」
僕の思っているがわかったのか、ミントさんはそう言った。
辺りはもう日が暮れている。闇が落ち始めていて、飛んでいる僕達を見ても鳥と誤解してくれると思う……。いや、そう願う。
ミントさんを見ると嬉しそうに見える。
まあ、いっか。
そう言えば、こういう魔法の使い方って初めてかも。ミーラさんがお願いするのって、魔物大退治だったから。なんか楽しいかも!
僕達は三十分ほど空中散歩を楽しんだ――。
―エピローグ―
くっしゅん!
僕は盛大なくしゃみをした。昨日空を飛んだけど、結構寒かった。
「おい、審! 昨日の子誰? どのクラスの子?」
「え!!」
突然クラスの男子から話かけられる。ミントさんの事だとすぐにピンときた。昨日は、制服だったから……。飛んでいるのを見られたのか! どうしよう……。
「俺もさ。航空祭行ったんだよ! って、なんでお前ら制服だったんだ?」
あ、航空祭で見かけたのか。まあ、制服だから気づくか……。
「部活動として……」
「なんの部活だっけ?」
「……い、いろんな体験をする部!」
「へえ、部活として航空祭に行けるなんていいな!」
「自費だけどな」
僕がそう言うと自費かよと言って去って行った。ミントさんの話の事は忘れたようだ。いや別に飛んでいるところを見られた訳じゃなければ、何とでも言い訳出来るんだけどさ。
そして放課後。ここでも航空祭の話題だ。まあ、昨日の話だし盛り上がってる。
「ところでさ、ミントさんが言っていたんだけど、二人で空飛ん……」
僕は慌ててミーラさんの口を塞いだ!
何て事を二人の前で言うつもりなんだ! 問い詰められるだろうが!
「もう! 何するのさ! って、言うかやっぱり魔法使いなんじゃない!」
「うん? 何が?」
「空も飛べるなんて!」
暫く考えて言っている意味がやっと理解出来た。魔法を使ったのは僕の方だと言っていると……。なんでそうなるんだ!
ミントさんは魔法使いじゃないか!
仕方がない。今回もちゃんと訂正しておこう!
「僕は魔法使いじゃないから!」
「えぇ!」
「えぇ! じゃない! 僕は魔法使いじゃないから! 使ったのは彼女のほうでしょ。普通に考えれば!」
僕の言葉にミーラさんは、やっとわかったようだ。そして結局、二人に問い詰められる僕だった――。
今年も航空祭に行って来ました!
そしてふと思いついたお話を書きましたが、如何だったでしょうか?
って、今回は災難に遭っていない?!
シリーズをまだお読みでない方で、興味を持たれた方は是非レベル1からどうぞ☆
今回もお読みいただき、ありがとうございました!