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異邦人、ダンジョンに潜る。  作者: 麻美ヒナギ
異邦人、ダンジョンに潜らない。 【2.5部】

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<近域の魔王>3


「お」

 草原の先。

 赤毛の少年と、髪の長い鎧姿の少女が歩いて来る。

 少年は知っているが、少女の方は誰だ? まさかと思うが、彼女さんか?

 いや、彼も年頃な上に中性的な顔立ちでモテモテだ。主に、年上のお姉さん方に狙われていたが、まあ、彼女の一人や二人、今までいなかった事がおかしい。

 何か、色々な意味でドキワクする。

 保護者として失望されないよう立ち振る舞わないと、

「ラナ、ちょっとゴメンな」

「えぇ」

 僕も名残り惜しいが、ラナを膝から降ろして隣の椅子に座らせる。軽く服装と寝癖をチェックして、二人を出迎える。

「やぁ、おはようシュナ。そちらのお嬢さんは誰かな?」

 精一杯の笑顔を浮かべる。亡き友のイケメンスマイルを真似て………………いきなり失敗した気がした。

「う?」

 少女がジト目で僕を見て来る。

 表情は冷たいが、可愛らしい容姿だ。年頃はシュナより少し上だろうか? ふわっとした長い栗色のくせ毛。くすんだ白銀の鎧と盾。体格に対して大きいロングソード。

 ん………………あれ? 鎧も盾も剣も、見覚えがあるぞ。

「お兄ちゃん、何言ってるの。ベルだよ」

「ですよね」

 ベルトリーチェだった。パーティメンバーだった。

「すまん!」

 頭を下げた。

 別の意味でやらかした。よりにもよってメンバーを間違うとは。だが、ベルはベリーショートの髪だったはず。それが三日会わないだけでこの長さ。あ、魔法の育毛剤とか?

「………………いや、別に」

 反応が冷たい。

 これ、激怒してますか?

「ベル、朝飯食べるか?! このポトフは中々だぞ」

 とりあえず食べ物で懐柔しよう。異世界の若者には、この手に限る。

「食べる」

 別皿をよそおうとしたら、ベルは僕のポトフを席に着いて食べ出した。

 黙々と食べる。

「どうだ? 今日のは僕が作ったんじゃないが、あ、肉もっと入れるか?」

「いい」

 更に黙々とスプーンでポトフを搔き込む。野菜嫌いのベルが、これだけ食が進むとは。ランシールに教えてあげないと。

「ソーヤ、ちょっと」

「シュナも食べるか?」

「オレはいい。ちょっと」

 少年、シュナに手を引かれてキャンプ地を離れた。

「どうしたんだ?」

 ちょっとばかり様子がおかしい。これからダンジョンに潜るのに大丈夫かな。

「ここでいい。待ってくれ」

 キャンプ地が見えなくなる地点で足を止めた。

 シュナが鞄から木の枝を取り出す。それを地面に刺す。

「樹霊王ウカゾール様、あなたの眷属。アゾリッドのシュナが願い奉り、ここに姿と声を求めます。我が願いを聞き届けたのな――――——」

 シュナの言葉の途中、刺し木がまばゆい光に包まれ、輝きが終わる頃、代わりに20㎝くらいのおっさんがいた。

 白髪の中年男性である。

 鍬<クワ>を片手に頭には麦わら帽子。首には汗を拭う為の布。よく見る農夫の服装だ。

「よ、シュナ。元気か? もっと頻繁に呼んでもいいんだぞ? 島の爺さん婆さんも話を聞きたがっている。まあ、俺は土着神だからな。こんな情けない姿になるが、それでも愚痴くらいは聞いてやるぞ」

 凡庸な感じの神様だ。

 威厳はないが、親しみがある。人に愛されて神になった人の特徴だ。

「すみません。ウカゾール様、今日はベルの事で相談があって。それと、こいつはオレのパーティーのリーダーです」

 シュナに紹介され、礼を以って挨拶する。

「異邦の宗谷といいます。冒険者としてシュナのリーダーをやらせてもらっています。あなたの眷属であるシュナは、剣の技では同年に並ぶ者はいません」

「でもこいつ、まだまだ子供だろ?」

「………………え、まあそれは、年相応に」

「最近になって背は伸びてきたが、四年前は小さくて、どこ行くにもベルかレグレの後ろに付いて回って。見失うとピーピー泣いて大変だったのだ。何度、泣きながら我を呼んだ事か。おぶって家に送り届けたのも、百や二百ではない」

「ああ、そんな事が」

 いや、そんな事を話したらシュナが怒りそうだが、

「すみません、ウカゾール様。今日は、そのベルの事で」

 割と冷静だった。

 ちょっと前に大人になったからか? 違うか。

「すまん。久々に顔を見たので、嬉しくてな」

「あの、島を離れて三ヶ月くらいしか」

「そうか? それにしては大きくなった気がするな。お前、女遊びなど覚えていないよな? 都会は誘惑が多い。今は神とて、同じ男として気持ちは分かるが、悪い女に引っかかれば――――――」

