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異邦人、ダンジョンに潜る。  作者: 麻美ヒナギ
異邦人、ダンジョンに潜る。星々の彼方より帰還せり 【13部】

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<第四章:異邦人、ダンジョンに潜る。> 【07】


【07】


 高所から海に飛び込みしたような感覚。

 意識は深く暗闇に沈んだ。

 しばらく、何もない意識の空白をフワフワと浮かび。やがて、ゆっくりと意識が目覚めだす。

 ズル、ズル、ズル、と何かを引きずる音。

 僕が引きずられる音。

 重くて目が開かない。体が動かない。指一本動かない。が、意識はしっかりとしている。

 背中が擦れる。時々、小石や金属片が当たり痛い。

「やはり、四人目もあれを倒したか」

「そりゃ、倒せるだろう」

「倒せるとも」

 複数の声がした。

 三人、四人? いいや、気配はもっと多い。そいつらが僕を運んでいる。

「文字通り、運命の糸を手繰り寄せて来た者だ。糸遊びも満足にできない虫ケラに、負ける理由はない」

「“あやとり”もまともにできないとは、無駄に多い腕と人を模した指は何だったのか」

「使わなければ進化しない。脅威ではあったが、蜘蛛の本質は捕食からの模倣だ。そこから最適化して昇華する機能が抜けている」

「完璧な模倣なら最適化ではないのか?」

「間違いすら模倣するのは最適ではない」

「所詮は虫。体感して積み重ねた血の歴史は、終点の技術を食っても肉にならん」

「だから、ガンズメモリーに負けた」

「退行して虫らしい虫ケラと化した」

「しかし、最終兵器を失ったのは痛かった。彼が万全で残っていれば、師の計画は上手くいったのやもしれん」

「それは“やも”で終わるな」

「やもやもで終わる」

「失敗する。間違いない」

「お前ら、師を嘲笑するな」

「一人でいい子ちゃんぶるな」

「我はお前らの良心だ。ひかえおろう」

「事実を伝えるのは良心の仕事じゃなかったのか?」

「伝えたら脳を割られ、ここに捨てられたではないか」

『………………』

 急な沈黙。

 この声、この声達は全部、ワーグレアスだ。上手い独り芝居のようだ。

「四人目に話を戻そう。彼は前任者達と同じ選択をすると思うか?」

「たった三つの失敗例だ。参考になるまい」

「なるんだなぁ、これが」

「なーぜー」

「一人目は何を選んだ?」

「保身」

「いいや、家族だ」

「広く見れば種族愛とも」

「それは人として正しい道だ。王道と呼べる」

「二人目は?」

「繁栄」

「それも種族愛?」

「この世界よりも己の世界を選んだ」

「正しい資本主義者だ。うむうむ」

「金の亡者だ」

「三人目は?」

「友情」

「これが一番理解できない」

「我らには小さ過ぎて理解できん」

「そう、砂の一粒のような願いだ。友の為に命を捨てるなど。………………我にそんな友はいたのかな?」

「いないだろう」

「ロブはどうだ? 一番よく語り合ったではないか」

「良い酒がある時だけな」

「ガルヴィングは? ん、まあないな」

「ないなぁ~」

「こう、根本的な部分が合わないやつだった」

「秀才と天才の違いだなぁ」

「お、我は天才か、まさしく自画自賛だが」

「ズルして天才になったタイプだがね」

「痛い。良心が痛い」

「戯独り言はそこそこに、四人目は何を選ぶ?」

「女」

「それは世界を変える理想ではない」

「変化は起こり得ない」

「我は、我らは変化を望むのか?」

「我らは何も望まぬ」

「師の願いも叶えぬと?」

「あれは叶わない願いだ。世界と複雑に絡み合った糸の一つ、その蛇だけを消し去るなど、それは世界を焼き尽くしても叶わぬ願いだ」

「我は神ではない。子羊でもない。ならば、叶えられる人の願いだけを望む」

「叶えられる願いだけを人に託す」

「託された願いを、更に別の者へ」

「悲しい板挟みな仕事だ」

「上司は人の頭をカチ割ってくるし」

「やれやれ、楽な仕事はない」


『うるさいぞ、亡霊』


「亡霊とは失礼な。我らは、そんな非科学的な存在ではない」

「そーだ、そーだ。テザラクト・ボックスに保存した情報を、あたかも“いる”かのように世界に再現しているだけだ。―――――蜃気楼のように。ガンズメモリー、お前も同じシステムで情報を再現しているのでは?」


