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異邦人、ダンジョンに潜る。  作者: 麻美ヒナギ
異邦人、ダンジョンに潜る。Ⅺ 仄日のレムリア 【11部】

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<第三章:そして集まるケダモノ共よ> 【02】


【02】


 その隠れ家は、城壁の一部に偽装されてあった。

 四階建て、地下室、屋上付き。一階のキッチンは整っていて、地下には風呂トイレもあり至れり尽くせり。

 例によって、ここの地下室も街の広大な地下空間と繋がっているらしい。

 レムリア王族の縁の家だとか。緊急時のセーフハウスといった所だろう。

「掃除だ」

「掃除ニャ」

 時雨とテュテュが張り切って掃除を開始。しばらく使われていなかった建物だ。人が住むのには手入れが必要である。

「ワタシも」

「いいから、いいから、ランシール様は赤ちゃんにご飯上げるのが仕事ニャ」

「そうですか………何か落ち着かなくて」

 赤子を抱えたお姫様は、そわそわしていた。彼女の抱えているのは黒髪の子で、銀髪の方は雪風が抱えている。こいつがいない時はテュテュが暇さえあれば面倒を見て、意外な事にアリアンヌも気まぐれに面倒を。

 こういう時、女性の偉大なものを感じる。俺は、まあ出番はないので一階居間の隅で腰を降ろしていた。

 何かテーブルが寂しい。布団を敷いてコタツにしたい。

 というか、ここ土足禁止ではないのか?