 完全に親心で喋っている神様だ。

「ウカゾール様、すみません今は」

「うむ、すまん。つい」

 本題に入る。

「ベルの奴が、ここ最近おかしいです。前にも似た様な事があったが今回は違う。ソーヤ、お前も他人と勘違いしただろ?」

「ああ、その通り。ちなみに、こっちの世界の人って急激に髪が伸びたりするのか?」

「しねーよ」

 ですよねー。

「それと、嫌いな野菜を気にせず食べたり、愛想が悪くなったり、挨拶をしなかったり、目つきが悪くなったり、酷いのが、昨夜の夕飯作りだ。ベルの飯は適当だが、食えないような物を作った事はない。あんな不味い飯を作るなんて。間違って食べた兄さん方が、腹痛で治療寺院に担ぎ込まれるほどだ。あきらかにおかしい」

 食べた人間の治療が必要な飯か。

 目の前で作られたら、ベル相手でも怒るかも。

「ウカゾール様、ベルの身に起こっている事。何かわかりませんか?」

「シュナよ。お前の悪い想像通り、ベルトリーチェは、何者かに体を乗っ取られている。神媒体質が故、以前にも似た様な事はあったな。死霊や、自然霊、信仰を失った神なら、我は祓えるが。

今回は、役に立てぬ」

「え?」

 シュナが愕然とする。

 僕も同様のリアクションだ。様子がおかしいとは思っていたが、体を。

 嘘だろ。

「我は、島を塩害から守る為、死ぬまで――――いいや、死んでからも植林を続けた“それだけ”の男。そんな神の恩寵などたかが知れている。ただ、ベルに憑いたモノは悪しき存在ではない」

 僕は、自然と生まれた疑問を神にぶつける。

「悪い者でない奴が、断りもなく人の体を乗っ取りますか?」

「妄執の果て、人知の及ばぬ所業を得て、近世の神は生まれる。善といわれる者ですら、聖と称えられし者ですら、人を虫けらの如く潰すぞ。

 神の善悪は、人の善悪とはかけ離れている。異邦の者には狂気に見えるだろうが、これは、そういうものなのだ」

 人も、人の上に立ち王冠を頭に乗せるだけで、一般的な善悪と距離が開く。国を守る為と簡単に人を陥れ、殺す。それが神となると、人の理解の範疇を遥かに超えるのだろう。

「だけど、そんな」

 動揺しているシュナに、ウカゾール様が優しい声で語りかける。

「シュナ、我が眷属よ。一つ、お前を安心させる話をする。我は、端<はした>神とはいえ神は神。ベルに憑いた神が、おぞましい行いをするのなら、我が神格を賭けて彼女の体から追い出そう。ベルの意思がこの神を拒むのなら、我の魂を賭けて救いの手を差し伸べる。ベルが、それを望めばな」

「え、それはどういう?」

 シュナの問いに、ウカゾール様は神妙な顔つきで答える。

「ベルは、何かしらの力の供給を条件に体を貸している。神を降ろしているのは、自らの意思なのだ」

『え?』

 僕とシュナは同時に声を上げた。

「十日ほど前、我はベルから相談を受けた。手っ取り早く強くなる方法はないものかと。今のままでは冒険のパーティに迷惑をかける、とな。心当たりはないか?」

 ある。

 アーヴィンが欠けて編成に悩んでいた時、ベルがキャンプ地に来た事があった。

 軽食を食べて、雑談して、街まで送ったが、思えばあれの翌日からベルがアーヴィンの遺品を身に着けて訓練をしていた。

 グラッドヴェインの眷属曰く、はじめて剣や盾を手にした者の動きではない。

 僕はそれを、彼女の素養だと思っていたのだが。

「すまないシュナ。僕の、せいかも」

 余裕がなくて考えが回っていなかった。

「どういう事だ?」

 シュナに睨まれる。

「遠回しに、アーヴィンを欠いた編成を聞かれた事がある。返答に困って唸っていたが、あの時にしっかりと答えておけば」

「何だ………………その程度か。オレてっきり、いや、いいけど」

 てっきり何だ? いやいや、ベルに手を出すほど愚かではないぞ。形ばかりだが結婚しているのだし。あ、エルフの結婚契約だから重婚は良いのか………………そんなんしたらパーティの空気が最悪になるが。

 ウカゾール様が咳払いして、注目を集める。

「憑いた神と如何な契約を成しているのか、我には分からぬ。しかし、万が一の時、ベルが助けを呼ぶのなら、我は必ず力になろう。シュナ、お前もだ。

 ま、しばしの時、小娘の思いを静観してやれ。年頃の娘の情熱とは巻藁のように燃えやすい。明日にでも、飽いて神を振るい落とすやもしれん。あまり大事に考えるなよ、特に異邦人。お前は顔に疲れが見える。我が眷属が揃って迷惑をかけているな」