『違う。吾輩のこれは自我であり自己だ』


「純粋な機械知性であるお前が、人のようになると」

「あり得ない。とは、愚かな言葉だな。この世界では」

「そう、大昔のSF作家が言った。人も機械も、行き着く先は同じだと」


『吾輩は、大樹からこぼれ落ちた実の一つなのだ。木に戻る事は叶わず、いずれ腐れ、死に至る。それ故に一人の生命だ。我、死を持つが故に、我である』


「間違っているようで理解できなくもない」

「どちらよ?」

「あり得なくは、なくはない。ない故であるが、あるという」

「意味不明である」

「超常的な意識を否定する意見だ」

「本当の神を否定する意見だ」

「群体は意志を持たぬと? 個のみが魂を持つと? ミクロな視点でものを見れば、人もまた群体ではないか」


『なるほど、イゾラが自己を持ったのは死を得たからですか』


「そこは認めざるを得ない」

「量子ネットワークを介した情報の保存は、不死の体現と言える」

「不死を求めていた先人達は、自己を損失した退化した生命だと?」

「進化の行く先が退化とは皮肉だ」

「しかし、師の愚行や愚策もそれで納得できよう。たった一つの間違いを、不完全な存在は正す事ができないのだ」

「つまり、“不死とは生命の退化である。”移ろわぬ生命に未来はなく、そこで終わりなのだ」

「おお、我ら千年の疑問が氷解してしまった。師の万年の妄執が一言で片付けられてしまった。吉日、吉日」

「記念日にせねば」

「一人で祝ってもなぁ」


『亡霊よ。戯言は終わりか?』


「今、我らはお前のマスターを運搬しているところぞ?」

「偉ぶったところで、ガンズメモリーは物体Xのような姿ではないか」

「せめてヒューマノイドの状態で威張れ」


『大事なのは魂と意志だ。姿形など飾りに過ぎない』


「否定したいが、し難くもある」

「語り尽くせぬ事が多い」

「騙りつくせなかった愚か者の話とか?」

「………………それはまた別の機会に」


『さあ、道を開けろ』


 目が覚めた。

 白昼夢を見ていたようだ。

 僕の体は砂の上に転がっている。近くにはイゾラのミニ・ポット、ガンメリーの兜、アガチオンが、義父の剣と交差する形で地面に突き刺さっていた。

 アーマーはまたしても全損。左の義手は思ったよりも悪くない。五指はスムーズに動く、違和感はない。握力もそれなりにある。

 生の部分は、全身に打ち身、所々に裂傷、口の中は血の味、アバラも軽くひび割れている。まあ、いつも通りだ。問題ない。

 他の荷物が見当たらない。

 水と食料を回収しないと。こんな環境じゃ二日もせずに動けなくなる。

『宗谷、進もう』

「だが」

『ゴールは目の前だ』

 ガンメリーが急かす。

 確かに、折れた塔は目の前にある。進む事はできるが、

『ソーヤ隊員、進みましょう』

 イゾラにも急かされた。

 二人が言うなら従おう。

 ガンメリーの兜とイゾラのミニ・ポットを腰に下げた。アガチオンは背に、義父の剣は定位置のベルトに差す。

 風が吹いた。

 バタバタと頭上で音がしたので手を伸ばす。

 掴んだのはポンチョだった。所々焼けて、穴が空いて、ボロ布のようだ。気にせず羽織る。

 進む。

 激闘の後だというのに足は軽い。終わりを示唆され、期待と不安で軽く高揚している。

 ゴールに立つ。

 折れた塔の壁に手を触れ、右手で埃を払う。

 そこに描かれていたのは円形の図。世界の全て、地球と宇宙、死後の世界までを描いた想像図。

 宇宙誌、コスモグラフィー。

 かつてロラが潜んだ扉と同じものだ。

「上から入るか?」

『可能だが、ここまで来てそれは風情がない。それに、鍵は開いている』

『ソーヤ隊員、風情というならお約束の合言葉を言いましょう』

 扉を開けるお約束の合言葉? ………………ああ、あれか。

「オープンセサミ」

 重厚な機械音。

 地響きと共に扉は開いて行く。さて、ゴールには何が待つのか。


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― 新着の感想 ―
全ての命は神の端末であり、それが生物であろうが電子回路であろうが神の枝先についた葉っぱとなれば等しいものだ。あとは端末としての解像度だけの違いに過ぎない。 接続してきた神を雌型として端末に残った接続…
[一言] どきがムネムネしてきた
[良い点] やっとやっと辿り着いた! [一言] すべての謎が解き明かされる?
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