「何だ、これは」

 隣に植木鉢があった。

 植物は何というか丸太? が刺さっている。

 どういうインテリアだ。

 軽く触ってみるが不思議と埃もなく、瑞々しさもあり、生きている様子。中々、豪快な挿し木である。

 親子二人の掃除風景を眺めた。

 ほどなく一階は終わり、テュテュは二階へ。時雨は地下に行く。

「あんたさ、責任取りなさいよ」

 雪風が隣に座って来た。

「分かってる。分かってる」

 こいつはしつこく、この話題を蒸し返す。

「いい加減な反応ね。あんた、テュテュさんに大事な店を捨てさせたのよ」

「だから、あの親子の安全は俺が責任を持って受け持つ。何度も言わせるな」

 と言っても、身の安全はエヴェッタさんと犬頼みだ。メルムは知らん。フラフラ出たり消えたりしている。

「だからどうやってよ? 結局は文無しの居候でしょ」

「アレは用意できたのか?」

「用意したわ。また借金だからね」

 雪風は五本のスクロールを取り出す。

 大丈夫だろうが、受け取って中身を確認。

「………………良し」

「当り前よ」

 レムリアにある商会、五店舗分の屋台営業許可証である。

「こんなもんどうするの?」

「時雨の料理の腕は放置しておくのは、もったいない」

「あんた今“もったいない”って言った?」

「ん? 言ったが何だ?」

「いや………別に。でも五店舗分も何で必要なの?」

「日替わりで所場を変える」

「だから何で?」

「必ずどこかの所場で、獣人同盟の邪魔が入るはずだ」

「へぇー、ふーん。一応考えているのね」

 察しの良い女だ。

 あの騒ぎでオロックは騎士団に捕縛された。だが、あの場にいた他の連中は誰一人として捕まっていない。襲撃してきた騎士団を半分血祭りにして逃げおおせた。

 ここからは俺の予想だが。

 オロックの奴は、あれは担ぎ上げられて踊らされたクチだ。

 腕っぷしだけの飾り。それも俺に負けたので用済み。

 獣人同盟の頭は別にある。連中が、ランシール姫をこのまま逃すはずはなく。俺やテュテュ、もしかしたら雪風達も狙って来る。

「屋台の護衛なら、エヴェッタさんやクソ犬が居れば事足りる」

「日によって商会の所場を変えて、情報が漏れた商会が獣人同盟と繋がりがあるって事ね」

「可能性は高いな」

 あの親子を釣り餌に使う事になるが、安全は何重にも確保して計画は立てる。

「良いんじゃないの? 悪くないわ。あたしからもパーティの誰かを客として紛れ込ませる」

「また俺持ちか?」

「そうよ。借金返済の為にキリキリ働きなさい」

 積もった借金の額は、怖いので聞かないでおこう。

「お前さ」

「あによ?」

 それはそうと雪風に質問がある。

「何かとテュテュと時雨を目にかけているが、どういう理由だ?」

「別に理由なんてないけど。あたしがしたいからしているだけ」

 ずっと気になっていた事がある。

 時雨と雪風の容姿についてだ。

 この二人は似ている。黒髪の質もそうだが、特に横顔なんかはそっくりである。

 まさか、時雨の父親と雪風は何か関係があるのか? 獣人の女性に父親について聞くなど野暮というか、詮無い事だが。

「ま、いいさ」

 好きでやっているなら、俺は文句を言える立場ではない。

 それともう一個気になる事が。割と大事な事だ。

「冒険者組合はどうなっている?」

 俺は組合長を殺した。

 どういう組織かは分からんがトップを失っては――――――

「それが、平常通り運営しているのよ。さしたる混乱もなく」

「嘘だろ」

「流石におかしいわね。今、人を使って調べている途中」

「………………」

 どういう事だ。

 下手な混乱が生まれるよりはマシだが、冒険者組合も別のトップがいるのか?

「なーにぃ? 二人共、悪い顔をしていらしてよ」

 アリアンヌが、俺と雪風の間に割り込んで腰を降ろした。

「リーダー。これ、私のですわよ」

 そして、俺の首にヘッドロックをかけてきた。側頭部に柔らかいモノが当たる。

「知ってるってば、アリー。これ、あたしのタイプじゃないし」

「そういう処女ほど、コロッと男に入れ込むのですわ」

「なっ?!」

 雪風の顔が真っ赤になる。

「あ、あたしは処女じゃ。もう男の経験も沢山あるし」

 それはそれでショックなのだが。

「では何人かしら?」

「………………三人くらい」

「どんな男性でして?」

「一人はあたしの事を放ってどっか遠くに行った男で、もう一人は職人気質の初老で、最後の男はしたり顔で意味の分からない事を沢山言ってフワッと消えた男」

「嘘くさーいですわ」

「ぐっ」

 何だ創作か。それはそれでショックだな。

 俺は何を考えているのだ。

「この男は酷い男ですわよ。止めておきなさいな。処女にはもっと初心者向けの男がお似合いですわ」

「だから興味ないってば」

 と、

 地下から時雨が駆けあがって来た。

「かーちゃん! かーちゃん! 下来てよ! 畑がある! アレたぶん食えるぞ!」

 そのまま二階に行ってテュテュを連れて地下に。

 家の下に畑があるとか変な家だな。

「あの、すみませんが」

 ランシール姫が申し訳なさそうに俺達を見た。

「どなたか、おむつを替えていただけませんか? ワタシまだ慣れていなくて」

「んじゃ私が」

 意外にもアリアンヌが立つ。

「お前、出来るのか?」

 もしかして経産婦?

「できますわよ。そういうプレイが好きな方もいますし」

 聞くんじゃなかった。

 アリアンヌは、ランシール姫から赤子を預かると。粗相を拭いた後、用意されていた替えの布をテキパキとおむつにして巻いた。

 見事な手際である。

 赤子以外にやっている姿は想像したくない。

「できれば、もう一度お願いしてもよろしいでしょうか?」

「良いですわ」

 姫に元騎士がおむつの替え方を伝授していた。

「ねぇ」

 雪風がコソリと俺に言う。

「あんた、この子達とランシールさんをどうするつもり?」

「………………」

 一番ノープランな所を突かれたな。

「本人に希望があるなら、それに則るつもりだ。赤ん坊が落ち着いてからもう一度聞く」

「ふぅん」

 ランシール姫はランシール姫で、腹は括っている様子。何でも来いという覚悟めいたモノは感じるのだが、明確に“こうしたい”というプランはないようだ。

 それが困る。凄く困る。

 ごろつき風情の俺には、レムリアの後継なんぞ身に余る。身に余るというのに、手放す事もできないとは参ったものだ。

 娼館の女将の件についてもアリアンヌに説明できていないし、頭痛の種は尽きない。

 こんな状況なのに次に打つ俺の手がまた――――――

「雪風頼みがある」

「まーた、何よ?」

 大変心苦しい。

「金貸してくれ」

「バッカじゃないのあんた。バッカじゃないの」

 二回も言われた。

「一応、聞いてあげるけど何に使うの?」

「ちょっとまあ」

 言うのもはばかられる下らないモノを買う為なのだ。

「騎士の【位】を買う」


 ブーブー言ってその場は断られたが、雪風は後でコッソリ金を貸してくれた。

 これでは本当にアレな人間である。


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