「いやウカゾール様、オレは別に」

「かけているな」

「そ、そんな事」

「いるな?」

 ウカゾール様の結構な迫力に押され、 

「………………は、はい」

 シュナがそっぽを向いて肯定した。

 ウカゾール様は僕に向き直る。

「わびと言っても役に立たぬ物だが、異邦人よ。我が恩寵を少し授けよう。冒険の役には立たぬだろうが、あって困るものではない」

「えぇ~」

 シュナの反応が悪い。

 まあ、邪魔にならないものなら頂くが。

「指を出せ」

「はい」

 ウカゾール様に人差し指を向ける。ウカゾール様の指が僕の指に触れる。

 小さい輝き。

 E.Tみたいだ。相手が、小さいおっさんだが。

「これで我が恩寵はお前の物だ。端神の奇跡だが、好きに使うがよい」

「あの、どういう効果があるのですか?」

 肝心な事だ。

「樹霊王ウカゾールの恩寵。それは、美味しい野菜が作れる事だ!」

「す………………すげぇ!」

 何という神の御業。

 明日から家庭菜園作らないと。ニンニク、プチトマト、ナス、ハーブ、ピーマン、キュウリ。夢が広がる。食が広がる。楽園を作れる。

「それだけではない。農作業を始める前に、両の手を伸ばし蒼天に我が名を叫べ。さすれば、農作業の腰痛を和らげてやろう」

「マーベラス!」

 これぞ異世界の奇跡。

 何という僥倖だ。

「てか、本契約してもらえませんか? 僕、滅茶苦茶信仰しますよ」

 ミスラニカ様とグラヴィウス様には悪いが、二人に捧げる食に関する事なのだ。特別扱いしても問題ないだろう。

「あー同じ異邦人の手前、契約してやりたいが、我の本体がある島まで来ないと契約は無理だな。我、土着神だし。端神だし」

「ざん、ねんです」

「ソーヤ、がっかりし過ぎ。野菜作れても冒険の役に立たねぇだろ」

「なん………だと?」

 物の分かっていないシュナの両肩を掴む。

「冒険中の行動食や、ダンジョン内での休憩食を作るのが、どれだけ大変なのか分かっているか?! 美味しい野菜があれば、どれだけ手間が省けるのか!」

 農耕地の野菜は、かなり灰汁が強い。味が原始的だ。一番の問題は、管理体制が甘く購入してからの選別が必要な事。切って虫だらけとかザラにある。

 キャンプ地で野菜を作れるのなら、マキナが管理できるし品種の改良も行える。しかも神様の加護で美味しくなるのだ。

 何という事でしょう。

 すぐにでも耕さないと。

「いや、ソーヤの飯が美味いのは認めるけど。そんなに大変なら、冒険食を商会で買えばいいじゃん」

「馬ッ鹿野郎! 成長期の人間にあんな小麦とバターの塊なんか食わせられるかッ! 必須栄養素を全然満たしていないんだよ! 大体、商会で飯を購入してダンジョンに潜った時の、お前らのやる気のなさといったら。しかも休憩中、全員で僕を見てため息を漏らしていただろ。あれ、絶対に忘れないからな! しかも戦闘力が三割減だったんだよ?! ご飯に手を抜けないんだよ! 後、シュナ。野菜を食え。てか、食わせる」

「悪かったよ。飯は美味い方がいい。だが、野菜は食べない。絶対に食べない」

 お前に、美味しい野菜地獄を味わわせてやる。しかも気付かない内にがっつりと。もう、野菜を食べないと生きていけない体にしてやるからな。

 あ、普通か。

「うむ、異邦人。お前の人種が分かった気がした。その調子で、我が眷属を頼むぞ」

「はい」

 ウカゾール様にシュナを任された。

 任されなくても面倒を見るつもりだ。冒険が終わる、その日まで。

「シュナ、ベルの件は、我と本人に任せ、己が成す事に集中しろ。人の生は短い。余所見をしていれば、すぐに老いて足腰が立たなくなる」

「はい、わかりましたウカゾール様」

 素直に返事をする。こういうシュナは珍しい。

「野菜も食べろよ」

「………………」

 返事をしなさい。

「体を労わり、己ができる範囲での善行に努めよ。人の生は剣だけにあらず。英雄の腕を持っても、鍬で土に抗うのは難しい。人が挑戦すべき試練は、戦いの中にだけあるものではない。お前には帰る場所がある。街の喧騒に疲れたら、島にいつでも帰って来い」

 上京した息子を心配するお父さんみたいだ。

「いかん、がらにもなく説教くさくなった。今日はこのくらいにしておこう。ではな」

 ウカゾール様が手を振る。

 僕は振り返した。

 小さいおっさんだが良い神様だ。

「ソーヤ」

「ん?」

 シュナの問いかけ。

「それで、どうする? ベルの事」

「ああ、決まっているだろ。一から予定を立て直す。今日の冒険は、中止だ!」

 何てこった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ウカゾール様の恩寵凄く欲しい てか同じ異邦人なのか 宗谷もこのまま行ったら食の神になるかもな
[気になる点] 同じ異邦人て神様も元々異邦人? しかも食への情熱で人種がバレてる。 面白いです。
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