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異邦人、ダンジョンに潜る。  作者: 麻美ヒナギ
異邦人、ダンジョンに潜る。Ⅲ 諸王の大地へ 【3部後編】

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<第三章:我ら、黒き旗に集う>


<第三章:白狼と金瞳の獣。我ら黒き旗に集う。>


 左大陸に来てから五日目、あれ、六日目か? やっぱり四日だっけ? 時差ボケと、禁忌の森にいたせいで時間の感覚が狂っている。

 正直もう一ヶ月はここにいる気分だ。

 朝の寒さにも慣れて来た。

 澄んだ冷たい空気も風も、厳しいが耐えられる。

 僕って適応能力は高いのだろうか? ま、そうでないのなら異世界なんぞ行こうとは思わないだろうが。

 雪がまた降り始めていた。

 今日から、かなり積もるかもしれない。本格的な積雪が始まれば、軍の動きは停滞するだろう。敵が、それを見逃すはずがなかった。

「陛下」

「うむ、何人だ?」

 陛下と僕ら三人は物見塔で平原を見つめている。

「敵総数、四万です」

 僕の報告に、陛下は笑う。子供のような笑顔だ。

 ザモングラスも、レグレも笑う。こっちは邪悪な笑顔。僕は苦笑いだ。

「二角の兜、ロブスの旗だな。しかも一旗のみ。あやつ、ほぼ全軍持って来たぞ」

 平原を、黒に金をあしらった軍勢が埋め尽くしている。

 掲げる旗は一つ。ヴィンドオブニクルにも名を連ねるロブスの旗。

「豪気ですなぁ」

「竜退治並みだよね」

「さて、愚生が竜として、二万は喰らうかな。それ以上は流石に腹がもたれる」

 ヴァルシーナがいれば、もしかしたら四万でも散らしたかもしれない。今それを思っても、詮無い事だが。

「陛下、一騎近づいてきます」

 僕が再び報告する。

 大軍の波の中から一騎が抜け出し、こちらに駆けて近づいて来る。

「特使か。全員で迎えるぞ」

「はーい」

 陛下の言葉で、全員が物見塔から降りた。

 しばらくして馬がやってくる。

 騎手は若い男だ。ヒゲもまだ短い。鎧が新しく傷一つない。

「馬上より失礼する! そこの赤毛の偉丈夫、ダインスレイフ王であるか!」

「うむ、確かに」

 声が大きい若者だ。

「それがし名は、デュランダル! デュガン・シュテルッヒ・ホロビ・ロブスの息子! 父から言付けがあって参上した!」

「申せッ!」

「明日! 夜明けと同時に! 全軍を以ってあなたの国を潰す! アシュタリアの名に相応しい最後を迎えられよ!」

「うむ、かかって来い」

「そして! ………………これは、それがしの個人的な話ではあるが」

 急に声が小さくなったぞ。

「アメリア姫を嫁に頂きたい!」

「ほぉ」

 陛下の殺気が膨らむ。

「好きなように奪うが良い。愚生を、殺した後にな」

「確かに! では、戦場で会いましょうぞ!」

「うむ」

 若いロブスが去る。

 あいつは絶対に殺す、と陛下が呟いた。

 あいつ絶対に死んだな。

「さて、ザモングラス、レグレ、ソーヤ。短い時であったが、よく仕えてくれた。明日の朝、愚生の出陣を最後にそなたらの任を解く」

「陛下、せめて最後の、間際まではお供させてください」

「そだよー」

 ザモングラスとレグレの意見は、

「ならぬ」

 ぴしゃりと跳ね除けられた。

「最後くらい。何もかも忘れて戦わせよ。王ではなく一人の男として。だが、そなたらには真の武を見せてやる。期待するが良い」

 ザモングラスは頭を下げた。

「はい、陛下。お仕え出来て光栄でした」

「おれも」

「これ、まだ時間はある。別れの言葉は取っておけ。すまぬが、しばらく一人にしてくれ」

 三人揃って頭を下げる。

 陛下は、城の方へ去って行った。

「ソーヤ」

 ザモングラスに呼ばれ、スクロールと指輪を渡される。指輪は印璽<いんじ>になっている物だ。封蝋に押したりする。貴族や、名のある商会が使用する物。

「エリュシオンの幽霊貴族が使用する印璽と、貴様の名前を書いた偽装の証状だ」

「ソーヤ・ウルス・ラ・ティルト?」

 証状を広げると、そんな僕の名前が記されている。

「南下してエリュシオンの騎士に、貴族の好事家として接しろ。それなりに高い身分だ。この土地の騎士を騙す事は容易いだろう。中央に身分の真偽を訊ねても、上級貴族の放蕩三男という事で問題はない。それと―――――」

 路銀だ、と小袋を二つ渡される。

 一つは金貨、もう一つは宝石の粒が沢山。

 宝石は、船を乗組員ごと買える金額だ。

「レグレ、お前はソーヤの愛人という事で証状に名を連ねておいた。古い付き合いとはいえ、急な呼び出しに応じてくれて助かったぞ」

「はあ? 爺はどうすんだよ」

「俺は、まあ野暮用がある」

「付き合う」

「駄目だ」

「断る」

 レグレとザモングラスがいがみ合う。

 僕は離れて、物見塔に上る。ちょっと一人になりたかった。

 視線の先には、四万の軍団。

 対するのは、一人の王。

 明日、あれに向かって陛下は突っ込むのだ。

 僕には陛下が負ける姿が想像できない。だが、陛下といえども不滅ではない。血を流し続け、心臓が止まれば死ぬ。しかし、そこに至るまで、彼は殺しに殺すだろう。

 死ぬのは、二万か三万か。レグレやザモングラスと比較にならない殺戮が行われる。

 その末に、死ぬ。

 槍も尽き、剣が砕け、体だけになりながら敵から武具を奪い。

 全身に矢を受け、槍を受け、鬼神の如き強さで進み、将の首を取っても止まらない。

 平原は血に染まるだろう。

 雪の白さでも隠せない赤い色だ。

 僕が理想とする死だ。

 が、

 消えぬ炎はない。熱はすぐ冷めやる。

 最後は、何もかも塵に消える。戦場の記憶は季節の移り変わりと共に流れ、国は名を変え、人を変え、生まれ変わる。風のような言葉だけが、アシュタリアの名を残す。

 僕はどうしても、それが許せない。

 許せない。

 許せなかった。


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