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世界に通用する日本料理は異世界にも通用するのか?  作者: 浜守 連
第一章 この少女の願いは成就するのか?
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この国唯一の飲食店は人々に通用するのか? 2

その後何度か呼び方を訂正しようと試みたが、その全てを「ごっごめんなさいアミノさん!」という言葉によってバッサリと取り下げられた。


というかこうも年下の女の子に謝られるとこっちが申し訳ない気分になってくるなぁ。


……いや、正直なところリリーが縮こまって頭を下げる仕草はかなり可愛いので、これからもその呼び方を治さない限りは指摘して観察してやろうかと内心ニヤニヤしていたところだったりする。


そんなこっちの考えを知ってか知らずか、ふと視線を隣にやると何故かこちらを見つめていたリリーと目が合った。


合ったと思ったら思いっきり逸らされた。

……口に出てたりしないよね今の?


それきりなんとなくお互いが気まずい空気を感じつつ、会話も途切れたまま目的地へと向かっている。


まぁいい機会だろう。

このままではふとしたことからいつボロが出るかも分からないし、この辺りで『膝の上の猫亭』でリリーから聞いていたこの世界の情報を纏めておくとしよう。





ぼくこと網野 京介が迷い込んだこの世界は、4つの国から成り立っています、とリリーは切り出した。


今ぼく達がいるのが、海の国『セイレーン』


山の国『ヴァルカン』


大地の国『セレス』


技術の国『ヴェスタ王国』


以上の国々は全てが一神教を掲げており、その神の恵みと加護により得た独自の知恵をもって多種多様な人種が閉じた発展を遂げているそうだ。


海の国『セイレーン』は水産業を。


山の国『ヴァルカン』は林業と金属工業を。


大地の国『セレス』は畜産業と農業を。


技術の国『ヴェスタ王国』はその他技術的産業を、それぞれ主な生業としている。


後は各国間で細々とした貿易は行われているものの、技術の流出を恐れどの国も長らく鎖国状態に落ち着いているみたいだ。


それらの情報からは幾つかの矛盾が読み取れたが「それはまぁ色々と面倒でして」というリリーの一言によってその微かな違和感は締めくくられた……。





「あの……着きましたよアミノさん?」


都合よく情報の整理を終えたタイミングでリリーの声が耳に届く。


いつの間にか考え込んでしまっていたらしく、声を掛けても反応がないぼくの顔を覗き込むようにリリーがこちらを伺っていた。


……『膝の上の猫亭』での距離感は、ぼくが怪しかったからというのを差し引いても過剰じゃないか? と思ったが、今はその逆で、ぼくの顔を覗き込んでいる均整のとれた顔は最早目と鼻の先というところまで来ていた。というか近い近い近い!


害はないという言葉を信じて貰えたんだろうか。

それとも単にある程度言葉を交わした相手にはパーソナルスペースが狭くなるタイプなのか。

そのどちらにせよ異性にはあまり免疫がないのでやめて頂きたい。


「まだ頭、痛みますか?」


「痛みはもう完全に引いたよ、そうじゃなくて少し考え事してただけ」


「それなら良かったです、アミノさん。そしてここが、セイレーンの首都モルペーの中心街です」


言われてから見回してみると、なるほどそこは確かに中心街だと一目で分かる造りとスケールだ。


立派な装飾がなされた屋根の大きな建物を中心に、通りや民家や商店が放射状に広がっている。


比較的郊外にぽつりと建っていた『膝の上の猫亭』から徒歩で30分弱はかかっただろうか。

人の数もその道中見かけた数より遥かに多い。


改めてここが自分の居た世界とは違うことを印象付けられる。


「おおおお! 凄いな……これ」


「喜んで頂けたようで何よりです」


そう言って微笑むリリー。

どうやら知らず知らず顔が緩んでしまっていたらしい。


「壮観ってやつだよ、携帯持ってきとけばよかった」


あまりの情報量に忘れかけていたが、ぼくは旅館の仕事の途中でここへ迷い込んだわけで、携帯は間借りしている自室の布団の横に置いてきてしまっている。

そう……重ねて忘れていたがここから帰る方法もそろそろ探らなければ。


「ケータイ?」


「いやぁ、こっちの話し」


早速ボロが出かけてるよ。


「そうだ、少し気になってたんだけど、『膝の上の猫亭』でリリーに話を聞いた時、色んな人種が暮らしてるって言ってたけど」


「? はい、そういえばお話ししていましたね」


どうして今更そんなことを聞くのかと少々不思議な表情をしているが、違和感を与える前に聞きたいことを聞いておこう。


「ここに来るまでで見かけた人達、それとこの中心街の人混みには人間以外の種族が見当たらないみたいだけど?」


そう、エルフのリリーを除いては。


「えぇ、それでしたらそうですね。他国から来たアミノさんには不思議な光景かもしれませんね……」


そこで一度言葉を区切り、遠くの方に見える海を指差して続ける。


「ここセイレーンは人間族と人魚族、そしてその他少数の水棲種族が暮らしています」


そう言って、今度は海と町の間辺りまで伸ばした指を動かしながら。


「そして殆どの人魚族は滅多に陸まで上がっては来ないんです」


あぁ、なるほど、聞いてみれば当然にも思える話しだ。人魚とあればそう簡単に陸には上がってこれないんだろう。完全に想像だけど下半身魚だろうし。


「そっか、そりゃ人魚だもん、陸には上がってこないか」


「いえ、多分アミノさんが考えている通りではない意味でです」


なんとなく含みのある言い方をするリリーは、指していた指を下ろしてこちらに向き直る。


「多くの人魚は魔法によって陸上での行動が可能なんです。もちろん何日も、というわけではないんですけれど」


遂に出た、魔法という単語。

何とも心躍るワードだ、エルフといえば魔法、後でリリーに聞いてみよう。


「それなのにアミノさんが他種族を目にしなかったのは、人魚族がセイレーン様直系の種族で独自のコミュニティを築いているからなんです」


「コミュニティ?」


「はい、人魚族はセイレーン様の血を引いた種族で、町には毎週行われてる魚介類の販売以外では訪れないんです」


……それで道中人間以外見かけなかったのか。

何か思っていたより面倒な事情がありそうだと、また考えが深みにはまりかける。

せっかくファンタジックな世界に来たっていうのに頭しか動かしていない気がするぞ。


「あれ、リリーじゃん! どしたのアンタが男なんて連れて珍しい!」


なんともいえない肩透かしを食らっていると、そんな声が聞こえてきた。

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